―――

「おじゃましまーす」

美優紀のマンションについた山本は玄関靴を脱ぐ

「はーい」

美優紀は横で返事をしながらリビングへと進む

「あれ?おばちゃんは?」

山本は誰も居ないリビングを見て首をかしげる

「あー今日な、体調悪い人がおって代わったんやってー」

美優紀は冷蔵庫からペットボトルのお茶を出し

コップに注ぎながら答える

「へー・・・」

山本はキッチンにいる美優紀の方に振り返る

「・・・」

美優紀は勢いよくお茶を飲んでいた

ごくごくと鳴る喉じんわりと滲んだ汗・・・

そして、その下の胸のふくらみ・・・

山本は生唾を飲む

「あ、ごめん。はい」

美優紀は山本の視線を感じて

お茶を渡す

「あ、あぁ。すまん」

山本はハッとしてお茶を受け取り

気持ちを落ち着かせるためにぐっと飲む

「彩ちゃん、先シャワーどうぞ」

「んっ!!ごほっ!ごほっ!」

山本は動揺してむせる

「い、いける?彩ちゃん?」

「あ、あぁ・・・」

「もー勢いよく飲むからやでー。キャッチボールして汗かいたしなー。私は先にごはん食べてるから行ってきてー」

「お、おう・・・」

山本は頷き、風呂場へと向かった

「・・・」

山本はのそのそと服を脱ぎ

ザーーー

シャワーを浴びる

『タイミングはつくるもんでしょうが』

珠理奈の言葉が蘇る

「作ったって言うより降ってきたって感じやで・・・」

山本はそう呟き

顔を拭った


「お先ー」

「はーい」

風呂から出た山本はタオルで髪を拭きながらリビングへと戻ってきた

「じゃあ私も入るなー」

「おう」

美優紀はそういって山本と入れ替わりに

部屋から出ていく

山本はリビングにあるテーブルの前に

腰を下ろす

机にはスポーツ新聞が置かれており

昨日の記事が載っていた

そこにはでかでかと

『神戸ストークス優勝!そして女子野球世界大会開幕』

と書かれていた

記事には珠理奈がガッツポーズをしている写真と

リリーフカーで華麗に登場した大島

そして、小さく自分の顔写真が載っていた

「頑張らなあかんなぁ・・・」

そう呟き

記事を読む

高校時代にピッチャーとしても登板していた山本は

プロ後、キャッチャーとピッチャーどちらを取るか注目されていた

そして

山本の選んだ道はキャッチャーだった


プロでピッチャーを希望すれば

デッドボールによる選手生命の危機回避のため

もうバッターボックスには立てなくなる

打つことも好きな山本はそれが嫌だったのだ

元々、高校時代に全国大会で投げることができたことで

ピッチャーとしては満足していた

そして、何より

気付けば珠理奈の球に惚れこんでいたということが大きかった

別々のチームにはなってしまったが

キャッチャーをしていれば

また、珠理奈とバッテリーが組める

そう思ったのだ


サァァァッ・・・

リビングの開いた窓からは

心地よい春風がレースのカーテンを揺らしていた

―――

2年前・・・

「あーあ。今日で秋葉女学院のバッテリーもホントに解散だなぁ」

野球部の部室で

卒業証書を手にした珠理奈が口をとがらせていた

「解散ゆうても、また出来るわ。おんなじプロの世界でおるんやから」

「そうだねー。はーでも、玲奈ちゃんと離れ離れの方が私にはでかいけど」

「なんやねん。人がせっかくいいことゆうてんのに。遠距離恋愛の私を見習えや」

「彩は美優紀ちゃんが東京に来るんでしょ?私はいつまで離れてるかわかんないんだからねー」

珠理奈はムッと口をとがらせる

「そんなんゆうたって、毎日会えるわけやないで。だいたい、美優紀、東京の大学決まったってゆうてもどこの大学かまだ教えてくれへんし」

「そうなの?」

「おう、なんか入学してからのお楽しみーとかゆうてよ。とりあえず、3月末には引っ越してくるみたいやけどな」

「いいじゃん。私なんか来週には向こうで練習に参加だよ」

「そりゃ私も同じや」

「ま、今度からは敵チームだし、彩に打たれないように技磨いとくね」

「ほー。ゆうたな?じゃあ私はもっと練習して、お前からホームラン取ったるわ」

「ふーん。ま、三振に終わらないように頑張ってよ」

「はぁ?なんやねん!絶対打ってお前の悔しそうな顔見ながらホームベース踏んだるんやからな」

「はいはーい。期待してまーす」

「・・・最後の最後までお前は」

山本は眉間にしわを寄せる


ガラガラガラ・・・

「おまたせーって、なんやねん。2人ともまだ着替えてないん?」

部室のドアを開けた横山は苦笑いをする

その後ろから玲奈が顔をのぞかせていた

「玲奈ちゃんっ」

珠理奈は嬉しそうに玲奈の方に駆け寄る

「はいはい、珠理奈。その前に着替えなあかんで、島田らずーっとグラウンドでまってるやん」

横山は珠理奈が玲奈に近づくのを押し返す

「あ・・・いけね」

「ほんまや、ったく珠理奈がべらべら話しよるからおそうなったやんけ」

「はぁー?なにそれー」

山本と珠理奈は顔を近づけ睨みあう

「はいはい。もーええから。ほれ、着替えんで」

「・・・はーい」

「へいへい」

珠理奈と山本はぶつぶつ言いながらユニホームに袖を通す

「ふふっ。2人とも頑張ってね」

玲奈はクスッと笑った


パンッ、パンッ

ユニホームに着替えた2人はグラウンドで投球練習をする

今日は卒業記念に

後輩と試合をするのだ

2人でバッテリーとして試合をするのは

今日が最後になる

「さ、こんなもんかな。そろそろ試合しよか」

山本は立ち上がり

珠理奈に近づき、ボールを手渡した

「うん」

珠理奈はそのボールを見つめ

「彩・・・」

ゆっくりと顔をあげた

「なんやねん?」

「ありがとね」

「え・・・?」

突然言われた台詞に

山本は目を丸くした

「私、彩のおかげで野球が好きになった。ううん、楽しくなったって言う方が正しいかなぁ」

珠理奈はニッと笑う

「・・・はぁ?何、いきなりゆうてんねん。らしくないなぁ」

山本は照れを隠しながら言う

「あははー。いいじゃん。なんかさ、言いたくなっちゃったんだよね。最後の試合だからかなぁ。バッテリーはこれで一度解散だけどさ、また絶対受けてよね」

「おう、当たり前や」

「それまでにもっと早い球なげれるように鍛えとくね」

「・・・おう、楽しみにしとくで」

「「・・・ははっ」」

2人はお互いに照れくさそうに笑った


「おーい。アップすんだんだったら始めんぞー」

高橋が2人に声をかける

「お、ほな行くか」

「うん」

「目指せ完封やで」

「まかせてっ」

パンッ!

2人はハイタッチをし、皆のもとに駆けだした


――――

「あーさっぱりしたー・・・彩ちゃ・・・」

風呂から出てきた美優紀はリビングに居る山本を見て

「もー・・・」

クスッと笑った

「すー・・・」

春風に吹かれながら

山本は机に突っ伏して寝て息を立てていた