―――

「はぁ・・・はぁ・・・」

美優紀は勢い任せに走り

駅前までたどり着く

肩で息をしながら

「・・・」

英新塾の看板が目に入り

美優紀は大阪に居た頃を思い出していた


―――

美優紀は裕福な家庭で育った

何不自由ない暮らしで何も気に留めることはなかった

幼い頃から英才教育と称して

塾や習い事をしていた

『100点とって偉いわね』

『美優紀は天才だな』

そういって両親が褒めてくれることが何よりもうれしかった

美優紀は中学でも成績優秀で有名進学校からも声がかかるくらいになっていた

そして、大阪の有名進学校から声がかかった

中学の時から、父親が大阪に単身赴任をしていたので

高校になることろに大阪にうつり、共に生活をするようになった

だが、そこから家族の歯車が少しずつ狂い始めていた

父親が帰りが遅く、母とその度に口論となっていた

どうすれば、家族がうまくいくのか・・・

美優紀は考えた

そして、自分がテストでいい点を取った時は両親が褒めてくれることを思い出した

私がいい成績をとれば両親は褒めてくれた

私がいい子で居れば、また家族が元に戻るかもしれない

頑張っていれば、きっとまた・・・

そんな淡い思いを信じ、美優紀は必死に勉強をしていた

そして、塾の夏期テストで成績優秀者として会報誌に乗り、両親も喜んでお祝いをしてくれた

しかし

それはすぐに消え去ってしまった

夏休みのある夜

「どうりで帰りが遅いと思ったら!」

「うるさいな!お前のそういうところが嫌なんだよ」

2階で寝ていた美優紀は1階のリビングで言い合いをする両親の声で目が覚めた

そっと階段を降り、ドアから漏れる光にそっと目を当てる

「私は家族のためにいろんなことを犠牲にしてきたの!それなのに何よ!?あなたはほかの女と遊んで」

「それはこっちの台詞だ!人が働いた金で何不自由なく生活してるくせに偉そうに言うな!」

「何よそれ!」

「だいたい、あのまま奈良に残ってくれていたら良かったのに。大阪の高校に行くとか言い出すから」

「なによそれ?美優紀が悪いって言いたいの?あの子はこのままいい大学に行っていい会社に就職するのよ!そのために大阪を選んだのに」

「それはお前のエゴだろ?自分がいい大学やいい会社にはいれなかったから美優紀にすべてを押してつけてるんだろ?」

「そうよ。悪い?子供に夢持って何が悪いのよ!」


(・・・・!)

美優紀の中で何かが音を立てて崩れていった


お父さんも、お母さんも・・・成績がいい子が好きなんだけなんだ


美優紀はスッとその場を離れた


そして、美優紀は塾をサボるようになった

勉強しに行くと言っては駅前をぶらぶらしていた

美優紀は勉強をせずに街を歩いていて気付いたことがあった

遊びに行こうと気軽に誘える友達が自分には居ないと言うことだった

もちろん、奈良にはそれなりに友達もいたのだが

新しく来た大阪という地で

美優紀は勉強しかしていなかった

クラスの子と話すことはあっても、それ以上でも以下でもない・・・ただのクラスメイトだった

「・・・」

ピッポッ、ピッポッ・・・

信号が青になり、皆が一斉に歩き出す

美優紀もその波のなかであわてて歩き出した

クラクションや交差点の音、排気ガスの匂い・・・

誰もかれもが早足で

私の存在なんてこの中の一部でしかないんだ・・・

このまま、波にのまれて消えて行くのかな・・・

そんなことが頭をよぎり

美優紀は足をとめた

バンっ!

その瞬間後ろから衝撃があり、よろめく

「ちょっと!あんた何急に立ち止まってんのよ?」

甲高い声が後ろから聞こえ

振り向くと、背の高い色白の女の人がこっちを睨んでいた

「あ・・・すいません」

美優紀は俯く

「・・・信号変わるから、話しは渡ってからね」

「え?」

その女性は美優紀の手をとり

向こう側まで走りだした

美優紀はわけがわからなくてぽかんと手を引かれるままだった

ブーン・・・

信号が変わるやいなや車が一斉に走り出す

「セーフ」

女性は車を見つめフッと息を吐く

「あ、あの・・・すいませんでした」

美優紀は頭を下げる

「交差点で立ち止まったらあかんっていうん小学生でもわかるで」

「すいません・・・」

美優紀はなんだか虚しくて泣けてきた

「え・・・ちょっと?」

その女性はおろおろして辺りを見渡す

行きかう人はちらちらとこちらを見ており、気まずさしかない

「あー!もう!なんやねん!とりあえずこっちきて!」

女性はまた美優紀の手をつかみ

ずんずんと歩く

そして、駅前のマックに入り

「ポテトLとコーラ2つ」

慣れた感じで注文をし、注文番号のプレートを手に

席に座る

「あ・・・あの」

美優紀はおずおずと女性の方を見る

「名前」

「え?」

「名前は?何歳?」

鋭い言葉に、美優紀は太刀打ちできず

「渡辺・・・美優紀。15歳」

素直に応える

「中3?」

「いえ、高一です」

「うそっ!同い年やん」

「えっ!?」

美優紀は思わず声を上げた

「何よその反応?」

女性は口をとがらせる

「だって・・・大人っぽいから・・・」

「あーそれは化粧とか服でそう見えるのかもねー」

「化粧・・・するんだ」

「するよー最近の高校生はおしゃれしなきゃー」

「う・・・うん」

美優紀は俯く

勉強ばかりしてきた美優紀にはおしゃれなど無縁のものだった

服もTシャツにGパン・・・どこにでもいる高校生・・・いや、中学生に見間違えられるのも無理はない

「お待たせしましたー」

そこに、店員が現れ美優紀達の前にポテトとコーラを置いて去って行った

「あんた、暇?」

「え?」

「遊びにいかへん?」

「へ?」

「せっかくやから、おしゃれしたらええねん。私、吉田朱里よろしくね」

そういって、吉田はポテトをつまんで食べた