「・・・ふぅ」

ホテル近くの球場前で汗を拭いているジャージ姿の女性がいた

「敦子」

名前を呼ばれて、その女性は振り返る

「朝から精がでるねー」

そこには同じくジャージを着た大島の姿があった

「優子・・・」

「ほれ」

そういって大島は前田に紙袋を投げる

「なにこれ?」

「ホテルのモーニングのパン。どうせ練習に夢中になって時間過ぎちまうと思ったからよ」

「・・・」

「さ、それ食べたら中入ろうぜー」

「え・・・?」

「久しぶりにさ、敦子の球打ちたいからよ」

そういって大島はニッと笑った


―――――

「美優紀ー今日お母さん仕事いってくるなー。あ、洗濯もんだけ干しといてなー」

美優紀の部屋のドア越しに母の声が聞こえた

「んー・・・はーい」

「あ、すいません・・・」

美優紀と玲奈は布団の中で返事をしながらもそもそと起き上がる

「玲奈ちゃんゆっくりしていってなー」

そういってバタンと玄関のドアが閉まる音がした

「はぁ・・・」

美優紀はため息をついて、携帯を見た

彩からの連絡は来ていなかった・・・

「さ、ご飯にしよか。玲奈ちゃん今日、珠理奈と会うんやろ?」

「う、うん・・・」

「あ、でもその前に洗濯もんだけ干さしてなー」

玲奈はさっと起き上がり、部屋を出ていく美優紀の後姿を見つめていた


「・・・彩ちゃんのアホ」

美優紀はそう呟きながら洗濯物を干していく

「みるきー」

そこに、携帯を手にした玲奈が窓から顔を出す

「なに?」

「ごめんなさい。えっと・・・私、珠理奈と出かける前に家に取りにいかなゃ行けないものがあるのすっかり忘れてて、今から帰って取ってこようと思うの」

「あ、そうなん?」

「うん、ごめんね。だから、ご飯も大丈夫だから」

「そ、そう?」

「だから、みるきーもいつも通りランニングしてきて」

「へ?」

「だ、だって日課でしょ?休んじゃったら身体もなまっちゃうよ。必ず走ってね。じゃあね」

「う、うん・・・」

玲奈の勢いに押されて美優紀は頷いた



洗濯物を干し終えた美優紀は

再び携帯に目をやる

連絡はやはり来ていなかった

「もう・・・」

美優紀は口を尖らせる

自分で連絡を取ればいいのだが

昨日、怒鳴ってしまったのでどう連絡をとっていいかわからなくなっていたのだ

「はぁ・・・走ろ・・・」

こういうもやもやする時は

走ってすっきりしたほうがいい

そう思い、美優紀はジャージに着替え始めた

―――

美優紀の家の最寄り駅で

珠理奈はそわそわと携帯を見ていた

「珠理奈っ!お待たせ」

玲奈は息を切らしながら珠理奈に駆け寄る

「ううん。朝早くからごめんね」

「ううん。いいの。・・・ありがとう」

玲奈は息を整え、にこっと微笑む

「大丈夫だった?」

「う、うん。たぶん。でも、私走ってきてって念押してたからからかなり怪しかったかもしれないけど」

そういって玲奈は苦笑いをする

「はぁーでも、ホント野球以外はダメだなー彩は」

珠理奈はため息をつく

「ふふっ。まぁそこがいいとこでもあるんだけどね」

「さ、私たちもデート、デート」

そういって珠理奈は玲奈の手を握り歩き出す

「あ・・・」

久しぶりの珠理奈の手の感触に、玲奈は胸がくすぐったくなった

「玲奈ちゃん、どこいこうか?」

「んー。どこでも」

振り返って答える珠理奈に

玲奈はニコッと笑って答えた


―――


「はっはっ・・・」

美優紀は軽快に河川敷の土手を走る

美優紀のマンションは通っている大学からは少し距離がある

母と2人暮らしのため比較的家賃が安いところというのもこのあたりを選んだ理由でもあるが

東京でも自然が多く

ランニングするにはもってこいの場所で気に入っていた

「はっ・・・はっ・・・」

真っ直ぐ伸びた道の先に

一人の人物が立っているのがぼんやりと見えた

「あ・・・」

近づくにつれ、はっきりとする輪郭に美優紀は驚いて立ち止まる

「・・・よう」

そこにはジャージ姿の山本が照れくさそうに片手をあげていた