気ままな詩人

48グループの創作小説を書いています。じゅりれな、さやみるきーメインになります。SKE、NMBの支店推しです。苦手な方は退室ください。

2014年09月

初恋の行方とプレイボール40

3対4

ノーアウト満塁

「・・・」

前田はマウンドでボールを握るが投げようとしなかった

「敦子・・・?」

峯岸はタイムをかけ

マウンドに駆け寄る

「どうした?」

「・・・皆に言いたいことがあるんだ」

「あ・・・あぁ」

峯岸は頷くと皆をマウンドに集める

全員緊張した面持ちで前田を見つめていた

「皆・・・」

前田がぽつりともらす

「・・・全力で投げる。でも・・・」

そういって口ごもる

「打たれたら・・・守備、よろしく・・・」

そういって頭を下げた

その姿に

全員の顔がほころぶ

「何いってんの。そんなの当たり前でしょ?」

峯岸が前田の肩をたたく

「そうそう今が一番の守備の見せ所だし」

島崎もフッと笑う

「そうだよー皆で守ってるんだから」

高城もにこにこと笑う

「・・・」

前田はどう反応していいかわからず固まる

「敦子、何にも気にせず投げろ。皆に見せ場の尺くれなきゃ不公平だろ?」

そういって峯岸はニッと笑った

「・・・うん」

「よーし!じゃあ皆、気合入れて守るぞ!」

「「おーーー!!」」

峯岸の声を合図に一斉に守備に着いた

篠田は黙ってその一部始終を見つめていた
――

決勝戦前日

篠田は前田にグラウンドに呼び出されていた

「どうした?前田から話があるなんて珍しいな・・・」

前田は整備されたグラウンドを崩さないように端の方に一人で立っていた

「監督・・・明日の試合、最初から投げさせてください」

そういって前田は頭を下げる

「・・・理由は?」

篠田はそんな前田の姿を静かに見つめていた

前田はスッと顔を上げ

「・・・珠理奈は初戦から変わることなく投げ続けてます・・・決勝戦、私も初回から投げなきゃ失礼ですから」

「・・・変なとこ律儀だな」

篠田は思わず笑う

「・・・」

前田はどう反応していいかわからず眉をひそめる

「言ったからにはちゃんと最後まで投げ切れよ」

そういって篠田は背を向け手を振って去って行った

「・・・ありがとうございます!」

前田は篠田の背中にむかって頭を先ほどよりいっそう深く下げた

―――

「なかなかいい試合じゃないか・・・だが、うちも負けてられないからな」

そう呟き、篠田はこちらを見つめる前田に

深く頷いたのだった



続く木崎

「・・・全力で・・・投げるっ!」

前田の目つきがさらに鋭くなった

「ストライク!」

前田の剛速球により

木崎は3振に終わった

続く珠理奈も前田の勢いで3振に終わり

2アウト 満塁

打順は一周し

大島が構える

「こいっ!」

大島はキッと前田を睨みつける

ビュッ!

軽快な一球

カッと大島は目を見開く

カァァァン!

打球は大きく伸び左中間

それを合図に塁にいる宮澤、横山、指原が一斉に走り出す

「ここで決めなきゃっ!レギュラーになった意味が・・・」

レフトの須田が走る

「ないんだよっ!!」

そして勢いよく芝を蹴り

身体を伸ばす

その瞬間、肋骨から全身に激痛が走る

「あぁぁぁっ!」

須田は顔をゆがませながら

それでもなお、懸命に腕を伸ばし

パンッ

地面すれすれでボールをキャッチした

「「おぉぉぉぉぉっ!」」

観客がそのファインプレーに湧き上がる

本来ならここでガッツポーズを決めたいところだが

肋骨を地面に打ちつけて

意識が飛びそうになるほどの激痛に必死に耐えていた

「亜香里!!」

大場が駆け寄る

その異変に気付いた部員たちもあわてて駆けつける

「・・ははっ。大丈夫、大丈夫・・・」

そういってグラウンドからゆっくり身体を起こした

「さ、攻守交替だよ!点取らなきゃね」

そう言ってニッと笑った

「・・・そうだね。みんな、さっ行こう」

大場が頷き、須田がよろけないようにスッと腰を支えた

「「・・・おう!」」

全員が須田の懸命な姿を見て

頷き、ベンチに戻る

「・・・やるじゃん」

大場は須田と共に歩きながら言う

「まぁね・・・」

須田はニッと笑った

「私・・・取るから」

「え?」

「外野に飛んでいかないように・・・死ぬ気で捕る」

「言ってくれるじゃん。それでこそ下剋上同盟だね」

「うん」

そういって2人は笑った

須田と大場は3年になるまでずっとベンチだった

大場は2年のころにレギュラー出場が決まったのだが

練習中に足を怪我して出場できなくなってしまったのだ

それからというもの2人は夜遅くまで練習を続け

気がつけば戦友のようになっていた

そしてこの夏ようやくレギュラーが決まり抱き合って涙を流したほどである

「勝とう・・・この試合」

「うん」

そういって2人は拳を合わせ

ベンチに向かった




6回表が終了し

秋葉女学院の部員たちもベンチに戻る

「・・・当たり損・・・」

渡辺はベンチで再度、指原に鎮痛スプレーを振りながらつぶやく

「あーひどっ!さっきかわいいとこあるって思ったのに前言撤回してやる」

「な・・・」

渡辺は、かわいいというフレーズに一瞬顔を赤らめる

「あれ?照れてんの?」

ニッと指原が笑う

「・・・うるさい」

渡辺は勢いよく鎮痛スプレーを振りかける

「ちょっ!振りすぎ振りすぎ!垂れてるって」

指原はわたわたと慌てていた


その横では

「1点差か・・・気合入れて守らんとな」

山本がプロテクターを着け

珠理奈の肩をポンとたたいた

「あぁ・・・」

そういって珠理奈も真剣な顔つきになる


「おー。ここは是非とも抑えてもらいたいね」

中西はにこにこと笑う

「しゃっ!6回裏、抑えるぞ」

大島が言う

「「おーーーー!!」」

そういって皆、グラウンドに駆けだした


「珠理奈」

中西が呼び止める

「力入れると浮いちゃうからだめだよ。肩の力抜いて、低め狙ってきな」

そういってスッと持っていた袋を差し出す

「え・・・?」

「玲奈ちゃんからだよ」

「えっ!」

珠理奈はあわてて袋を覗く

そこには昨日持って行っていた帽子が入っていた

「持っててって言われたけど、一番近くで応援したいから・・・かぶってて欲しいんだってさ」

中西はにやにやと笑う

「玲奈ちゃん・・・」

珠理奈は自分のかぶっている帽子を脱ぎ

袋の中の帽子を手に取る

つばの裏には『頑張って!応援してるよ!』と大きく書かれていた

そして小さく『全国大会連れてってくれるんでしょ?信じてるからね。』

と書かれていた

珠理奈は帽子を持つ手にキュッと力を入れ

「中西さん、ありがとうございます」

そういって深く帽子をかぶり

マウンドに走って行った

「なんだよ、なんだよ。もう監督がいわなくても皆わかってるじゃねーか」

そういって高橋は嬉しそうに笑った

「ホント、良いチーム・・・。監督、この試合、絶対勝ちますよ」

隣で柏木が笑う

「だな、信じよう」

「そうそう、必ず勝つよ。何せ吉兆ですから」

中西はニッと笑う

「「へ?」」

高橋と柏木は首をかしげていた

初恋の行方とプレイボール39

「よっしゃ!行くぜ!!」

宮澤がバットを構え叫ぶ


前田はチラリとベンチにいる篠田を見る

篠田はただ、1回深く頷いた

「・・・この状況・・・変えなきゃね」

前田はそう呟き

(・・・あんまり得意じゃないけど)

そう思いながら

振りかぶる


パンッ

「ストラーイク」

「な・・・」

勢いよくバットをふった宮澤は驚く


「・・・あら?カーブ・・・」

中西はベンチでその様子を見る

「前田さん、変化球はスライダー意外めったに投げませんよ。決め球ですから・・・」

渡辺が驚く

「ふーん・・・流れ変えようとしてるのかな・・・」

中西は腕を組み試合を見つめる


カァァァン

宮澤の打ったボールはレフトフライになる

(くっそ―!フライかよ)

そんなことを思いながら駆け抜ける

レフトの須田はグローブを構え空を見上げた

「よし・・っ!」

取れる。そう確信しグローブを掲げた

ズキン!

肋骨に痛みが走り

顔をゆがませる

「あっ!」

少しのずれだった


トンッ・・・


ボールはグローブの先に当たり

静かに転がる

(しまった・・・)

須田は焦る

「「走れーーー!!」」

秋葉女学院のベンチが叫ぶ

3塁の秋元が全速力で駆け抜ける

秋葉女学院側の声援よりも

須田は自分の心臓の音の方が大きく聞こえていた

「くそっ!」

須田は振りかぶりサードの高城にボールを投げる

が・・・

コントロールを失ったボールは

高城の頭上を通り抜ける

「「彩!!走れーーー!!」」

「だぁぁぁぁっ!!」


山本は勢いよくセカンドベースを踏み、駆け抜け

ズザザザ・・・・

3塁のベースに滑り込む

秋元もホームベースを踏み

ガッツポーズをしていた


「大丈夫だ!まだ2点!確実に抑えて行こうぜ!!」

峯岸は須田の投げたボールを持ち、叫んでいた


「・・・あんまり無理しないでね」

大場が須田にかけより声をかける

「・・・な、なんのこと?さっきは太陽がまぶしくてさ・・・」

須田は苦笑いをする

「・・・監督も、うすうす気づいてると思・・・」

「みなるん」

須田は足を止める

「おねがい。気づいてるんなら黙ってて・・・決勝戦なんだよ・・・やっとつかんだレギュラーなんだよ・・・」

「亜香里・・・」

「大丈夫、気合だけは人一倍・・・いや、三倍くらいはあるから」

そういってニコッと笑った

「ほら、試合試合。戻って戻って」

そういって須田に言われるまま大場は持ち場に戻る

「・・・知ってるよ。それに負けたくないから・・・私だって・・・」

そう呟き、自分の足を見つめた


続く横山はバッターボックスに入る

現在、ランナー2塁、3塁 ノーアウト

「ゆいはん打てよー!!」

3塁で山本が叫ぶ

(私やって・・・ええとこみせな・・・)

そう思いギュッとバットを握る

パンッ

「ストライク」

前田が放ったボールはまたもやカーブだった

(またカーブかいな・・・)

横山は焦る

パンッ

「ストライク」

ストレートが軽快に峯岸のミットにおさまる

そして3球目

グローブの位置に目をやり

カッと目を見開いた

(・・・これかっ!?)


カンッ


ボールはショートゴロ

「うおぉぉぉぉぉっ!」

山本は勢いよく走りだす

大場は後ろに構えていたため

手前に転がったボールを追いかけ走り出す

「・・っ!」

踏ん張るとと同時に足に若干の痛みが生じ

スタートダッシュが遅れた

「みなみっ!」

大場はホームベースに向かってボールを投げる

「止めるっ!」

峯岸はボールを待ち構える

「でりゃぁぁぁっ!」

山本も勢いよく走り

スライディングをする

ズザザザ・・・・

峯岸もボールを取ると山本にすかさずタッチしようと腕を伸ばした

「させるかっ!」

山本は身体をひねる

全員が固唾をのんで

その瞬間を見つめる


峯岸のミットはグラウンドに着く

紙一重の差だった

そして

ホームベースには

山本の手が触れていた


「・・・セーフ!!」

「「ワーーーーッ!!」」


秋葉女学院の声援がどっと大きくなる

「しゃーーー!!」

山本は拳を振り上げ

ベンチに戻る

「うおぉぉっ!」

「山本ー!!」

「彩ーーー!!」

部員たちが勢いよくタックルしてくる

「わっ!みんな勢い良すぎやで」

山本も渡辺と同様に皆にもみくちゃにされながら笑っていた


ランナー1塁、3塁

続く指原

「よしっ!」

気合を入れて構え・・・

(ここだっ!)

キラーンと指原の目が光る

ドッ・・・

指原はバッターボックスにうずくまり

デッドボールの判定が下る

渡辺は鎮痛スプレーを持って1塁に行く

今回は本当に当たっていたのだ

「・・・ナイスファイト」

スプレーを腕に振りながら渡辺が言う

「麻友・・・」

指原は腕を差し出しながら驚いていた

「・・・あのさ」

「ん?」

「・・・泥臭い野球も・・・悪くないかなって思った」

「・・・え?」

「でも・・・怪我しないでね。全国でも一緒にプレーしたいからさ」

渡辺は俯き、帽子で表情を隠しながらベンチに戻っていった

「・・・なんだよー・・・可愛いとこあんじゃん」

走り去る渡辺の後姿を見てニッと笑った

初恋の行方とプレイボール38

続く秋元

「しゃー!!」

そういって勢いよく構える

前田はスッと構え

ボールを投げた

「でりゃあぁぁっっ!」

パアァァァン!

秋元のバットが空を切り

軽快なミット音が響き渡る

「ストライク!」

「・・・!」

秋元の顔に不安がよぎる

「あー才加緊張してるよ」

宮澤が頭を抱える

秋元は部内一のあがり症なのだ

渡辺が出塁したこのチャンスに乗りたいという気持ちが

バッティングを硬くしていた

前田はまた、スッと構え、ボールを投げた

パァァァン

前田のボールは

また峯岸のミットにおさまる

「ストライク!」

「あ・・・」

秋元は峯岸のミットにおさまったボールを見つめていた

(・・・なんで打てないんだよ・・・)

秋元はギリッと歯を食いしばる


「才加ー!!」

ベンチで大島が叫ぶ

「思い出せ!!絶対打てる」

そういって掌を見せ、ニカッと笑った

「あ・・・」

秋元はそんな大島を見て

力強く頷いた

――――
2年前

「なぁ前田さんの球ってどうやったら打てるのかなぁ」

白い練習着でバットを振りながら宮澤が言う

「あの縦スライダー打てたらかっこいいよなー」

秋元も隣でバットを握り素振りをする

「何いってんの。あれはボール球なんだから振っちゃだめなんだよ」

そういって3年生たちが笑う

「「…すいません」」

2人は肩を落とし

少し離れてバッティング練習をしようと移動する

「なーなーさっきの話なんだけどさ」

そう言って2人の間からひょこっと現れたのは大島だった

真新しい練習着には早々に泥染みがついていた

「え・・?」

「私も敦子の球打ちたいんだ」

「敦子って・・・前田さんの事?」

宮澤と秋元は首をかしげる

「あぁ。中学ん時は一緒だったんだけどさー。やっぱあの球、試合で打ちたいじゃんか」

そういって大島は秋元が持っていたバットを手に取り2人の前で構える

「ボール球だろうがなんだろうが、あの縦スライダー打ってやろうぜ」

そういってニカッと笑った

ちらりと見える八重歯がその屈託のない笑顔をより一層輝かせていた

こいつは本気で言ってる

秋元はそう思った

「才加・・・」

宮澤が口を開く

「ん?」

「なんでだろう、あいつが言うとさ・・・打てる気がしてきたよ」

宮澤はそう言ってニッと笑った

「あぁ・・・私も今、そう思ってた」

そういって秋元も笑った



―――――


「「打て打て才加!!」」

観客席で生徒たちの慣れない声援と吹奏楽の音楽が響き渡る

秋元はゆっくりと目を開き

バットを握る、自分の白い手袋を見つめる

そして、フッと息を吐き

前田を静かに見つめた



2ストライク


前田が振りかぶり

秋元はグッと力を入れる

シュッ!

ボールが勢いよく前田の手から離れる

渡辺の言っていたグラブの傾きはなかった

これは

いつもの切れのある縦スライダーだ

そう・・・

いつか打つと心に決めた・・・


秋元の脳裏に大島と宮澤の3人でバッティング練習をしている姿がよぎる

「「打てーーー!!才加ーーーー!!」」

観客の声援や音楽よりも

ベンチの大島と宮澤の声だけが

やたらとクリアに聞こえた気がした

(このために何百回・・・いや何千回って・・・)

秋元はぐっと身体をねじり

左足を勢いよく前に出す

(練習・・・したんだよっ!!)


「いっけぇぇぇぇっっ!!」

カァァァン!!


軽快な金属音が響き

打球は勢いよく飛んでいく

渡辺はヘルメットが外れそうになる勢いで1塁を蹴って走り出す

秋元もバットを放り投げ懸命に走った

「くそっ!」

センターの田野はボールを見ながら懸命に走るが

トンっ

ボールは壁ギリギリのところでころころと転がり

追いつくことができなかった

田野はボールを手に取ると

ショートに勢いよく投げる

「「麻友!!走れー!!」」

ベンチの皆が叫ぶ

「言われなくても、走ってるってのっ!!」

ズザザザ・・・・


渡辺のスライディングとボールがほぼ同時に3塁に着く

「・・・セーフ!」

「「よっしゃぁぁぁぁっ!!」」

ベンチの全員が歓喜の声を上げる


「ははっ・・・おおげさだなぁホント・・・」

渡辺はパンパンとユニホームの土を払いながら

ベンチで騒いでいるチームメイトを見る

(でも・・・泥臭いのも悪くないね・・・)

そう思い、ニッと笑った

「はぁ・・・はぁ・・・」

秋元も懸命に走り

2塁で息を整えていた

手袋を外し

掌を見る

そこにはバッティングでできた、ごつごつとした豆がいくつもできていた

「・・・」

秋元はフッと笑い

掌をベンチに向ける

「やったな才加」

「だね」

大島と宮澤はベンチで同じく豆だらけの手を振り、ニッと笑った



続く山本

ノーアウト2塁3塁

ここで打てば1点いや、大きく打てば1点差になる・・・

山本はぐっとバットを握る

「・・・」

バッターボックスに立ち

前田をキッと睨んだ

「・・・ここで打たれるわけにはいかないな」

そう呟き

前田は帽子を直した



1球目

鈍い音が響き

ファールになる

「・・・っー」

山本は金属バットから伝わる衝撃に顔をゆがませる

(やっと・・・本気で投げ出したな)

そう思い苦笑いをする


前田がまたスッと構える

パンッ

「ボール」

山本は振らずに見送り、フッと息を吐く

前田はまた構え

ボールを投げた

「でりゃぁぁぁっ」

パンッ!

山本のバットは空を切り

その勢いで身体が1回転する

「くそっ・・・」

山本はギリッと歯を食いしばる

(やっぱり早いな・・・)

山本は構え直す

(でも・・・打たなあかんのや・・・優勝して全国に行くんや・・・)

そう思いぐっと力を入れ


(これやっ!)

山本は目を見開き


カァァァン!!


山本の打った打球はの前田の真横をかすめ

センターに飛ぶ

「「走れ―ー!!」」

それを合図に

渡辺が走り

ホームベースを踏んだ

「「よっしゃーー!!」」

その間に山本は1塁、秋元は3塁に進む

「麻友!やったなー!!」

ベンチに戻ってきた渡辺をみんながもみくちゃにする

「ちょっ・・・痛いって」

そういいながら渡辺も笑っていたのだった

初恋の行方とプレイボール37

5回の裏を終えた秋葉女学院は

ベンチに戻る

現時点で0対4と

帝都女子優勢のまま試合は進んでいた


秋葉女学院の打線はゴロやフライが続き

得点をとることができていなかった

「みんな、とりあえず1点だ。1点取って行こう」

高橋が手を叩き、指揮を上げる

「「はい」」

皆、頷いた


「そうそう、野球は後半から面白くなるんだからねー」

そこに現れたのは中西だった

「な・・・中西さん!」

渡辺は顔を赤らめスポーツドリンクの入ったボトルを落としそうになり

わたわたと慌ててキャッチする

「どんだけー」

その様子をみて指原が笑う

「な、中西さん!試合見に来てくれたんですか!?」

渡辺は指原のみぞおちに肘を入れ、にこにこと微笑んだ

「・・・うっ!」

指原はその勢いによろめく

「はいはい。さっしーは余計なこと言わない」

大島が笑いながら指原をベンチに座らせる

「うん、そりゃー決勝戦なんだもん。それに、頼まれてることもあってね」

「頼まれてること・・・?」

渡辺が首をかしげる

「いや、それはもう少ししてからかな・・・」

そういって中西はマウンドに目をやった

「さすがは注目度No.1のピッチャーだね」

そう、ぽつりと漏らす

「はい・・・いつも後半からの登板なんですが、今回は初回から前田でして・・・」

高橋が隣から言う

「でも、後半からが勝負なんです」

渡辺が言う

「・・・何か作戦があるんだね」

渡辺の真剣な眼差しに中西は微笑んだ

「・・・はい」

「頑張ってね」

そういって中西は渡辺の肩に手を置く

「バントだけじゃないってこと、見せてあげな」

「中西さん・・・はい!!」

渡辺は頷きバッターボックスへと向かった



渡辺は静かにバットを構え

前田を見据えていた

(もう少しだ・・・もう少しすれば・・・)

そう思い、バットをギュッと握った


―――――

決勝前日

「癖・・・?」

山本が驚く

「前田さんの投球なんだけど・・・」

渡辺はそう言って前田の2つの投球シーンを見せる

「前半は登板最初、後半は9回裏の投球」

「あ・・・」

珠理奈は声を漏らした

「珠理奈は気づいた?」

渡辺がニヤッと笑う

「なんか・・・構えた時のグローブの傾き具合が・・・違います」

「そう!ここっ!!」

渡辺はスクリーンに映し出された2つの画像の前に立ち

グローブのところをバンッと手でたたく

「後半になるとグローブが若干寝て来るんだ。この時は縦スライダーが来る」

「「ま、まじかっ!!」」

全員がガタっと身を乗り出す

「あぁ・・・噂では前田さん、3年から投球フォームを変えたらしいんだ。でも、後半・・・無意識に以前の構えが出てきてるんだ」

「つまり・・・何度も投げさせてたらいいんだな」

大島がぐっと拳を握る

「そう・・・でも、それまで耐えなきゃいけない。数多く投げさせなきゃいけないからね。前田さんの決め球でもある縦スライダーは実質ボールの判定になる。だから・・・」

「「だから・・・?」」

「ちゃんと見極めて振らない!!」

「なんだよっ!結局いつもと一緒じゃん」

それを聞いて指原はずっこける

「でも、前田さんの時いつも3振じゃん」

「う・・・」

渡辺の発言に指原は苦笑いをした

「でも、まぁこればっかりはしゃーねーな。それに、敦子の癖もわかったんだ。それが出るまで多く投げさせてやろうじゃねーか」

大島がニッと笑う

「それに、その癖を教えるのは他にも理由があるんだろ?」

「さすが優子・・・よくわかってんじゃん」

大島の問いに渡辺もニヤッと笑った


―――――――

パンッ!

渡辺はバットを構えたまま動かなかった

「ボール」

前田の縦スライダーを見極めたのだ

審判の声に

渡辺はニッと笑う

前田は静かに振りかぶる

グローブは傾いていた

(きたっ・・・!)

渡辺は自身に満ちた目でぐっとバットを握った

(前田さんのグローブが傾いた時・・・)

前田が勢いよくボールを投げる

(縦スライダーの角度が甘い確率は・・・)

渡辺は足を上げ、体重を後ろ足に乗せる

(3割強なんだよっ!)

渡辺は目をカッと見開き

「いっけぇー!!」

思いっきりバットを振った


いつものバントとは違うバットの重みが

渡辺にかかり


カァァァン!!


打球はレフトとセンターの間をうまく転がる


「「よっしゃー!!」」

秋葉女学院のベンチは

歓喜の声を上げる


「はぁはぁ・・・」

渡辺は1塁で息を切らしていた

そしてベンチの方をみてニッと笑う

「麻友ー!!いいぞー!!」

ベンチで皆が盛り上がっている

いつもなら照れくさいのに

ぐっと拳握り

高々と空に向かって上げた

いつもならこんなに息が切れるほど走らないのに・・・

ガッツポーズなんかしないのに・・・

自分でも可笑しくなってくるほどだった


「出塁しただけじゃん。いい気にならないでよね」

そういって水を指したのはファーストの島崎だった

島崎は捕球率は都内№1といっていいほどの実力者だ

ファーストというポジションもあり、ほとんどの球をベースから足を離さずに取る姿は

一部からは省エネ捕球とも言われていた


「・・・おあいにく様、今何をいわれても全然悔しくないんでね」

そういってヘルメットを直しながらニッと笑った

「・・・な」

島崎はいつも無表情な渡辺の笑顔を見て

ただただ驚くばかりだった


「切り替えて行こう。敦子」

そういって峯岸がマウンドで前田の肩をたたく

「大丈夫。次は、打たれない」

そういっている前田の目つきは鋭かった

「そうか、頼むな」

そういって峯岸は戻って行った

「・・・」

前田は1塁にいる渡辺を見る

(・・・まさか・・・まぐれだ・・・)

そう思い

マウンドにある粉を指につけ

フッと深呼吸した

初恋の行方とプレイボール36

ウゥーー・・・・

「「よろしくおねがいします!!」」

秋葉女学院と帝都女子が一礼し

走り出す


帝都女子のスターティングメンバーは

ピッチャー 3年前田 敦子

キャッチャー 3年峯岸 みなみ

ファースト 3年島崎 遥香

セカンド 3年倉持 明日香

ショート 3年大場 美奈

サード 3年高城 亜紀

ライト 2年北原 里英

センター 2年田野 優花

レフト 3年須田 亜香里

となっていた

「北原さんがライトになってる・・・最初から前田さんが投げるの・・・?」

柏木は驚き、口をぽかんと開けていた

「・・・最初から潰しにかかるつもりか・・・」

高橋はギリッと歯をかみしめ

向こう側の篠田を睨む

「そっちがその気なら、逆に潰してやろうじゃねぇか。よっしゃ!お前ら気合入れてけよ」

高橋は戻ってきたメンバーに渇をいれる

「「はい!!」」

全員熱いまなざしで高橋を見て頷いた

「最初から前田さんかよ。北原の投球の動画も結構見たのになー」

宮澤はベンチで愚痴をこぼす

「・・・最初からのほうがむしろ好都合だよ」

渡辺が言う

「麻友・・・」

「そのために、どんだけ前田さんの投球見たと思ってるの?1年のころから・・・何度も何度も穴が開くぐらい見続けたじゃん。」

そういって渡辺はバットを握り

ベンチの階段に足をかける

「麻友!」

宮澤が声をかける

「打てよ」

そういってニッと笑った

その横で秋元も頷く

「・・・当たり前だろ。・・・佐江、才加。2人ともずっとスライダー打つ練習ばっかりしてたんだ、今日ここで打たないと許さないからね」

そういって渡辺は背を向け、ネクストバッターズサークルに向かった

「ははっ決勝戦でも、麻友はかわんないな」

そういって秋元は笑う

「ツンデレ加減が良いんだよ。あんな感じだけど・・・誰よりも野球好きだからさ」

「そうだな」

2人は渡辺の後姿を見てニッと笑った




1回の表

攻撃は秋葉女学院

1番バッターの大島はスッと構え

「しゃー!来いや!!敦子!!」

気合の入った声が響いた

珠理奈たちも緊張した面持ちでベンチで声援を送っていた

「・・・まずは肩慣らし」

前田はそう呟きスッと構えた


―――――

「あーいろいろしてたら遅くなっちゃったよ」

中西はロッカーに白衣を入れバタバタと階段を下りる

「中西先生」

正面玄関前には玲奈が待ち構えていた

「あら?玲奈ちゃん・・・」

「先生・・・これ・・・」

そういって玲奈はスッと袋を差し出す

「ん?」

「あの・・・これを・・・」

『および出しを申し上げます―――』

玲奈と中西の会話を

院内アナウンスがかき消す

中西は玲奈から袋を受け取ると

「わかった、必ず渡すよ」

そういってニコッとほほ笑んだ

―――――

カァーーーン

金属音が軽快に響き

センターの大島が懸命に走る

「くそっ!」

が、間に合わず無情にボールは観客席に入る

「「わぁぁぁぁっ!!」」

観客の声がより一層強くなる

前田は淡々と走り

前のランナーに続き、ホームベースを踏んだ

帝都女子が2点を獲得する

「・・・くそっ」

珠理奈は苛立ってマウンドの土を蹴る

珠理奈は出だしこそ良かったものの

4番の前田のヒットから帝都女子は勢いに乗った

他のバッターからは3振を取っていたのだが

前田は珠理奈をたしなめるように打順が回ってきてはヒットを打っていった

「イライラすんな珠理奈。勝負はまだまだこれからやで」

そういって山本は珠理奈に駆け寄り

肩をポンとたたいた

「うん」

珠理奈は頷きボールをぎゅっと握った

――――――

「うーん。前田さんはやっぱり凄いんですねー。エースとして注目されるわけだ」

そういって中西は来賓席の窓から試合を眺めていた

「ははっ、そうだな。・・・秋葉女学院と帝都女子なんて、当時の決勝を思い出すよ」

そういって中西の隣で笑うのは

女子高野連会長 野本 裕子だった

野本は中西が学生時代に他校ではあるが女子野球の監督をしいたので

中西の事を覚えていたのだ

もう60歳近くなるが、黒く日焼けした顔と長い髪をオールバックにしてひとつくくりにしている姿は

今でも少年野球を教えに行っているから、らしい

前回も秋葉女学院のベンチに中西を通したのも彼女であり

今回も警備員に身元を尋ねられている中西に声をかけ

来賓席につれてきたのだ

クーラーのきいた部屋で中西はソファーに座り、出されたアイスコーヒーを飲む

バッターボックスの後ろでは熱心にメモを取る大人たちの姿が見えた

「なんか昔と比べるとスカウトの人多くなりましたね」

「そりゃそうだよー。大学でも女子野球増えてきたし。それに、来年からは女子プロ野球もできるんだ」

「えっ、プロ野球?」

中西は驚く

「なんだ。知ってると思ったのに、知らなかったのか」

野本は中西の驚きようを見て笑う

「関東だけじゃなく、関西にもチーム作るんだとさ。ゆくゆくは全国に拠点を広げて行くつもりらしい。だから関西のスカウトマンも見にきててな。数が多いんだ」

「そうなんですか」

「ま、大抵は前田を見に来てるんだがな」

そういって野本は苦笑いをした

「・・・そうですか」

そういって中西はソファーから立ちあがると

窓に近づき、マウンドで汗をぬぐう珠理奈を見つめた

「君らのあの当時、プロ野球ができてたらと思うと・・・惜しいよ」

その発言に中西はしばらく黙っていたが

グラウンドの方を向いたままゆっくりと口を開く

「あの時、プロ野球ができてても・・・私は行きませんでしたよ。というか・・・行けませんでした」

「え・・・?」

「全国大会で肩壊しましたから。ピッチャーとしては使い物にならなかったと思います。」

そういって中西は野本の方を向いて苦笑いをした

「あ、でも後悔はしてませんよ。今も日常生活に支障はないですし。それに、あの時プロ野球がなかったから全力で投げ切れたんだと思います。私は、仲間たちと優勝することが自分の中の野球に対するゴールでしたから」

中西は野本の方に歩み寄り

置かれていたアイスコーヒーをぐっと飲み干した

「中西・・・」

「コーヒーごちそうさまでした」

そういって、にこっと笑うと中西は来賓席のドアを握る

「中西、せっかくだからここで見て行ったらどう?」

先ほどよりも野本の口調が優しかった

きっと昔の事を思い出させて悪かったと気を使っているのだろう

「・・・いえ、やっぱり私はベンチで見てる方が落ち着きます。では、失礼します。」

中西はそう言うと静かにドアを閉め出て行った

「・・・本当に惜しいな」

そういって野本はスッと立ちあがると

ベンチで指示を出す篠田を見つめていた

初恋の行方とプレイボール35

翌日

「よいしょっ・・・」

玲奈は病院内にある屋内庭園に点滴台を押しながら足を踏み入れる

3階にある庭園からは

球場が見えていた

高さの関係で中は覗き見ることができなかったが

球場からは国旗と女子高校野球連の旗、そして秋葉女学院、帝都女子の校旗が風になびいているのがわかった

玲奈はフェンスまで近づき

球場をじっと見つめていた

「玲奈ちゃん」

声をかけられ、玲奈は振り向く

そこには中西が立っていた

「ここにいたんだ」

そういって中西は微笑む

「すいません・・・でも、身体は大丈夫ですから」

玲奈はあわてて言う

「まぁじっとしてろって言われてもできないよねー。今日決勝戦だし」

そういって中西は笑った

「はい・・・」

「まぁ玲奈ちゃんリハビリも頑張ってたしね、調子も良いし、今日は私が付き添ってた事にして許してあげる」

そういって唇に人差し指をあて笑った

「ありがとうございます」

玲奈はペコっと頭をさげた

「13時からだったね試合」

そういって中西は時計を見つめる

時刻はもうすぐ試合開始時刻を指そうとしていた

「・・・ここからならサイレンくらいは聞こえるかなぁとおもって」

そういって玲奈は苦笑いをした

「・・・うん。そうだね」

中西も球場を見つめる

すると、日陰にいた屋内庭園の患者や家族たちがなにやら騒いでいた

中西は後ろを振り返ると

皆、空の方を指差している

中西もその指につられて視線を空に移す

「あ」

中西は声をあげた

「へ?」

球場を見つめていた玲奈は中西の声に反応する

「玲奈ちゃん。空、見てみ」

そういって中西は人差し指を上にあげた

玲奈は不思議そうに空を見上げ

「え・・・」

覆わず声を漏らす

そこには雲に虹がかかったかのように

鮮やかな色が何色も浮かび上がっていた

「すごい・・・」

玲奈は思わず声を漏らす

「彩雲」

「え?」

玲奈は中西に視線を戻した

「彩(いろどり)の雲で彩雲っていうんだ。中国ではこれをみると吉兆っていってさ。いいことがおこるっていうんだよ」

そういって中西は微笑む

「いいこと・・・」

「ま、玲奈ちゃんにはもう良いことおこってるけどね」

「え?」

「こんなとこで話すのもなんだけどさ・・・ご両親には伝えてたんだけど・・・君の心臓は手術中に1回止まったんだ。でも、奇跡的に息をふきかえしてくれた。また、君の心臓は動きだしてくれたんだ」

「止まった・・・私の心臓が・・・」

玲奈は胸に手をあて、驚く

「うん・・・ご両親はさ、助けてくれてありがとうございましたって言ってくれたけど・・・実際、止まっていた心臓をもう一度動かしたのは、玲奈ちゃん、君自身だよ。」


そういって中西はにこっと笑う

「私・・・?」

「君の生きたいって思いがさ、また心臓を動かしたんだよ」

そういって中西は笑うと

また空を見上げ

ぼそっと何やら英語をつぶやいた

「・・・え?」

玲奈は首をかしげる

「あぁ、ごめんね。西洋のことわざでさ、命あるところに希望があるっていうのがあるんだ。留学中に言われてさ。すごく好きな言葉なんだ」

「命あるところに・・・希望・・・」

そういって玲奈も空を見上げた

そこにはまだ彩雲が輝いていた

「そ。だから、玲奈ちゃんの心臓がもう一度動き出した時、私は君に希望を感じた」

そういって中西は空から視線を玲奈に移す

玲奈も反応して中西を見た

「この前とった心電図、前みたいな不整脈出てないよ。このまま経過をみていけば、走ったり、運動したりできるよ」

「ほ、本当ですか?」

玲奈は驚き、高揚感を隠せないでいた

「うん、本当。君はなんだってできるよ。希望とは明日の空・・・明日も生きていれば希望がある。ってね」

中西はにこっと笑う

「先生・・・」

「ね、だから玲奈ちゃんにはもういいことがあったってわけ。でも、今の玲奈ちゃんには秋葉女学院が勝ってくれることのほうが吉兆かな?」

そういうと中西は腕時計にちらっと視線をうつし

「そろそろか・・・じゃあね、玲奈ちゃん。開始のサイレン聞いたら部屋に戻るんだよ。長時間、外にいるのはまだ禁止ね」

そういうと中西は白衣をなびかせ

庭園を後にした

「・・・希望とは・・・明日の空・・・」

そう呟き玲奈は

空を見上げる

先ほどまであった彩雲は消え去り

ただ真っ青な空と太陽がそこにはあった

玲奈は手をかざし、目を細めて太陽を見る

「・・・」

そして自分の後ろを振り返り

影がくっきりと出来ているのを見て

不意に涙がこぼれた


(・・・彩は・・・私に生きる望みを・・・希望をくれたんだ)

そして・・・

そんな私を

支えてくれたのは・・・

いつだって助けてくれたのは・・・


玲奈の脳裏に

ユニホーム姿で微笑む一人の女性が浮かんだ

その瞬間

玲奈はあの日見た夢の意味を理解し

ハッとした



ウゥーーーー・・・・・

球場の方からサイレンが鳴り響く

玲奈は涙をぬぐいながら

胸に手を当て

まっすぐに球場を見つめていた

その瞳には

迷いはなかった

初恋の行方とプレイボール34

その頃、病院では

バタバタと玲奈の荷物がワゴンに積まれていた

玲奈は車いすに座り

看護師達の手際の良さに目を奪われていた

「ごめんね、松井さん。急に病棟変わるってなっちゃって」

そういいながら看護師は最後の荷物をワゴンに乗せ、申し訳なさそうに玲奈を見た

「い、いえ・・・大丈夫です」

玲奈はおずおずと頭を下げた

明日、心臓外科病棟に移動となる予定だったのだが

夕方に重症患者が運ばれてきたらしく

一番状態の落ち着いている玲奈が急遽部屋を移らなければいけなくなったのだ

心臓外科病棟は空いておらず

やむおえず、いつも入院している循環器病棟に移動することになった

「じゃあ行きますね」

そういうと看護師は玲奈の車いすを押し

もう一人は荷物の乗ったワゴンを押していた

よほど急いでいるのだろうか、いつもきびきびしているのだろうか

半袖のナース服から見える華奢な腕からは想像できない力強さに

玲奈は圧倒されていた


「玲奈ちゃんいらっしゃい」

「手術成功して良かったねー」

循環器病棟の看護師達は小さい頃から玲奈を知っているため

荷物を棚に入れながらにこにこと話す

「は、はい・・・ありがとうざいます」

照れくさそうに笑う玲奈を見て

看護師達は少し固まったが

先ほどよりも嬉しそうな笑顔を見せていた


「はぁ・・・」

移動が終わり、看護師達はナースステーションに去って行った

個室に一人残された玲奈は

ベッドの端に座り

緊張感から解放され、一息ついた

もう夕方だというのに

外はまだ明るかった

「・・・」

玲奈は窓に近づき

外を見る

窓の右端には球場がかろうじて見えていた

そして、下の駐車場は外来の診察時間が終わっているため

まばらに車が止まっていた

「玲奈ちゃん」

そこに中西と久保田が現れる

「ごめんねー急に移動になっちゃって」

「いえ・・・大丈夫です」

「ご両親には病院の方から部屋変わったって言ってあるから」

久保田も申し訳なさそうに言った

「はい。でも、いつも入院してる病棟だから・・・こっちの方がなんか落ち着きます」

久保田の表情をみた玲奈は気を使って笑った

「あ、そうそう。病棟内なら歩いても大丈夫だからね。あと、面会謝絶じゃなくなったから」

そういうと中西は一旦廊下に姿を消し

「ゆっくり話しなよ」

そういって腕を引いてきたのは珠理奈だった

「・・・珠理奈」

「えっと・・・その・・・」

珠理奈は久しぶりに会う玲奈になんと声をかけていいかわからず

照れくさそうに笑った

玲奈はその表情を見て

懐かしい気持ちになり微笑んだ

「じゃあ、ごゆっくりー」

そういうと中西は久保田の腕をつかみ部屋を後にした



「とりあえず・・・座って」

そういって玲奈は珠理奈に病室にあるパイプ椅子に座るよう促し

自分もベッドの端に座った


「・・・調子・・・どう?」

珠理奈はおずおずと尋ねる

「ふふっ。大丈夫だよ。ありがとう。」

そういって玲奈は笑った

「そう・・・よかった」

部屋に入った時に倒れた時とは違い、自分で歩いて微笑んでいる玲奈を見て安心はしたのだが

改めて玲奈の口から大丈夫だと聞くと

今まで張り詰めていた胸の何かがゆるんだ気がして

珠理奈はほっと安堵の声を漏らした



「あの・・・これ・・・」

そういって珠理奈は玲奈に帽子とTシャツが入った袋を渡す

「・・・そっか・・・届いたんだ。でも、ずいぶん・・・遅いな」

玲奈は帽子を手にして苦笑いをした

そういえば・・・山本から借りていた帽子をまだ返していない・・・

ふと、あの日、山本が被せてくれた時の事を思い出す

「・・・玲奈ちゃん」

珠理奈が心配そうに声をかける

「あ・・・ご、ごめん。なんでもない。大丈夫。」

玲奈は不意に流れてきた涙に自分自身が驚き慌てて取りつくろう

「なんか・・・ごめん。でも・・・持ってて欲しいと思ったんだ」

「え・・・?」

「玲奈ちゃんもチームの一員だから。だから明日はこの帽子・・・持ってて欲しいんだ」

「・・・珠理奈、変わったね」

玲奈はくすっと笑う

「え・・・?」

「なんか最初はさ、すごくちゃらちゃらしてて彩とも喧嘩ばっかりしてたのに・・・いつのまにかちゃんとエースとしてしっかりしてきたね。」

「玲奈ちゃん・・・」

「あ・・・素人の私がいうのってなんか変だよね。」

玲奈は慌てる

「ううん。そんなことない。ありがとう」

そういって珠理奈は笑った

「なんか少しの間しか見てないけど・・・みんなのチームワークがどんどん良くなっていって・・・練習試合でも勝ったら喜んで、負けたら悔しがって・・・毎日の練習だって・・・みんな仲よくってさ・・・」

そう言っている玲奈の頬からは涙が流れていた

「・・・明日の試合、やっぱり見たかったな」

玲奈はぽつりと漏らす

「・・・」

珠理奈はパイプ椅子から立ち上がると

玲奈をぎゅっと抱きしめた

「じゅ・・・珠理奈?」

いきなりの事に玲奈は帽子を落とす


「明日・・・勝つから。絶対。8月の全国大会・・・連れて行くから」

そういってきゅっと腕に力を込めた

珠理奈は制服のブラウスを着ていたのだが

さっきまで練習していたせいか

どこかグラウンドの土のにおいがした

(・・・なんでだろう・・・落ち着くな・・・)

「うん・・・ありがとう」

玲奈はグラウンドのにおいが落ち着くのか、珠理奈に抱きしめられていることが落ち着くのかはっきりとはわからなかったが

そっと珠理奈の胸に身体を預けた

「・・・!」

珠理奈は拒否されるかもしれないと思っていたのか

素直に身を預けてくれたことに驚き、一瞬ぴくっと身体が跳ねたが

そのまま玲奈を抱きしめ続けていた


ドクンドクン・・・

玲奈の耳に珠理奈の鼓動の音が聞こえる

少し緊張しているのか

リズムが速くて

玲奈はくすっと珠理奈の胸の中で笑った



「玲奈ちゃん・・・」

珠理奈はそっと身体を離し

玲奈を見つめた

(あれ?これ・・・夢と・・・同じ?)

玲奈はふと夢の事を思い出し

顔が真っ赤になった

そんな玲奈を珠理奈はじっと見つめる


そして・・・



「ごめんねーそういうのはちゃんと治療が終わってからにしてもらえる?」

中西がドアにもたれかかりながら苦笑いをしていた

「きゃっ」

「わっ!」

二人は驚き離れる

「な、なんで?」

珠理奈は真っ赤になりながら言う

「いや、玲奈ちゃんの心拍数が上がってアラーム鳴りやまなかったからさー。どうしたのかと思って。一応ノックはしたんだよ、気づかなかったみたいだけど」

そういって中西は笑った

「え・・・?」

珠理奈は玲奈を見る

「あ・・・これが鳴っちゃったみたい」

そういって玲奈はポケットからメモ帳サイズほどの大きさの送信機を出し、顔を赤らめていた

「そ、そうなんだ・・・」

珠理奈も顔を赤らめながらひきつった笑顔を見せる

「なになにー?やっぱりつきあってんじゃんかー。いいねーいいねー青春だねー」

中西はにやにやと笑う

「え、いやあの・・・ちがうんです・・・」

玲奈はしどろもどろになる


「でも、そういうことは退院してからにしてね。あとキスはOKだけどそれ以上の事は医者の許可がおりるまで駄目だから」

「え・・・」

玲奈は顔を赤らめる

「健全な高校生活を送ってもらわないとね。玲奈ちゃんの心臓のためにも」

そういって中西は珠理奈に釘をさし

その場を後にした

「・・・あ・・・あの・・・じゃあ、私帰るから」

そういって珠理奈はあわててバッグを持つ

「あ、あの珠理奈」

玲奈が呼び止め

珠理奈は立ち止まる

「ありがとう」

「うん」

2人は照れくさそうに笑った


珠理奈が帰った後

玲奈は真新しい帽子に刺繍された松井玲という字を見つめていた

試合を見れないことは辛かったが

チームの一員だと言われたことが嬉しく

胸の奥がくすぐったくなった


そして不意に

先ほど珠理奈に抱きしめられた事を思い出し

顔を赤らめる

でも夢でも現実でも

珠理奈の鼓動がなぜか心地よかった

「・・・なんでだろう?」

そう呟きそっと胸に手を当てたのだった

初恋の行方とプレイボール33

帝都女子の対策が終わった後

練習は終わったはずなのだが

誰ひとり帰ろうとしなかった



山本は前田の球を打てなかったのがよっぽど悔しかったのか

マシンを相手にバッティング練習をしていた

一方珠理奈はストライクゾーンが書かれた壁の的を狙って変化球の練習をしていた

他の部員たちもキャッチボールやバッティング練習に精を出す

「あーあ。早く帰れって言ってのんにあいつらは・・・」

職員室から出てきた高橋は、ため息をつくが

その顔からは笑みがこぼれていた

「しかたありませんよ。気合が入ってますから」

その横でベンチに腰掛けている柏木が笑う

「でも・・・皮肉なもんだ」

そう呟き、持っていた袋を見る

「どうしたんですか?」

「さっき、スポーツ店の店長が来てさ。他の荷物とこれが混じってたんだってよ」

そういって柏木に袋を渡す

中には帽子とTシャツが入っていた

「遅れて大変申し訳ありません。でも明日の決勝戦に間に合ってよかったです・・・だとよ。」

高橋はそういってため息をつき

少し前に歩く

「・・・それをつける本人が間に合ってないっての」

「・・・」

「あー明日絶対いい試合だよ。見せたかったなー・・・」

「・・・先生」

柏木は高橋の背中を見つめる

手にしていた帽子の裏には

松井玲と刺繍がされていた


―――――――

「ほれーお前ら。もう終わりにしろよー」

時計が5時を指し、高橋がパンパンと手を叩く

部員たちはもう少しという顔で高橋を見つめていたが

これ以上したら明日試合に出さんという高橋の一言で

慌てて片づけを始めた

「ゆいはん」

「はい?」

柏木が横山を呼び止め何やら話をしている

珠理奈はそんな様子を遠目に見ながらトンボでグラウンドを馴らしていた

「おつかれさん」

「今日はゆっくり寝ろよー」

「前田さんの投球のデータ送っといたから。勉強するように」

3年生たちはめいめいに言うとバッグを持ち部室を出て行った

開け放したドアからは渡辺のタブレットパソコンを覗き込んでいるメンバーたちの姿が見えた

きっと、この後もメンバーの誰かの家で作戦会議をするのだろうなと珠理奈は思いながら

渡辺から自分の携帯に送られてきた動画を再生しようとした時

「珠理奈。これから玲奈のとこにいかへん?」

そういって声をかけてきたのは横山だった

「え・・・でも、まだ、面会できないんじゃ・・・?」

横山の発言に珠理奈は動揺する

「柏木先輩が、2年生たちで渡してきてって・・・」

そういって横山は袋を珠理奈に渡した

その中にはTシャツと帽子が入っていた

柏木は、高橋が病院に届けると言っていたのを止め、2年生たちに持って行ってもらおうと提案していたのだ

「面会できんでも、両親がいるだろうからって。皆でいってきなってさ」

「・・・」

珠理奈はしばらく袋の中身を見つめたまま動かなかった

「・・・珠理奈。あんたが一人で行き」

後ろから山本に声をかけられ

珠理奈はハッとして振り返った

「・・・でも・・・」

珠理奈はためらう

「・・・玲奈が倒れた後、毎日病院の前でずっとうろうろしてるんやったら、堂々と理由つけて入ったらええねん」

「なっ・・・」

山本の発言に珠理奈はドキッとする

「彩!」

横山もそれを知っていたのか慌てていた

「・・・ゆいはん。ちょっと2人にしてくれるか?」

山本は横山の方を見た

「・・・わかった」

そういうと横山はバッグを持ち扉を閉め、出て行った



横山が閉めた扉の音を最後に

部室には沈黙が流れていた


「珠理奈・・・玲奈のこと好きなんやろ」

山本が口を開く

「な・・・」

その台詞に珠理奈はドキッとする

「・・・まぁ気づいたんは私やなくてゆいはんやけどな。珠理奈がなんで一緒に帰りたがらんのか不思議に思ってゆいはんと後つけたことがあったんや・・・」

そういって山本は苦笑いをした

その時、中西に出会い、毎日珠理奈が病院前に来ているということを聞いたのだという

珠理奈は中西も余計なことを言ってくれたもんだとむすっとする

「まぁ、その・・・そんなことしたのは悪かったと思ってる・・・あとな・・・もうひとつ謝りたいことがあんねん」

「え・・・?」

「すまんかった」

唐突に山本は頭を下げる

「何、いきなり?」

珠理奈は混乱する

「私が・・・玲奈をマネージャーに誘ったから・・・無理させたから・・・こんなことになってしもて・・・すまんかった・・・あの時、私を殴った理由・・・それなんやろ?」

「彩・・・」

「私も・・・美優紀が発作で病院に運ばれたとき・・・しんどかったから・・・だから、ホンマにすまんかった・・っ」

山本は語尾を詰まらせながら声を振り絞り、頭を下げ続けていた

珠理奈はその姿を見ながら

彩も美優紀が初めて倒れた時を思い出して

その時の事が頭から離れなくてしまったのだろうか・・・

と、中西が自分に行った「頭から離れないでしょ?」というフレーズがよぎった

自分が彩を殴った理由は

美優紀という存在がいるのなら、どうして玲奈に気を持たせるようなことをしたのだという

自分勝手な怒りからだったので

こうも頭をさげられると自分の方が悪い気がしてならなかった

「いや・・・ちがうんだ。あの時はカッとなっちゃって・・・その・・・私の方こそ、ごめん」

珠理奈は自分の気持ちをどう伝えていいかわからず、とりあえず頭を下げた

「・・でもさ、玲奈ちゃん言ってたんだ。野球部に入ってよかったって。・・・彩のおかげだって・・・だから、彩も気にしなくていいと思うよ」

「・・・玲奈が?」

山本は顔をあげ、にじんでいる涙をぬぐった

「うん。それに、玲奈ちゃん順調に回復してるみたいだし。もう、いいんじゃないかな・・・気にしたら明日の試合に響くし」

そういって珠理奈は苦笑いをした

その台詞は自分自身に言っているようなものだった

試合は順調に勝ち進んでいたのだか

なにせ珠理奈の記憶は玲奈が倒れた時で止まっているので

回復しているといわれても、正直ピンと来ていなかったのだ

「そうやな・・・全国いかなあかんもんな」

そういって山本も笑う

その笑顔はひきつっていたが、今の精一杯の山本の笑顔なのだと珠理奈は感じた

山本は、玲奈が倒れた日に珠理奈に啖呵をきったからには自分が弱音を吐いてはいけないと思っていたのだ

だが全国大会がかかった決勝戦を前に山本も心が揺らぎ

珠理奈に謝っておきたかったのだ



「彩はさ・・・美優紀ちゃんと付き合ってるの?」

そんな雰囲気を感じた珠理奈は空気を変えようと山本に問いかける

「えっ!?」

その質問に山本は顔を真っ赤にしてしどろもどろになった

「な、なんで、私があいつのことなんか・・・」

明らかに動揺しているのを見て

珠理奈は噴き出してしまった

「わ、笑うなや!こっちは真剣なんやぞ!」

「あ、真剣なんだ」

「う・・・」

思わず口走ってしまったことに山本は口をへの字に曲げ、ますます顔を赤らめる

「・・・東京に転校する前に・・・想いは伝えようとした」

「・・・した?」

「でも・・・言えへんかった。怖かったんや。拒否されるのが」

「・・・」

「あいつにとっては、私は幼なじみってだけやったらどうしようとか・・・実はホンマはもう好きな男がいて私に内緒でつきあってるんちゃうかとか・・・そんなことばっかり思てな。結局・・・最後まで一番仲のいい幼馴染のままやった」

山本は苦笑いをした

「でもな・・・ここにきて、宮澤先輩たちみてたら・・・なんか勇気もろた。そんで・・・この前、珠理奈に殴られたとき・・・あいつ目に涙ためて、めっちゃ怒っててん」

「それって・・・」

「なんとなく・・・美優紀も好きでいてくれてるんちゃうんかなぁって・・・思った。なんやかんやゆうても珠理奈に殴られんかったらこんなん思てなかったわ。怪我の功名ってやつかいな?」

そういって山本は照れくさそうに笑った

「で、言ったの?」

「まだや。まだ・・・ゆうてない」

「おいおい、なんでいい感じの時に言わないの」

珠理奈は苦笑いをする

「全国」

「え?」

「全国大会、兵庫であるやろ?」

「あ、あぁ。そうだね」

珠理奈は頷く

甲子園球場が兵庫にあるので、女子の全国大会も甲子園ではできないが

せめて場所だけはと

粋なはからいで、毎年兵庫県の球場で試合が行われているのだ

「大会終わったらそのまま大阪で何日かおるつもりやねん。その時、言おうとおもてる」

「・・・そうか。がんばってね」

「何ゆうてんねん。まずはあしたの決勝で優勝せなあかんやろ」

そういって山本はスッと手を出した

「・・・玲奈が倒れてから・・・ずっと謝れんで、もやもやしててん。でも、言えてすっきりした」

そういって山本は笑った

「彩・・・」

「なんか自分だけすっきりして悪いな」

「そんなことないよ。私もなんかすっきりした」

そういって珠理奈も山本の手を握る

「珠理奈。私、あんたの球受けれて、バッテリー組めて幸せやで」

「・・・なんだよ、そんなに褒めて気持ち悪いよ」

珠理奈は不意に込み上げて来る涙を必死にこらえ、皮肉をいう

「・・・たまには素直にならな、な?」

「じゃあ、私も・・・彩じゃなきゃここまで投げれてなかったと思う。ありがとう」

「「・・・」」

2人は見つめ合い

照れくさそうに笑った



(・・・なんや。やっぱり、ええバッテリーやんか・・・)

横山は外で部室の壁にもたれ

その上にある小さな窓から聞こえてくる会話に耳を傾け

微笑んでいた

初恋の行方とプレイボール32

次の日

明日に決勝戦を控えていた秋葉女学院たちは

軽めの調整をして

練習も午前中で切り上げていた

「いやー明日はいよいよ帝都女子とだな」

「これに勝てば全国だ。気合入るなー」

そういって秋元、大島、宮澤はベンチにすわりグローグを磨きながら話をする

その向かいのベンチでは指原、渡辺が腰掛けていた


昨日の準決勝は帝都女子が10対1と圧勝していたのだ

「打線も、守りも最強だからな・・・」

そういって大島がグローブを拭いていた手を止める

「優子・・・」

隣で秋元が大島を見つめる

「・・・勝つよ」

向かいにのベンチに座っていた渡辺が

タブレットパソコンの画面を大島たちに向ける

「データ。ばっちりだから」

そこには帝都女子たちのデータがびっしりと並んでいた

渡辺はこの大会が始まってから昨日の準決勝まで

ずっと帝都女子のデータをとっていたのだ

「麻友・・・」

大島はその画面を見つめ

「そうだな、絶対勝つって決めたもんな」

そういってニッと笑う

「そうそう、玲奈のためにねー」

横から指原がにやにやと笑う

「・・・さっしー。明日の試合、エラーしたらただじゃおかないからね」

そういって不敵な笑みで渡辺は微笑んだ

「ひっ・・・ご、ごめんなさい」

指原は渡辺の後ろから漂う黒いオーラを感じ身を震わせた

「よっしゃ!じゃあ今から麻友のデータつかって帝都女子対策会議するとしますか」

大島は勢いよく立ちあがり

「いつもありがとうな。麻友」

そういってニコッと笑った

「・・・別に。好きでやってるだけだか」

そういって渡辺は照れくさそうにそっぽを向いていた



―――――――

練習後、大島の企画通り

渡辺データを使って

対策会議が行われた

生物室の分厚いカーテンで覆われた薄暗い部屋の中で

スクリーンに動画やデータが映し出されていた

「ここのところ、前田さんの調子が上がってきてる。奪三振率もさることながら打率も去年よりいい。ただ、今回の大会、2年生ピッチャーが中盤まで投げてるんだ。つまり、長丁場の投球をしていない」

そういって渡辺は2年生ピッチャーの北原里英のデータを出し始めた

「とりあえず、投げるのはストレート、スライダー重視。あとの変化球はめったに投げてこない。多分、珠理奈と同じで変化球が苦手なんだろうね」

「・・・誰が同じだよ・・・」

珠理奈は口をとがらせる

「前田さんもスライダーメインで投げてるし、後輩も憧れて真似しようとしてるんじゃないかな。それでスライダーになってる」

「ということは・・・」

大島はにやりと笑う


「スライダーを打ちとれば確実に点は取れる」

そういって渡辺もにやりと笑った

「2年の北原が打たれてたらさすがに、前田さんを早く登板させるしかないだろうからね」

「で、スタミナ切れを狙うってわけか」

秋元も腕を組みながら考えていた

「ただ、帝都女子は守備も良いからね。実際、北原は打たれているけど他のメンバーがカバーして点を取られないようにしているんだ」

そういって渡辺は他のメンバーたちのデータを並べ

「・・・ショートとレフト。ここ狙って」

そういって渡辺はショートの3年大場美奈とレフト3年須田亜香里の顔写真を並べた

「あ、この人、昨日の準決勝でダイビングキャッチしてた人じゃん」

指原が須田の顔写真の方を指さして言う

「そう、そのせいでおそらく肋骨やってる」

「「え!?」」

皆が驚く

「多分本人もうすうすは気づいてるんだろうけど。結構な勢いで胸打ちつけてたし、球とった後、胸抑えてたから・・・多分ヒビ入ってるんじゃないかな」

渡辺はさらりと言う

「はー・・・ようそんなんわかるなぁ・・・」

山本は腕を組みながら感心していた

「渡辺先輩。うちの学校の特進クラスやからな。将来は中西さんみたいに医者になるんちゃうか?」

横山はひそひそと山本に耳打ちしていた

「実際、昨日の投球がこれ。」

そういって須田がボールを投げている動画が再生される

「で、これが怪我する前の投球」

次に、渡辺はダイビングキャッチをする前の須田の動画をみせた

「・・・うーん。なんかさっきの方が投げる時の肘の角度、下がってないか?」

山本が言う

「そう!それだよ!彩!!」

「は、はい。ありがとうございます・・・」

渡辺に初めて名前でよばれ、山本は驚いた

「渡辺先輩・・・データ分析のとき、めっちゃテンションあがんねん」

「そ・・・そうなんや」

山本はドキドキと脈打つ心臓を抑えようと胸に手を当てながら頷いた


「で、話を戻すと。つまり肘をいつも通り上げると、肋骨に響いてるんだよ。無意識にかばって下がってるわけ。それで球のスピード、距離も普段より落ちてる。・・・打ち身だけではないってことだよ」

そういって渡辺は得意げにニヤッと笑う

「でも、そんなの帝都女子の篠田監督が気づきそうだけどな」

高橋が言う

「まぁそこら辺は監督がどう判断してるかはわかりませんけど・・・もし、須田を変えてくるならくるで、狙い目ですし」

そういって渡辺は次にショートの大場のデータを出した

「ショート3年の大場はレフトの須田との連携することが多いし、須田が投げたボールが変わってることに気づいてると思う」

「うんうん」

ショートの宮澤が深く頷く

「つまり、いつもの距離よりも外野寄りにに構えている可能性が高い。だからそこにゴロを打ち込めば・・・」

「確実にタイムロスが出るってわけか」

俊足の大島がにやりと笑う

「それに大場も去年右足首痛めてこの夏からの復帰らしいしね。スタートダッシュも遅れると思うよ。何度も出塁してれば、前田さんの登板を早く考えるだろうしね」

渡辺はにやりと笑う

「あと、前田さんのスライダー・・・」

そういって渡辺は動画を流す

「これを打つのはなかなか難しい。スピードもあるしね」

「・・・」

山本は黙って動画を見つめていた

「ただ、パターンがある・・・」

「なんや!?」

山本は思わず椅子から立ちあがった

「癖・・・だよ」

そういって渡辺はニヤッと笑ったのだった

初恋の行方とプレイボール31

そして、日々は過ぎ

夏休みになった

連日試合が行われ

秋葉女学院野球部は順調に勝ち進んでいった

―――

カァーーーーン

ワァァァァッ!!

軽快な音を響かせ

山本がガッツポーズをしながらホームベースを踏む

「よっしゃ!これで決勝進出だな」

高橋はベンチでガッツポーズをする

他の部員たちも決勝進出に喜び

はしゃいでいた

―――――

「よっしゃ!明日はゆっくり休んで決勝戦に備えろよ」


「「はい」」

試合後、ミーティングも終わり

皆、嬉しそうに球場を後にする

そして

前から来る団体を見て

皆、足が止まった

そこには

帝都女子の監督、篠田と部員たちが立っていた

「おめでとうございます。まさか本当に勝ちあがってくるとは思いませんでしたよ」

そういってにこにこと笑う

「いったでしょ、負けられない理由があるってね」

そういって高橋もニヤッと笑う

「そうですか。でも、今うちの前田も調子良いですから。決勝は負けませんよ」

そう言う篠田の後ろで

前田は何も言わず、秋葉女学院たちを見つめていた

「では、失礼します」

そういって篠田を先頭に帝都女子たちは秋葉女学院の横を通り過ぎる

「敦子!」

大島が呼び止め

前田が振り向く

「決勝で・・・待ってるぜ」

そういってニッと笑った

「・・・待っててくれなくても。勝つよ」

そういって前田は、皆に混じり球場内に入っていった

「なんやねん。やっぱり、いけすかんやっちゃなぁ」

山本は口をとがらせていた

「あはは、いつもあんなんだからさ。そんなに怒んなって」

大島は山本の肩をたたきなだめていた

(前田さん・・・)

珠理奈も前田の後姿を見ながら

決勝は負けられないと

ぎゅっと拳を握ったのだった


――――――

「決勝進出!?本当ですか?」

病院のベッドで玲奈はきらきらと目を輝かせていた

「うん、さっき監督さんにあってね」

そういって中西はにこにこと笑う

「ごめんねー面会させてあげたいんだけど。ここは親族以外は面会できないから」

そういって苦笑いをした

玲奈はまだ集中治療室の一室に入院していたのだ

「いえ・・・仕方ないですもんね」

「そろそろ、調子も良いし心臓外科病棟に移動しようかと思うんだ」

「いつですか・・・?」

「予定では明後日かな」

「そうですか・・・」

「だいぶリハビリも頑張ってるみたいだしね。それに、心臓も落ちついてきてるみたいだから」

「・・・」

「ごめんね、よりにもよって決勝戦の日で。みんなも試合前に1回顔合わせたかっただろうけど・・・今、病棟に空きの部屋がなくてさー」

中西はぽりぽりと頭を掻いた

「あ、どうせなら循環器の病棟にしようか?それなら看護師さんも知ってる人多いし・・・」

「いえ・・・いいんです。それに、試合前に病院にきたら気分も下がっちゃうだろうし・・・」

そういって玲奈は苦笑いをした

順調に回復しているとはいえ

玲奈はの体には心電図のコードと

点滴が繋がっていた

ちなみに点滴台には投与量が設定できる機械が2台取り付けられており

いつも入院していた玲奈にとってはこの機械が外れない限り

まだ無理をしてはいけないのだろうなと感じていた

それに、こんな姿を見たら、部員たちの気分が下がってしまうと玲奈なりに気を使っていたのだ

「そう?じゃあ予定通り明後日に移動するね」

「はい、おねがいします」

そういうと

玲奈はペコっと頭を下げた
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