気ままな詩人

48グループの創作小説を書いています。じゅりれな、さやみるきーメインになります。SKE、NMBの支店推しです。苦手な方は退室ください。

2014年10月

不器用太陽⑮

山本は夜道を走りながら

携帯をかけていた

「くそっ!なんで出ぇへんねん!」

苛立ちながら走る

「うっ・・・」

胃の中のものが揺れ

アルコールも手伝い

気分は最悪だった

よろよろと電柱に寄りかかる

「でも・・・もっと最悪なんは・・・私や・・・」

そう呟き

山本はまた走り出す

『彩ちゃんが見てるんは美優紀じゃなくてみるきーやんか!』

渡辺が行った言葉が胸に突き刺さった


―――

渡辺が転校して行った後

事前に言っていた通り

連絡は年賀状メールくらいになってしまった

連絡が少なくなっても山本は渡辺の想いながら日々を過ごしていた

高校を卒業後

皆、大学や就職で町を離れた

山本も就職し大阪難波にある会社で働きながらギターを続けていた

時間があれば路上で弾いたりもしていた

とある日曜日

山本はギターを背負い

いつも路上で弾いている場所に向かっていた

「みるきーや!」

「わーめっちゃかわええー!!」

行く途中に人だかりができ

ガヤガヤと盛り上がっていた

「・・・みるきー?」

山本はその人ごみをかきわけ

無理やり中に入って行く

そこには渡辺がいた

制服姿で、アイドルグループのメンバーとにこにこと手を振っていた

渡辺の所属しているアイドルグループはじわじわと東京で人気を集め

大阪にもその名が広まってきていたのだ

渡辺はみるきーという芸名で活動しており

皆の声を聞くと1番人気なのだろうかと思い

ほっとする

渡辺はマイクを手に取り

「それでは私たちの新曲、聞いてください」

そういってポーズをとり

ダンスと歌が始まった

最前列にいるファンは激しくコールをする

「・・・」

山本は踊る渡辺を茫然と見ていた

にこにこと笑い、歌い

たくさんの人たちの声援の中にいる

まさにアイドルだった


「あの子かわいいなー誰なん?」

「知らないのかよ!みるきーだよ!―――ってアイドルグループで・・・」

山本の隣で見ていた男性が友人に説明をしだしたが

山本の耳には後半からその会話は聞こえていなかった



・・・あれは・・・誰や・・・?


ステージにいるのは渡辺美優紀ではなく

みるきーというアイドルだった


山本の中で

何かが消えた気がした

山本はステージに背を向け

歩き出した

そして

気づけばギターも辞め

会社も辞め

この町に帰ってきたのである



―――――

「くそっ・・・」

山本はあの日の事を思い出し

歯をギリッと食いしばる


あの日、アイドルとしての渡辺を見て

距離を感じたのは紛れもない事実だった

渡辺が帰ってきても

どことなく距離を置いている自分がいたことも確かだった


でも・・・美優紀は・・・

美優紀は・・・


「はぁ・・・はぁ・・・」

山本は足を止め

渡辺の看板を見上げる


『彩ちゃん』

山本の脳裏に

美優紀の笑顔が浮かぶ


「やっぱり違うやん・・・」

肩で息をしながら

山本は苦笑いをした



美優紀は・・・

昔と変わらない笑顔で

抱きついてきてくれたじゃないか

隣で・・・

笑ってくれてたじゃないか



それなのに・・・

それなのに・・・私は・・・


「くそっ・・・ホンマにアホやで」

山本は目に滲む涙をぬぐう

携帯を見ても

着信はなかった

家に押し掛けるには

あまりにも非常識な時間だった

「だけど・・・ここで言わんかったら・・・」

山本の脳裏に

駅のホームで別れた

渡辺の姿がよぎる


「あの日と同じになってしまうんやっ!」

山本はY字路を右に入る


そうや・・・

間違いやない

あの時

美優紀はゆうたんや・・・


ドアが閉まる前・・・


『彩ちゃんのことが・・・大好き』


そういって微笑む渡辺の姿が

涙を流す姿が

嫌なくらい、今でもはっきりと蘇って来る


いや・・・

本当に嫌になるくらい

何度も何度もあの日の事が蘇って来るから

意識して思い出すのを止めたんだ

アイドルのみるきーを見てから

思い出すのを止めたんだ



あの想いは

美優紀にとって

恋愛対象としての好きなのか

友達としての好きなのか・・・



わからなくなった



だから

考えるのを止めた

ギターも止めた

幼馴染の美優紀は

アイドルになって変わってしまったから・・・


そう思っていた

でも、変わったのは自分の方だった

卑屈になって

美優紀のせいにして

逃げたんだ

ちゃんと向き合おうとしなかったんだ・・・


『彩ちゃんは不器用やなぁーでもな、そういう真っ直ぐなところがええねん』

学生時代に渡辺がよく言っていた台詞を思い出した


なぁ美優紀

あの記事の内容がホンマなんやったら

あの日と同じ気持ちでいてくれてるんやったら・・・


受け入れてくれるんだろうか・・・

あまりにも

不器用な

私の想いを・・・


「はぁ・・・はぁ・・・」

山本は渡辺の家の前に黒い車が止まっているのを見て

足をとめた

「なんや・・・?こんな時間に・・・?」

山本は肩で息をしながら

家に近づこうとした

その時

ガチャッ

玄関のドアが開き光が漏れる

山本はとっさに電柱に隠れ

横目でその様子を見る


「本当にすいませんでした」

そういって渡辺の両親が頭を下げる

その前には渡辺と黒いスーツをきた男性がいた

話しの感じからするとマネージャーらしい

「まぁ、今回は雑誌の取材とか、撮影とか・・・後日、日程調整がきくもので良かったですが・・・今後、このようなことがないようお願いします」

「すいません」

そういって両親は再度頭を下げる

「みるきー。行くよ」

「・・・」

そういってマネージャーは渡辺を車に乗せようとした

「待ってください!!」

「さやか・・・・ちゃん」

山本は電柱から出て思わず叫んでいた

「なんだ君?」

マネージャーは怪訝そうな顔をする

「あのっ・・・すこしだけ・・・少しだけ時間ください・・・美優紀を連れて行くん待ってください!!」

山本はマネージャーに詰め寄る

「何いってんだ。こっちはスケジュールがくるって大変なんだ」

「そこを・・・なんとか!おねがいします!!」

山本は道路に座り

土下座をして頼み込む

「彩ちゃん・・・」

渡辺は男性の後ろでその姿を見つめていた

「・・・あのな!こっちは仕事なんだよ!いきなりいなくなって、こんなとこまで探しに来たんだ!それをもう少し待ってくれだなんて・・・ふざけんな」

東京からこの町まで来て

疲労と苛立ちがピークになっていたマネージャーは思わず怒鳴る

「お願いします・・・私からもお願いします」

渡辺は山本の横に並び頭を下げた

「みるきー・・・」

マネージャーは驚いて固まった

夜中に大声が響いたので

家々の電気がつきはじめ

近所の人たちが窓をあけたり、玄関から覗いたりしていた

「・・・すいません。今日のところはお引き取りください。必ず、明日の始発でここを出させます。だから・・・私たちからもお願いします」

渡辺の両親もそういって頭を下げた


「・・・みるきー明日、昼から取材だから。必ず来るように」

立場が悪くなったマネージャーはそういうと車に乗り込む

「ありがとうございます」

渡辺と山本は立ち上がり

走り去っていく車に頭を下げていた

不器用太陽⑭

ガラガラガラ・・・

「彩・・・?」

カウンターの内側で皿を拭いていた横山は驚く

「・・・」

山本は何も言わずに小谷が寝ている席からひとつ離れて

カウンターに座る

「・・・もう閉店なんやけど」

そう言いながら横山はスッと瓶ビールを差し出した

横山の母は座敷の方で数人の常連客の相手をしており

カウンターには寝息を立てている小谷しか残っていなかった



「・・・」

山本は黙ってビールを飲む

「みるきーと喧嘩したん?」

「・・・」

山本は図星をつかれ、グラスを持つ手にぐっと力を入れた

「・・・みるきー。なんも変わってなかったな」

そういって横山は笑った

「え・・・?」

山本は驚いて顔を上げる

「そりゃ高校の時より綺麗になってて、アイドルやなーって思ったけど。話ししてたら何も変わらへんかって安心したわ」

そういって横山は手際よく片づけをしながら笑った

「・・・」

山本は黙りこむ

そんな山本を見て

横山はスッとカウンターから姿を消し

雑誌の山をもって現れ

カウンターの前にドサッと置く

「彩、ええ加減、素直になったら?」

そういって真剣な眼差しで山本を見つめる

「え・・・?」

横山は雑誌の付箋をつけているところを開き

「これ、5年前のやつ」

そういって山本に突き出す

「あ・・・うん」

山本は勢いに負けてそれを受け取った

それは、みるきーの所属するアイドルグループの特集だった

山本はみるきーが注目されるようになってから

避けるようにその情報を見ないようにしていた

一方、小谷はみるきーがでている雑誌を持ってきては2人に見せていたのだが

店で話しをすると山本が急に無口になるので

横山は気を使って

山本がいない時に雑誌を見て小谷と話をしていたのだ


「・・・で、これがなんやねん」

山本は黙ってその記事を見つめる

「ここや」

そういって横山がスッと指をさす

そこには「好きなタイプは?」と書かれていた

「で、これが今年の分」

そういって横山が違う雑誌を開き

山本に見せた

そこにはどちらにも『不器用だけど真っ直ぐな人』

と書かれていた

「それが・・・なんやねん」

「はぁー・・・やっぱりあかんか」

横山はため息をつく

「みるきー、鈍感な人ってこれからは付け加えてくれんかな・・・」

ぶつぶつと呟く

「だからなんやねん。好きなタイプが変わらんって証明くらいでこんなに雑誌持ってこんでもええやんけ」

山本はむっとする

「だから・・・みるきーがようゆうてたやん」

「なにが?」

「彩に・・・」

そう言いかけた時

「ん・・・」

小谷がむくっと起き上がり

山本の方を向いた

そして、素早く山本の隣の席に移ると

おもむろに雑誌を奪う

「あーこれ知ってるー」

ぱらぱらと雑誌をめくった小谷は嬉しそうに叫ぶ

そこには、みるきーがドラマに出演するというインタビュー内容になっていた

「これ、原作の漫画読んだことあるんやけどー。みるきーがやる子なーキスシーンとかあんねん」

「キス・・・シーン?」

山本は固まる

「みるきーやっぱりかわええもん。そりゃ抜擢されるわなー。うれしいなぁーさやかぁー」

微笑んでいるみるきーのページを山本の顔に近づけ

にこにこと笑った

「り、里歩・・・」

横山は慌てる

「・・・」

山本の瞳にアイドルのみるきーの笑顔が映る

そして

脳裏に

昨日の夜

嬉しそうに抱きついてきた美優紀の笑顔が浮かんだ

「・・・全然違うやんけ」

「え・・・?」

小谷は首をかしげる

山本はガタっ勢いよく席を立つと

そのまま店を出て行った

「さやかぁ?なぁ、どないしたん?」

小谷は眠そうな目で不思議そうに横山に尋ねる

「ははっ。里歩は酔いがさめてないけど。彩は覚めたみたいやな」

そういって横山は笑った

「はぁ?どう言うこと?」

「ええの。ええの。結果オーライや。ありがとう里歩」

「えーなんなん?」

口をとがらせる小谷をあしらいながら

「・・・頑張りや。不器用で真っ直ぐで・・・鈍感な、彩ちゃん」

横山は山本が出て行った扉を見つめ微笑んだ

不器用太陽⑬

山本の母の話しは止まらず

あっという間に夕方になってしまった

山本は何とか母の話しを打ちきると

渡辺をつれて

ある場所に向かった



ガラガラガラ・・・

「ゆいはーん」

「あっすいませんまだ準備中で・・・って・・・みるきー!?」

店の入り口の方を振り向き

横山は驚く

「いやっ、美優紀ちゃん!久しぶりやなぁ」

「えへへーおばちゃんもお元気そうで」

カウンター越しに2人はにこにこと笑う

「あーびっくりした。何の予告もなくくるんやから」

そういって横山は笑う

「里歩も呼んでるからなー驚くとおもうわー」

そういって山本は携帯を見せて笑った

「今日はカウンターでないほうがええね」

そういって横山の母は座敷に案内しようとする

「ええですよ。カウンターの方がゆいはんも話しできるし」

渡辺は手を横に振る

「ええんか?」

「そうやで、他のお客さんも来るし・・・」

山本と横山は心配そうな顔をした

「うん、だって地元やし。今日はアイドルちゃうからええの」

そういって笑った


夜になり

店の中は常連客でにぎわっていた

皆、渡辺の姿に気づいたが

アイドルというよりは

自分の娘が帰ってきたように

たわいもない話をし、酒を酌み交わしていた

「もーみるきー帰ってくるなら来るってゆうてやー心の準備がなー」

小谷は渡辺の肩によりかかる

「あーもう、出た。里歩の絡み酒」

横山は苦笑いをして水を差し出した

「だってなー嬉しいやんかー」

小谷はぐすぐすと泣き出す

「あー出たよ・・・泣き上戸」

山本はもたれかかる小谷を渡辺越しから見て笑った

「もーりぽぽそんなに泣いたらあかんでー」

渡辺はにこにこと小谷を慰めていた


―――――


「みるきー・・・」

小谷はカウンターに突っ伏してむにゃむにゃと寝言をいっていた

「あーこらあかんわ」

横山は苦笑いをする

「2人は帰ってや。里歩はうちが預かるから」

そういって笑った

「そうやな。そろそろ帰るか・・・」

「そうやね。ごめんな。ゆいはん、りぽぽのことよろしくね」

そういって山本と渡辺は席を立つ

「ええて、それだけ嬉しかったんやわ。みるきーはいつまでこっちにおるん?」

「・・・うーん。もうちょっとかな・・・」

渡辺は言葉を濁す

「なんや。具体的に決まってないんか?」

山本は首をかしげる

「うん、まぁね。えへへ。彩ちゃん帰ろ。ほなねゆいはん」

そういって渡辺は山本の手を引き店を後にした

「・・・みるきー。何かあったんやろか?」

横山は首をかしげていた




「はーやっぱり地元はええなー」

潮風に吹かれながら渡辺は満点の星空を見て言う

「東京は明るすぎて、星や見えへんもん」

「・・・あんまり上見てたら転ぶで」

「大丈夫やって・・・あっ」

そういって一回転して見せようとしたのだが

バランスを崩し、渡辺はよろける

「美優紀!」

山本は渡辺を抱きとめる

「「あ・・・」」

山本と渡辺の顔が近づく

後、数センチ

首をのばせば

キスができる距離だった

「・・・ほれ、いわんこっちゃない」

山本はそういってスッと渡辺から離れた

「えへへーごめんなー」

そういって渡辺は笑い

2人はまた歩き出した

「なぁ・・・彩ちゃんはお店継ぐん?」

「あー・・・結果的にそうなるんかなぁ。でも、親はやりたいことがあるんやったらそっちせぇっていよるけどな」

「・・・そっか」

「やりたいことっていわれてもピンとけぇへんのやけどなー。その点、美優紀はちゃんと夢かなえてすごいよなー」

「・・・」

「今や誰もが知るアイドルになったやんか」

「・・・」

山本と渡辺の距離が徐々に開いていく

「このままの勢いで歌手としてデビューして・・・美優紀?」

山本は隣に渡辺がいないことに気づき

後ろを振り返った

「・・・」

渡辺は俯き、立ち止まっていた

「ど・・・どないしてん?」

「彩ちゃんは・・・なんもわかってない・・・」

「え・・・?」

「彩ちゃんの・・・あほっ!!」

渡辺はそういうと勢いよく走り

山本を追い越していってしまった

「ちょっ・・・待てやっ」

山本は走る渡辺を追いかけ腕をつかむ

「あ・・・」

目に涙をためている渡辺を見て

思わず腕を離した

「なんで・・・?」

「え?」

「なんで、彩ちゃんはアイドルの私の事ばっかりいうん?」

「・・・美優紀」

「彩ちゃんが見てるんは美優紀じゃなくてみるきーやん!アイドルのみるきーやんか!!」

「そ・・・そんなことないわ」

「そんなことある!!」

そういってキッと睨む

「・・・」

目に涙をためながら言われ

山本は何も言うことができなかった

「・・・もういい!」

渡辺はそういうとすたすたと歩き出してしまった

「・・・」

山本はその場から動くことができなかった

「・・・彩ちゃんのあほ・・・なんで私が帰ってきたか・・・なんで・・・」

渡辺は歩きながら溢れてくる涙をぬぐっていた


ブーン・・・

その時、前方から来た黒い車のヘッドライトが渡辺を照らす

それがまぶしくて、思わず渡辺は顔を覆う

車は渡辺を照らし続けたまま止まり

中から人が出てきた

「みるきー!!」

「あ・・・」

その声に渡辺は固まってしまった

不器用太陽⑫

――――――

「・・・」

山本は上部が少し破れた紙に書かれた歌詞を見て

苦笑いをした

次の紙には

不器用太陽の文字

「・・・こっちはかなり女々しいな」

そういって、また苦笑いをする

書いている間に涙がごぼれてきて文字が滲んでいるところもあった

初めてできた曲が切ないバラードという事が正直悲しかった


「・・・」

山本はギターケースからアコースティックギターを取り出した

「まず弦張り替えなあかんな」

錆びた弦を見て

自分がどれだけ弾いていないかを改めて感じた

キリキリと音を立てる弦を巻きながらチューニングをし

コードを見ながら指で弾き始めた

「身体が覚えてるってこういうことを言うんか?」

小谷が言った台詞を思い出し苦笑いをする


そういえば

ギターを弾かなくなって

もう3年になる・・・


「あんたなにしてるん?」

何の前触れもなく母親がドアを開ける

「うおっ!ノックくらいせーや!非常識やな」

山本はとっさに歌詞を書いている紙を隠す

「あのな、遅うに帰ってきて夜中にギター弾いてるあんたの方が非常識やで」

「う・・・」

山本はバツが悪そうな顔をする

「明日、配達頼んでんのに・・・まったく。はよ寝な」

母はため息をつくとバタンとドアを閉める

「・・・へいへい」

山本はギターを立てかけ

紙を菓子箱の中にそっとしまった



―――――

翌日

山本は配達に出かけていた

Y字路の看板のみるきーは今日も笑顔を振りまいていた

この6年間で

みるきーの人気は右肩あがりで知名度があがっていた

そして

高校時代に貼られていたパチンコ店のポスターはいつの間にか、みるきーに変わり

外灯もそこだけ明るくなっていた


ドルルルル・・・

配達を終え

海沿いの国道を走る

「ん・・・?」

防波堤で大きな麦わら帽子をかぶった女性がたたずんでいた

「・・・美優紀?」

山本はブレーキをかけ

バイクを止めた




「・・・」

渡辺は防波堤の端で麦わら帽子が風に飛ばされないように抑えながら

海を見つめていた


「美優紀ー」

その声に振り返る

「彩ちゃん」

渡辺はにこっと笑った

「なんしてんねん。こんなとこで」

「懐かしいなぁと思って」

2人は海辺を歩きながら話をする

「田中のばあちゃんとこいったか?」

「うん、今朝行ってきたで。めっちゃ感動されて手離してくれへんかった」

そういって渡辺は笑った

山本は田中のばあちゃんが渡辺の手を握り

ぶんぶんと上下に振っている姿が想像できて笑ってしまった

「ゆいはんたちにはおうたんか?」

「ううん、まだ。ゆいはん看板娘なんやろ?せやから店にサプライズで行こうと思って」

そういって笑った

「そうか、じゃあ里歩も呼んどくわ。めっちゃ驚くで」

「あははーそうやねー。でも同級生もほとんどこの町出て行ったんやってなー」

「あぁ・・・まぁな。あ、同窓会の手紙もろたか?里歩がおばちゃんに渡してたんやけど」

「うん。もろたよ・・・」

「参加できそうか?」

「うーん・・・」

渡辺は苦笑いをする

「そうか・・・忙しいもんな」

山本はそういって空を見上げた

隣にいる渡辺は

やはりアイドルなのだと思った

「彩ちゃん。なーなー久しぶりに彩ちゃんちいってええ?」

「あ・・・あぁ、ええで」

一瞬テンションが上がった母の顔がよぎり

山本は苦笑いをし頷いた


「いやー美優紀ちゃんやんか!元気やった?」

「はい、元気ですー」

(やっぱり・・・)

山本は自分が想像していた通りのテンションで渡辺に接している母を見て

うなだれた

「もーテレビで見てるよりやっぱり綺麗やなー」

「えーそうですかー?ありがとうございます」

そんな山本をよそに2人はにこにこと話をする

「おっ!美優紀ちゃんやんか!」

配達から戻ってきた父親も合流し

話しは盛り上がる

「あーもう!ええから!美優紀!部屋いくで」

山本は渡辺の腕をつかむと

2階へ上って行った


「えへへーやっぱり懐かしいなぁ」

渡辺はにこにこと山本の部屋を見渡す

「変わり映えせぇへんわ」

山本は苦笑いをしながら座る

「彩ちゃん!久しぶりにギター弾いてや」

そういって渡辺は部屋の端に置かれているギターケースを手に取り

開ける



「あ・・・」

山本はドキッとする


「え・・・」

渡辺は錆びたギターの弦を見て固まった

「・・・弾いてないん?」

「いや・・・まぁ・・・そのー・・・うん」

山本はどう言っていいのかわからずしどろもどろになる

「・・・そっか」

渡辺はすっとギターをしまう

「あ、あの・・・美優紀」

山本は慌てて言い訳をしようとした

その時

「アイスいらんでー?」

母がおもむろに部屋に入ってくる

「ありがとうございます」

渡辺は笑顔でアイスを受け取る

「よいしょっと」

そして母はテーブルに肘をつき、座ると

おもむろにアイスを開ける

「いや、なんで座ってんねん」

山本はつっこむ

「ええやん。お父さん帰ってきたし、店任せたから。お母さんも美優紀ちゃんと話ししたいやんかー。芸能界ってどんなとこか気になるし」

母はにこにこと笑う

「はー・・・これやから関西のおばちゃんはとか言われんねん」

山本はため息をつく

「なんかゆうた?」

「いや、なんも」

母の鋭い睨みに、山本はアイスの袋を開けそっぽを向いた

渡辺と山本の母の会話は盛り上がっていた

といっても母親のマシンガントークに渡辺が答えていると言った方が正しいのだが

山本はアイスの棒をくわえたまま

その様子を見つめていた

ブーッブーッ・・・

渡辺の携帯電話が鳴る

「・・・」

渡辺はディスプレイ画面を見て

スッとしまった

「いけるん?」

「あ、大丈夫です」

そういって渡辺は微笑む

「・・・・」

渡辺は設定をバイブからサイレントモードに変えたのか

携帯からは音はしなかった

ただ、鞄の隙間から

ずっとディスプレイ画面に着信表示とランプが点滅しているのを

山本は黙って見つめていた

不器用太陽⑪

ピピピピ・・・・

ジリリリリ・・・・

音の違うアラームが部屋で激しく鳴り響いていた

「ん・・・」

山本はぼんやりと目を開け

携帯のアラームを止める

そして、その時間を見て目を見開く

「やばっ!」

目線を下ろと

そこには渡辺がすやすやと寝息を立てていた

「あ・・・」

その寝顔に山本はドキッとする

「って・・・あかんあかん」

山本はふるふると首を振り

「おい!美優紀!起きろ!やばいで!」

そういって肩を揺らす

「うーん・・・彩ちゃんおはよー」

渡辺は目をこすりながら起き上がる

「おはよーちゃうわ!はよ支度せな間に合わへんで」

「え・・・?」

渡辺は山本がさしだした携帯のディスプレイを見て

一気に目が覚める

「もー彩ちゃん!なんでもっとはやく起こしてくれへんかったん」

「いや、そっちこそちゃんと起きーや」

そんなことを言いながら2人はバタバタと支度をする


鍵をかけ渡辺が振り向くと

「時間ないわ!美優紀!乗れ!」

そういって山本が自転車にまたがり言う

「うん!」

渡辺は荷台に急いで座り

きゅっと山本の腰に抱きついた

「・・・とばすでっ!」

山本は勢いよくペダルを漕ぎだした


「彩ちゃんこっちからいくん?」

渡辺は驚く

「こっちの方が近いやろ!坂下ったらスピードもでるし」

山本が漕ぎだした方向は

急な坂がある方だった

海沿いの最寄り駅は学校手前の坂道を一旦登り、駅へと続く坂を下れば

海沿いの国道沿いを走るよりも確かに早いのだ

「でも、その前に坂のぼらなあかんねんで」

「大丈夫や!しっかりつかまっとけ」

そういってさらに勢いよくペダルを漕ぎだした



「はぁ・・・はぁ・・・」

先ほどの勢いとは裏腹に

山本は必死の形相でペダルを漕いでいた

「彩ちゃん、降りようか?」

「いけるわ!」

山本は後ろも見ずに言う

坂を上る宣言をしたからには登りきらないと格好がつかないと

もはや意地で漕いでいる状況だった

「・・・ふふっ」

そんな山本の姿を見て渡辺は笑った

「何や?」

「なんでもない!頑張って彩ちゃん!」

そういって山本にきゅっと抱きついて笑った

「わーってるわ!」

山本もそういってニッと笑った




「はぁ・・・はぁ・・・」

ようやく坂を登り切り、力が抜けたのか

山本の自転車はよろよろと沿道に止まる

「彩ちゃんいける?」

「あぁ・・・」


「「あ・・・」」

2人は同時に声を上げ

そして、黙り込む

海から昇った朝焼けが二人を照らし

その美しさに言葉を無くしたのだ




この場所で・・・

このタイミングで・・・

告白出来たら

どんなにロマンチックなんだろう

山本はそっと後ろを振り返り

ドクンと胸が高鳴った


「・・・い、いくで!」

そういってまた、慌ててペダルを漕ぎだした

「うん!なぁ彩ちゃん!朝日、綺麗やなぁー」

「・・・せやな」

坂道を今度は下りながら

渡辺は木々の隙間から見える朝日を山本の背中にもたれながら嬉しそうに見ていた

山本は朝日よりも

その朝日に照らされた渡辺の横顔のほうが

何十倍も綺麗だと

そう思った



―――――


「セーフ!」

勢いよく坂を下り

自転車は駅に止まる

始発の時間まであと5分

2人は慌てて券売機に向かった

渡辺は一番高い切符を

山本は入場券を購入し

ホームに入る


プシューーーー

ホームに入ると同時に

電車も駅に到着した

田舎で始発から早々に乗る人もおらず

ホームには2人だけだった

「彩ちゃん・・・ありがとう」

「ええねん。頑張れよ。」

そういって山本はじんわりと滲む額の汗をぬぐい、笑った

「うん・・・」

渡辺はためらいながら電車の中にゆっくり入り

ドアのすぐ手前で

山本を見つめる

「あのな、彩ちゃん・・・」

「なんや?」

「私な・・・」

プルルルルルル

発射の音にかき消されながら

渡辺の口が動く

山本にはそれがスローモーションかのように思えた


え・・・

美優紀・・・?

今・・・

今・・・何てゆうた?

山本は目を見開き

固まっていた



プシューーーーー



ドアが閉まり

渡辺はにこっと微笑んだ

その頬に涙が伝う




ガタン・・・ガタン・・・



速度を上げて行く電車の音に合わせて

山本の心臓の鼓動も早くなっていった


「美優紀!!」

山本は慌ててホームから出ると

自転車にまたがり

電車を追いかけた


勢いよくペダルを漕ぎ

海沿いを走る電車と並ぶ

「美優紀ーーーー!!」

山本は叫びながら精一杯自転車を漕ぐ

「彩ちゃん!」

渡辺もそれに気づき

慌てて窓を開ける

「美優紀!!」

山本は自転車を漕ぎ続けるが

ゆっくり離されていく

「彩ちゃーん!」

「美優紀ーーーーー!!私も・・・私も・・・言いたいことがあんねん!!」

息も絶え絶えに

必死に叫ぶが

無情にも電車はスピードを上げ

2人を引き離した

「はぁ・・・はぁ・・・」

もう漕ぐ力がのこっておらず

自転車はゆっくりと止まった


「くそっ・・・なんで・・・なんでや・・・」

もう見えなくなってしまった電車に向かって

山本はただただ涙を流していた

――――

自転車を止めて

山本はしばらく海を見つめていた

朝焼けがまぶしく照らす

「太陽・・・か・・・」

山本は目を細め、太陽を見つめた

そして

家に戻り

机に向かいペンを走らせる

何度も何度も

鉛筆で書いては消して・・・

ただ

タイトルだけは消さずにおいていた

そこには

『不器用太陽』

と書かれていた

不器用太陽⑩

山本は一旦家に帰り

手早く風呂に入り、あらかたの荷物を詰め込むと

渡辺の家に向かった

渡辺も風呂に入った後だったようで

ラフな部屋着に着替えていた


「うん・・・うん・・・ごめんな。ありがとう」

2階の部屋で渡辺は携帯電話で話をしていた

山本はベッドに腰掛け

部屋を見渡す

大半の物が無くなっており

ここから引っ越すのだという現実をひしひしと感じていた

「ごめんな。彩ちゃん」

電話が終わった渡辺は振り向き苦笑いをする

「ええよ。おばちゃん?」

「うん、お母さんから。もう部屋もだいぶできてきたって。急に明日いくってわがままゆうたからちょっと怒ってたけど」

そう言って苦笑いをする

「そうか・・・ほな明日は遅れんようにいかかな」

「うん」

渡辺は頷く

なにせ田舎町なので

1本電車を逃すとひどい時は1時間以上待たなければならないのだ

乗り継いで、新幹線に乗ってと計算すると

始発が一番スムーズに事が進むのである

「明日は気合入れて起きんとね。彩ちゃん、アラームセットしてな」

そういって渡辺は携帯のアラーム機能を操作する

「あぁ・・・」

山本も携帯に目を落とし、アラームをかけた

「ほな、電気消すな」

「あぁ・・・」

そういって渡辺は豆電球にし

ベッドに入る

山本は身体を横にし

渡辺が寝るスペースを広くしようとする

さすがに布団をだしてもらうのも悪いので1つのベットで寝ることにしたのだ

「そんなによけんでも、大丈夫やで」

そういって渡辺は横に向き山本を見つめる

「・・・あぁ」

山本は照れて顔をそらすために仰向けに寝た


カチ・・・カチ・・・

掛け時計の音がやたらクリアに聞こえる

山本は寝ようとするが、全く眠気が襲ってこなかった

最近、寝不足だったのにこういうときにどうして眠くなってくれないのだと

目をつぶったまま眉をひそめていた

「・・・彩ちゃん。起きてる?」

渡辺がぽつりと呟く

「・・・起きてるで」

「はよう起きなあかんのにな」

「あぁ、意識したら寝れへんわ」

「小さい頃はようこうやって寝てたねー」

「あぁーせやなぁ。最近はおばちゃんが下に布団敷いてくれるようになってたしなー。懐かしいな。」

「彩ちゃん、朝起きたら180度回転してたこともあったよね」

「あーあったあった。おばちゃんも美優紀、蹴られるとおもって布団用意してくれるようになったんちゃうかー?」

「あはは。そうかも」

2人は笑う

「「・・・」」

そして

また、沈黙になる


「あのな、彩ちゃん・・・」

「うん?」

「私・・・成功するまでここには帰ってこんつもりでおる」

「・・・そうか」

「連絡も・・・しないと思う・・・」

「・・・」

「だって・・・甘えたら・・・帰りたくなるやんな・・・」

渡辺の声がくぐもる

「・・・」

「アイドルって見た目とは違ってめっちゃハードやねんて。夏休みにレッスンで東京にいっててんけど・・・全然ついていかれへんで怒られてばっかりやって・・・」

「そうか・・・」

夏休みに家族旅行でしばらくいないと言っていたのはレッスンに行くのを隠すためだったのかと

今更気づく

「せやから・・・人より何倍頑張らなあかんって思って・・・」

鼻をすすりながらとぎれとぎれになる言葉を

山本はただただ聞いていた

「・・・美優紀」

山本は身体の向きを変え渡辺の方を向く

「・・・大丈夫や」

「彩ちゃん・・・」

「美優紀ならできる。だから、てっぺんとってこい」

そういって笑った

「うん、ありがとう」

渡辺は山本の胸に顔をうずめる

「・・・」

山本はスッと背中に手を回し

泣きじゃくる渡辺の背中を静かに撫でていた


これでええんや・・・

美優紀の一番仲ええ友達のままで・・・

・・・ええんや


そう自分に言い聞かせながら・・・

不器用太陽⑨

山本が持ってきた少し時期のずれた花火は

ようやく薄暗くなってきた海辺で勢いよく光を放っていた

花火をもってはしゃぐ渡辺の姿を

山本は忘れないように目に焼きつけていた


「ほな、みるきー。東京でも頑張ってや。離れてても応援してるで」

横山が声をかける

「みるきー・・・がんばってなぁ・・・」

小谷は涙目になりながら言う

「もーりぽぽが泣いたら私も泣いてまうやん」

渡辺は目に涙をためながら笑う

「だってー・・・」

「ほら、ほら、送りださなあかんのやから」

横山は小谷の肩をたたく

「応援してるからな」

「そうやで、次会うときはテレビ越しなんを期待しとくから」

上西と小笠原がニッと笑う

「うん、ありがとう」

「ほら、彩もなんかいいやー」

小谷が山本の背中を押す

「え・・・」

山本は渡辺を見つめる

「あ・・・頑張れよ」

「なんやねん。幼馴染やのにそれだけかい」

上西が眉をひそめる

「お、幼馴染やからそうなんねん。」

「ううん、ええよ。彩ちゃん。ありがとう」

そういって渡辺は笑った

「いや、あかん」

小笠原が腕を組み険しい顔で山本を見る

「え・・・」

「彩、みるきーと帰り」

「え?」

「ほれ、ええから」

そういってぐいっと山本を押し、渡辺の隣に立たせる

「ええっなんやねん。方向的にはまーちゅんも同じやんか」

「私はええねん。それに、ゆいはんとこにカメラ忘れてもうたし。」

そういってニッと笑った

「そうそう、お母さんから忘れてるって連絡来てん」

横山も相槌をうつ

「なんやねん・・・」

そう呟き渡辺をちらっと見る

「・・・じゃあ、帰ろうか。彩ちゃん」

「まぁ・・・しゃあないな」

山本は口をとがらせながら自転車のストッパーを外す

「じゃあ、皆ありがとう!」

そういって渡辺は手を振り歩き出した

「・・・」

山本はちらっと後ろを見る

(・・・なんやねん)

横山と小笠原がやたらにやにやしている気がして

山本は眉をひそめていた



薄暗い外灯を2人は歩く

いつもならたわいもない会話をするのだが

今日が最後だと思うと

何を言っていいのかわからなくなり

無言の時間が続く

からからと自転車の車輪の音だけが夜道に響いていた


「あ・・・」

渡辺が立ち止まる


「あ・・・」

山本も声を漏らす

気づけばY字路のところまで歩いてきていたのだ

渡辺は左に山本は右に行くのだが

2人はY字路のところで立ち止まり

しばらく動かなかった

Y字路の間の看板には町で唯一のパチンコ店のキャラクターが描かれており

笑顔で2人を見つめていた


「・・・東京でも頑張れよ」

「うん・・・」

そういって渡辺は俯く

山本も先ほどと同じことしか言えない自分に苛立ちを覚えていたが

恋愛禁止というフレーズが

山本の想いにブレーキをかけていた

「・・・ほなな」

そう言って離れようとしたとき

くいっと

後ろに引っ張られる感覚に

立ち止まる

「・・・美優紀?」

山本は振り返る

渡辺がTシャツの裾をつかみ、じっと見つめていたのだ

山本の顔はみるみる赤くなる

外灯が薄暗くてよかったと初めて思った

「あのな・・・彩ちゃん・・・」

「なんや・・・?」

「今日、家、誰もおらへんねん・・・」

「うん・・・」

「だからな・・・」

「うん・・・」

「泊って・・・くれへん?」

「え・・・?」

山本は自分の心臓が破裂してしまうのではないかと思うほど鼓動を打つのが早くなるのを感じた

もちろん渡辺の家には何度も泊りに行ったこともある

しかし、両親がいないという状況は今回が初めてなのだ

「で・・・でも、ええんか?」

「うん、あのな、彩ちゃん・・・」

渡辺は俯く

「な・・・なんや?」

「明日、始発で行こうとおもてんねん」

「は?」

期待していた答えと違うので山本は間の抜けた声を上げる

「一人やと起きれるか心配やから、誰かにおってほしいねん」

そういっててへっと笑った

「はぁ?私、朝苦手やで」

山本は一気に肩の力が抜けて思わず笑ってしまった

「ええねん。目覚ましも携帯だけやから。2人の携帯が鳴ったらさすがに起きるやろ?」

「・・・ったく。しゃぁないなぁ・・・」

渡辺の笑顔に山本も自然と笑っていた

不器用太陽⑧

翌日、渡辺が旅立つ予定の日になっていた

「・・・」

山本は見送りに行く気分にもなれず

いつもの海辺で時間をつぶす

携帯の着信履歴には横山と小谷からの電話が交互に何件も連なっていた

(こりゃー次あったらこっぴどく叱られるな)

ガタンガタン・・・

海沿いの線路を電車が走る

「美優紀・・・頑張れよ」

山本は渡辺が乗っているであろう電車に呟くいた





「あーもう!やっぱりここにおった!」

聞きなれた声がする

「え・・・?」

山本は線路から視線を左にずらす

「み・・・美優紀!?」

山本は目を疑った

「もーせやから何回も電話したのに・・・」

「ほんまやで」

その横には横山と小谷がいた

「な、なんで・・・?え?今の電車でいったんちゃうかったんか?」

山本は混乱する

「今日行く予定やったんやけど・・・やっぱり最後にみんなと遊びたくって明日行くことにした」

そういって渡辺は笑う

「そうそう、で、今日はうちでお別れパーティーや」

横山が笑う

「上西とまーちゅんにも声かけてんねん」

そういって小谷はぐっと親指を立てた

「なんやねん・・・」

山本はそう言いながらもニッと笑った

「じゃあ、店いこか」

「はーい」

横山と小谷は先に歩きだす

「・・・」

山本は隣にいる渡辺を見つめた


「・・・・美優紀」

「なに?」

「昨日は・・・ごめん」

「ううん。ええよ。私も怒ってごめん」

そういって渡辺は山本の手を引き

「そのかわり、今日はちゃーんと送りだしてよ」

そういって笑った

「あ、あぁ・・・」

山本は渡辺の笑顔につられ

腕を引かれながら微笑んだ


店に入ると座敷の机の上にはたくさんの料理が並んでいた

横山の店は土日は夜のみ営業なので昼は渡辺の送別会で貸し切り状態だった

上西と小笠原も合流し

ワイワイと盛り上がる

最後は渡辺にサプライズでケーキが登場し

涙目の渡辺を囲んで記念写真を撮った



あっという間に夜になり

山本たちは海辺を歩いていた


「あーもう入れへん」

小谷がお腹をさすりながら言う

「まぁ食後の散歩にはちょうどええんちゃうか?里歩ずっと食べてたやん」

隣で横山が笑う

「なぁみるきーは明日早いん?」

小笠原が尋ねる

「うん、ちょっと早いので出なあかんねん」

そういって苦笑いをする

「そうかー見送りに行きたいけど起きれる自信ないなー」

小笠原は腕を組む

「まーちゅんありがとう。でもな、こうやって皆と遊べたからええねん。それで十分やで」

そういって渡辺は笑った

「これからどうする?まだ明るいし、帰るんも惜しいよなぁ」

上西が空を見上げながら言う

夏が過ぎ秋が来たといってもまだ空は明るかった

「あ、せや!」

山本はぽんっと手を叩く

「なに?」

渡辺は首をかしげる

「ちょっとみんなここで待っててくれ」

そういって山本は自転車に乗り走り出した

「おーさすが彩、漕ぐん早いなー」

小谷が小さくなる山本の背中を見つめ感心する

「まぁいっつも遅刻ぎりぎりであの坂、チャリで全力疾走してたら嫌でも脚力つくんちゃうか?」

そういって横山は笑った

山本たちの高校は高台にあるので

必ずどのルートからでも坂を登らなければいけないのだ

山本が通っている山側ルートは

まず、自宅の店からまっすぐ走り

Y字路を右に入る

渡辺の家がある住宅街を抜けた後

傾斜のきつい坂道を登るのだ

それを毎日登っているうちに

山本の脚力のレベルは上がっていたのである


ちなみに海側ルートは海沿いに住む横山と小谷が使用しており

山側よりも比較的坂は緩やかである

海沿いの最寄り駅からその坂は伸びており

この町よりもさらに田舎の方から通っている上西にとっては

交通の便もよくありがたいらしい

登って行くと山側ルートと海側ルートの坂は同じとところで繋がり

あとは学校に向かって数百メートルのゆるやかな坂を上る

ちなみに山本の家からなら海側ルートからでも登校は可能なのだか

なにせ大周りになるし、時間もかかるため、いつも時間ギリギリで家を出る山本にはその選択肢はないのだ



「私も足太いかなー?」

渡辺は心配そうにショートパンツから出ている太ももをつまむ

「みるきーはいけるわ」

「そうそう。時間に余裕もって歩いて登校してるやん」

そういって小谷と横山は笑った

「だってあの坂きついんやもん。彩ちゃんもいつも一緒に行こうゆうても起きてくれへんし」

渡辺は口をとがらせる

「ははっ。彩朝弱いからなー。でも、私もあの坂で鍛えられたでー」

そういって小笠原はぐっと足に力を入れる

スカートの下からはにつかわしくない筋肉が浮き上がる

「うわっ子持ちししゃもや」

小谷は驚き、まじまじと見る

「・・・たくましぃなったな」

横山も驚く

小笠原は山本の家からもっと遠いところから通っているため

脚力も人一倍になっていた

「へへーんって・・・自慢にならんか?」

そういって笑った




「はぁはぁ・・・」

山本は全速力で自転車を漕いでいた

中学時代から使っているママチャリは文句も言わず5年間も良く耐えていると思う

キキーッ!

けたたましいブレーキ音を上げ山本は家に到着する

そして勢いよくステッパーを踏み、自転車を止めると

店の中に入って行く

「ど、どなしたん?」

息をきらし、すごい形相で店に入ってきた娘を見て

母はレジ前でぽかんと口を開けていた

「花火」

「は?」

「花火、夏のまだ余ってるやろ。あるだけもろてくで」

そういうと山本はレジのカウンターから袋を取り出し

時期商品として隅に追いやられていた手持ち花火や打ち上げ花火をごそごそと入れていく

「バケツとライターも、もろてくから」

「ちょ・・・」

母は止めようとしたが

「美優紀らと花火してくる。あと、花火代は今月のこづかいで払うから」

山本は早口で言うと

また自転車にまたがり走り出した

「美優紀ちゃん・・・?今日引っ越したんやなかったん?」

母は娘の勢いに押され

開け放されたままの入り口を見つめていた



「うらぁぁぁぁっ!」

山本は気合を入れて自転車を漕ぐ

(こんな餞別しかできんけど・・・花火・・・好きやったから・・・)

そう思いながら

小さい頃、山本と渡辺の家族で花火をした記憶が甦る

いつからだろう・・・

いつから・・・

『彩ちゃん』

花火を持ち微笑む

幼い頃の渡辺が浮かぶ

いつから・・・

こんなに好きになっていたんだろう・・・


「・・・っ!」

山本は不意に湧き上がる涙をぬぐいながら

皆の待つ海辺へと向かった

不器用太陽⑦

「彩ーごはんやでー」

何度階段の下から叫んでも出てこない娘に対し

苛立ちを覚えた母は勢いよく部屋のドアを開けて言う

「いらん」

山本はベッドに横になり

母に背を向けたまま小さく答える

「もーなんやねん。帰って来てからずっと部屋にこもって。あんた、ちゃんと美優紀ちゃんにお別れゆうたん?」

「・・・」

山本はぐっと布団を握った

どうして母親というものは

一番聞いてほしくないことを聞いてくるのだろうか・・・

苛立ちを覚えながら母が去るのを黙って耐える

「さびしくなるなぁ・・・今日美優紀ちゃんのお母さんとこ行っててん」

山本の気持ちも知らず

母はぺらぺらとしゃべり続ける

「むこうでも高校は行くから、卒業するまではお母さんもついていくねんて。なんや最近のアイドルは恋愛禁止?なんやって。せやから最初は上京して浮足立つし、親もおったほうがええとか言われたみたいやわ。」

「・・・!」

山本は驚き目を見開いていた

「美優紀ちゃん可愛いしなーそりゃほっとかんよなー」

「・・・」

「でもな、お母さんに聞いたけど美優紀ちゃん今まで付き合ったことないんやって。最近は昔の恋愛とかも掘り返されたりするみたいやから、よかったなーって話しててなー」

(・・・付き合ったこと・・・ない?)

「美優紀ちゃんのおめがねにかなう男の子はこの町にはおらんってことなんかなー」

母はそういって笑う

「おーい!母さん!」

下から父親が呼ぶ声がした

「はーい!行きますー。彩、ご飯冷めんうちにはよ降りてきーや」

母はそう言うとドアを閉め出て行った

バタバタと階段を下りて行く足音を聞きながら

山本は壁を見つめたまま固まっていた

恋愛禁止・・・?

じゃあ今日男子が告白しても全部断ってたんか

山本は少し心のもやもやが晴れる

しかし

恋愛禁止ってことは・・・

新たなもやもやとした想いが

山本の胸を包んでいた

「なんや・・・結局出来てても・・・歌えんかったんやな」

そう呟き

一筋の涙が枕を濡らす

困るよな

言われても

そうだよ

今まで彼氏も作らへんかったんや

きっと理想が高いねん


「ホンマ・・・えらいやつに惚れてもうたで・・・」

山本はその夜

部屋から出て来ることはなかった

不器用太陽⑥

山本は勢いよく自分の部屋に駆けあがると

アコースティックギターを取り出し

鳴らしながら、紙にコードを書いていく

(私が美優紀にできるんは・・・これしかない・・・)

そう思い

コードを弾き、メロディーを探した




そして、あっという間に3連休前になってしまった

渡辺が東京に行くということで

放課後、渡辺の周りには人だかりができていた

山本は窓側の一番後ろの自分の席に座り

教壇前の渡辺の席に群がる人たちを見つめていた

「ふわぁー・・・」

山本はあくびをし目をこする

その目の下にはクマができていた

「彩、ええん?」

山本の前の席に横山が座り、顔を覗き込む

「何が?」

「今日でみるきー学校最後やんか・・・」

「せやな・・・」

「なんかゆうことないん?」

「はぁ?学校で何ゆうねん」

「・・・はぁー」

横山はため息をつく

「ふわぁー・・・」

山本は再びあくびをする

「なんや、えらい眠そうやなぁ・・・」

「あぁーちょっとな・・・最近、夜寝るん遅いねん」

「ふーん・・・みるきー関係?」

「なっ・・・なんでやねん」

山本は眠そうな目を見開くと

慌ててそっぽを向いた

「・・・ま、ええけど。」

横山は窓の外を見ているフリをする山本に

そっと耳打ちをする

「みるきー男子から告白されてるで」

「え・・・?」

山本は驚き、横山の方に顔を向ける

「そんなに驚かんでも・・・当たり前やん。アイドルになんねんから」

そういって横山は苦笑いをする

「そうか・・・そうやな・・・」

そういうと山本はガタっと席を立ち

ふらふらとドアの方に歩く

「えっ、彩!帰るんか?」

横山は驚き、椅子から立ち上がる

「あぁ。さいなら」

そういって後ろ手を振ると教室を後にした

「・・・彩ちゃん?」

渡辺は自分を囲む生徒たちの間から廊下を歩く山本の姿を見つめていた



山本は一人、防波堤の端に座っていた

潮風に吹かれながら

鞄から折りたたまれた紙を広げる

そこにはコードと

何度も書き直した歌詞が書かれていた

「・・・結局、できへんかった・・・」

そう呟き、寝そべる

頭をひねって考えた歌詞は

歌詞というよりは、うまくつながっていないフレーズだった

(歌で告白とか・・・やっぱり流行らへんよな)

山本はスッと腕を伸ばし

紙を空に掲げた

そして紙の端を指でつまみ

ピリッ・・・

破ろうとしたその時

「彩ちゃーん!」

後ろから渡辺の声が聞こえた

山本は慌てて起き上がると

紙を鞄の中にしまった

「もーなんで先帰るん?」

渡辺の手には紙袋や花束がいくつもあった

「美優紀・・・」

「もーひとりで持つん大変やったんやから手伝ってくれてもええやん」

渡辺は口をとがらせる

「ようここにおるってわかったな・・・」

山本はぽつりと漏らす


「うーん、なんとなく。彩ちゃんの考えてることなんてわかるよー。ほら、荷物ちょっと持って」

そういって笑う

「あ・・・あぁ・・・」

山本は言われるがままに荷物を半分持つ

このプレゼントや花束は餞別として送られているのだろうが

中には少しの望みを託して告白した男子たちのプレゼントが混じっているのだろうかと思うと

放り投げたくなった

「・・・」

その想いを必死にこらえ

渡辺の横を歩く

「みんな優しいなーこんなにいっぱいくれて」

「せやな・・・」

山本はそういってそっぽを向く

「・・・彩ちゃん怒ってるん?」

「別に・・・怒ってやないわ」

「じゃあなんで先に帰るん!?私、彩ちゃんと一緒に帰りたかったのに!」

「・・・私やのうてもゆいはんや里歩もおるやろ・・・それに・・・」

「それに?」

「告白してきた男子と帰ってもよかったんちゃうか?」

「・・・」

隣を歩いていた渡辺の足が止まる

山本は止まることなく歩いていたのだが

(・・・どうしてこんな言い方しかできんねん・・・)

山本は言ったことを後悔し

歩幅がせまくなる

(・・・)

山本は立ち止まり、振りかえった

「美優紀・・・すま・・・」

「彩ちゃんのアホ!!」

山本が謝ろうとするのを遮るように

渡辺の大声が響いた

そして、つかつかと山本に近づき

「なんで・・・なんで彩ちゃんにそんなん言われなあかんの!?」

渡辺は目に涙をため、キッと睨む

身長がほぼ同じという条件と荷物を抱えているため身をよじれなかったのもあって

山本は渡辺の目を見つめたまま動けなくなってしまった

「・・・もういい!!」

渡辺は山本から荷物を奪うと

両手で抱えすたすたと歩き出した

「お・・・おい。美優紀・・・」

山本は慌てて駆け寄るが

「ほっといて!」

背中越しに言われた言葉が刺さり動けなくなってしまった

・・・違うねん、変なやきもち妬いただけやねん

ホンマは・・・

私も・・・

お前に・・・

・・・・お前に・・・

山本は拳をぐっと握り、俯いた

その言葉が言えたら

私が男だったら

どれだけ楽だったのだろう

「・・・っ」

山本の目からはぽろぽろと涙がこぼれていた


「・・・彩ちゃんのあほ・・・」

渡辺も荷物を抱えたまま涙を流していた

両手がふさがり

ぬぐうことのできない涙は

頬を濡らし続けていた
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