気ままな詩人

48グループの創作小説を書いています。じゅりれな、さやみるきーメインになります。SKE、NMBの支店推しです。苦手な方は退室ください。

2015年02月

不器用太陽-1年後、夏-⑮

――――

次の日

「あかん!」

山本は飛び起き

「あ・・・今日休みくれたんやった」

そう呟いて、ベッドにまた横になる

習慣というものは恐ろしく

市場に行く時間に起きるようになっていた

「・・・」

携帯画面には着信はなかった

「まぁええわ。二度寝や」

そう呟いてまた目を閉じた


「ふわー・・・寝過ぎて逆にだるいわ」

次に山本が起きたのは10時を回っていた

「何しよう・・・」

ぽつりと呟く

気づけばこの1年ずーっと店のことばっかりしていて

まるまる空いた2日に戸惑っていた

「あんな親でも偉大やな・・・」

自営業の忙しさを感じながら

のそのそと着替え始めた

「おはよー」

下では母親がいつものように店番をしていた

「おはよー。車かバイク借りてええ?」

「昼からなら車使えるで」

「あーそう。ほな借りるわ」

そういって、また居間に引っ込む

テレビを見ながら朝食か昼食かわからない食事を取り

昼、配達から帰ってきた父の車を借りて

山本は隣町に向かった

夏休みということもあり

街には学生たちが多くいた

「今日は水曜やから・・・菜々さんとこは休みか・・・」

いつも土曜の夜に演奏代として食事をごちそうになっているので

今日は自分で払おうかと思っていたのだが、定休日なので諦めた

山本はにぎわっているアーケードの中の洋服屋に入る

店の中は学生たちがきゃっきゃと話しをしながら服を選んでいた

山本は服を手に取り

「・・・」

睨む・・・

「試着もできますので」

「は、はい・・・」

店員の声に愛想笑いをする

「・・・」

山本は服を手にとっては広げ、睨み、戻す、ということを繰り返し

結局何も買わずに店を出た

「・・・」

山本は商店街を一人歩く

『彩ちゃんはセンス悪いねん。こっちの方が似合ってんで』

『なー彩ちゃん、これかわええなー』

どの店を見ても

渡辺との会話が蘇ってくる

学生の頃、よくここに買い物に来ていた

そして、付き合いだしてからも・・・

たまの休みの日にはデートと称してここに遊びに来ていた

「・・・」

渡辺の居ない左側が、やたらと寂しく感じた

山本は携帯を見る

連絡は、ない

携帯をまたポケットにしまい

来た道を戻って行った


―――

「おかえりー早かったなー」

「あぁ・・・」

山本はそっけない返事をしながら車のカギをレジカウンターに置き

家の方に入って行った

「はーもう、ホンマにわかれへんわ。どないなってんの?」

母親はため息まじりにそう呟いた


夜になり

プルルル・・・

山本の携帯電話が鳴った

「はい!」

山本は勢いよく電話にでる

『あ、彩ー?』

「なんや・・・里歩か」

『なんやとはなんや』

電話の相手は小谷里歩

山本と同級生で現在は役場職員をしている

『今日、ゆいはんとこに飲みに行けへん?』

「え・・・?」

『ええやん行こうやー。彩、最近ゆいはんとこに顔ださへんからこうして誘ってんねんで』

「あ、あぁ・・・ほな、行くわ」

『よっしゃ!じゃあ店でなー』

「へーい」

山本は携帯を耳から離す

「・・・まぁ、里歩もおったら場も和むか」

そう呟き山本は横山の店を目指して歩き出した

歩いている途中

Y字路で煌々と照らされている渡辺の看板を見つめる

看板の渡辺は笑顔だったが

山本が最後に見たのは雨に濡れ、涙を流している顔だった

「・・・ええ加減、機嫌直せや。もう、怒ってないわ」

そう素直に本人に言えないので

看板に呟いてみた

不器用太陽-1年後、夏-⑭

渡辺が店を休むようになって6日が過ぎた

「あんた、いつまで美優紀ちゃんに休みあげてんの?」

「・・・」

夜、居間で母親がじろっと山本を睨む

山本は黙ったままテレビを見る

「わかってんの?金曜にはお母さんら旅行にいくねんで」

「・・・」

山本はテレビのボリュームを上げる

「彩!」

母親は山本からテレビのリモコンを奪い取り、電源を切る

「このままやったら一人で店せなあかんようになんねんで?わかってんの?」

「わーってるわ!美優紀がおらんだってな!一人で回せるわ」

「はぁ?じゃあ配達してる間、店番は誰がするん!?」

「そんなんどうにでもなるわ!」

山本は立ち上がり2階の自分の部屋に上がって行った



「おい、風呂場まで声聞こえてるで」

父親が髪を拭きながら居間に現れる

「彩が悪いんやで。ずーっと喧嘩したままやし。それに・・・渡辺さんのお母さんに今日おうたんやけど・・・」

「ん?」

「美優紀ちゃん、東京に行ってるって・・・」

「え?そうなんか?」

「いきなり行くってゆうたみたいで・・・彩、何も言えへんからわかれへんわ」

母親は眉をひそめる

「はーなにがどうなってんだか」

父親はテレビのリモコンを手にとり電源を入れる

『あははは!!』

「わっ!うるさっ!」

いつもよりも大きなボリュームに驚いて

父親はのけぞった

「あのー・・・」

「「わっ!」」

店の方から声がして山本の両親は声を上げる

そこには横山が申し訳なさそうな顔をして立っていた

「すいません・・・戸、何度か叩いたんですけど返事なくて・・・鍵が開いていたので」

そういってぺこぺこと頭を下げる

「母さん、不用心やなー」

「あらーごめん。彩なら2階やから上がってって」

「いえ、今日は彩に用事があってきたわけやないんです」

「「へ?」」

その発言に両親は首をかしげた



――――

山本はベッドに寝そべり、天井を見つめていた

「いつまで休むんか、私が聞きたいわ・・・」

そう呟き横に置いてある携帯を触る

連絡は・・・ない

「・・・」

山本はガバッと起き上がり

渡辺に電話をかける

プルルルル・・・

呼び出し音が鳴り続ける

出たとしても何を話していいのかもわからないのだが

呼び出し音の回数とともに

山本の心拍数も上がって行く

ガチャ

「あ、みゆ・・・」

『おかけになった電話番号は・・・』

「・・・」

お決まりのアナウンスに対して話しかけようとして

山本は恥ずかしそうに電源を切った

「・・・なんやんねん。いつまで怒ってんねん」

そう呟き

壁に立てかけたままのギターを見る

あの後、試しに弾いてみたのだが

湿気と微妙なネックの反りで

前と音色が変わってしまってしまっていた

「・・・怒ってんのはこっちやで」

そういってまたベッドに寝そべる

「彩ー」

「わっ!なんやねん」

母親が唐突に部屋に入ってきた

「あんた、明日と明後日休みあげるわ」

「へ?」

先ほどまで言い合っていたとは思えない台詞に

山本は拍子ぬける

「私らが旅行してる間に過労で倒れられても困るからな」

「え?で、でも・・・」

「そう言うことやから、今日はゆっくり寝な」

そういって母親は戸を閉めて出て行ってしまった

「はぁ・・・?」

山本は首をかしげながら

しばらく固まっていた

不器用太陽-1年後、夏-⑬

翌日―

カーテンの隙間から朝日が差し込む

「彩ー!市場行く時間やぞー!」

「ん・・・」

1階から父の声が響き

山本は目を覚ます

ベッドに突っ伏した後、気づけば眠ってしまっていた

「美優紀!」

山本はハッとして目を覚ます

時刻は早朝

夜に美優紀を迎えに行っていないことに気づいて飛び起き

携帯に目をやり、1件のメールを開く

『みるきはー私が送って行くから。あと、しばらく店休みたいってゆうてたで』

簡素な横山からのメールに

山本はバツが悪い顔をする

そしてずっと回しっぱなしにしていた扇風機を止め

ギターに触れる

ひんやりと冷たいネックはまだ水気が残っていた

「・・・知らんわ。美優紀が悪いんや」

山本はムッとする

「彩ー!」

今度は母の声が響く

「あーもう!今行く!」

山本は苛立ち任せに叫び、箪笥から服を適当に選び

どたどたと階段を下りて行った


―――

「今日から美優紀に休みあげたから」

市場に向かう車の助手席で山本は外を見つめたまま父に告げる

「え?なんや、いきなりやな」

父親は助手席の方を向き、苦笑いをする

「・・・父さんらやって旅行に行くし、夏休みあげたんや。ええやろ?」

「まぁええけど・・・そういうんは前もって言えよ」

「・・・うん」

山本は外を見つめたままむすっとしていた



「もーなんでそういうことは前もって言わへんの」

市場から戻り、父親から話しを聞いた母親は山本に詰め寄る

「別にええやん。美優紀やってずーっと店来てたし、まとまって休んでもええかとおもたんや」

山本は母親と目を合わさずに配達物のメモを確認をしながら言う

「まぁ・・・そりゃそうやけど。美優紀ちゃんに会うん楽しみに来てくれてるお客さんやっておるんやで」

「・・・そんなんしらんわ。美優紀にやって休みはいるやろ」

「・・・あんた、美優紀ちゃんとなんかあったん?」

「・・・」

山本はギクッとする

「どうせいらんことゆうて美優紀ちゃん怒らせたんやろ」

「・・・」

山本は何も言わず、荷物の積み降ろしで車と店を行ったり来たりするが

母はその後を追いかけ、しゃべり続ける

「だいたいあんたはすぐにカッとなるところがあるからあかんのや。それやのに美優紀ちゃんはよう付きおうてくれてると思うわ」

「うっさいな!私にやっていろいろあるんや!好き勝手言いやがって!」

母親が言った付き合っているという言葉は友達としてという意味なのだが

山本には恋人としてという意味に聞こえ

昨日の事が蘇り、苛立ちが爆発する

「なんやの!人が心配してゆうてんのに!」

「あーもう!うっさいなー!」

そういって山本は店を出て行く

「どこいくん!」

「・・・配達や!!」

そういって勢いよく車のドアを閉め、アクセルを踏んだ



真っ直ぐの道を走り

Y字路の真ん中に、渡辺の看板が見える

「悪いんは、おまえやからな」

山本はそう言って

右の道に入った



「彩ちゃんおはよー。今日、美優紀ちゃんは?」

「あー今日は休みなんですー。」

「あーそうなんや」


「いつもありがとう。今日は美優紀ちゃんと一緒ちゃうの?」

「あははー今日は違うんですー」


「あれー?車で来てるから美優紀ちゃんもおるんかとおもてんけど」

「あー美優紀は今日、休みなんですよー」



―――

「・・・なんやねん。みんな美優紀、美優紀って」

山本はむすっとしながら車を運転する

この町に住む老人の家には渡辺と行くことが多く

配達に行くところ、行くところ「美優紀ちゃんは?」ときかれ、その度にひきつった笑顔で対応していた

山本は隣町の山田の店に配達に向かう

「山本商店でーす」

「はーい」

山田は厨房からぱたぱたと走ってきた

「これ、今日の分です」

「いつもありがとう。今日はいいやつ入ってた?」

「あ、はい。今日は魚が良くって・・・」

山本は商品の説明をする

山田は頷きながら、メニューをどうするか考えていた

「あ、あと・・・」

山本は俯く

「なに?」

「すいません、ギター壊れてしもて今週演奏できへんのです」

山本は頭を下げた

「そうなん?あ、もしかして私のせい!?」

「いや、違うんです。ちょっといろいろあって・・・」

山本は顔をあげて手をわたわたと振る

「そうなんや・・・でも、そんなん気にせんといて!私が無理ゆうて頼んだのに、そんなに頭下げられたらこっちが申し訳ないわ」

そういって山田は苦笑いをする

「でも・・・」

「大丈夫。お客さんの中でギターとかバイオリン弾いてる知り合いがおるってゆうてここで演奏してくれるように話ししてくれてんねん。」

「そうですか」

山本はホッとすると同時に少し寂しさを覚えた

「うん。でもギターの調子がようなったらまたここで弾いてやー」

「あ、はい」

「私、彩ちゃんのギター好きやねん」

そういって笑った山田の顔が

なぜか渡辺の笑顔と重なった

「・・・」

「ん?どないしたん?」

「え?あぁ、なんでもないです」

ぼーっとしていた山本は苦笑いをした



ザザーン・・・ザザーーーン・・・・


「はぁ・・・」

山本は配達が終わっても

真っ直ぐ店に帰る気にもなれず、いつもの防波堤に来て時間を潰していた

「・・・」

山本はポケットから携帯を取り出す

メールや電話は来ていなかった

「なんやねん・・・」

山本はまたポケットに携帯をいれ、空を見上げた

昨日は曇っていたのに

今日は嫌なくらい青い空が広がっていた

夏の太陽が

山本の心までじりじりと焼きつけていた

不器用太陽-1年後、夏-⑫

渡辺は横山の自宅に居た

「みるきーこれ」

そういって横山は着替えとバスタオルを差し出す

「・・・ありがとう」

渡辺はのそのそと頭を拭く

「あと、はい、これ飲んであったまり。風邪引くで」

そういって、机の上にあったかいお茶を置いた

「・・・ごめんな」

「ええて、私も着替えるからちょっと待っててな」



「・・・」

着替え終わった渡辺は正座をし、出されたお茶をすする

冷えた体がじんわり暖かくなった

隣の部屋では帯の擦れる音が聞こえており

横山が着物を脱いでいるのがわかった

そして、トントンという音が聞こえ

染みにならないように水気を取っているのだと気づき

申し訳ない気持ちになり、俯いた


しばらくして

「ごめんなー」

普段着に着替えた横山が渡辺の前に現れる

渡辺は首を横に振った

「・・・」

横山は渡辺の斜め前に座る

「・・・店、休んでごめん。それにゆいはんも休ませちゃって・・・ごめんな」

そういって渡辺は頭を下げる

「気にせんでええよ。雨やしどうせお客さんけーへんから」

そういって横山は笑った

渡辺がびしょぬれで現れたので、横山は両親に店を休ませてもらうよう頼んだのだ

「今日は送ってくれる人が居ないから歩いてきたら雨に打たれた」という微妙な言い訳だったのだが

両親は横山の表情がいつもと違うことに気づいたのか、深くは突っ込まれなかった

「で・・・どないしたん?」

横山は優しい口調で尋ねる

「・・・」

「・・・彩と喧嘩した?」

「・・・うん」

渡辺の目には、もう既に涙が溜まっていた

「まぁ・・・あんだけ泣くから、そうやろうとおもたわ」

そういってため息を漏らす

「・・・今日ゆいはんとこに配達しに行く途中にな・・・防波堤んとこで彩ちゃんが女の人とおってん」

「え?誰やねんその人」

「彩ちゃん今、喫茶店でギター弾いてるやんか。その店の人ってゆうてた」

「若い人?」

「うん・・・」

「でな・・・その人のこと抱きしめててん」

「へ・・・?」

横山は、ぽかーんと口を開けていたが

ハッとする

「それ、なんかの間違いちゃうんか?彩、超奥手やん。そんなんできるはずないで」

「私もそう思おうとしたんやけど・・・苛々してしもて・・・車の中で喧嘩になってん」

渡辺は俯く

「で、勢いで外に出て、車の中に乗ってるギター引っ張り出して怒ってん・・・彩ちゃんも外に出てきて、車ん中入れってゆうてきてんけど・・・」

「うん・・・」

「その時・・・彩ちゃん・・・ギターの方つかんだねん」

そう言いながら声をくぐもらせる

「ほんまは・・・抱きしめてほしかった・・・誤解やって・・・私の事が好きやって・・・ゆうてほしかった・・・」

鼻をすすりながら、タオルで目を拭く

「みるきー・・・」

「せやから、私・・・もういいってギターごと彩ちゃん押しのけてしもて・・・ギターが水たまりの中に落ちてん」

「・・・」

「彩ちゃん・・・慌ててギター抱えて、中見たら水入ってて・・・めっちゃ怒って・・・」

「みるきー・・・わかった。もうしゃべらんでええから」

しゃくりあげる渡辺を見て

横山は素早く隣に寄り添い背中をなでる

「私・・・最低な女や・・・勝手にヤキモチ妬いて・・・怒って・・・彩ちゃんの大事なギター・・・台無しにしてしもたんや」

「そんなことないって・・・彩やって理由ゆうたら許してくれるって。な?」

「ううん・・・あかんとおもう・・・」

渡辺は首を横に振る

「あのギター・・・彩ちゃんが初めて買ってもらったギターやから・・・」

「あ・・・」

横山もハッとする

「私・・・最低や・・・」

「みるきー・・・」

泣き続ける渡辺にどう声をかけていいのかわからず

横山は黙って背中をなでるしかなかった

不器用太陽-1年後、夏-⑪

「うわー雨すごいなぁ・・・」

横山はのれんを手に店の外に出て

雨の勢いに驚く

「こんな雨やったらお客さんけぇへんで・・・」

横山はそう呟きながらのれんをかける

ふと、視界の端に人影が映り

反射的に見る

そこには傘もささずにとぼとぼと歩いている人がいた

「え・・・?」

横山は目を見開く

「みるきー!」

横山は思わず走り出した

「あ・・・」

渡辺は横山の声を聞いて力なく顔を上げる

「どないしてん!傘もささんと!」

横山は渡辺の身体をゆする

「それに、彩は?送ってくれてたんやなかったん?」

「・・・」

彩という名前を聞いて

渡辺の身体がぴくっと反応する

「・・・うっ・・・うっ」

渡辺の目からは堰を切ったように涙があふれ出す

「み、みるきー?」

「うわぁぁぁぁん!」

動揺する横山に渡辺はしがみつき

声をあげて泣いた

勢いよく降る雨の音に混じり

渡辺の声が悲しく響いていた


―――――

山本は苛々しながら車を走らせ

自宅に着く

そして後部座席からギターを出し

勢いよくドアを閉め

店の中に入る

「おかえりーって、あんたなんでそんなに濡れてんの?」

レジカウンターで母親がぽかーんとする

山本は何も言わず一直線で店の後ろにある居間に向かう

「え?ちょっと・・・」

母親が話しかけようとするが素通りし

1階の奥にある脱衣所でタオルを何枚かつかむと

どたどたと階段を上って行った

「どないしたん・・・?」

階段を駆け上がる音を聞きながら、母親は首をかしげていた


バタン!

勢いよく部屋のドアを閉め

山本はギターケースを開ける

「あーもう!めっちゃ濡れてるやんけ!」

苛立って叫びながら

タオルでギターを拭く

前面から水たまりにダイブしたギターは

コーティングしている板の隙間をぬって水がしみ込んでおり

指で弦を押さえるネックの部分もところどころに水がしみ込んでいた

「くそっ!」

山本はタオルをギターに押しつけ、水を吸うが

完全には取りきれるはずもなく

押しつけても押しつけてもタオルには新たな水がしみこむ

「あーもう!」

山本は苛立ち任せに力いっぱいタオルを押しつけていた


ブーーン・・・


数十分後、山本の部屋では扇風機の音が響き渡っていた

壁にはギター、ギターケースが立てかけられ

ギターストラップはハンガーにひっかけ、窓枠に干されていた

バタン・・・

シャワーを手早く浴びた山本は部屋の戸を閉める

「はぁー・・・」

立てかけられたギターを見つめ、ため息をついた

「もう・・・弾けんよなぁ」

そう呟き、ギターを触る

ネック部分はまだしっとりとしていた

「・・・」

山本はギターを買った時の事を思い出す

長続きしないだろうと渋っていた親を

何度も何度も説得して、買ってもらった

初めてのギターだった

長年の相棒のボディ部分には、ぶつけた後や木の表面がはがれているところがある

皮肉にも、そこから水がしみ込んでいた

「・・・美優紀のあほ」

山本はぽつりと呟き

目から滲む熱いものを拭うと

勢いよくベッドにダイブした

不器用太陽-1年後、夏-⑩

「ほな、失礼しますー」

「美優紀ちゃん気ぃつけてなー」

「運転するんは私や」

「せやからゆうてん」

「どういう意味や」

「まぁまぁ・・・雨降りそうやから気ぃつけて」

「あーほんまやなぁ・・」

店の前で山本と母親が言い合いを始めたので

父親がなだめ、話題を変える

空は黒い雲が覆い始めていた

「ほな、いってきます」

「お世話になりましたー」

そう言って山本と渡辺は車に乗り込み、走り出した

今日はそのまま横山の店へと向かうため

海沿いの道を走る

「・・・」

山本は運転をしながら横目で渡辺を見る

普段ならいろいろ話してきたり、ちょっかいを出してきたりして

前を見る方が大変なのだが

今日は何もしゃべらないので

気になって仕方なかったのだ


ゴロゴロゴロ・・・

ポツ・・・ポツ・・・


ザーーーーー


雷の音が鳴り

空から大粒の雨が勢いよく振りだした

「うわー・・・すごいなこれ。今日はお客さん少ないやろうなぁ」

山本はワイパーの速度を速める

「・・・」

渡辺は黙ったまま海の方を見つめたままだった

うるさいワイパーの音だけが車内に響く

そして

昼に山本が居た防波堤が目に入る

頭の中に山本と知らない女性が抱き合っていた光景がフラッシュバックした

「止めて」

「え?」

「止めて!」

「あ・・・あぁ」

渡辺の強い口調に驚いて

山本は車を脇に止める

「ど、どないしてん?美優紀、今日なんか変やで」

「変なんは彩ちゃんや」

「はぁ?」

「今日おうてた女の人誰?」

「え・・・?」

「あそこで話してたやん」

そう言って渡辺は窓から見える防波堤を指差した

「・・・」

山本の心臓はドクンと跳ね

ワイパーのリズムとリンクする

「あー・・・あの人はカフェしてる山田さんや。ギター弾きに行ってるとこの」

「ふーん。せやから彩ちゃん、あんなに熱心にギター弾いてたんや」

「はぁ?」

「最近配達が遅いんもあそこでずーっと弾いてたんやろ?その人ともおうてたんやろ」

「なにゆうてんねん」

「ゆいはんとこに顔見せんようになったんも、そのカフェに通いつめてるんやろ!」

渡辺の口調が強くなる

「何わけわからんことゆうてんねん!ずっと店の仕事して、部屋でギターの練習してるわ!親に聞いてみぃや!」

渡辺の口調に山本も苛立ち怒鳴る

「じゃあなんで抱き合ってたんよ!」

「え・・・?」

山本は一瞬わけがわからなくなり

慌ただしく頭の中の記憶を探る

「ほら、やましいから黙ったやん」

「違うわ!あれは・・・」

「もういい!」

そういって渡辺は助手席から降り

後部座席のドアを開けギターを引っ張りだす

「ちょ、ちょっ!何すんねん」

山本は慌てて車から降り

渡辺の方に向かう

雨の勢いは止むことなく

二人の足元には既に水たまりができていた

「なんやねん配達の車にまでギター乗せて!彩ちゃんは私よりあの人の方が好きなんやろ!」

「はぁ?何わけのわからんことゆうてんねん。とりあえず乗れや。雨すごいんやで。」

山本はギターをつかむ

「・・・なんで?」

「え・・・?」

「・・・なんでなん?」

「み、美優紀・・・?」

渡辺の頬に雨ではない水が伝う

「彩ちゃんのアホっ!私よりギターの方が大事なんやろ!」

そういって渡辺はギターとともに山本を勢いよく押した

バシャッ!

「あっ!」

動揺していて、その動きに反応できなかった山本はギターを受け止めきれず

ギターは水たまりに浸かる

「何すんねん!」

山本は慌てて水たまりからギターを拾い上げるが

無情にもナイロン生地のギターケースは勢いよく水を吸い込んでいた

「あぁぁー!!」

山本はギターを後部座席に避難させ

ケースを開ける

ギターは見事に水浸しになっていた

「あ・・・」

渡辺も水にぬれたギターを見て

言葉を失う

「・・・美優紀のあほっ!!」

山本はキッと渡辺を睨む

「・・・なんやねん!彩ちゃんが悪いんや!」

「はぁ?さっきからこっちが悪いばっかり言いやがって・・・謝れや!」

「謝れへん!」

「謝れ!」

「・・・もうええ!」

渡辺は目に涙をためてキッと山本を睨み

くるっと向きを変えて歩き出した

「おい!」

「ほっといて!歩いて行くから!」

「・・・勝手にせぇ!」

山本は勢いよくドアを閉め

運転席にまわり

渡辺と反対方向に車を走らせたのだった

不器用太陽-1年後、夏-⑨

「気ぃつけてくださいよ。ここ落ちたら深いんですから」

「ごめんなぁー。あーびっくりした」

強い浜風に吹かれバランスを崩した山田を

山本はとっさに抱き止めていた

「あっ!ごめん!ギター・・・壊れてへん?」

山田は慌ててギターケースを拾い上げ、砂利を払う

とっさのことだったので

ギターから手を離していたのだ

「いけますよ。ケースに入ってますし」

ソフトケースなのでそこまでの衝撃吸収はできないのだが

山本は気を使わせないようにニコッと笑った


「菜々さんの車ってそれ?」

「うん。そうやでー」

道路沿いに止めてある山本の車の前に淡いピンクの軽自動車が止まっていた

「ほなまた土曜日なー」

「はい」

そういって山田は車に乗って走り去って行った

車の後姿を見つめながら

「・・・どっかで見たような?」

そう呟きながら首をかしげていた

―――――

ガラガラガラ・・・

「こんにちはー。配達に来ましたー」

渡辺は横山の店の戸を開けながら言う

「あ、みるきー。ごめんなー配達、追加で頼んでしもて」

昼の営業が終わり、カウンターを拭いていた横山が振り向く

「ううん、夜の分?」

「そうやねん。父さんが急にいるって言い出し・・・みるきー?どないしたん?」

渡辺の目が赤いことに気づき

横山は驚く

「え?あぁ、さっき風で目にゴミがはいってしもてん」

そういって渡辺は笑う

「そう・・・なんや」

「うん。ほなまた夜になーゆいはん」

「あ・・・うん」

横山は出て行く渡辺を追う

店の前に止まっていた自転車に渡辺はまたがる

「え?彩は?」

「・・・今日は一緒ちゃうねん。私やって配達できるんやでー」

にこっと渡辺は笑う

「みるきー」

「ん?なに?ゆいはん」

「何かあった?」

「え・・・なんもないよ。ほなねー」

そういって渡辺はペダルを漕ぎ走り出した

「・・・泣いてたんちゃうん?」

横山は渡辺の後姿を見ながら、ぽつりと呟いた


――――


「ただいまー」

山本は店に帰ってきて空になった段ボールやコンテナを降ろす

「もー彩!携帯出てや」

母親が店から出て来る

「な、なんやねん。配達中やから気づかへんかったんや」

山本は乗せてあるギターを見られないように慌ててドアを閉めた

「もー!音鳴るようにしときな!美優紀ちゃんに配達行ってもらわなあかんようになってんから」

「え?」

「由依ちゃんとこから追加の注文が来ててん。朝電話くれたのにすっかり忘れてた私も悪いねんけどな」

「そうなんか・・・」

山本は自分がギターの練習をこっそりしていて

渡辺に配達をさせてしまったことに罪悪感を覚えた

ドルルル・・・

その時、カブに乗った父親が帰ってきた

「あーもう!お父さん携帯でてよー」

「な、なんやねん。帰ってきて早々機嫌悪いなー」

山本は2人の痴話喧嘩を横目にそそくさと荷物を店内に運んだ

「ふー・・・」

荷物を運び終え、レジカウンターに座って扇風機に当たる

店の入り口では、母親が電話に出なかったことを皮切りに

普段の愚痴をここぞとばかりに言っていた

「そんなんで旅行いって大丈夫なんか?」

山本は店内にあるカレンダーに目をやる

来週の金、土、日と

赤で何重にも丸がしてあった

母親のテンションの表れである

「戻りましたー」

「あ、美優紀ちゃんごめんなー」

「いえ、いいんですー」

「いやいや、暑い中すまんかったなー」

店の前で渡辺と両親が話しをしている声が店内に響き

山本はガタっと立ち上がった

「美優紀、すまんかった」

「・・・ううん。ええよ」

そういってスッと山本の横を通り過ぎる

「・・・美優紀?」

いつもと違う感じに山本は振り返る

「ん?なに?」

渡辺は首をかしげる

「美優紀ちゃん。暑かったやろジュース飲みなー」

山本の後ろから母が声をかける

「ええですよ。近い距離ですし」

「もー美優紀ちゃんはええ子やなー。彩とはえらい違いやで」

「なんやねん、それ」

「だいたいあんたはなー・・・」

「いやいや、母さんやって・・・」

「あーもう、やめーや」

母の説教が始まり

山本と言い合いを始め

父がなだめる

そんな様子を渡辺は寂しそうに見つめていた

不器用太陽-1年後、夏-⑧

それからというもの

山本はギターの練習に力を入れるようになった

渡辺の送り迎えは変わらず続けていたのだが

横山の店で食事をするということがなくなっていった


ザザーン・・・ザザーン・・・


山本は防波堤に来ていた

潮風が山本の頬をなでる

「よっ・・・」

山本は防波堤に腰かけ

ギターを抱え、弾き始めた

山本は現在新しい曲の練習をしていたのだ

山田のカフェでギターを褒められ、意欲的になっていたのだ

店をしている合間に練習をしているのだが

夜しかできず、昼間は家で弾くことができないのだ

そのため、車で配達をしている時に時間ができては

こっそりここで練習をしていたのだ

今日の天気は曇り空で

そこまで暑くないのでコンディションとしては最高だった

「んー・・・ここ微妙やねんなぁ」

山本は繰り返しフレーズを練習する

「彩ちゃん」

「へ?」

独特な声に山本はハッとして振り向く

「菜々さん・・・」

そこには山田が立っていた

「やっぱりー。どないしたんこんなところでギター練習?」

山田は山本の隣に座る

「あ、はい。昔っからここで練習してたんで・・・菜々さんこそなんでここに?」

「近くにばぁちゃんちがあって来てん」

そういってニコッと笑った

「そうなんですか?」

「うん、一人で住んでてなー。顔見に来てんねん」

そういって笑った

今日は水曜日で店は休みなのだ

「へー・・・でも、少しは休んでくださいよ」

「いけるよー。今日めっちゃ寝たし、店してても夜の営業するまでの間は3時間くらい休んでるし。私どこでもすぐ寝れる人やねん」

「・・・そうなんですか?」

得意気に言う山田を見て山本はくすっと笑う

「で、今なんの曲してんの?」

そういって山田は山本の練習している譜面を見る

「あーこれ好きー」

甲高い声で叫ぶ

「ほな、よかったです」

山本は笑う

「なぁ弾いてみてー」

「え、いや、まだ練習中で」

「ええから、ええから」

きらきらした瞳でみつめる

その屈託のない顔に山本は学生時代の渡辺を思い出して

くすっと笑った

「ほな、1回だけですよ」

「うん」

そういって山本はギターを弾きだした


―――

「ありがとうございましたー」

山本商店では渡辺が店の前でにこにこと客の後姿を見送っていた

「はぁ・・・」

店の中に入ると、途端に表情が暗くなる

「彩ちゃん・・・おそいなー・・・」

時計に目をやり、呟く

「美優紀ちゃーん。彩帰ってきた?」

奥の居間から山本の母親が顔をだす

「あ、まだですー」

ハッとしてニコッと笑顔をとりつくろった

「もーあの子また配達中にどっかの家でしゃべってるんちゃうん」

母親はぶつぶつ言いながら靴を履こうとして

「あ・・・」

レジカウンター下に落ちている紙に気づく

「あかん、忘れてた。今日横山さんとこ追加で配達あるんやった」

そういって慌てて品物を詰め出した

現在、山本も、そして父親も配達に出ている状態なので

母親は慌てて電話をするが・・・

「あーもう、2人ともでぇへんやん」

携帯電話を手に母親はむすっとする

「あ、あの、私行ってきますよ」

「え?でも・・・」

母親は困った顔をする

「彩ちゃんの自転車あるし、行ってきますよ」

「そう?ほな、私空気入れるわ」

そういうと母親は素早く店から出て行った


シャッシャッシャッシャッ・・・

店の横に置いてある自転車に

すさまじい勢いで空気を入れる山本の母親の後姿に渡辺は唖然としていた

「美優紀ちゃん、ほなよろしくー」

そういって振り返る

「は、はーい」

渡辺はハッとして自転車にまたがった


「んー自転車とか久しぶりやなぁ」

海沿いの道を走りながら

配達先を目指す

「あ・・・」

海沿いに見慣れたバンが止まっていた

その少し前には見慣れない軽自動車が止まっていた

「彩ちゃん?」

渡辺は道路をきょろきょろと見渡し、横断する

「あ・・・」

車の向こうの防波堤には

山本と

知らない女性が居た

「・・・誰?」

渡辺は自転車を止め立ち尽くす


2人はなにやら親しげに話しているようだった

しばらくすると

山本はギターをケースに入れ、立ち上がった

渡辺は見つからないように車の陰にとっさに隠れる

その時、強い浜風が吹き

渡辺は舞いあがる砂に目を閉じる

そして

「あ・・・」

再び2人を見た時

抱き合っているのが見えた

「・・・」

渡辺は、また再び自転車を漕ぎだした

渡辺の心は

今の空模様のようにもやもやしていた

不器用太陽-1年後、夏-⑦

そして土曜日

山本はギターを車に乗せ

山田のカフェへとむかった

「彩ちゃん、いらっしゃーい」

「あ、どうも・・・」

普段のジーパンにTシャツという格好ではなく

白いシャツに黒いパンツ、茶色の腰エプロンをした山田が現れ

山本は少し驚く



「すいませーん」

客が声を上げる

「あ、はーい。ごめんなー。彩ちゃん、準備してて」

山田は慌てて客の方へと向かう

オープンしたてだが、洒落たカフェなので店はにぎわいを見せており

一段高いステージでギターの準備をする山本を客は好奇な目で見つめていた

ステージ前には『ギター演奏 この中からお選びください』と

山本が以前山田に伝えていたレパートリーが書かれた看板が立てかけられていた

(うー・・・緊張するわ)

そんなことを思いながらチューニングをする

山本は厨房に目をやると

てきぱきと山田は料理をしていた

「へー・・・」

山田はおっちょこちょいなイメージだったのだが

仕事は手際がいいのだと感心していた

「すいません、弾いてもらってもいいですか?」

一人の客が山本に声をかける

「あ、はい」

「じゃあ・・・これで」

「わかりました」

山本は椅子に座りギターを構え

歌い出した

一応カフェの雰囲気に合わせて、アルペジオでしっとりと歌う

その歌声とギターの音色に客は聞き入っていた

曲が終わると、店内に拍手が響き渡る

「・・・」

山本は恥ずかしさの中に嬉しさを噛みしめながらぺこっと頭を下げた

――――

「いやーホンマよかったわー。ありがとう」

そういって、山田は

閉店となった店内でカウンターに座っている山本にコーヒーを差し出す

「あ、すいません」

山本はペコっと頭を下げる

「あと、これも」

スッとカレーを山本の前に置く

「あ、ありがとうございます」

「ええよ。この前お礼ちゃんとできてなかったし、それに演奏してくれたお礼や」

「・・・じゃあ、いただきます」

山本は手を合わせて、スプーンを手にとりカレーを一口食べた

「うまい・・・」

以前飲んだコーヒーもさることながら、料理も絶品で山本は驚いていた

「えへへーこう見えても料理得意やんねん」

カウンター越しに山田はニッと笑った

山本は夢中でカレーを食べ、コーヒーを飲んで一息つく

「・・・」

店内を見渡すと、テーブルの上には皿やコップがまだ残っていた

ぼーっと見つめていた視界に山田がスッと入り

テーブルの上の皿を片づけ始めた

「あの・・・もしかして一人でやってるんですか?」

演奏の緊張感から解放され満腹にもなった山本は

一人で山田が切り盛りをしていたことに気づく

「うん。そうやねん。経費削減」

山田は振り返って苦笑いをする

「あの、手伝いますよ」

「え?ええよー。座ってて。演奏までしてもうたのに」

「いや、それとこれとは話しは別ですから」

山本は立ち上がり、山田が片づけていたテーブルに近づく

「ええよ。ホンマに」

「いや、いいですよ」

そういって山本は皿を重ねはじめたので

山田は制止しようと手を伸ばす

「あ」

山本の指と山田の指が触れ

2人は顔を見合わせた

大きな山田の瞳が、さらに大きく見えた

「ご、ごめん。爪当たれへんかった?」

ハッとして山田は身を引く

「え?あぁ大丈夫ですよ」

「そう。よかったー」

そういって山田は何事もなかったように皿を片づける

「・・・菜々さん」

「へ?」

初めて名前で呼ばれ、山田は顔を上げる

「やっぱり手伝います。だって、ここで演奏してた私は従業員みたいなもんですから」

「え?」

「いいから、やってやいますよ。明日も朝から仕込みするんでしょ?」

そう言って山本は、ぼーっとしている山田の前にあるお盆を持ち、厨房の流しに運んで行った

山田のカフェは水曜日以外は営業することになっていて

一人で店をしているとなると、すぐに過労で倒れてしまうと思ったのだ

「彩ちゃん・・・」

「ほら、さっさと洗ってしまいましょ。菜々さん拭いてってくださいね。2人なら早く終わるでしょ」

山本はそういって食器を洗い始める

「・・・う、うん」

山田は山本の隣に並び

ふきんで食器を拭き始めた

「・・・ありがとう」

「ええですよ。気にせんといてください」

そういって山本はニッと笑った

不器用太陽-1年後、夏-⑥

山本は配達を終え店に帰る

「おかえりー」

山本の帰宅に渡辺はかけよる

「おう、ただいま」

「彩ーちゃんと配達いけた?」

「おう。なんや変な約束取り付けられてしもたけど・・・」

「なに?」

渡辺は首をかしげる

「なんか店行ったら小さなステージみたいなんがあって、そこで演奏してくれってたのまれてん」

「へー。そんなしゃれた喫茶店なん?」

母も興味があるのか山本の方に近づいてきた

「なんか古い家改装してやってた。古民家カフェとかいうんかなぁ」

「へー」

「彩ちゃん、やったらええやん」

渡辺はにこにこしていた

「え?」

「だって、彩ちゃんうまいんやもん。それにカフェで演奏とかかっこええやん」

渡辺はきらきらと目を輝かせる

「そ、そうか?」

「うん!」

「演奏っていつやるの?」

母が尋ねる

「なんか土曜日の夜ってゆうてた」

「ふーん。週一回なら行ってきたら?日曜は市場も休みやし。」

「へ・・・」

母の意外な反応に山本は驚いて固まっていた

「もーお母さんやってたまにはそんなことも言うわよ。私らだけ旅行で楽しい思いするんもなんやしな。息抜きや息抜き。ずーっと部屋でギター弾いてんねんから人前で演奏してきぃ」

「あ・・・うん」

母の言葉に山本は素直に頷いた

「でも土曜日やったら私行かれへんなぁ」

渡辺は口をとがらせる

土曜日は次の日が日曜日ということもあり横山の店は忙しく、休むことができないのだ

「あ・・・そうか」

山本もハッとする

「でも、行ってきて。彩ちゃんのギター、皆に聞かせてあげて」

「美優紀・・・」

「だって、彩ちゃんギター上手なんやもん。もったいないよ」

「・・・まぁ。じゃあ試しにしてみよか」

ストリートで歌っていた頃の記憶が蘇り

もう一度、人前で演奏するのも悪くないかもしれないと

山本は密かに思っていた


―――

「へーそんなカフェができたんや」

「そうやねん。今週末にオープンやって」

夜、山本は横山の店のカウンターで揚げだし豆腐を食べながら言う

「ええなぁ。私も演奏会行ってみたいわ」

着物を着た横山がカウンター越しで残念そうな顔をした

「土曜はにぎわってるもんなぁ。っていゆうても今日も繁盛してるけどな」

山本の目線の先には、家族がわいわいと座敷で食事をしていた

平日でも横山の店には多くの人が集まる

「おかげさまでな。みるきーが来てから繁盛してんねん」

そういって笑った

「美優紀も貢献してんねんなぁ」

山本はウーロン茶を飲みながら、料理を運ぶ渡辺に目をやる

横山と横山の母は着物を着ているのだが

渡辺には着物が動きづらいので、普通の服で仕事をしている

「ま、なんせ人気絶頂でいきなりの卒業宣言。芸能界引退やからな」

「・・・」

山本の表情が曇る

「気にしてんの?」

「へ?ベ、別に」

「彩のせいやないやん。みるきーが選んだことなんやから。私は嬉しいで、こうして一緒に働けて」

「・・・おう」

山本は静かに笑顔で接客している渡辺を見つめていた
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