気ままな詩人

48グループの創作小説を書いています。じゅりれな、さやみるきーメインになります。SKE、NMBの支店推しです。苦手な方は退室ください。

2015年06月

初恋の行方とプレイボール‐3年後-⑨

―――

「いやー女子野球もいよいよ世界大会まできましたかー。嬉しいですねぇ」

球場内の応接室で中西は出されたコーヒーを飲みながらにこにこと笑っていた

「私も嬉しかったよ。それだけ女子野球の人口と注目度が高まってきてるってことだからね」

向かいに座る野本もにこにこしながら話す

「それに、まさか監督が麻里子様だったとはねー」

中西は首を左に向け、にこにこと笑う

「・・・」

そんな中西の顔を見ないように

目をつぶりながらコーヒーを啜っている彼女は

篠田麻里子

元帝都女子高校野球部監督だ

中西とは同い年で高校時代は女子野球東京代表をかけて勝負したこともある


「あー出た。麻里子様のツンデレー。あ、クーデレ?」

中西はニヤッと笑い、肘で篠田をつつく

「ちょっ!なんだ、そのクーデレってのは。それに、様付けもいい加減やめろ」

篠田は中西につつかれ、コーヒーがこぼれそうになるのを阻止しながら言う

「えー。クールに見えて、実はデレデレってのをクーデレって言うんだよー。もう様付けがあだ名みたいなもんだからいいじゃん」

「はぁ・・・あのな。そんなくだらん話しするんだったら、さっさと病院戻れ。このヤブ医者」

「あーなにそれ。これでも、名医で通ってんだからねー」

「うるさい。野本会長、私はこれで失礼します。また、ホテルでお会いしましょう」

そう言うと、篠田はスッと立ち上がり

一礼すると部屋から出て行った

「ちょっ!待ってよ麻里子様!野本会長、コーヒーごちそうさまでした!」

中西は慌てて篠田の後を追う


バタン・・・!


「ははっ。相変わらずだな。あの2人は・・・」

野本はそう呟いて、クスッと笑った


―――――

「まーりーこーさーまー」

球場から外に出る真っ直ぐの通路に

中西の声がこだまする

「だから、様付けやめろって!響いてるだろ!」

篠田が振り返り、また声が勢いよく反響する

「麻里子様の声だって響いてますけどー」

「・・・」

篠田はプイッとそっぽを向いて外に向かって歩きだした

中西はにこにことその横を歩く

「まさか教師やめちゃうとはねー。驚いたなー。麻里子様意外と教師似合ってたのに」

「意外とはなんだ。意外とは。言わせてもらうが、中西が医者をやってる方が未だに信じられん」

「あーひどいなぁ。一応真面目に人助けしてるんだよ」

「・・・」

篠田は黙って歩き続ける

球場の外には桜並木があり

先ほどまで応援をしに来ていた観客たちが桜を見上げたり

レジャーシートを広げ、お花見をしたりしていた

「・・・」

篠田は立ち止まり

そんな人たちを見つめる

「嬉しいよね」

中西がぽつりと漏らした

「・・・」

篠田は中西の方を向く

「前田選手や珠理奈のユニホームを着た小さい子たちがいて、みんな応援に来てくれて・・・。女子のプロ野球だよ。昔じゃ考えられかった・・・」

「中西・・・」

「でも、桜の下に居るの見たら夢見てるみたいだけどねー」

そう言って、中西は苦笑いをした

「・・・夢じゃない」

篠田は桜の下に居る人々を見ながら呟く

「え?」

「夢じゃない。女子野球はこれからもっともっと注目される・・・だって・・・」

篠田は中西の方に視線を移し

「世界大会、優勝するからな」

フッと笑った

「麻里子様・・・」

「じゃあな。中西、そろそろ病院戻らないとヤバいんじゃないのか?」

「あははー・・・そうかも」

「あんまりサボってるとクビにさせられるぞ」

「大丈夫だよ。麻里子様みたいになんないから」

「私は自主退職だ」

「えー生徒に手を出したとかじゃなくて?」

「お前と一緒にするな。正式に監督に就任したんだ。まっとうな理由だ」

「あーひどーい。私にだって18歳以下の患者には手を出さないってポリシーはあるんだよー。まぁ上は何歳でもいいけどー」

「ストライクゾーン広すぎだろ」

「あははー。愛に年齢も性別も関係ないから」

「・・・ったく。じゃあな」

篠田はため息をつき、桜並木とは反対に伸びる道を歩き出す

「・・・麻里子様!」

「今度はなんだ?」

中西がまた呼びとめたので、篠田は怪訝そうに振り向く

「監督、給料安いよ」

「・・・あぁ」

「公務員みたいに決まった休みないしさー」

「あぁ・・・そうだな」

「・・・ホントに、よかったの?」

「・・・」

サァァァァァッ・・・

強い風が吹き

篠田と中西の間に

桜吹雪が舞う

「・・・いいんだよ」

篠田はぽつりと漏らす

「もともと、3年前から野本会長に誘われてたんだ。でも、帝都女子の監督がなかなか見つからなくてな。それに、前田達が秋葉女学院に敗れて悔しい思いをしてたのを下級生が見てたから、あと2年間は教員として監督を続けて、あいつらを全国に連れて行こうって思ってやってたんだ。まぁその次の年も秋葉女学院に敗れて去年の夏に返り咲きっていう結果だから1勝1敗ってとこだな」

「そっか・・・」

「ま、そんな事言っても結局は・・・ただの野球バカなんだよ私は」

そういって、篠田はフッと微笑んだ

「・・・麻里子様」

「試してみたいんだ。もう選手は無理だけど・・・監督として、自分がどこまで通用するのかを・・・プロの世界でな」

「・・・」

中西は何も言わずに微笑む

「じゃあな、もう呼び止めても振り向かないからな。あ・・・」

篠田はゴソゴソとポケットから何かを取り出し

「記念すべき1枚目だ。大事にしろよ」

そう言って、照れくさそうに中西に1枚の紙を手渡し、去っていった

「やっぱり、クーデレだなぁ。麻里子様は・・・」

そう呟きながら、中西は篠田の背中を見つめていた

手には

『女子野球日本代表 監督 篠田麻里子』

と、書かれた名刺が握られていた

初恋の行方とプレイボール‐3年後-⑧

「えー、みんなそろったかなー?」

球場内にある会議室に世界大会の選抜選手たちが招集されていた

会長兼監督である野本はマイクを持ち、選手たちの前に立つ

その横にはスーツを着た篠田が立っていた

「今日は皆さん疲れてると思うので手短に。リーグ戦が終わったすぐで申し訳ないんだが、選抜メンバーの親睦と強化のために合宿を1週間行います」

「げっ・・・」

珠理奈は思わず声を漏らし、慌てて手で口を押さえた

(あほっ、気ぃつけぇ)

その声に反応して、珠理奈の横に並んでいた山本が小声で言いながら

人差し指で「しっ」というポーズをとる

珠理奈は、まだ手を口に当てたまま、こくこくと頷く

「でも、さすがに疲労が残っていると思うので、明日と明後日の2日間はオフにします。この球場近くにホテルをとってますのでそこに宿泊してください。オフの日でも球場の設備は使って構いませんので、練習するもよし、リフレッシュするもよし。好きに過ごしてください。リリーガル以外の選手は急な話しで遠方だし申し訳ないと思っています。ただ、夏は1カ月以上東京で合宿となりますので、今回はその馴らしということで・・・」

「まじっ!?」

どこからか、野本の声を遮る声が聞こえて

選手たちは一斉に振り向く

「あほっ!だから声出すなってゆうてるやろ!」

一気に視線が集まり、山本は珠理奈に怒鳴る

「彩だって声出してんじゃん」

「あ・・・」

「あははー。相変わらずだなぁーお前らー」

大島の一言で他の選手たちもドッと笑った

「・・・」

篠田はその様子を眉をひそめて見ていた

「まぁ仲がいい方がいいから。そんなに難しい顔しなくてもいいんじゃないか?」

野本は篠田の肩をたたき、笑う

「はい・・・」

篠田の顔はまだ納得していなかったが、しぶしぶ頷いた

「えー。そして、キャプテンですが・・・」

野本の声に

選手たちが一斉にしゃべるのを止める

「大島優子を任命します」

「えっ!?いいんですか?」

急に名前を呼ばれた大島は思わず叫んでいた

「うん。よろしく頼む」

野本はにこにこと笑い

隣で、篠田がこくんと頷いた

「・・・はい。わかりました!皆、よろしくお願いします!」

「「おねがいします!!」」

狭い会議室に選手達の声と拍手が響き渡った

「はい。では、この後大島キャプテンに最初のミーティングを行ってもらいます」

「はい!」

大島は力強く頷く

「うん。いい返事だ。じゃあ、これ決めてくれなー」

そういうと、野本は後ろのホワイトボードに部屋割りの紙を張り付けた

「部屋はツイン。とりあえず、話しあってペア決めてくれ」

「は、はい」

まさかの部屋割りミーティングに大島も他の選手たちも一気に力が抜けた

「あと、大島は選手代表でこの後私らとホテルで記者会見な。他の選手はその後の懇親会に参加できるようにホテルに入っとくように」

「「はい」」

「じゃあ、そういうことで」

野本はニコッと笑うと

篠田と共に部屋を後にした



「ったく、珠理奈のせいで恥かいたやんか!」

扉が閉まるのを確認して、山本は隣に居る珠理奈を睨む

「いいやん。目立って」

「はぁ?全然ようないわ!それに、なんやその関西弁!2年神戸におるのにイントネーションがまんでやんか!」

山本は関西人以外が使う特有のイントネーションに身体がぞわぞわする感覚に襲われていた

「すまんなぁー」

「あーしばく!今すぐしばく!人がせっかくチケット用意してやったのに!」

山本はユニホームの袖をめくり、肩を出す

今回の試合でのバックネット裏の席は、東京リリーガルの応援席になっていたので

マウンドから一番見える席で玲奈に応援してほしいと思った珠理奈は

山本に頼んで玲奈の分のチケットも用意してもらっていたのだ

「まぁまぁ。久しぶりの再会にそんなに目くじら立てるなって」

大島が2人の間に割って入る

「でも、なつかしいなぁー」

「うんうん。高校ん時みたいだなー」

宮澤と秋元も2人の傍に来て笑う


「で、部屋どうする?珠理奈と彩はおんなじでいいかー?」

「いえ、私は一人がいいですっ!23名だから1人あまりますよね?」

珠理奈がシュッと手を挙げて言う

「はぁ?ずるいぞ珠理奈!私やって1人がええわ!」

珠理奈に負けじと山本も手を挙げる

「東京のチームの癖になにその贅沢。神戸で頑張ってる私をねぎらってくれてもいいんじゃない?」

「はぁ?それとこれとは話しは別やろ」

2人は手を挙げたまま睨みあう

「あははー。じゃあ喧嘩両成敗ってことでお前ら2人ペア決定なー」

大島はにこにこと名前を記入する

「ええっ!」

「ちょっと待ってくださいよ!」

2人は抗議しようとしたのだが

「だーめ。キャプテン命令」

大島はニカッと笑って、他の選手のところに行ってしまった

「まぁ、そういうわけだから諦めな」

「そうそう、チーム違うんだし。話したいこともいっぱいあるだろ」

宮澤と秋元はそれぞれ2人の肩を叩くと、他の選手のところへと挨拶をしにいってしまった

「話したい相手は別にいるんですけどー」

珠理奈は口をとがらせる

「あっ!珠理奈まさかお前・・・」

山本はハッとして

珠理奈の耳に顔を近づける

「1人部屋になって玲奈をホテルに誘うつもりやったんやろ」

「あ、ばれてた?ていうか、彩にしてはやけに勘がいいじゃん・・・あ、もしかして同じこと考えてた?」

「なっ・・・」

山本の顔が一気に赤くなる

「あーやらしー」

「そ、そっちの方がやらしいわっ!」

ますますムキになる山本を見て、珠理奈は笑っていた

「彩ー!!」

「わっ!」

そこに、黒に白字のチーム名が書かれたユニホームの人物が

勢いよく山本に抱きつく

「里歩!ったく、勢い良すぎやねん」

「里歩ちゃん。久しぶり」

「えへへー。珠理奈も久しぶりー」

そういって、彼女はニコッと笑った


彼女は小谷 里歩

山本とは小、中学校の同級生だ

高校は親の都合で京都になり

そこで女子野球をしていた

高校3年の夏、山本たちが全国大会に出場した時

初戦が小谷のいる京都の高校だったのだが

マウンドに上がっている小谷を見て

山本は驚きすぎて

ベンチでしばらく固まっていた

それを見た小谷は満足そうにピースをし

山本の隣で珠理奈もにこにこと笑っていたのだった

結果は秋葉女学院が勝ったのだが、小谷は満足そうにしていた

その後、プロ志望だったがドラフトには指名されず

プロテストを受け、博多ウォーブラに合格

地道に練習を重ね、2軍から1軍にあがり

今は中継ぎのピッチャーとして活躍している


「もーこうして一緒に野球出来ると思ったら嬉しいてなー」

小谷はにこにこと笑う

「せやなぁ。里歩と野球チーム一緒とか小学校以来やしな」

「よろしくね。里歩ちゃん」

珠理奈はすっと手を出す

「うん」

小谷もそれに応え、しっかりと握手をした

「私とは中学以来やなー」

そういって声をかけてきたのは小谷と同じユニホームを着た

岸野 里香 

博多ウォーブラのキャッチャーだ

山本とはソフトボール時代のチームメイトだ

プロ野球が発足した時に

ソフトボール界からも発掘をという動きがあり

何人かがプロテストを受験した

その中には岸野もいて

めでたくプロ入りしたのである

「ん?」

山本は首をかしげながら

岸野の肩に触り

「岸野やないか!」

「あのな、肩で私って判断するんやめてくれる?」

お決まりの挨拶をしていた

「よ、よろしくー」

珠理奈は関西のノリに押されながらも手を差し出す

「おう。よろしゅう。いやー私もあんたの球受けてみたかってん。楽しみやわー」

岸野も手を握り、ニッと笑う

「ゆうとくけどノーコンやで」

山本が間から言う

「あー何それ、高校んときよりよくなってんだからね」

「はいはい。それが今日散々ボール出しまくってた人の言う台詞ですかねー?」

「はぁ?そんなノーコンピッチャーに三振したんはどこのどなたですかねー?」

「あぁ?」

「なにさ?」

珠理奈と山本は睨みあう

「もーあかんでー2人とも喧嘩したらー」

「あははー。なんや珠理奈結構おもろいやん。彩のいじり方わかってるし」

おろおろとする小谷の隣で岸野はにこにこと笑っていた

「何やってんのよ珠理奈」

そこに白石と橋本が現れる

「あ、白石さん」

「ど、ども」

珠理奈と山本は睨みあいを辞め

ぺこっと頭を下げる

岸野と小谷もあわてて頭を下げた

「博多ウォーブラの小谷さんと岸野さんですよね。よろしく。」

そういって橋本が手を差し出す

「よ、よろしくおねがしいます」

小谷は目を輝かせながら握手をし

岸野もそれに続き

「あ、あのっ!橋本さんの球も今度受けさせてもらっていいですか?」

そう言った

「うん、いいよ。岸野さんの肩、いいよね。あの2塁までの送球スピードはなかなかでないよ」

「いやーそうですか?野球ってソフトのボールより小さいから投げやすいんですよー」

岸野は照れくさそうに笑う

「そうそう、岸野はソフト時代の外野ん時からめっちゃ肩良かったもんなぁ。さすが肩幅でっかまんやで」

そういって山本は笑う

「肩幅・・・」

「でっかまん・・・?」

橋本と白石は顔を見合わせ

岸野のがっちりした肩幅を見て

思わず噴き出しそうになるのを手で抑え、堪える

「なっ!彩!なに中学ん時のあだ名ここで暴露してんねん!!」

岸野は顔を赤らめながら山本に詰め寄る

「えーええやん。今はもう肩幅デッカマンZくらいにパワーアップしてるけどなー」

「あははーすごいなー里香ちゃんめっちゃ強そうやん」

小谷も岸野の肩を触りながら笑う

「あんたら、しばくでほんま」

岸野は眉間にしわを寄せていた

「ふふっ。じゃあ、パワーアップしたの見せてもらおうかな」

そういって橋本が笑い

「あ、あはは。任せてください!」

岸野は照れ笑いをした

「・・・あのっ」

山本は橋本にスッと手を伸ばす

「ん?」

それに気付いた橋本は、山本を見つめる

「投球練習の時、バッターボックス立っていいですか?」

「いいよ。打たれないように、こっちも気合入るから」

「よろしくおねがいします」

「こちらこそ」

そういって2人はしっかりと握手をした

「なんやねん、彩は相変わらずええとこもってくのー」

岸野は口をとがらせる

「あ、せや!あれー?さっきまでおったのに?もう出て行ってしもたんかなぁ?」

小谷はきょろきょろとあたりを見渡す

「あ?あ、ホンマや?どこいったんや?」

岸野も小谷とともに辺りを見渡していた

「どうしたの?」

珠理奈が尋ねる

「いや、彩に挨拶したいって子がおってんけど・・・。うーん。まぁええか。この後、懇親会あるし」

「せやな」

小谷と岸野は頷く

「ふーん・・・そうなんだ。って、もう出ていいのかな?」

珠理奈は観客席で待っている玲奈に会いたくて

早く切り上げたい気持ちが募っていた

「大島キャプテーン!もう部屋決まった人は出て行っても良いんですかー?」

珠理奈は手を挙げて叫ぶ

「おーいいぞーまたホテルでなー」

「はーい!じゃあ皆さん、また後で」

珠理奈はニッと笑って扉の方へ向かった

「あっ、ちょっと待て珠理奈!私も行く!ほな、失礼します!」

山本もペコっと頭をさげ、珠理奈の背中を追いかけて会議室を後にした・・・


が・・・

「松井選手!優勝おめでとうございます!世界大会の意気込みを!」

待ち構えていた記者たちが部屋から出てきた珠理奈を一斉に取り囲む

「げっ・・・」

おびただしいフラッシュに包まれ、珠理奈は苦笑いをする

「珠理奈ー」

「あっ山本選手!山本選手も一言!」

「え?」

あとを追った山本も記者たちに囲まれ

珠理奈の横へと押しやられる


東京リリーガル 前田、山本のバッテリー

神戸ストークス 松井、白石のバッテリー

としての2ショットは多いのだが

珠理奈と山本が肩を並べるのは高校時代以来無いので

記者たちはここぞとばかりに2ショットにしたかったのだ


「あーもう玲奈ちゃんのとこ行きたいのにー・・・」

珠理奈はむすっと口をとがらせる

「私やってはよ会いたいわ・・・とりあえず、さっさと終わらせてダッシュやな」

「うん・・・」

2人は小声で話しをし、記者たちに愛想笑いをしながらインタビューに答える


「あちゃー・・・こりゃ今日は無理かなぁ」

スタッフのIDを首からさげた指原はその様子を遠まきから見て

苦笑いをしていた

初恋の行方とプレイボール‐3年後-⑦

一方、バックネット裏の観客席では

「じゃあ、私野本会長のとこに行ってくるから」

表彰式と世界大会の選手発表が終わり

客席から人がぞろぞろと球場を後にするなか

中西が玲奈たちに言う

「はーい。先生、また実習でおうたらよろしくなー」

美優紀はにこにこと手を振る

玲奈も横山もペコっと一礼し、中西を見送った


「この後、珠理奈たちどないするんやろ?」

選手達も居なくなり、整備が始まった球場を見つめながら横山が言う

「うーん。ミーティングとかありそうやなぁ。時間かかるかなぁ」

美優紀も顎に手を当て、首をひねる

「・・・」

玲奈は時間がかかるという言葉に肩を落とした

「大丈夫やって。珠理奈やったらすぐに飛んできそうやし」

横山が玲奈の表情に気づき、ニヤッと笑う

「え・・・いや、その・・・私は何も・・・」

玲奈はドキッとして顔が一瞬にして真っ赤になった

「せやでー。珠理奈、玲奈ちゃんがおれへんかったら投げるん気合入れへんのやから」

「そうやなぁー。玲奈がおらんときボール多かったし。そわそわして試合に集中できへんかったんちゃうか?」

「そ・・・そんなことなと思うよ・・・」

玲奈はそう言いながらも、さらに顔に赤みが増して行く

そんな玲奈の反応が面白くて、横山と美優紀はにやにやしていた

「中西先生!」

そこに、麻友が人ごみをかき分けて玲奈たちのもとに駆け寄ってきた

「渡辺先輩!」

「お、お久しぶりです」

横山と玲奈は一礼する

それに続いて美優紀も頭を下げた

「うん。久しぶり。で、中西先生は?」

渡辺は肩で息をしながら言う

「あー・・・野本会長のことに行っちゃいました」

「あー!一足遅かったか!」

横山の話しをきいて、麻友は頭を抱える

「仕方ない。玲奈」

「は、はい」

「また、中西先生に会うんでしょ?その時、私も呼んで」

「は、はぁ・・・」

「じゃ。珠理奈との再会楽しんで」

そういうと、麻友は片手を挙げて去っていった

「はは・・・なんか渡辺先輩らしいなぁ」

「そうだね・・・」

横山と玲奈は苦笑いをする

「あ!なぁなぁ玲奈ちゃん!」

「へ?」

美優紀がいきなり声をあげたので、玲奈はドキッとする

「珠理奈に向かって腕で丸作ってたやんか。あれってどういう意味?」

「え・・・?」

「あーホンマや。確かに、私も気になっててん。珠理奈えらいはしゃいでたし」

美優紀の疑問に横山も頷く

「えーっと・・・今日診察日だったでしょ?次の診察1年後になったの。だからその報告。大丈夫だったら丸するって言ってたの」

「えっ!ほんま?よかったなぁ!」

「そりゃ珠理奈もテンションあがるわなぁー」

美優紀と横山はうんうんと頷き、にこにこと笑う

「えへへ・・・ありがとう」

・・・ホントの意味は違うんだけどね

そう思いながら

玲奈は誤魔化すようにニコッと笑った

参戦します

こんにちは、しゅうです(^∇^)

じめじめして嫌な天気が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

私は洗濯物に悩まされております(・_・;)


さて、先日玲奈のコンサートの先行販売に応募していたんですが

無事に当選しまして

参戦します!!(・∀・)

しかも一人で(;´▽`A``

AKB系が好きな子が周りに居ないので仕方ないことなんですがね・・・

初、名古屋なので緊張しております(;´Д`)ノ

とりあえず迷わないように気をつけたいと思います(・_・;)

あ。でも、開演の時間帯には

豊田スタジアム行く人だろうなーって思う人がいっぱいいるでしょうから

ついてったら大丈夫かな・・・笑


読者さんの中でも行かれる方いらっしゃいますかね?

卒業って思うと寂しいですが・・・

皆さん楽しみましょう!(・∀・)



8月は乃木坂と卒業コンサート・・・

うん、ハード勤務確定(・∀・)笑

頑張れ、私(;´▽`A``

初恋の行方とプレイボール‐3年後-⑥

「・・・3月で退職するとは聞いてたけど・・・まさか世界大会の監督になるとはなぁ」

1塁スタンド、東京リリーガルの応援席でそう呟くのは

秋葉女学院 野球部監督 高橋みなみだ

そして、その横には懐かしいメンバーが顔をそろえていた

「面白いね・・・この布陣。優子もアメリカで腕を磨いてるだろうから・・・」

渡辺麻友はタブレットパソコンを手に慣れた手つきで何やらデータを打ち込んでいた

「うわー。まゆゆ、またにやにやしてて気持ちわるっ・・・うっ」

その横で、ちゃちゃをいれる指原莉乃は麻友に肘鉄をくらわされ悶絶していた

「佐江ちゃんよかったー・・・。おめでとう・・・」

元野球部マネージャーの柏木由紀はぼろぼろ涙をこぼしていた

「でも、この選抜メンバーでグッズ出したらめっちゃ儲かるなー。うーん・・・」

指原は顎に手を当てて考える

「さすが、グッズ販売員・・・しっかりしてるね」

麻友が呟く

「まゆゆだって、優子が帰ってきたから大学で身体能力データもらおうとしてるでしょ」

「・・・」

図星を疲れた麻友は黙ってタブレットパソコンに目をやる

麻友は現在、東京の大学でスポーツ医学を学んでおり

実際にプロスポーツ選手に協力してもらい研究を行っていたりする

常に成績優秀なのだが

スポーツ選手のデータを採取している時の顔がにやにやしすぎていて

他の生徒はもちろん、教授ですらその時には近づかないという噂だ


指原は東京の某私立大学の経済学科に在籍しており、東京リリーガルの売り子のバイトもしている

プロ野球発足当初、何を販売していいか悩んでいた時に

指原がアイディアを投じ、そのグッズが人気を博したため

卒業後は社員として働かないかと勧誘されている

そのため、現在は売り子と言うよりはもっぱら販売事業部に入り浸っている


柏木は名古屋の大学の栄養学科に通う大学3年生だ

現在、宮澤と同棲中である

ドラフト会議でどこに所属しても大丈夫なように

東京、名古屋、神戸、博多の大学を受験していたという徹底ぶりだったらしい

スポーツマンを支えるのは食だと考えていて

毎日気合の入った料理がでてくらしい

最初はお世辞にもうまいといえなかった料理も、今や腕を上げ

宮澤も食べるのを楽しみに毎日すぐ帰ってくるらしい


「まぁまぁ。それより、今日はこの後皆オフなのかなぁー。せっかくだし集まれないかな?」

さっきまで泣いていたのはどこへやら、柏木は手をぱんっと合わせて笑っていた

「おーいいなぁ。こうやって東京に皆が集まることもそうないしなぁ」

高橋も頷く

「この後か・・・。でも、邪魔しちゃいけないんじゃない?」

麻友が冷静に言う

「え?何の?」

「はい」

首をかしげる指原に

麻友は双眼鏡を差し出し、バックネットの観客席を指差した

「えー・・・?あ、由依!玲奈もいる!ていうか、あんないい席・・・彩のやつ私にも譲ってくれてもいいじゃんかよー」

指原はむすっと口をとがらせる

バックネット裏の観客席はいわゆる特別席扱いのため、選手達が招待したい人のためにおさえていることも多い

ちなみに

指原の力ではまだバックネットのチケットをゲットするまでには至ってないらしい

「えっ!?みんな来てるの?」

柏木は甲高い声をあげて、指原から双眼鏡を奪い取る


「・・・珠理奈、東京久しぶりでしょ?玲奈と一緒に居たいんじゃないかな?」

「おーなんだなんだ?まゆゆ優しー・・・ごめんなさい」

キッと麻友が睨んだので、指原はちゃかすのを止め、みぞおちをかばう

「うーん・・・じゃあ仕方ないかな。ま、こればっかりは選手の皆で相談してもらわないとね」

そういって柏木は携帯を手に、何やら文章を打つ

「さっしーが聞いてきたら?一応スタッフなんでしょ?」

「そうだなぁー。じゃあ、ちょっくら行ってきますか」

そう言って指原は席を立つ

「じゃあ、私も行こうかな」

麻友もスッと立ち上がった

「え?どこ行くの?」

指原が首をかしげる

「決まってんじゃん!中西先生のとこだよ!選手の発表も終わったし、今ならお邪魔じゃないからね」

先ほど、双眼鏡でしっかりと中西の姿も確認していた麻友は

きらきらと目を輝かせていた

「・・・相変わらずなのね」

柏木はそんな麻友の顔を見て、苦笑いをしたのだった

初恋の行方とプレイボール‐3年後-⑤

「では、発表します」

そう言って、野本は名簿を手に読み上げる

東京リリーガル
前田敦子、山本彩、木崎ゆりあ、川栄李奈、島崎遙香、田野優花

名古屋スコープアウル
秋元才加、宮澤佐江、橋本奈々未、峯岸みなみ、北原里英、須田亜香里

神戸ストークス
白石麻衣、松井珠理奈、西野七瀬、生田絵梨花、白間美瑠

博多ウォーブラ
兒玉遙、宮脇咲良、小谷里歩、岸野里香、谷真理佳

呼ばれた選手たちは

他の選手たちよりも前に出て整列する

「すごいで!彩ちゃんメンバーや!」

「珠理奈・・・それに秋元先輩、宮澤先輩・・・ゆりあも・・・」

「川栄やって・・・すごいで!うちからプロ入りした人ら皆入ってるんやん!」

美優紀、玲奈、横山は皆それぞれに喜びをかみしめていた

「そして・・・レッド・エンジェルズから大島優子!!」

「「えっ!?」」

玲奈たちは驚いて顔を見合わせる

グラウンドに居る選手たちも、その名前を聞いてざわついていた


ジャーーーーン・・・―――

そのざわつきをかき消すように

大音量である音楽のイントロが流れ始めた

「この曲は・・・佐江!」

「ああ!優子の入場曲だ!」

秋元と宮澤は顔を見合わせる

そして

「みんなーー!!大島優子!!帰ってきたぜーーー!!」

その声に選手たちは一斉に振り返り

観客の視線もグラウンド後方に集まった


そこにはリリーフカーに乗り、観客に手を振る大島の姿があった

「「わぁぁぁぁぁっ!!」」

観客は大島の姿に興奮し

声援や拍手を送る

「はは、大島キャプテンは相変わらずやなぁ」

「ふふっ、さすがだね」

横山と玲奈はその様子をみて笑った


大島優子

元秋葉女学院野球部キャプテン

玲奈たちより1つ年上の先輩だ

プロ野球チームが発足してから東京リリーガルに所属し

初代盗塁王に輝いている

また、そのルックスとパフォーマンスからファンの人気も高く

グッズ販売はすぐに完売するという人気ぶりだった

しかし、去年の秋にアメリカの女子プロ野球チームと契約し

日本のプロ野球界から去っていったのだ

元々、前田の方が先にアメリカに行くかと噂されていたので

大島が渡米すると言う報道は

スポーツ新聞の表紙を飾ったほどであった


リリーフカーで手を振り続けた大島は

マウンド手前で止まり

グラウンドに降り立った


「優子ーーー!!」

「帰って来てんなら連絡くらいしろーー!!」

宮澤と秋元が駆け寄り、大島に抱きつく

「ごめんごめん。でも、驚いただろー?」

「ったく!やってくれるぜ!」

「アメリカ行ってサプライズのスケールが大きくなりすぎだっての!」

秋元、宮澤、大島は高校時代から仲が良く

プロ野球界でも

3人の仲の良さはチームを越えて公認されており

心友トリオと呼ばれていた

久しぶりのスリーショットに

観客も興奮し拍手と声援を送る

3人は手を振りながらその声援にこたえていた



「えー・・・大島選手、宮澤選手、秋元選手・・・とりあえず整列しなさい」

「「「あ・・・」」」

さすがに収拾がつかなくなったのを見越した野本が低いトーンで言う

3人はそそくさと代表選手の列に加わった

「優子先輩!お帰りなさい!」

「また一緒に野球出来るの嬉しいです!」

「もー登場かっこよすぎでしょ!」

皆、めいめいに大島に声をかけ

久しぶりの再会を喜んでいた

「えー・・・コホン・・・」

野本の咳払いがマイクのエコーで場内に響き

観客も、選手たちも静かになる

そして、それを確認した野本は

すーっと息を吸い込み

「以上、23名で女子世界大会に臨みます!!」

「「わぁぁぁぁぁっ!!」」

観客席から拍手の雨が一気に降り注いだ


「いやー楽しみだねぇ」

中西は玲奈たちの方をみてにこにことしていた

「ほんまぁ。でも、試合はアメリカなんがつらいなぁー。応援行けんし、しばらく会えんし・・・また遠距離や」

美優紀は口をとがらせる

「でも、喜ばしいことやんか。それに、試合終わったらすぐ帰ってくるし。応援せなな」

「うん・・・そやな!」

「そうそう、それに私たちも実習頑張らなきゃね」

「うー・・・玲奈ちゃんそれ言う?」

「ふふっ」

「うんうん、うちの病院に来たら先生がいろいろ教えてあげるねー」

中西もニヤッと笑い、美優紀の方を見た

「あー先生なんかやらしー」

美優紀は中西の顔を見て笑う

「あははー。でも美優紀ちゃんと玲奈ちゃんの白衣姿・・・いいねぇ。リアルタイムで見れない珠理奈たちに写メでも送って優越感に浸ろうかなぁ」

「中西先生も相変わらずですね・・・」

横山はそんな中西の様子をみて苦笑いをした



「えー・・・そして、今回の監督ですが・・・わたくし野本と元帝都女子高等学校野球部監督でありました篠田麻里子とで務めさせていただきます」

「え・・・?」

そのアナウンスに中西は目が点になる

そして、いつの間にか

スーツ姿の篠田が野本の隣で頭を下げていた

「「えーーーー!!」」

篠田のことを知っている珠理奈たちも

そして、観客席にいる玲奈たちの驚きの声が球場に響いていた

初恋の行方とプレイボール‐3年後-④

―――
試合が終わり

グラウンドに選手たちが整列する

前日にも名古屋スコープアウルと博多ウォーブラの試合があったため

4チームの選手が勢ぞろいしていた

「えーでは、これより表彰式をはじめます」

グラウンドに音割れのアナウンスが響く


「優勝!神戸ストークス!!」



「「わぁぁぁぁぁっ!!」」


グラウンドでチームのメンバーたちが優勝旗を手にはしゃぐ

玲奈は喜ぶ珠理奈の顔を見て

頬を緩ませていた

「あーあ。ええとこまでいってんけどなー」

美優紀はむすっと口をとがらせる

「せやなぁ。3対4・・・接戦やったなー」

隣で横山が拍手をしながら言う

「いやーいい試合だったなー。抜けだしてきたかいがあるよ」

中西もにこにこしながら拍手をする

「え?先生、抜けだしてきたんですか?」

玲奈は驚いて中西の方を向いた

「あー・・・あははー・・・うちの外来の看護師さん、診察終わったらカルテ整理しろってうるさくてさー」

中西はぽりぽりと頭を掻く

「それで、今日はそんな恰好なんですね」

玲奈は中西の服装がいつもと違うのは

看護師にばれないよう変装していたのだと気づく

「先生あかんでー。まぁでも私やったらケーキで手ぇうつかなぁ」

「みるきー。だめだよ」

玲奈が慌てて注意する

「あははー。美優紀ちゃんは優しいねぇ。でも、ちゃーんと患者さんは診察してきたから大丈夫。大丈夫。」

「もー・・・。先生、あとで叱られても知りませんからね」

玲奈はいたずらっぽく笑う

「ははは、厳しいなぁ・・・玲奈ちゃんはいい看護師さんになるよ」

そういって中西は苦笑いをした


あれから3年が経ち

玲奈は東京の大学に入学、看護学科の学生になった

この秋に臨床実習もある

高校3年生の時、進路で悩んでいた玲奈に

『松井は看護師とかいいんじゃないか?ほら、修学旅行で山本がのぼせた時に介抱してただろ?てきぱきしてて感心しちゃったよー』

という、野球部顧問 高橋みなみの発言がきっかけとなった

元々、長い入院生活をしていたので看護師は身近な職業だったのだが

近すぎるせいで、考えたこともなかったのだ

珠理奈は看護師になると言った玲奈に対してやたら興奮していたが

玲奈は何故そこまで興奮するのかよくわからずに首をかしげていた

そんなこんなで、玲奈は看護学科に進み

大学に入って驚いた

そこには、にこにこと手を振る美優紀の姿があったのだ


渡辺美優紀 大阪府出身 玲奈と同じ大学2年生 看護学科

山本彩の恋人だ

高校2年生の時に山本が東京に引っ越してしまい

遠距離恋愛をすることになってしまったため

大学は東京と決めていたらしい

幼い頃は喘息を患っており

将来は看護師になると幼心に決めていた

だが、数ある大学の中からどれを選ぶか迷い

玲奈に相談したところ

玲奈も看護学科を受験するということを知り、同じ大学を受験したのだ

現在、美優紀はソフトボール部のピッチャーをしており

玲奈はマネージャーをしている

「あー、また珠理奈たちと野球したいなぁ・・・時間ないかなぁ」

横山は、はしゃぐ選手たちを見ながら呟く

「ゆいはんはいつまでこっちに居るの?」

玲奈が尋ねる

「とりあえず1週間はおるよ」

そういって横山は笑った

横山由依 京都の某大学 教育学部の2年生だ

出身は京都だが、中学の時に転校して東京へ

秋葉女学院 野球部ではキャプテンを務めていた

高橋先生みたいに教育者として野球を教えたいという思いから

教育学部に進んでいる

ちなみに、京都では祖母の家で暮らしている

今回は春休みということもあり、試合を見に東京に帰ってきたのだ



ワイワイと盛り上がっているグラウンドに

一人のスーツを着た女性がマイクを持って立つ

「お、野本会長」

中西はその人の姿を見て、前のめりになった

彼女は 野本 裕子 

元女子高野連の会長だったのだが

プロ野球協会設立時に会長に抜擢された

元々、中西が高校の時から野球の監督をしていたので

女子野球会の第一人者と言っても過言ではない

日焼けした肌とオールバックで髪をひとつに束ねている姿は

スーツよりもユニホーム姿の方が似合ってるな・・・と

中西は苦笑いをした


「えー・・・では、続きまして・・・日本代表選手の発表をしたいと思います」

その言葉に、先ほどまではしゃいでいた選手たちの動きが止まる

他のチームの選手も、客席もどよめいていた

「え?なに?」

美優紀はきょろきょろとあたりを見渡す

「これは・・・ひょっとして・・・」

中西は顎に手をあて、にやにやと笑う


「この秋、アメリカで女子野球世界大会が開催されます!!」


「「・・・わぁぁぁぁぁっ!!」」


少しの沈黙の後

会場は一気に盛り上がりを見せた

初恋の行方とプレイボール‐3年後-③

―――

ドンドン!

「行け行け!リリーガル!!」

「打てー!!」

球場ではスタンドから声援や鳴り物の音が響いていた

東京リリーガル対神戸ストークスの対決



現在、1回表、東京リリーガルの攻撃

パンッ!

「ボール!フォアボール!」

審判の声で

東京リリーガルの選手が1塁に進む

「はぁー・・・」

ため息をつくのは

青い帽子、青いストライプのユニホームに身を包んだ

神戸ストークスのピッチャーだ

「・・・」

ピッチャーはバックネット裏の観客席に目をやる

「・・・来て、ない・・・か」

そう呟き

青い空を見上げた

―――

「あーもう始まってる!」

球場の外から聞こえる歓声で中西は焦る

球場のポールには

国旗と女子プロ野球の旗

そして、2チームの旗が揺らめいていた

「はぁ・・・はぁ・・・」

「玲奈ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫・・・です・・・。それより、先生・・・入りましょう」

玲奈は息を整えながら

鞄の中からチケットを取り出す

「あ、そうだね」

中西もゴソゴソとチケットを取り出した


「どうぞー」

穏やかな係員の声を聞いたかみたかで

2人はまた駆けだす

玲奈が高校3年生の時

女子プロ野球が設立された

全国に4チームあり

東京の『東京リリーガル』

愛知の『名古屋スコープアウル』

兵庫の『神戸ストークス』

福岡の『博多ウォーブラ』がある

現在、女子野球は昼メイン、男子野球は夜メインという形になっている

未だ、男子プロ野球の人気には勝てないが

女子野球も可愛い子がいると

じわじわと人気を集め

テレビやラジオ、雑誌などのメディアでも取り上げられるようになった


「あー来た来た!ここやでー!!」

バックネット裏の席で一人の女性が立ちあがり

自分の横の通路側2席を指差す

その姿を見つけた玲奈と中西は

階段を一気に駆け降りる

「みるきー!ごめんね!」

そう言って玲奈はその女性の隣に座った

中西もそれに続き、玲奈の隣に座る

「今めっちゃええとこやで!」

興奮気味にしゃべる彼女は

渡辺美優紀 

現在、東京の大学に通う2年生だ

「2人ともいけるん?めっちゃ息きれてるやん」

その隣で、おっとりした口調で話すのは

横山 由依

秋葉女学院 元野球部 キャプテンだ

「だ、大丈夫・・・それより、今って・・・」

玲奈は息を整えながら言う

「そうそう、今真っ最中や」

そういって 横山はグラウンドを指差す

「・・・」

玲奈は胸に手を当てて、きゅっと握った

「1ストライク、2ボール・・・。いやー面白いねぇ」

そう言って中西もニヤッと笑った


―――――

「ちょっと!ちゃんと投げなさいよ!さっきのファールじゃなかったら、ホームランになってたわよ!」

マウンドで怒鳴るのは神戸ストークス キャッチャー白石 麻衣だ

「すいません・・・」

ピッチャーの松井 珠理奈は肩をすくめる

「もう・・・せっかく東京に帰ってきたんだから、いいとこ見せなさいよ」

白石は珠理奈の肩を叩き、戻っていった

「そう言われても・・・見せたい相手が・・・」

珠理奈は目線をバックネット裏にやり・・・

「いた・・・」

確かに

はっきりと

珠理奈の目に玲奈が映る

「玲奈ちゃん・・・」

珠理奈はそう呟き

玲奈を見つめたまま固まっていた

そして

玲奈も珠理奈の視線に気づき

手で大きく丸を作って掲げた

「ほ・・・ほんと?やったっ!!」

珠理奈はマウンドでガッツポーズをとる

「ちょっ・・・」

白石が焦って注意しようと立ちあがった時

「こらぁ!珠理奈!」

バッターの声に

全員の視線が集まる

「何してんねん!ちゃんと投げぇ!そんなんやったらホームラン打ったるからな!」

そういってバットを珠理奈の方に向け叫ぶのは

赤いユニホームに身を包んだ

東京リリーガル キャッチャー 4番 山本 彩だ

「君っ!バッターボックスで叫ばない!」

「あ・・・すいません」

審判の注意に、山本はぺこぺこと頭を下げ苦笑いをする

「・・・そりゃーだめだよなぁ。せっかく玲奈ちゃんが見に来てくれたってのに」

珠理奈はマウンドで白い粉をつけ、フッと息を吐く

「ホームランなんか・・・」

そして、大きく振りかぶって

「打たせるかよっ!!」

投げた!!


わぁぁぁぁぁっ!!


ひときわ大きな歓声が

球場に響き渡った

初恋の行方とプレイボール‐3年後-②

病院を出て

街道を玲奈と中西は走る

「あー駄目だっ!」

信号が赤に変わり

2人の勢いを止めた

「あーもう・・・」

中西は肩で息をしながら

信号が変わるのを今か今かと待っていた

「はぁ・・・はぁ・・・」

玲奈はその横で息を整えていた

ふと横を見ると

信号待ちをしているのに

後ろを向いている人がいた

玲奈はその人の視線を追い

振りかえる

そこには商店街の入り口にある電気屋があった

何台ものテレビが街道の方に向けられ、いろいろな番組が映されていた

信号待ちの時間つぶしになるのか

玲奈の隣にいた人以外にも

画面を見ている人が多くいた

「あ・・・」

玲奈はその中のひときわ大きいテレビだけ

皆の視線が集まっていることに気づく

そのテレビには野球のグラウンドが映し出されていた

そして

マウンドにいるピッチャーが

スッと構える

「・・・」

その動作に

玲奈は息を飲む


「玲奈ちゃん!ほら、早く!」

「へ?・・・は、はい!」

そのこれに、玲奈は一気に現実に引き戻される

ピッポッ、ピッポッ・・・

ガヤガヤガヤ・・・

引き戻された瞬間、一気に音が耳に入って来て

玲奈はくらっとした

(いけない・・・急がなきゃ)

玲奈はふるふると頭を振り

慌てて人ごみをかき分けながら中西の後を追った


『さぁ、東京リリーガル対神戸ストークスの対決。春のリーグ戦もいよいよ大詰め、これで優勝が決まります』

テレビからは、そんな音声が人ごみにまぎれて聞こえていた

初恋の行方とプレイボール‐3年後-①

病院の待合室で一人の女性が待っていた

ボタンが閉められたベージュのトレンチコートの下から紺色のスカートが見える

彼女は先ほどから左腕にしている細い腕時計を見て

そわそわしていた

そう、もう1時間以上もこうして診察を待っているのだ


「28番の方、どうぞー」

診察室のドアが開き、看護師がそう告げる

その声を聞いて、彼女は慌てて立ち上がった


―――

「ごめんねー。今日は紹介の患者さんが多くて診察がおしちゃって・・・」

そう言いながらカチャカチャとキーボードを打つのは

循環器医師 久保田 健一だ

「そうなんですか・・・」

「で、調子はどうかな?・・・松井さん」

久保田はくるっと椅子を回し、彼女の方を見て笑った

「はい、調子いいです」

彼女、松井 玲奈はそういって笑った


―――初恋の行方とプレイボール 3年後  ――――

「・・・」

久保田は心電図を真剣な顔つきで見つめ

「うん。問題ないねー。じゃあ、もう次は1年後にしようか」

「え・・・ほ、本当ですか!?」

少しの沈黙の後、玲奈は興奮気味に言う

「うん。手術してから3年、異常もないからね。まぁ来なくていいとは言えないんだけどね」

久保田は苦笑いをする

「いえ、そんなことないです」

玲奈はわたわたと手を振り

「・・・あ、あと・・・」

少しの沈黙の後、顔を赤らめながら久保田を見る

「ん?」

「傷の事なんですけど・・・」

「あ、形成?うん。いいんじゃないかな」

「へ・・・。いいんですか?」

玲奈の顔がパッと明るくなる

「うん、もう今年二十歳でしょ?だから、大丈夫だよ。紹介しとくからさ、この後形成外科で診察受けれるかな?」

「あ・・・すいません、今日は・・・」

玲奈がそう言いかけて

「あ、そうか!今日はダメだよね。じゃあ、今度いつ来れるかな?形成は火曜日と金曜日が診察日なんだけど」

久保田はハッとしてパソコン画面に映し出されていた『形成外科本日受診』という文字を消す

「えっと・・・じゃあ来週の金曜日の午前でもいいですか?」

「わかった」

久保田は素早くキーボードを打ち、隣のプリンターからガーガーと音を立てて1枚の紙が出てくる

「はい、予約券。また時間あったら顔見せに来てね」

「は、はい。ありがとうございます」

「どう?大学生活?」

「あ、何とかやってます」

玲奈は立ちあがろうと浮かしていた腰をまた下ろす

「そろそろ実習もあるんじゃない?うちの病院にも来るの?」

「は、はい・・・秋くらいですかね・・・」

そういって玲奈は診察室に掛けられている時計をちらっと見る

「あ、ごめん。急いでるよね。じゃあ、楽しんできてね」

「はい、すいません先生!ありがとうございました!」

玲奈はそう言うと素早く椅子から立ち上がり扉を開けて出て行った

「あーあ。僕も見たかったなぁ・・・」

久保田はそう呟きながら、カルテを書く

「久保田先生。中西先生来てませんか?」

診察室の奥のカーテンから看護師がひょこっと顔を出してきた

「え・・・来てないよ。どうしたの?」

「診察終わったと思ったら急にいなくなっちゃって・・・病棟にも居ないし。ここに来てないかなーと思って」

「あー・・・」

久保田はハッとして、苦笑いをした

「知ってます?カルテ整理頼んでたんですけど」

「いや、ごめん。わかんないや・・・」

「そうですか。・・・中西先生、患者受けと手術の腕はいいんですけど・・・カルテ整理だけは苦手なんですよね・・・」

看護師はため息をつき、ぶつぶつと文句を言いながらカーテンの奥へと再び消えて行った

「・・・ごめんよ。ほんとの事言ったら僕が怒られちゃうから」

久保田はそう呟いて、苦笑いをした

――――

1階で会計が終わると

玲奈は正面玄関に向かって駆けだした


ガーー・・・

気持ちとは裏腹にゆっくりと開く自動ドアの隙間を抜けて

玲奈は外に跳び出す


その時

サァァァァッ・・・

春風が身体を通り抜け

そして

病院脇の桜の木々たちから

花びらが一斉に舞った


「・・・きれい」

玲奈は足を止め

3年前の事を思い出していた



高校2年の春・・・

私は、この桜をいつまで見れるのだろう・・・

そんなことを思っていた

でも・・・今は・・・

玲奈はそっと胸に手を当てる


「おーい!玲奈ちゃーん!」

「え?」

声のした方を見ると

桜の下で手を振っている人物がいた

玲奈は目を凝らし、その人を見る

「あ、中西先生!」

そういって玲奈は桜の木の下の方に向かって走る

「しーっ!今は名前で呼ばないでっ!」

「え?」

いやに慌てた様子に玲奈はきょとんとした

この女性は 中西 優香

3年前の夏に玲奈の心臓の手術をした心臓外科医だ

元々アメリカに留学中だったのだが

去年の秋からこの病院に帰ってきていた


「・・・」

玲奈は中西の格好を頭からつま先までじっくりと眺める

いつもは白衣にYシャツと、かっちりした格好をしているのに

今日は帽子に眼鏡、そしてラフなグレーのパーカーに黒のパンツ・・・

おまけに靴はスニーカーだ

まるで、天気がいいから散歩に行きますというような格好に

玲奈は首をかしげる

「あ、あの・・・」

玲奈が格好について聞こうとした時

「げっ!」

中西が正面玄関の方を見て苦笑いをした

「へ?」

玲奈は反射的に振り向く

正面玄関にはきょろきょろとあたりを見渡す看護師の姿があった

「玲奈ちゃん!とりあえず行こう!」

中西は玲奈の手を取る

「せ、先生?」

「早くしないと、試合始まっちゃうよ」

「あ!はい!」

その言葉に、玲奈はハッとして中西にスピードを合わせて走り出した

タタタタ・・・・

中西に手を引かれながら

玲奈は花びらが舞う中を走る・・・

「ふふっ・・・」

「え?どうしたの?」

後ろで玲奈が笑ったので

中西は一瞬振りかえった

「ううん。なんでもないです、先生」

「そう?じゃあ、急ごうか。今タクシー乗っても道混んでるし。走った方が早いから!このままいくよ!」

「ふふっ・・・はいっ!」

中西の台詞に

玲奈はまた笑った


3年前は

玲奈は走ることすらできなかった

でも

今は、違う

運動制限もなくなって

あと何回見られるのだろうと思っていた

この桜並木の下を走っている

3年前とはすべてが違っていて

それがなんだか、たまらなく可笑しくて

玲奈は中西の背中を見ながらクスッと笑った

(あ、また笑っちゃった・・・でも、先生が走ろうだなんて・・・やっぱり可笑しい)


そんなことを思いながら

玲奈は心臓が跳ねる鼓動を

しっかりと感じていた
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