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その頃、前田と高橋は住んでいるマンションに居た

「んーおいしい」

前田は目の前のショートケーキをおいしそうに頬張る

「敦子はすきだよなぁ。ここのショートケーキ」

キッチンで紅茶を入れた高橋は前田の前にティーカップを置いた

「うん、この味はずっと変わんないんだもん」

「あの店、最近息子さんに変わったんだよな?でも、変わらないってすごいよなー」

そういいながら、高橋はケーキの箱からチョコケーキを取り出し、自分の前の皿に置いた

「ちょっと、反省してんだろ?渡辺さんの事」

「・・・」

「・・・昔の自分見てるみたいだったからか?」

「・・・そうかもね」

前田はフッと笑う

「敦子が落ち込んでる時、いつもここのケーキ買って帰ってたよな」

「うん。嬉しい時も悲しい時も・・・特別な時も・・・ここのケーキだった」

前田はフォークを置き、呟いた

「・・・」

カッ

高橋は黙って猫になり

そして、前田の膝に乗った

「そうだね・・・みなみは・・・いっつもこうやって慰めてくれてたよね」

「まぁな。そりゃ、かわんねぇよ」

(・・・かわんない・・・か・・・)

前田はみなみをなでながら昔の事を思い出す

―――

前田は中学にはいったころから不登校になっていた

家から一駅離れたところの中学に入り、普通に生活していたのだが

その年、秋葉学園が移転をしたのだ

元々秋葉学園は都心近くの私立高校だったのだが

大々的に田舎の土地を購入し、教育、部活設備を整え

寮もでき、全国から推薦入学を受け付けるなど精力的に活動していた

前田は理事長の娘ということがバレ、人の目を気にするようになっていた

頭も良く、整った顔立ち、立派な家に住んでる・・・

そんな状況に他の生徒たちはひがみもあったのであろう

前田は同世代たちの見る目が嫌になって休みがちになっていた

家で居る時はいつも飼い猫のみなみは傍に居た

そして、中学3年の冬・・・

母である理事長の前田敬子が脳梗塞で倒れたのだ

幸いマヒも残らず、大事にはいたらなかったのだが

しばらくの休養を余儀なくされた

前田は母のお見舞いにも行かず

ずっと部屋に引きこもっていた

母親が退院し、自宅に戻っても

顔を合わせない日々が続いた

ある夜、前田はふと目が覚めた

水でも飲もうとキッチンに向かうために部屋を出る

ふと見ると、母親の部屋から少し光が漏れていた

「―――」

「そう。そうなの?」

中からは楽しそうな声が聞こえてきた

前田は眉をひそめた

父は海外出張中で不在だった

昼間はお手伝いが一人いるのだが夜は居ない・・・

(誰と話してるの?)

前田はそっと扉に近づいた

そこには、飼い猫のみなみがいた

ベッドにもたれる母の膝の上にちょこんと乗り、向かい合っている

「敦子はさ、ちゃんと勉強してんだぜ。それに敬子のことも心配してるけど・・・行くにいけないっていうか・・・素直じゃないっていうのかな?そういうとこ昔からかわんないよな」

「そうね」

敬子はクスッと笑う

(みなみが・・・しゃべってる!?)

前田は目を見開く

「ねぇ、みなみ」

「ん?」

「私ね、病気になっていろいろ考えたの。親が早くに死んで、理事長やらなきゃいけなくなって・・・敦子にはずいぶん寂しい思いをさせてしまったわ・・・」

「敬子・・・」

「お父さんだって海外出張長いし。家族旅行もしばらくしてないし・・・。それに、学園移転建設で敦子のことかまってあげれなかった・・・」

「それに関しては・・・すまないと思ってる。もしかしたら・・・敬子が病気になったのだって、私がいるからかもしれない・・・」

みなみは頭を下げる

「なにいってんのよ。それは関係ないでしょ。それに、許容範囲外になったのは前学校があった都心部近くだったんでしょ?今はこっちに学園もうつったんだし、この家だってセーフなんだから」

敬子はフッと笑う

「私はさ、みなみにいっぱい助けてもらったよ。小さい頃からずっと一緒にいて、嬉しい時も悲しい時も・・・傍に居てくれてありがとうね」

「敬子・・・」

「だから、学校の移転は私の小さな恩返しなの。私のエネルギーを使っているかもしれないってどうせおもってたんでしょ?」

「・・・」

「そんな顔しないの」

うつむくみなみをみて、敬子は顔を両手で挟み口角をにーっと上げる

「うぐぐ・・・」

「あははっ。でも、あれだけ近くにしたら、王女様が来た時も安心でしょ?」

敬子は手を緩め、にこにこと笑う

「そうだな。感謝しているよ。今回の生徒会もなかなか楽しいみたいだぜ。王女が来る時はどうなってるかなー」

みなみはてしてしと乱れた毛を肉球で直す



秋葉学園が創設された時、高橋たちは生徒会から契約者を決めるという決まりを作ったのだ

高橋は前田家とずっと契約を結んでいたのだが、小嶋や柏木はそうではなかった

いい契約者と出会うまでは、お互い散らばらずにいた方がいいということで

学校で生徒として過ごすようになっていた

ちなみに、秋葉学園の理事長は代々高橋の契約者となっており

理事長と繋がりをもてる生徒会メンバーを契約者とした方が何かと便利であり

小さい組織のため、ばれたとしてもすぐに記憶を消すことも可能という利点もあった

そのため、小嶋と柏木は1~2年で契約者を変えているという状況である

「あ、ってことは・・・そんときはついに会長が契約者だなー。理事長の敬子には私がついて、副会長にはゆきりんとにゃんにゃんがついて・・・おー補佐完璧だなー」

「・・・違うよ」

「え?」

敬子のトーンが下がったので、みなみは首をかしげる

「その時、そこに居るのは私じゃない」

「何いってんだよ?」

「みなみ・・・私との契約、解消してほしいの」

「・・・」

「敦子の・・・傍にいてあげて」

(!!)

前田は自分の名前が出て、声を上げそうになるのを耐える

「・・・」

「あの子、まだどこの高校うけるかも決めてないの。私は秋葉学園に来てほしいと思ってる。でも、私の口からそんなことを言ったら・・・きっと反発して絶対受験してくれないから・・・。だから、みなみからお願いしてほしいの」

「・・・私から言っても、かわんねぇかもしれねぇぞ?」

「大丈夫よ。ずっと一緒にいたみなみが頼めば」

「・・・」

「みなみ。敦子を説得して、秋葉学園に来たらみなみも生徒として通ってほしいの。あの子・・・ずっと一人でさびしかったのにそれを言えないで居たんだと思うの・・・なんかね、病室で一人でいたら・・・あの子の気持ちちゃんと分かってあげられてなかったっておもって・・・胸がね痛くなっちゃったの・・・」

「敬子・・・」

「ダメな母親よね・・・。それにね、今度また倒れたら・・・その時は・・・わかんないじゃない」

「なに・・・いってんだよ?」

「脳梗塞になって・・・いろいろ検査したじゃない?そしたら・・・脳の奥に小さな腫瘍がみつかったの」

(!!)

前田は手の隙間からするりと出ていきそうな声を必死にとどめた

(それって・・・お母さん・・・死ぬかもしれないってこと?)

「複雑なところで、取り出すことはできなって言われたの。まだ小さいから、どれくらいの期間で大きくなって行くかわからないって。5年なのか10年なのか・・・それとも来年なのか・・・」

「・・・」

「だからね、こんな私より若くて元気な敦子の方がいいと思って」

敬子は笑った

「ふざけんなっ!」

みなみはぴょんっと跳ね

その瞬間カッ!と光を放つ

「そんな状況の敬子ほっとけるわけねぇだろ!」

(!!!)

そこには、見ず知らずの小柄な女性がいた

前田は猫のみなみが人になったり、母が病気だということが分かったりと

自分の理解できる範囲をとうに越えていて

ただひたすら声を出さないように必死に耐えていた

「ありがとう。でもね・・・みなみは敦子の事も気になるでしょ?」

「・・・」

「心配でしょ?」

「・・・っ」

声をあらげて上下していた肩が・・・今度は小刻みに揺れ出しだ

「それにね・・・先生から・・・言われたの・・・記憶をつかさどるところにも影響が出てくる恐れがあるって。腫瘍がおおきくなったら、その器官を圧迫して・・・いろんなことを忘れるかもしれないって・・・みなみのこと、そんな風に忘れるくらいなら・・・あなたの手で消してほしいの」

「敬子・・・」

「そんな顔しないで」

「・・・」

「みなみはホントに敦子のとこ、大事にしてくれたよね。敦子が生まれたら私よりも号泣してさ、こけそうになったり危ない場所に行こうとしたら必死に止めて・・・ずっとみてきてくれたじゃない・・・だから・・・」

敬子の声がくぐもる

「私がいなくなっても、みなみがいれば寂しくないでしょ?それに、敦子は今一人でさびしい思いをしてるから・・・みなみが傍にいてあげて・・・契約者になって・・・ずっと・・・傍にいてあげて」

「敬子・・・」

「私は、あなたの契約者になれて幸せだったわ。ずっと、前田家に仕えてくれて・・・ありがとう。出会えて・・・よかった」

敬子の目に涙が伝う

「・・・礼をいうのは・・・こっちの方だ・・・」

みなみはベッド近くに膝をつき、敬子の手を握った

「・・・敦子をよろしくね」

敬子はそっと目を閉じる

「・・・っ。まかせろ・・・。約束だ・・・。」

みなみは肩を震わせながら

呪文を詠唱する

金色に輝く見たこともない文字が2人をぐるりと取り囲み

「・・・」

みなみは敬子の額にキスをした

カッ!!

まばゆい光が部屋の中に溢れる

「っ・・・」

前田は思わず目を閉じた