「・・・」

美優紀は山本を見つめたまま立ちつくしていた

「・・・ほれ」

山本は肩にかけているスポーツバックをごそごそとあさり

美優紀にあるものを投げた

「・・・っ」

美優紀は反射的にそれを受け取る

それはグローブだった

「・・・キャッチボール。しよか」

山本は下の河川敷を指し

照れくさそうに言った


「いくでー」

「・・・うん」

山本は持っていた野球ボールを美優紀に見せ、投げる

パスッ・・・

美優紀はそれを受け取り

グローブの中のボールを見つめる

「美優紀ー」

いつまでたっても投げてこない美優紀に、山本は声をかける

「う、うん」

美優紀は困惑しながらもボールを手に取り投げ返した

パンッ・・・

パンッ・・・

最初はぎこちなかったキャッチボールも

いつしかスピードがのり

軽快な音が響いていた

「・・・昨日の事なんやけどなー」

山本がキャッチボールをしながら言う

「・・・」

「あの子、昔うちの学校と対戦したことがある子やねん。で、私のホームランみて憧れてくれたみたいでなー」

パンッ

「ふーん」

パンッ

「で、間違って酒飲んで、抱きついてきたんや」

パンッ

「・・・そうなん・・・やっ!」

美優紀は力を込めてボールを投げる

パンッ!

「・・・っー。せやから、変な誤解すんなや」

パンッ

「別に誤解やしてないし」

パンッ

「・・・じゃあ、なんで怒ってん」

一向に機嫌が直らない美優紀に、山本は苛立ちを覚え始める

パンッ・・・!


美優紀はボールを受け取り

俯く

「・・・だって、彩ちゃん・・・人前でいちゃいちゃするの嫌いなくせに、昨日あの子が抱きついたら手ぇ回してたやん」

「え・・・?」

「・・・私やって・・・ヤキモチくらい妬くわっ!」

美優紀は思いっきりボールを投げる

「・・・っ」

トンッ・・・

動揺した山本はボールを受け損ね

ボールは草むらに転がった

「・・・」

山本は真っ赤になりながらそっぽを向く美優紀を見て

胸がくすぐったくなった

「・・・ははっ」

「何よ!笑うことないやん!」

「なんや、そういうことやったんか」

山本はすたすたと歩き、美優紀との距離を詰める

「・・・」

美優紀の目は少しうるんでいた

そして

「え・・・?」

山本は美優紀をそっと抱きしめた

「よかったー・・・嫌いになったんかと思った。ヤキモチか・・・驚かすなよ」

「・・・いやや」

美優紀は山本の腕の中で呟く

「え?」

「だって、いっつも野球ばっかりで、東京に来てもなかなか会えんし・・・好きかどうかわからんやん」

「美優紀・・・」

「そんなん・・・嫌や」

美優紀はくぐもった声で言う

「すまんかった・・・でもな・・・」

山本はすっと身体を離し、美優紀を見つめる

「お前の事考えんかった日は1日もないで」

「・・・っ」

美優紀の胸はドクンっと跳ねる

そして

「美優紀の事が大事やし・・・一番、好きやで」

山本は真っ赤になりながら言った

「・・・もうっ」

美優紀は嬉しくなって

山本に抱きついた

「私やって、めーっちゃすきやで」

「・・・おう」

山本はしっかりと背中に手を回し、美優紀を抱きしめていた


―――――

「んーいいなぁこういうの」

公園のベンチで

桜を見上げながら珠理奈は呟く

「そう?ならよかった」

珠理奈の隣で玲奈も桜を見上げながら

ベンチにもたれ、春風と穏やかな陽気に身を預けていた

美優紀の家の最寄り駅から始まったデートは

カフェで玲奈の朝食を軽く済ませた後

球場近くの公園のベンチでお花見をすることになった

ベンチの前には池があり

アヒルやカモに餌をあげている人たちもいた

「・・・」

珠理奈は桜を見上げる玲奈の横顔を見つめる

「・・・なに?」

その視線に気づいた玲奈は珠理奈を見て首をかしげる

「ううん。やっぱり、隣に玲奈ちゃんがいるのっていいなーって思って」

そういって珠理奈は玲奈の手に自分の手を重ねた

「・・・もう」

玲奈は照れくさそうに、珠理奈を見る

「玲奈ちゃん・・・」

珠理奈は身体をひねり、玲奈の顔に近づく

「・・・だめだよ。ここ、外だからね」

玲奈は重ねられている手と反対の手を珠理奈の顔の前に出し

制止する

「ちぇー・・・」

珠理奈は口をとがらせてベンチに座り直す

「ま、いっか。許可が出たしー」

珠理奈はにやっと口元を緩ませる

「ふふっ。あ、許可で思い出した。珠理奈、私心臓も問題ないから次の外来1年後になったの」

「えっ!ホント?よかったね!!」

「うん。来週形成外科の外来受診するの。手術は夏休みくらいにしようかなぁ」

「え?手術・・・?」

玲奈の発言に珠理奈はきょとんとする

「結構傷が大きいから、するとなったら入院になるって前から言われてたの」

「へ・・・?」

珠理奈の中で

許可がおりたらしたかった、妄想たちが音をたてて崩れて行った

(そうだったー・・・許可でたっていってもまだ傷治してないじゃん。あーミスったー・・・私昨日からもうOKだと思ってたよ・・・)

珠理奈は頭を抱える

元々、そういうことをするのは中西がアメリカから帰ってきた時に許可がでていたのだが

玲奈が傷が治るまで待ってと

頑なに拒否していたのだ

「あ、でも、珠理奈が世界大会から帰ってくる頃には傷も落ち着いて・・・ってどうしたの?」

先ほどとはうって変ってうなだれている珠理奈に玲奈は驚く

「ううん・・・なんでもない」

珠理奈は顔をあげ、精一杯の笑顔をつくる

「どう見ても大丈夫じゃないと思うんだけど・・・」

「ははっ。大丈夫だから・・・あ、私もさ夏、東京で合宿があるんだ。一か月くらいこっちに居るから、時間見つけてお見舞い行くよ」

「えっ、ホント?」

玲奈の顔がぱぁっと明るくなる

その笑顔に、珠理奈はキュンとして

玲奈を抱きしめた

「ちょっ!じゅ、珠理奈っ」

「だめっ!可愛すぎるっ!」

「もうっ!」

玲奈は珠理奈の胸の中で顔を赤くして暴れ

ベンチから立ち上がりプイッとそっぽを向く

「あー・・・・ごめん」

「もう、人が居るんだから・・・」

玲奈は顔を赤らめたまま口をとがらせる

その時

ブーーーン・・・

玲奈の横にスッと黄色い物体が飛んできた

「玲奈ちゃん蜂!」

「へ?きゃっ!」

真横に居る蜂に驚いて

玲奈はパニックになり

ベンチから勢いよく離れた

池の方に逃げる

そして

「玲奈ちゃんっ!」

「きゃっ!」

バシャーーン

池の周りの草に足をとられた玲奈は

池の中で尻もちをついていた