「よいしょっと」

小嶋は学校の屋上に着地する

以前までは理事長室はオープンだったのだが、記憶が消えてしまっている敬子がいるので入ることができなくなってしまっていたのだ

「んーどうしようかなぁ・・・」

小嶋はそうつぶやきながら屋上のドアを開けようとした

その時、視界の端に人影を感じハッと横を見た

「・・・」

一人の女子生徒と目があった

大きな黒縁眼鏡をかけた、ショートカットの女子生徒

「あ・・・」

(見られた・・・)

「・・・何してるの?」

「えー・・・っと」

小嶋はえへっと笑う

「どこから現れたの?異空間?」

女子高生は眉をひそめる

小嶋は空を飛んでいる時は結界を張っていたので、急に現れたように見えたのだ

「あ、あなたこそ、どうやってここに入ってきたの?ここって、鍵かかって・・・」

そう、いいかけて小嶋は彼女の手に目をやる

そこにはちいさな鍵が一つ、ぶらさがっていた

「・・・盗んできた」

「え・・・?なんで?」

「・・・飛んでみたいと思ったから」

そういって、彼女はフェンスのほうをみる

「それって・・・飛び降り?自殺ってこと?」

「・・・はっきり言うね」

女子高生はクスッと笑った

「んー。だってわざわざここまできたからそうかなーと思って」

「あんた・・・変わってるね。制服着てるってことは、ここの生徒?」

「んーまぁ、一応ね。私、小嶋陽菜っていうの」

(ま、いっか。記憶消せばいいし)

小嶋は開き直ってにこっと笑う

「そうなんだ」

「なによー。名前は?」

「篠田麻里子・・・」

「ふーん。何年生?」

「2年・・・だけど」

小嶋は篠田をまじまじと見つめ

「えいっ」

眼鏡をとった

「な・・・」

「あーやっぱり。きれいな顔してるー。眼鏡やめたほうがいいよー。こっちのほうがかわいいって」

小嶋はにこにこと笑う

「か、かわいくなんてないからっ!」

篠田は顔を真っ赤にして、眼鏡をうばった

(なんか、この子おもしろーい)

小嶋はなぜかワクワクしていた

「ねぇ、飛んでみたいんでしょ?」

「え?」

「じゃあ、特別に連れてってあげる」

そういって、小嶋は手をかざし楕円形の水たまりが空中に現れた

「乗って」

「・・・」

「大丈夫。濡れないよ」

「いや、そう言うことじゃなくて・・・」

「いいから、いいから」

小嶋は篠田の手を引き

「じゃあ、いくよー」

そういって、2人を乗せた水の塊は上昇していく

「・・・っ」

上昇につれて、耳がキーンとな感覚に襲われる

そして

目の前に白い水蒸気が広がり、篠田は思わず目を閉じた

・・・・・

そして、音が消えた

「え・・・」

今まで経験したことのない感覚に篠田は目をゆっくりと開ける

「あ・・・」

目の前には青い空と太陽、そして雲が眼下に広がっていた

「雲の王国・・・」

「え?」

「昔、映画館で見たんだ・・・雲の王国」

篠田は目の前の光景に目を輝かせた

「なにそれ?」

「雲を固めて歩けるようにするんだよ。それでそこに国を作るっていう話し。すごく好きで・・・映画観終わった後、テレビで放送されたら録画して何度も何度も見てた・・・」

篠田は昔を思い出してクスッと笑う

「ふーん。降りて見る?」

「えっ!できるの?」

「うん。曇って水蒸気だから。一部分を固めれば大丈夫だよ」

小嶋は手をかざし雲の上に一本の長い道をつくり

2人を乗せた水の塊はそこに着地する

「・・・」

篠田は恐る恐る足を乗せた

「すごい・・・雲の上だ・・・」

篠田は歩をすすめる

「わっ!」

靴が氷の上を滑り、バランスを崩した篠田は後ろ向きに倒れる

が・・・

「え?」

水のクッションが身体を包み

なんの痛みもなく、空を見上げていた

「大丈夫?凍ってるから危ないよ」

視界の端から小嶋が顔をのぞかせる

「・・・」

無音の世界で青と太陽

そして、今自分は不思議な魔法使いと雲の上に居る・・・

「・・・ははっ。はははっ!」

篠田はなんだかおかしくて声を上げて笑った

「なになに?どうしたの?」

小嶋は何が起きているのかわからず眉をひそめる

「いや、自分のいた世界なんてちっちゃいなーっておもって。死ぬのがばからしくなった」

「え?なに?私自殺未遂止めたの?すごーい」

小嶋はにこにこと笑う

「・・・不思議な人だね」

篠田はむくりと起き上がり、小嶋を見つめた

「え?そう?」

小嶋はきょとんとしていた

「私さ・・・自分の事、蝉みたいだって思ってたんだ」

篠田はぽつりともらす

「え?」

「蝉って土の中に7年もいるでしょ?でも出てきたら1週間で死んじゃう・・・。私、全国模試でいい成績とってたら、この学校からスカウトが来て福岡からでてきたの。元々、地元でも浮いてる方だったし。東京に来たいって思いもあったから、何か変わるかと思ってた」

篠田はその時の事を思い出し、目を伏せる

「でも、何も変わらなかった。クラスの子たちともろくに話ししないまま2年になって・・・。何も変わんなくて・・・。退屈だった・・・。東京に憧れてた福岡の時は土の中に居て・・・東京っていう外にでたのに何も変わらなかった。だから・・・思ったの、私は何のために生きてるんだろうって」

「ふーん」

「そんなこと考えてる時に・・・蝉の死骸を見つけたんだ。夏の当たり前の風景・・・道路に転がってても誰も目にとめない。私も・・・こんな感じなのかなっておもって。だから・・・いっそこの世からいなくなってしまおうって。誰も、気に留めやしないから」

「んーそうだねー。よくわかんないけど。ずっと生きてるのってめんどくさいよね」

「え?」

思わぬ言葉に篠田は小嶋を見る

「私ね、こっちで500年くらい過ごしているの。もう正確には何年か覚えてないんだけどねー」

「500年・・・?」

「あっ、今こいつ何歳なんだって思ったでしょ?言っとくけど、私今20歳のままなんだからね、ピチピチなんだから!」

小嶋はむっと口をとがらせる

「いや・・・別にそんなこと思ってないよ」

篠田は苦笑いをする

「ま、ずっと若いままだからいいんだけどさー」

「歳・・・とらないの?」

「うん」

「それは、この世界の人じゃないから?」

「・・・ううん。違うよ。昔はねこっちに来てもじわじわ歳とってたの。セイレートの月日と同じスピードで」

「セイレート?」

「あぁ、私が元いたところなんだけどね。時空の流れが違うからんー・・・大体こっちの25年で1年くらいかな?」

「じゃあ・・・なんで」

「罰なの」

「え?」

「時を止めて、罪を償え・・・そういうことなんだろうね」

小嶋は寂しそうに笑った

「じゃあ・・・死ねないの?」

「んーまぁ、身体も若いままだから病気もしないし。そういうことだろうね」

「嫌にならないの?」

「うーん。でも、そんなの思ってもしかたないじゃん。だって、生きてるんだもん。そりゃ、心臓止めたら死ぬかもしれないけど、そういうの考えたことなかったなー」

「どうして?」

「んー。私と同じセイレートからきたのが2人居るんだけど。2人と500年ずっと生きてきたからかな?だから、寂しくないの」

「・・・そうなんだ」

「蝉だって、出てきた時は一人だから仲間を見つけるために鳴いてるんじゃなかな?自分はここに居るよって、しらせてるんじゃない?」

「・・・」

「私はあの2人がいて楽しいから、死にたいなんて思わないよ」

「そう・・・」

「でもね」

小嶋のトーンが変わる

「契約者が死ぬのはやっぱり辛かったな」

「契約者・・・?」

「うん。この世界に居るには、人間の誰かと契約を結ばなきゃならないの。で、契約してる間はずっとその人と居るんだけど・・・やっぱり、死んじゃうから。それを見るのが嫌で、最近は元気なうちに契約者変えちゃうの」

「そう・・・なんだ」

「私はずっと生きてるから。そういうのずーっと見てきたんだよね。だからさ、そんなに若いのに死のうなんて思わないでよ」

「・・・ごめん」

「あ、今私なんかいいこといったよね」

小嶋はあはっと笑う

「シリアスなのかふざけてるのかどっちかにしてよ」

篠田は苦笑いをする

「えー私はいたって真面目だよ。四宮さん・・・だっけ?」

「篠田です」

「あ、ごめーん。とにかくさ、篠田さんは蝉じゃないよ。蝉だとしても、まだ鳴いてないじゃん」

「え?」

「自分から、ここに居るってアピールしてないじゃん。そんなんじゃ誰も気付いてくれないよ。だから、大声で鳴いて生きてる時間を楽しんだらいいんじゃない?」

「・・・」

篠田はハッとする

自分は東京に来て何かしただろうか?

福岡の時とは違うことを・・・行動を起こしただろうか?

環境が変われば・・・そうやって周りのせいにして

自分は、何もしていなかった・・・

「ま、今日だって雲の上に来ることできたんだから、生きてたらいいことあるよー」

小嶋はにこにこと笑った

「そうだね・・・」

篠田は寝っころがり、青い空を見つめる

太陽が近くて、眩しくて・・・痛いくらいだった


でも、初めて

生きているんだ

そう、思えた


「あー熱い。かえろっか」

「え、はやくない?」

篠田は余韻に浸る余裕もなく、がばっと起き上がる

「だって、太陽近いんだもん。もう終わりー。おりまーす」

「ま、待ってよ」

「やだー」

小嶋は悪びれもなく言う

「じゃ、じゃあ今度また空の上つれてってよ」

「えー。無理だよ」

「な、なんで?」

「だって、契約者じゃないし。今日は見つかっちゃったからサービスしたけど。今日が終わったら記憶消えてるから」

「え・・・?」

「正確には消すんだけどね。柴田さんが死にたいって思ってた記憶も消すようにしてみるから」

「篠田だって!って・・・それはどうれもいい。消さないでよ」

「えー。無理ー」

「ま、待ってって」

篠田は思わず小嶋の腕をつかんだ

「どうしたら消さないでいてくれるの?このこと誰にも言わないから」

「んーそう言われても。一応決まりだし」

小嶋は口をとがらせた

「契約者・・・じゃないから?」

「うん。そういうこと」

「じゃあ・・・私を契約者にしてよ」

「え?」

篠田は真っ直ぐ小嶋を見つけた

「私、変わるから・・・なんでもするから・・・だから、契約者にして」

「・・・」

小嶋は困惑したが

嫌な気はしなかった

契約者でもない初めて会った人に、自分の話しをしたのは初めてだった

この人にならいってもいいかな

そう、自然に思っていたのだ

「あ、そうだ」

小嶋はハッとする

「生徒会」

「え?」

「今度生徒会の立候補あるでしょ?それに出てよ」

「なんで?」

「今は生徒会の人と契約結ぶことにしてるの。だから、出てくれたらなってあげる」

「わかった。約束する」

篠田は深く頷いた

「じゃあ、立候補してね」

小嶋はクスッと笑った