気ままな詩人

48グループの創作小説を書いています。じゅりれな、さやみるきーメインになります。SKE、NMBの支店推しです。苦手な方は退室ください。

2016年05月

あとがき

『風ぐるま』を読んでいただいてありがとうございました(^∇^)

たまたま、さや姉の袴姿とみるきーの着物姿を見まして

一青窈さんの「かざぐるま」が出てきて

時代物ならではのジレンマとかを書きたいなーと思って

書き始めたのですが

いやーこんなに長くなるとは・・・(^▽^;)

一応、バッドエンドも考えたりしてたんですけど

そういうのは書く側もずーんとなりますので、却下しました笑

やっぱり、ハッピーエンドの方がいいですね

ラストは四国の山に逃げるって考えてました

関西から逃げるって言ったら四国だろ!平家の落ち武者だってそっちに逃げたし(・∀・)

みたいな感じで阿波の国に逃げていただきました笑


男として生きることを選び、身寄りのない子の親になり

家族になる


そういう家族の形もありかなぁと・・・(^∇^)


途中、時代物なので心折れそうになりましたが

書き終えることができてほっとしております

またしばらく更新出来ないとは思いますが

気長に待っていただけたら嬉しいです(;´▽`A``

風ぐるま34終

「お、この短時間でよく起き上がれたな」

優子は感心して手を叩く

「今そういう場面じゃありませんよ」

麻友は優子を肘でこついた

「・・・久々にいい一撃だった」

田端は顎をさすりながら言う

「なんだよ、負けたのに死んでねぇのかよ!情けねぇ」

「・・・どうやら新しい忍びは殺しはしないらしくてな」

「はぁ?」

「だから、私も新しい武士になってみようかと・・・」

「・・何いってんだ?」

太助は顔をしかめていたが

「・・・今まで、すまなかった」

頭を下げた田端を見て

ぽかんと口を開けた

「喜一郎様の暴走を止められなかったのは私にも責任がある。それに・・・無理やり連れてこられたお前は一番の被害者だと言うのに・・・きつく当たってしまって・・・」

「な・・・何今更いってんだよ・・・」

太助は動揺する

「喜一郎様には、お前を息子と認めさせる。祈祷師とも縁を切るよう説得する・・・。もちろん、家臣にも事情を話す・・・・」

「はっ・・・。何夢物語みたいなこと言ってんだ!簡単に変わるわけねぇだろ!」

「まぁ・・・すぐには変わらないだろうな」

「はんっ!」

太助は鼻で笑う

「だが・・・やってみようと思ったのだ」

「・・・」

「お前がこれから・・・松永太助として生きていけるように」

田端は真っ直ぐ太助を見つめる

太助は驚いて目を見開いていたが

「・・・っ」

口をへの字に曲げ

目から涙がにじむ



ずっと・・・

ずっと・・・

そう呼んでほしかった・・・



「・・・うあぁぁぁぁっっ!!」



太助は大声を上げ

ぼろぼろと涙をこぼした


―――――

松永家の一件は

こうして幕を閉じた

田端により、ことの事実は喜一郎が留守の間に

悪人集団が押し寄せ、乱闘になったということでおちついた

家臣たちも自分たちが盗みを働いたり、金品を受け取っていたという負い目から

誰も真実を口にすることはなかった

喜一郎が帰ってきた後

田端と太助は何度も頭をさげ、説得した

そして・・・

喜一郎が太助を息子と認めることに至ったのは・・・

この事件の2年後・・・

清吉が亡くなる1年前の事だった


そして・・・

松永家は松永太助が後を継ぎ

一男一女の子供も出来た

もちろん・・・妻は美優紀ではない

美優紀はあの事件の際

切られて死んだ・・・ということになっていた


――――

そして・・・

あの事件から二十数年後・・・


ミーンミンミン・・・

蝉が鳴き、じりじりと太陽が地面を照らす


パンッ!パンッ!

庭で洗濯物を干す一人の女性が居た


「ごめんください」

「はーい」

声を聞き、女性はパタパタと玄関へ向かう

そこには飛脚が居た

「文を預かってまいりました!」

「ごくろうさまです」

そういって、女性は頭を下げる

庭に戻り、縁側に腰掛けその文を開いた

『拝啓――
毎日暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?。
私たちは変わらず元気でやっています。毎日子供たちの世話に追われ、歳を重ねるごとに体力の衰えを感じますが、子供が家事を手伝ってくれて成長を感じて幸せです―――』

「ふふっ。元気にしてるんやなー。2人とも」

女性は青い空を見あげてクスリと笑った

手紙の最後には

『岩田 茂吉、由依様  

                
 山本 彩、美優紀』

と、書かれていた


――――

「今度は地図・・・ですか?」

わいわいと賑わう茶店で麻友は目を見開く

「そうそう、今ここまで歩いてきててさー」

そして、その前で団子をむしゃむしゃと食べる優子が居た

「半蔵さんと旅するっていうのが不思議ですね」

そういって麻友はお茶をすする

「まぁなぁーでも昔と違って丸くなってさー。結構面白いんだぜ。まぁ俳句は何いってんのか全然わかんねぇけど」

優子はけらけらと笑う

「・・・本当によく誘われましたね」

「だってさー」

優子はずいっと麻友に近づき

「私くらいの忍びじゃなきゃ半蔵さんのペースにはついて行けねぇだろ?」

そういってニッと笑う

「・・・そうやって、口説かれたのですね」

「え?」

「いえ、いいです。優子さんはいくつになっても楽しそうですね」

「ははは!人生楽しまないとなー。あ、そういや美優紀と彩は元気にしてんのか?」

「そうですね・・・あの件から優子さんはながらく会っていませんものね」

「そうだよー。あんな船使わなきゃいけねぇとこなかなか行けなくてさー」

「・・・私は定期的に行ってましたけど」

「麻友はそういうとこマメだからなー。地図作りんとき寄ってみようかなー」

「・・・半蔵さんがいいといえば・・・ね」

「うーん」

優子は顔をしかめる

「・・・元気でやっていると思いますよ。もう、私もしばらく行っていませんが・・・」

「そうなのか?会いたくねぇのか?」

「まぁ・・・会いたいですよ。でも、今は五郎様の体調のことがあるので・・・それに・・・2人はとても幸せそうでしたから・・・心配していませんよ」

「ふーん・・・そんなもんかね」

「ええ、そんなもんです」

そういって、麻友は微笑んだ

――――

「先生!ありがとうございました!」

道場で正座をした子供たちが横一列に並び、頭を下げる

「ありがとうございました」

そういって、師範も頭を下げる


「先生、さようならー」

「はい、さようなら」

子供たちはじゃれあいながら道場を後にする


ここは阿波の国の山間部・・・

寺子屋と道場が併設されており

子供たちが通っている


「はっ・・・はっ・・・」

子供たちが帰った道場で師範は木刀を振る

左腕だけで振っているのに、風を切る音が聞こえた

「先生、精が出るねぇ」

道場の開けはなった戸のほうから

頭に手ぬぐいを巻いた、老婆が声をかける

「いえ」

師範は振り返り、にこっと笑う

その左頬には

うっすらと傷跡が残っていた

「これ、うちでとれた野菜。ようけできたけん食べて」

そういって、籠にはいった野菜を見せる

トマトやキュウリ、なすなど

夏野菜があふれていた

「いつもすいません。食べざかりが多いもので助かります」

「ええんよー。ほんまにいっぱいできたけん」

そういって、にこにこと笑った

「ありがとうございます」

そういって頭を下げた

その頭には白髪が見え、老婆は目を細めた

「あんたも、歳とったなぁ・・・今じゃすっかりなじんで・・・立派な先生や」

「ええ・・・おかげさまで。片腕でしか刀が振れないのに、みんなついてきてくれて・・・ありがたいです」

そういって、笑った

――

籠を手にし、家へと戻る

家は寺子屋からそう遠くなく

すぐに家が見えてきた


ザッ・・・


「あ、お父様ー」

玄関先で遊んでいた幼い女の子がとてとてとかけてきた

その手には風ぐるまが握られていた

最近のお気に入りで、ずっと持っているのだ

「幸(さち)ただいま。今日は野菜いっぱいくれてんでー」

そういって籠を見せる

「わー!トマトー」

そういって。ぴょんぴょんと飛び跳ねる

「あら、帰ってきたの?」

声を聞き、家から女性が出てきた

「おかえりなさい。彩ちゃん」

「おう、だたいま。美優紀」

そういってニッと笑った



あの事件後・・・

彩たちは身をひそめ

そして、船で阿波に向かい

山間部のこの村に移り住んだのだ

2人は最初ほそぼそと生活を送っていたが

ある日、決心をした

それは寺子屋と道場を開くということ

そして・・・もう一つは身寄りのない子たちを育てるということだった

彩は父となり

美優紀は母となり

多くの子供たちを育てており

一番年下が幸である


「お菊さんが野菜くれてん」

「そうなん?わーようけくれたんやなぁ。ほな準備するわ」

「おう。ほな、私も手伝うわ」

「ええん?」

「おう」

「幸もするー」

「よしよし、ほな野菜洗おうか」

そういって、彩たちは庭で野菜を洗う


袖をまくった彩の腕には

深い傷跡があった

彩はあの日の戦いで

右腕を負傷し、日常生活に支障はないものの

刀を握ることはできなくなってしまった

そして、左頬の傷も・・・まだうっすらと残っていた


「おーわり」

野菜を洗うのに飽きた幸は走っていってしまった

「あ、おい・・・はぁ、あいつは落ち着きないなぁ」

「あれくらいの歳は仕方ないよ」

美優紀はクスッと笑う

「今日な・・・お菊さんに言われたんや」

「ん?」

「歳とったなぁって」

「そうやね。気付けばけっこうたってたなぁ」

美優紀は感慨深く空を見上げた

「なぁ・・・美優紀」

「ん?」

彩に呼ばれ、美優紀は首をかしげる

「その・・・幸せか?」

ちらっと照れくさそうに聞いた


この人は・・・何十年たっても変わらへんな


美優紀はクスッと笑い

「うん。幸せやで」

そういって、彩を見つめた

「お・・・おう、それなら・・・ええんや」

彩は照れくさそうにごしごしと野菜を洗う

「・・・」

美優紀はその姿をじーっと見つめ

「えいっ」

彩に抱きつく

「な・・・」

「私、彩ちゃんと一緒になれて、子供育てて、家族になれて・・・ほんまに幸せやで」

「・・・」

彩は愛おしそうに美優紀を見つめる

「あー、私もお父様にくっつくー」

そういって幸は2人に向かってかけてくる

その姿を見て

2人は顔を見合わせて微笑む

「おいでー幸」

「おう、来い来い」



カラカラカラ・・・


風が

幸の風ぐるまを回した・・・




―――FIN―――

風ぐるま33

このままやったら・・・

美優紀が・・・

彩は目を見開く

その時

キイィィン!

突然、刀が止まった

「え・・・?」

ドサッ!!

理解できないまま

彩は地面に打ち付けられる

「っ・・・」

「彩ちゃん、いける?」

美優紀はガバッと起き上がり

彩の顔をまじまじと見る

「お、おう・・・」

彩はむくりと起き上がると

「間一髪・・・というところでしょうか?」

そこには、短刀で太助の刀を受け止めている麻友がいた

「麻友さん!」

「おっと!私も忘れてもらっちゃ困るぜ」

そういって

1本のクナイが飛ぶ

「っ!」

それは太助の腕をかすめ

太助は麻友から離れ

距離を取る

「しゃっ!当たった!」

「優子さん!」

優子はストッと麻友の横に立つ

「ちっ・・・邪魔ばかりしやがって」

太助は顔をしかめる

「彩様・・・すぐに手当てを」

麻友は彩たちの方に歩み寄る

「待て・・っ!」

太助は切りかかろうと歩を進めたが

体が一気に重くなり

膝をつく

「・・・っ」

びりびりと痺れる感覚に襲われ

刀も握れなくなった

「お、効いてきたか?即効性があんだよ。その痺れ薬」

優子がニヤッと笑う

「貴様・・・」

「クナイあと1本だから一か八かだったぜー。でも、やっぱ私って天才」

優子はそういって笑う

「彩様・・・止血を」

麻友は淡々と彩の手当てをする

「おい、誰か褒めろよ」

優子は口をとがらす

「ふざけんな!」

太助はぐっと手に力を入れ

何とか上体を持ち上げる

「「・・・」」

麻友と優子は太助を睨む

「どいつもこいつも・・・気にくわねぇ・・・なんなんだよ・・・・」

太助は血走った眼で睨む

「・・・何ゆえこのようなことをしたのですか?」

麻友は太助を見つめ、静かに言った

「はぁ?なんだよ?盗みの事か?それはさっきも言っただろ?家臣に金渡すためだよ。渡して親父より俺の方につくように言ったんだよ!すべては松永家当主になるためだ!」

「え?当主にはなれるだろうよ。お前清吉として生きてんだから」

優子が首をかしげる

「はっ!俺だって思ってたさ!ずっと・・・当主になるって・・・でもな、あの親父は清吉を当主にしたいんだよ。わかるか?俺じゃなくて・・・清吉なんだよ!」

太助は声を荒げる

「・・・俺は、小さな村で育ったんだ。親父の事なんてしらなくて、おふくろに聞いたら死んだって聞かされて・・・立派な武士だったって・・・そう言われ続けてきた」

「「・・・」」

「そんな母親も俺が7つの時に病気になって死んじまって。俺はなんとか毎日生きてた・・・必死だった・・・でも、何日もろくに食ってなくて、ついに動けなくなっちまった・・・そんな時、目の前に侍が現れたんだ。田端だった・・・俺の顔を見るなり握り飯をくれてな・・・無我夢中で食ってたら、これからはうまい飯が食えるって言われてついて行ったんだ・・・それが松永家だった。そして親父と対面したんだ。もちろん・・・清吉ともな」

「「・・・」」

「清吉はしゃべっても、うーとかあーしかいわねぇし。畳の上を這ってて俺はぞっとしたね。正直、人間じゃねぇっておもった。そしたら、親父はよ俺に清吉の代わりをしてくれっていうんだ、笑っちまうだろ」

太助はその時の事を思い出し、フッと鼻をならした

「俺は行くあてもなかったし、清吉を演じることに決めたんだ。どうやら治療という名目で清吉をかこっていたらしくてな。事情を知るの者は少なかったし、清吉は俺の1コ下だったからよ。歳的にも都合がいいと思ったんだろうよ・・・。それから、俺は1年間徹底的にしごかれた作法とか剣術とか清吉になるためにな・・・1年もたちゃ人の記憶なんて曖昧だ。それに親父の血が入ってるからどことなく似ていたし・・・なんの疑いもなく松永清吉として過ごしてたってわけだ・・・」

「「・・・」」

「俺はさ・・・思ってたんだ。松永家を継ぐんだって。名前なんてどうでもいい。俺はおふくろの言う通り立派な人になるんだってな・・・それなのに・・・親父は・・・」

太助はギリっと歯を食いしばる

―――

『当主?それはもちろん清吉だ。・・・お前ではない。清吉は松永家唯一の子だからな』

喜一郎は太助を見て冷やかに言った

『父上・・・ですが私は・・・』

『お前は清吉が治るまでの・・・代わりだ』

『あー・・・』

喜一郎の隣では布団の上で声を発する清吉の姿があった

『おお、どうした清吉?腹が減ったのか?』

『・・・』

太助は立ち上がり部屋を出て行った

太助は足音をあらげながら離れから中庭へと移る

中庭の池に、自分の顔が映った


どうしてだ?

幼い頃からあんなに耐えてきたのに・・・

俺は・・・当主になるとおもって・・・

清吉の治療で金が底を尽きかけているから・・・

金を工面するために

盗みもしたというのに・・・

どうして・・・

『・・・っ』

太助は足元にあった石を池に投げ込む

波紋が広がり

輪郭が歪む


こうなったら・・・

自分で当主の座を奪いに行くしかない・・・

まずは周りから固めなければ・・・

太助は踵を返し歩き出した


――――

「金をまけば家臣たちは面白いほどついてきたさ。所詮は金さ。だからもっと金が要るんだ。だから美優紀が要るんだよ。呉服屋の娘だからな!」

「てめぇ・・・いい加減にしやがれ!」

彩は勢いよく太助の胸ぐらをつかむ

「はっ!本当の事をいって何が悪い?」

「・・・彩ちゃん。ええよ」

「・・・美優紀」

美優紀の声で、彩は掴んでいた力を緩める

美優紀は太助の前に歩み寄り

静かに見つめた

「ホンマは・・・喜一郎様に認めてほしかったんやろ?」

「はっ!いきなり何を言うかと思えば・・・貴様に何がわかる!」

「わかるよ・・・少しだけ・・・傍におったから」

「・・・」

「喜一郎様は私にも優しくて・・・家臣の皆にも優しくて・・・祈祷にのめり込んでるなんておもいもしなかった・・・でもな・・・正直、清吉って呼んでる時あんたの目を見てないなっていうんは・・・わかってた」

「はっ・・・目ざとい女だ。そうだよ、親父は俺じゃなくずっと清吉を見てたんだ」

「だから、見てほしかったんやろ・・・太助として。息子として・・・見てほしかったんやないん?」

「!」

太助の動きが止まる


『清吉』

『お前』

喜一郎はどちらかでしか呼ばなかった


・・・どうして

・・・太助と呼んでくれないのだろう?


太助は幼い頃からそう思い続けていた


「はっ・・・!うるさい!うるさい!うるさい!」

太助は彩の手を振り払い

近くにあった刀に飛び付く

「・・・」

彩は美優紀を自分の背に隠す

「なんなんだよ!どいつもこいつも、俺をみじめな目で見やがって!」

「止めなさい。痺れているその体では勝ち目はありません」

麻友と優子もスッと構え

辺りは緊迫した空気に包まれる

「はっ・・・誰が戦うなんて言った」

「え?」

彩は驚く

太助は自分の首に刀を当てる

腕がしびれているため、カタカタと音が鳴る

「何してんだ!」

彩は思わず叫んでいた

「てめぇらにやられるくらいなら・・・自分で死んだ方がましだ!俺が死んで、清吉の代わりがいなくなって・・・松永家なんて絶えてしまえばいいんだ!!」

「いい加減にしろ!」

「!!」

太助の手が止まった・・・

「まったく・・・世話のかかるやつだ・・・」

そういって田端が姿を現した

風ぐるま32

――――

一方、その頃

「はぁっ!はぁっ!」

彩は美優紀の手を引いて

屋敷から逃げ出し懸命に走る

「美優紀!もうちょっとや!頑張れ!」

「うん!」


暗闇の中

彩は麻友から教えてもらった道を懸命に走る

もうちょっとや・・・

もうちょっと・・・

彩は麻友に言われたことを

思い出していた

―――

「ここに川が流れています」

麻友は松永家周辺の地図を広げ

すぐそばの河川を指差す

「ここから船に乗り・・・逃げます。食料はあらかじめ乗せておきますから」

「わかった」

「この川は海に出るような大きな川につながっています。そこまでくればもう、大丈夫でしょう」

松永家は周辺には河川が多く流れており、水路を使って逃げるには好都合なのだ

「麻友さんも・・・一緒に来てくれますよね?」

「・・・彩様。それはできません」

「そんな・・・」

「乗り込むということはそういうことです。私は彩様と美優紀様が逃げるまで、敵を食い止めるという役目がありますから」

「・・・わかりました。でも・・・必ず生きて・・・くださいね」

彩は麻友の顔を見る

麻友は少し驚いた顔をし

「忍びにそんなこと言う人・・・初めてですよ」

そういって、クスッと笑った

――――

麻友さん・・・

どうか・・・無事で・・・

「あっ!」

美優紀がつまづき

倒れ込む

「いけるか!?」

焦って、走る速度を上げてしまったことに反省しながら

美優紀を抱き起す

「う、うん。いける」

美優紀がよろよろと起き上がった

その時

「見つけたぞ!」

「くっ!」

彩たちの後ろには太助が立っていた

「手こずらせやがって」

太助は肩で息をしながら言う

・・・もう、逃げられない

覚悟を・・・決めるか

「美優紀、下がってろ・・・」

「彩・・・ちゃん・・・」

彩は美優紀を自分の背に隠し

太助の前に出る

「ほぉ、逃げねぇのか?いい度胸じゃねぇか・・・女のくせに」

「・・・教えてやるよ。女の方が、度胸があんだよ」

そういって、互いに刀を抜いた

「・・・彩ちゃん」

美優紀は胸に手を当てながら

祈るように2人を見ていた

キン!キン!

刀が合わさる音が何度も聞こえ

つばぜり合いの状態になる


こいつ・・・思ったより・・・できる・・・

彩はギリっと歯を食いしばり耐える

「驚いたかよ?清吉役になってから、剣術も田端に鍛えられたからよ」

そういって太助はニッと笑う

「・・・っ!」

「お?しゃべる元気もないってか?」

「くそっ!」

彩は腕を回し、肘を固めようとするが

「よっ!」

太助に読まれ阻まれる

そして

シュッ!

「っ!」

「彩ちゃん!」

「くそっ・・・」

彩の左頬に一筋の血が流れる

「おーおー。綺麗な顔が台無しだなぁ」

太助はにやにやと笑う

「関節技が得意なんだってな?湯浅家に言った時に聞いたぜ。おれは体術もやらされてたからな。そう簡単には決まらねぇよ」

「くそっ」

彩は流れる血を拭い

再び刀を構える

「ほんと、気にくわねぇ。お前、女なのに何戦ってんだよ。腹たたねぇのかよ?自分の親父にさ。そうやって、自分の意志とは違う人生背負わされてよ」

太助は彩を見て眉をしかめた

「・・・あったよ・・・何度も・・・自分が男じゃないって・・・男になれないって知ってから・・・何度も・・・」

「はんっ。やっぱり、お前も俺と――」

「でもな、私は父上に育てられたこと・・・山本家に生まれたことを・・・悔やんだことはない」

彩はキッと太助を睨んだ

「・・・」


太助・・・あなたのお父上はね

とっても強い武士だったの。あなたにも、その素質があるのよ・・・

だから・・・立派な男になりなさい


太助の脳裏に

幼い頃この記憶が蘇る

それは・・・もういない

母の記憶・・・

「はぁー・・・やっぱ、似てねぇわ」

太助はため息をつく

そして

「死ね」

キッと睨んで彩に向かってきた

「くっ!」

彩は何とか太助の刀を受けるが

防戦一方だった

「どうした、どうした?武士ならここで潔く死ねよ。お前が死んだ後、美優紀はたっぷりかわいがってやるからよ」

「!」

その台詞に、彩はいらだち

「ふざけんなっ!」

彩は身をよじり、柄から右手を離し

左腕だけの状態でぐっと刀を伸ばした

「ぐあっ!」

その刃先は太助の右肩に刺さる

「ちっ・・・やってくれるじゃねぇか・・・」

「けっ・・・悪いけどなぁ。また美優紀とられてしもたら・・・死んでも死にきれんわ!」

彩の右腕からは血が滴り落ち続ける

太助の刀もまた

彩の右腕をとらえていた


「ちっ・・・どいつもこいつも・・・美優紀だの・・・清吉だのいいやがって・・・」

太助はギリッと歯を食いしばる


なんで・・・

なんで・・・

俺には誰もいねぇんだよ・・・


「ああああ!!」

太助は叫び

刀を振り下ろす

「くっ!」

キンッ!キンッ!

太助は肩に傷を負っているのにもかかわらず

ものすごい勢いで

彩に切りかかる

彩の右腕はほとんど使い物にならず

もはや刀を持つということも厳しくなってきていた

「っ!」

防戦一方の彩は木の根に足を取られバランスを崩す

カァァン!

「しまっ・・・!」

その隙に太助の一振りが

刀をはじき

彩は反動で地面に転がった


「死ねぇぇぇっ」

太助が勢いよく太刀を振り上げた時

「やぁぁぁっ!」

「なっ!」

横から美優紀が太助の体に体当たりしたのだ

思わぬ攻撃に太助もバランスをくずし

地面に倒れ込む

「彩ちゃん!!いける!?」

美優紀は彩に駆け寄る

「美優紀!あほっ!おまえ何してんねん!」

彩はあわてて立ち上がり叫ぶ

「だって、彩ちゃんが危なかったから。ほら、今のうちに・・・」

「美優紀・・・貴様・・・」

太助はゆらりと立ち上がり

睨む

その目は殺気に満ちていた

「っ・・・」

もう、右腕は・・・感覚がない

刀ももう握れない・・・

彩は・・・覚悟を決めた

「美優紀、お前だけでも逃げろ」

「いやや!」

「あほっ!はよせぇ!」

「いやや!」

2人は顔を見合わせ言い合いになる

「じゃあ、2人で死ねよ!!」

「「!!」」

太助が刀を振り上げた瞬間


美優紀が彩の体に抱きつき

地面に押し倒す

「な・・・」

彩には

それが

スローモーションのように思えた

徐々に上がっていく視界の端に

美優紀の髪がなびく

そして

その先には

狂気に充ちた太助の顔と刀・・・


『大丈夫。なんかあったら、これからは私がこうやって守ってあげる』


嫁になってくれと言ったあの日・・・

美優紀が言った言葉がよぎった

風ぐるま31

「はっ!」

麻友がクナイを両手から勢いよく放つ

「・・・ふんっ」

田端はクナイをするりと避ける

「おらぁっ!」

かわしたところに優子が現れ、蹴りを繰り出すが

田端はそれも避け

優子の顔をめがけて刀を振るう

「っ!」

優子は目を見開く

カァァン!

「ぬ・・・」

「っ・・・」

優子の目の前で刃先が止まる

麻友がすかさず2人の間に入り

短刀で田端の刀を受け止めていた

傷が痛み

刀が小刻みに揺れる

「すまねぇな。麻友」

優子は田端の顔めがけて殴りかかる

「ふっ」

田端は素早く後ろに引き

間合いを取る


「大丈夫ですか?優子さん」

「けっ、心配すんなっての」

「動けてませんけど・・・」

「うるせぇ」

優子の体は既に満身創痍だった

「その身体でよくやるな。そこは褒めてやる・・・だが・・・」

田端はスッと構え

「もう、終わりにしようか」

「ちっ・・・」

優子は肩で息をしながら田端を見つめる

あの陣形を繰り出そうにも、攻撃が続かねぇ・・・

「どうすんだ・・・麻友」

隣に居る麻友に小声で尋ねた

「・・・そうですね。優子さん・・・私に考えがあります」

「おう」

「私が合図したら・・・お願いします。」

「・・・おう」

優子は静かに頷いた

麻友は少し間を置き

「はっ!」

地面を蹴る

田端も目を見開き向かってくる

キン!キン!

2人は刀を交え何度もぶつかる

「田端様。喜一郎様を止められるのは義兄弟である、あなたしかおりません」

「・・・」

「このままでは松永家は滅びてしまいますよ」

「滅びぬ・・・貴様らがここで死ねば、すべてがなかったことになる」

2人は刀を交えながら話し続ける

「・・・なかったことになど・・・なりませぬ。太助も清吉も・・・喜一郎様も・・・松永家家臣も・・・皆、生きているのです。明日があるのです!」

「・・・」

「田端様!お初様は死んだのです!死んだ者を一番に思っても、この先良くなることなどありません!今を生きている人たちの事をお考えください!」

「!」

その瞬間、田端の剣先がずれる

「優子さん!」

麻友は叫び、田端の刀を上に大きくはじく

「っ!」

田端の体は刀の重みで少しのけぞる

その隙を

優子は逃さなかった

「おらぁぁぁっ!」

ガッ!

田端の腕に蹴りを入れ

ガシャン・・・!

刀が田端の手から離れた

「いくぜぇぇぇっ!」

優子はそのまま田端の腹に正拳づきをくらわす

「ぐっ!」

田端はよろけながらなんとか踏ん張る

「もういっちょ!」

そういって蹴りを顔面にくらわそうとしたが

田端が腕で止める

「・・・忍びごときに・・・油断したな・・・」

「かー・・・体術もできんのか?やるなぁ」

優子はニッと笑い

「でもよぉ。打撃戦は私の十八番なんだよ!」

そういって優子は素早く技を繰り出す

田端は何とか防ぎながら

優子の動きを眼で追うが・・・

早すぎてとらえることができない

いや・・・

「ちっ・・・2人か」

いつの間にか麻友も混じり

2人は縦横無尽に跳びまわり

様々な角度から田端を襲う



そして・・・

ガッ!

優子の一撃が田端の顎に入る

その勢いでぐわんと視界が歪み

ふわっと体が浮いたような感覚に包まれる


「麻友ーーー!いけーーー!」

そんな声が聞こえ

田端の視界が上に向いた時

そこには、天高く跳ぶ麻友の姿があった

手には短刀が鈍く光る・・・

体を動かそうとしたが

顎にうけた衝撃で素直に反応してくれなかった


『死んだ者を一番に思っても、この先良くなることはありません』


田端の脳裏に麻友の先ほどの台詞が蘇る・・・

『誠光』

そして、子を抱いて微笑む女性の姿・・・


・・・これが、最後か

「お初様・・・私も・・・あなたの元に・・・」

田端はスッと目を閉じる



ドスッ!!




「・・・何故だ?」

田端は目を開け、上に乗っている麻友の顔を静かに見つめる

田端の顔の横には短刀が突き刺さっていた

「言ったでしょう?田端様しか喜一郎様を救えないと・・・死ぬのには早すぎます」

「・・・私は・・・」

「清吉様を・・・守りたかったのでしょう?」

「・・・」

「世継ぎにもなれず・・・ただ飯を食うだけでしゃべりもできない・・・世間から白い目で見られるのはあまりにも不憫だ・・・だから、あの離れを建て隔離し、喜一郎様が祈祷に没頭しても止めなかった・・・」

「・・・」

「・・・清吉様はお初様に似ているのでしょう?」

「・・・」

田端は目を見開き

「・・・おぬしは本当に優秀な忍びだ」

そういってフッと笑った

お初とは喜一郎の妻、そして清吉の母である

「お初様は本当にできたお人だった・・・家臣にも優しく・・・そして・・・よき母であった。子が出来ないことを悩んでおられた時もあったから・・・太助の話しを聞いた時は思わず喜一郎様を殴ってしまったほどだ・・・」

「・・・だから太助に対してきつく当たるのですね」

「・・・武士として情けない話だがな」

「・・・感情がある方が人間らしくていいですよ」

「・・・忍びがそのようなことをいうか?」

「そうですね・・・。でも、私は美優紀様のおかげで変わりましたから」

「・・・」

「だから私は主の命令にも背きますよ・・・。泣いているのを見たくないから・・・美優紀様には笑っていてほしいから。自分の命よりも大切な・・・人だから」


誠光・・・私ね。清吉が助かるなら死んでもいいの・・・

だから・・・清吉と、喜一郎様をお願いね


「・・・っ」

田端の目にうっすらと涙が浮かぶ

「麻友ーーー。おめー変わったなぁ。」

優子も涙を流し、鼻水をすする

「・・・あなたは情緒というものがないのですか」

麻友ははぁ・・・とため息をつくと

スッと起き上がり

田端を見る

「松永家をどうするか・・・託します」

「・・・難儀だな」

「そう言わずに・・・ものは考えようですよ。古いものを壊し、新しいものに変えてけばいいではないですか」

「・・・おぬしは本当に・・・変わった忍びよ」

「ま、私も一度死んだような身ですから。新しい忍びということで」

「あ、私も新しい泥棒ってことで」

ずいっと優子が会話に入る

「なんですか新しい泥棒って」

「えーなんか対向してみたくて」

「そんなのいいです。それに優子さん本職泥棒になってますよ」

「あーそっか」

「ははは!」

田端は夜空に向かって笑い

言い合っていた2人は田端を見る

「・・・私も新しい武士になってみるか」

そういってフッと笑った

風ぐるま30

煙が薄まった時

部屋には美優紀と彩の姿はなかった

「ちっ!あいつら!」

太助はギリっと歯を食いしばり

勢いよく部屋から出る

麻友は制止しようとしたが

その間にスッと田端が入る

「おぬし・・・女中ではなかったか?」

田端は目を細める

麻友は潜入捜査のため女中としてこの屋敷に潜入していたのだ

「あら、覚えてくださっていたのですか?田端様」

麻友はニコッと笑う

「・・・忍びだったとはな・・・鼠小僧と名乗る女の仲間であったか」

「・・・!」

その名に麻友は反応する

「まさか・・・」

「案ずるな。殺すまでは至っていない。名を借りてうちの家臣が無礼を働いた詫びだ。・・・なかなかの腕前だった」

そういって田端は麻友を見つめる

「あなたが居ない日を選んだというのに・・・こういうのは勘が働くんですね」

「そうだな。松永家をここで終わらすわけにはいかんのでな」

そういって田端は切りかかる

「っ!」

麻友はすんでのところでかわし、クナイを投げる

田端もそれをかわし

部屋から庭へと出る

キン!キン!

ザッ!

シュッ!

田端と麻友は激しい攻防戦を展開していた

どちらかが気を抜けば

やられる・・・

そんな緊迫感が身を包んでいた


田端誠光・・・

彼は喜一郎、そしてその父である正之助に最も忠誠を誓った男・・・

松永家は元々剣術に優れており柳一刀流という流派を受け継いでいた

喜一郎、誠光はその免許皆伝を受けている

誠光は義兄弟の契りを喜一郎と交わしており

喜一郎と常に行動を共にしていた


シャッ!

「っ!」

誠光の刀が麻友の腕をかすめ

麻友はよろけ、壁に背を打ちつける

田端は間合いを詰め

剣先を麻友ののど元につける

「・・・なぜです」

麻友は呟く

「・・・」

「何故、あなたが喜一郎様の目を覚まさせてあげないのですか」

「・・・」

「本当は・・・おかしいと、気付いているのでしょう?」

「・・・。忍びと武士は似ていると思わんか」

田端は麻友を静かに見つめる

「主君に忠誠を誓い・・・主君のためだけに生きる・・・たとえ、それが間違えた道だとしても・・・」

田端の眼は憂いを帯びていた

「違う・・・」

麻友はぽつりと漏らす

「・・・御免」

そういって田端は刀を振り上げた

シャッ!

カァァァン!!

クナイが田端の刀の軌道をそらせ

麻友は身体をよじり

間一髪のところで避ける

「・・・」

田端は静かに後ろを見る

「へへっ・・・私を生かしたこと、後悔してんだろ?」

そこには刀傷でぼろぼろになった忍び服・・・

そして片方の腕を抑え、切れた唇でニッと笑う優子の姿があった

「・・・そうだな・・・とどめをさしておけばよかった」

田端はフッと笑う

「遅いですよ・・・優子さん」

麻友もニッと笑うと

優子の方に跳び

肩を素早く抱く

「わりぃなぁ・・・ほんじゃあ・・・反撃と行きますか」

「そうですね。手早くすませてしまいましょう・・・長くは持たなさそうですし・・・」

「けっ!んなもんかすり傷だっての!」

「どこがですか。正直、田端様の剣術は一人では太刀打ち出来ません・・・でも・・・2人なら何とか・・・」

「あぁ、なんか昔を思い出すぜ」

「そうですね・・・」

「麻友、昔よくやった陣系・・・覚えてるか?」

「ええ、もちろん。何度もやりましたから・・・今でもすぐに動けるほど・・・」

「上等だ。お互い腕やってんだ・・・チャンスは一度だ。いいな」

「はいっ!」

2人は田端を見つめ

勢いよく跳んだ

「来いっ!」

田端は叫び

刀を構えた

風ぐるま29

「彩・・・ちゃん・・・彩・・・ちゃん」

美優紀は彩の胸に顔をうずめ

確かめるように何度も何度も名前を呼ぶ

「美優紀・・・すまん・・・私のために・・・ほんまに・・・すまん・・・」

彩はギュッとさらに力を込める

「ううん・・・」

美優紀は首を振る

「・・・」

彩はギリッと歯をくいしばる

そういう情事が行われたということは

彩にでもわかった


あの野郎・・・


清吉への怒りがさらに強まる

「・・・美優紀様」

「「あ・・・」」

麻友の声に2人はハッとして離れる

麻友は美優紀の元に近づき・・・

膝をつく

「命に背き・・・申し訳ございません。ですが・・・もう・・・見ていられなかったのです」

「麻友さん・・・ううん。ありがとう」

美優紀も膝をつき

麻友の手を触れ、微笑んだ

「美優紀様・・・このまま彩様とお逃げください。ここは私が」

「そういうわけにはいきませんよ」

「「!」」

その声に、全員が振り返る

麻友は彩と美優紀をかばうように清吉の前に立ちはだかる

「これはこれは・・・鼠は全部で3匹いましたか・・・」

「清吉・・・貴様」

彩はぐっと拳を握り

睨む

清吉はそんな彩を無視し

美優紀を見つめ

穏やかな表情から一変し、キッと睨む

「美優紀!貴様この屋敷から出たらどうなるかわかってるのか!」

「・・・っ!」

清吉の台詞に美優紀は肩を震わせる

「たとえ貴様が逃げられたとしても、渡辺呉服がどうなるか・・・」

「汚ねぇぞ!てめぇ!」

彩は美優紀の肩を抱き、睨む

「その心配はいりません」

麻友は冷ややかな目で清吉を見つめる

「あなたこそ・・・大変なんじゃないですか?こんなに事が大きくなったら・・・ばれてしまいますねぇ」

「!」

「松永清吉・・・いや、太助殿」

「!!」

その瞬間、清吉の顔がぐにゃりとゆがんだ


―――
一方、その頃

大広間では

「あー終わった!」

多くの人数を相手にし、優子ははーっと大きくため息をついた

「くそー人数少ないって聞いてたのに結構多かったじゃねえか・・・」

床に倒れている家臣たちを見て口をとがらせる

「さ、じゃあ最後の仕事と行きますか」

優子が大広間から出ようとした

その時

「待たれよ」

「!!」

中庭から声がし、優子は振り返る

そこには、武士が1人・・・

「まったく・・・嫌な予感はあたるものだな・・・」

「・・・あんた、何もんだ?」

優子は肌で感じる相手の殺気にニヤリと口元を上げる

「松永家家臣・・・田端誠光」

田端はスッと刀を構える

「なんだ、まーだ手下が残ってたのか」

それにしちゃぁ・・・のした奴らとは殺気が違う・・・

優子は間合いを取りながら構える

「いざ」

そういって、勢いよく地面を蹴り

優子に向かってきた

「くっ!」

優子はクナイで何とかはじくが

その太刀の勢いで腕がしびれ、クナイが床に落ちる

「・・・なかなかやるな・・・。名を聞いておこう」

田端はまた、スッと構える

屋敷の明かりで

ようやく、顔がわかる

髷を結い、歳は40代くらいであろうか

白髪混じりの髭を生やしているが

若々しく見える・・・

「ははっ、あんたやるなぁ・・・。私は江戸の大泥棒、鼠小僧ってんだ」

優子もスッと構える

「そうか・・・おぬしが。最近噂の・・・」

「はぁ?だーかーらー。それは私じゃねぇっての。ここでのびてる奴らのがやってたんだよ」

優子はムッとして床でのびている家臣たちを指差す

「・・・なんと。・・・はぁ、全く困った奴らだ・・・」

田端は首を小さく横に振って、ため息をついた

「だが・・・屋敷に入った以上・・・ただで帰すわけにはいかんのでな」

「わりぃなぁ。ちょっくら急がなきゃいいけねぇんだ。通してもらうぜ。」

「・・・」

「・・・」

2人はニヤッと笑い

ほぼ同時に跳び出した

―――――

「太助・・・ってどういうこと?」

長い沈黙の後・・・

美優紀が口を開く

「この男は、松永喜一郎の嫡男 清吉ではありません」

「貴様!どこでそれを!」

清吉・・・いや太助はカッとなって睨む

「忍びを舐めてもらっては困ります。まぁ、多少苦労はしましたが・・・事実を知る者は松永家に長く使える老いた家臣ばかりでしたから口が固くて・・・」

麻友はやれやれと顔をしかめる

「麻友さん・・・どういうこと?」

美優紀が尋ねる

「この屋敷の離れに本物の清吉が居ます。まぁ今は喜一郎と共に外出していますが・・・」

「え・・・」

彩は驚く

だってあそこは

とても人が住むような作りじゃない・・・

「あそこは喜一郎様と特定の家臣しか入れないことになってた・・・じゃあ・・・それは・・・」

美優紀も息をのむ

「そうだよ。あそこには清吉がいる。お前もみてみたらいいさ・・・あそこに狂ったように通う親父をな」

太助は先ほどまでの穏やかな口調ではなく荒々しい口調に変わっていた

「狂った・・・?」

美優紀はおびえながらも太助に尋ねた

「狂ってるじゃねぇか。あんな喋れもしねぇ、食うことしかできねぇ動物みたいなやつをずっと可愛がりやがって。あれで松永家唯一の息子とか言い出すんだぜ」

太助は鼻で笑う

「動物・・・」

彩は息をのんだ

「そんな言い方はないでしょう・・・腹違いの兄弟なんですから」

「ちっ・・・本当に全部知ってるみたいだな」

麻友の言葉に太助は顔をしかめる

「・・・喜一郎には妻が居ましたが長らく子供ができなかったのです。そんな日々が続く中、喜一郎は女中に手を出してしまいました。それが、太助の母だったのです。そして、身ごもったとわかり、喜一郎は焦ったのです。妻以外の女・・・しかも屋敷内の女中に手を出したとわかったら立場がない。だから、ある程度の金を渡して遠くに行くように言ったのです」

麻友は淡々としゃべり続ける

「ほどなくして・・・本妻との間に子供が産まれました。それが、清吉です。喜一郎は大変可愛がりました。しかし、そんな松永家に悲劇が訪れます・・・幼くして清吉が病で倒れるのです。」

「「・・・」」

「喜一郎の妻は祈り、必死に看病しました・・・そのおかげか清吉は助かったのですが、妻も身体を壊し亡くなってしまいます。助かった清吉も、病の影響でしゃべることができない、動くこともままならない身体になりました。喜一郎はその現実を受け止めることができず・・・祈祷に没頭するようになります。そして、ある祈祷師と親密になり・・・こう言われたそうです。清吉は必ず良くなる、そして松永家を継ぐ立派な男になると。そのためには清吉として代わりに生きる人間が要る。そやつが元気に動きまわれば生の気が清吉にめぐり、回復すると・・・」

「な・・・」

彩は驚く

「そんな話し・・・」

美優紀は眉をひそめた

「信じないでしょうが・・・喜一郎は妻を亡くしたことと最愛の息子がそうなってしまったことで、弱り果てていたのです。だからその祈祷師の話しを信じ・・・思い出したのです、女中が身ごもったということを・・・どうせなら、血が繋がっている方がより効果が出るのではないか・・・と」

「「・・・」」

彩と美優紀は太助をみる

「そう・・・そして・・・ここにいる太助が選ばれたのです。仮の清吉として」

「おいおいおい。なーに俺の事情勝手に語ってんたよ。まぁ、いい。ばれちまったから教えてやるよ。親父は今もずーっとその祈祷師が言うことを信じてんだ。今回、隣の藩に行く理由だってそいつの祈祷だか、まじないだかしんねぇが清吉のために行ってんだ。これが効く、あれが効く・・・耳にした噂話は全部試してる・・・清吉が元に戻ると信じてな」

太助はケッと唾を吐く

「親父がどうして質素倹約になったのか知ってるか?昔はさ、結構贅沢してたらしいけどよ、清吉が倒れた時に、民衆がおんなじ病気で倒れてることに初めて気がついたんだとよ。そんな人たちから金もらうのは申し訳ないって言って最低限の年貢しか取り立てなくなっちまった。そんで、屋敷の金目のもんはほとんど売り払って全部清吉の治療に当ててるんだぜ」

「「・・・」」

「だからよ、家臣の不満も溜まるだろ?だから金品盗んで、奪って・・・俺が給料出してやってるんだよ。家臣からすりゃあ俺も世直しの鼠小僧だよ」

そういって太助は笑った

「まったく、これのどこが世直しだ」

「!」

声がして、太助は振り返る

そこには、田端が立っていた

「田端様・・・」

美優紀は驚く

「な・・・何故ここに居る?父上と共に今朝出て行ったはずでは・・・」

太助はうろたえる

「最近、家臣の中でも羽振りの良いものが多くてな・・・おかしいと思っていたのだ。古くから仕えている者以外、喜一郎様には同行しないようになっているが・・・屋敷に残る皆が早く行ってくれと言っている気がして・・・気になって引き返してきたのだ」

「っ・・・」

「多くの家臣を金で買収していたようだな。喜一郎様ではなく、自分につくように・・・と」

「う、うるさい!貴様に何がわかる!」

太助は声を荒げ、じだんだを踏む

「そのような言葉づかいをするなと散々言ったであろう!」

「っ!」

その声を聞いて太助はびくっと身を震わせた

「まぁ、お前の教育は後でみっちりしよう・・・秘密を知ってしまったこ奴らを始末してから・・・な」

そう言って、田端は刀を構えた

「っ!」

彩は押されるような殺気を感じ

身ぶるいする

「彩様、美優紀様、ここは私が引き受けます」

「麻友さん・・・」

美優紀は心配そうに麻友を見つめる

「彩様・・・美優紀様を頼みます」

「・・・はい」

彩はしっかりと頷いた

「では・・・お元気で」

麻友は微笑み

太助たちの方を見る

そして

懐から素早く煙球を取り出し

畳に打ちつける

バーーーン!

「ぐあっ!なんだ!」

辺りはたちまち煙に覆われ

むせる太助の声が聞こえる

「美優紀、こっちや」

そういって彩は美優紀の手を引き

部屋から庭に跳び出した
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