―――

バタン

「おつかれー」

「どうだった?渡辺さん」

篠田と高橋が声をかける

柏木と小嶋はお菓子をポリポリと食べながら宮澤の方を見ていた

「だめだよー。とりつく島もない感じ」

「そうか・・・」

篠田はそう言って手を差し出す

「なに?」

「採点。するよ」

「あ、あぁ。ありがと」

「・・・」

篠田は赤ペンをもち、丸をつけていく

「おいおい。全問正解じゃないか?」

篠田の採点を高橋が覗きながら言う

「・・・渡辺さん。大阪の有名進学校に通ってたからね」

篠田はぽつりとつぶやき

つぎつぎとさばいていく

「おーマジかよ。数学100点だぜ」

高橋は感嘆の声をあげる

「ちょっと!みなみ!感心してる場合じゃないんだよ」

理事長室の机をバンッとたたき前田が立ちあがった

その音に、全員目が点になる

「佐江も!テストだけクリアしても出席日数いるんだからね!」

「それは十分わかってるよ・・・ほら、夏休みに補習うけるとかまだ手があるし」

「ちゃんと説得できてないのに?」

「う・・・」

「はぁ・・・まぁいいわ。いずれ嫌でもここに来ることになるだろうから」

「なに?」

宮澤が眉をひそめる

「・・・あぁ、したんだね。連絡」

篠田は察したようだった

「さすが、麻里子様だね。まぁ、したっていうか、かかってきたって方が正しいけど」

前田はそう言って、宮澤の方を見た

「今日、渡辺さんのお母さんから連絡があったの。成績はこちらに郵送してもらうことは可能ですか?って・・・だから正直に言ったわ。ほとんど登校してないし、今日は受けなかったテストの補習だって。このままだと出席日数が危ないから1度面談させていただいていいでしょうか?って」

「ちょ、ちょっと敦子!まだ待ってって言ったじゃん!」

宮澤はあせって前田に詰め寄る

「佐江、結局説得できなかったじゃない。それに今、私は理事長代理なんだよ。親にも伝える義務があるもの」

「・・・でも、それなら一緒に生活してるおばあちゃんたちに・・・」

「前にも言ったわ。でも、待つしかいわなかったでしょ?何も変わらなかった。変わらなきゃだめなのよ。それに、親御さんにお伝えするのは義務でしょう?」

「・・・」

宮澤は俯く

「話したら、すぐにでも東京に行きますって言われたわ」

前田はくるっと椅子を回し

「子供の事を心配しているのか・・・それとも・・・成績が気になるのかは分からないけどね」

窓の外を見つめた


カタン

「邪魔すんで」

その声で皆は一斉にドアの方を向く

が・・・ドアは開いておらず、声は下から聞こえた

「あ、ちゃんと使ってくれる人がいた」

前田は目をきらきらと輝かせる

「うっさい。飛ぶな言われたんやしゃあないやろ」

そういってサヤカは人型にもどる

「・・・。あいつ、ここきてないんか?」

「あぁ渡辺さん?いやー連れてきたかったんだけどさー。断られちゃって」

宮澤は苦笑いをする

「ほな、学校にはきてたんやな」

「うん、きてたよ。ちゃんと追試も受けたから」

「そして、満点だ」

宮澤に続いて篠田が答案を見せる

「そうか。ほな、帰るわ」

「ちょい待ち」

高橋はサヤカの首根っこをつかむ

「はなせや」

サヤカはじろっと高橋を睨んだ

「サヤカ、お前もこの学校に通わないか?」

「はぁ?」

「だって、心配でここまで来たんだろ?ならいっそ一緒に通っちまえばいいじゃねぇか」

「なんで私がこんなとこに通わないかんねん」

「まぁまぁそう言うなよ。それに、あんまり契約者と離れてたらいいことないぞ。お互いにな」

高橋はサヤカの肩を抱き、ニッと笑う

「サヤカ!頼むっ!出席日数あぶないから連れてきてくれたらホントに助かるんだよ!」

宮澤もサヤカの前で懇願する

「・・・」

サヤカは眉をひそめていたが

寂しげな祖母の表情を思い出す

あいつをここに通わせたら・・・あんな顔することもなくなるんかもしれへんな・・・

そう、心が揺れた瞬間

ドンドン!

今度は勢いよく扉が叩かれた

「やばっ!サヤカ、猫になれ」

反射的に高橋は猫になり

つられてサヤカも猫になった

「理事長!失礼します」

細身の女性教師がドアを開ける

「あ、宮澤先生!やっぱりここにいらっしゃったんですね」

その先生は宮澤の顔を見るなり、勢いよく近づいてきた

「ど、どうしたんですか?」

宮澤の足元には猫になった高橋とサヤカがいたので

反射的に一歩前に出て対応する

「校門で生徒が揉めてるみたいで・・・それが、先生のクラスの渡辺さんなんです」

「えっ!」

皆一斉に窓の方を見た

そこには渡辺と女性らしき人がもみ合っている姿が見えた

そして遠巻きに見ている生徒たちと、そこに走っていく男性教師も・・・

「生徒が知らせに来て、宮澤先生にもお伝えしようと思いまして」

「ありがとうございます!」

宮澤は勢いよく部屋を出ていき

篠田達もそれに続いた

バタバタと慌ただしい足音が遠く鳴り

理事長室には前田と高橋、サヤカが残っていた

「あの人、渡辺さんの知り合いかな・・・」

「よし、事情聴取だ」

「そうね、彼女の事を知る手がかりになるかもしれないし・・・みなみ、捕獲」

「はいよ」

高橋は人の姿に戻り

理事長室を出て行った

「・・・なんや騒がしいなぁ」

「そうね。でも、ここにいると退屈しないわよ」

「はっ・・・」

サヤカは窓の外をみながら鼻で笑った