「えー、みんなそろったかなー?」

球場内にある会議室に世界大会の選抜選手たちが招集されていた

会長兼監督である野本はマイクを持ち、選手たちの前に立つ

その横にはスーツを着た篠田が立っていた

「今日は皆さん疲れてると思うので手短に。リーグ戦が終わったすぐで申し訳ないんだが、選抜メンバーの親睦と強化のために合宿を1週間行います」

「げっ・・・」

珠理奈は思わず声を漏らし、慌てて手で口を押さえた

(あほっ、気ぃつけぇ)

その声に反応して、珠理奈の横に並んでいた山本が小声で言いながら

人差し指で「しっ」というポーズをとる

珠理奈は、まだ手を口に当てたまま、こくこくと頷く

「でも、さすがに疲労が残っていると思うので、明日と明後日の2日間はオフにします。この球場近くにホテルをとってますのでそこに宿泊してください。オフの日でも球場の設備は使って構いませんので、練習するもよし、リフレッシュするもよし。好きに過ごしてください。リリーガル以外の選手は急な話しで遠方だし申し訳ないと思っています。ただ、夏は1カ月以上東京で合宿となりますので、今回はその馴らしということで・・・」

「まじっ!?」

どこからか、野本の声を遮る声が聞こえて

選手たちは一斉に振り向く

「あほっ!だから声出すなってゆうてるやろ!」

一気に視線が集まり、山本は珠理奈に怒鳴る

「彩だって声出してんじゃん」

「あ・・・」

「あははー。相変わらずだなぁーお前らー」

大島の一言で他の選手たちもドッと笑った

「・・・」

篠田はその様子を眉をひそめて見ていた

「まぁ仲がいい方がいいから。そんなに難しい顔しなくてもいいんじゃないか?」

野本は篠田の肩をたたき、笑う

「はい・・・」

篠田の顔はまだ納得していなかったが、しぶしぶ頷いた

「えー。そして、キャプテンですが・・・」

野本の声に

選手たちが一斉にしゃべるのを止める

「大島優子を任命します」

「えっ!?いいんですか?」

急に名前を呼ばれた大島は思わず叫んでいた

「うん。よろしく頼む」

野本はにこにこと笑い

隣で、篠田がこくんと頷いた

「・・・はい。わかりました!皆、よろしくお願いします!」

「「おねがいします!!」」

狭い会議室に選手達の声と拍手が響き渡った

「はい。では、この後大島キャプテンに最初のミーティングを行ってもらいます」

「はい!」

大島は力強く頷く

「うん。いい返事だ。じゃあ、これ決めてくれなー」

そういうと、野本は後ろのホワイトボードに部屋割りの紙を張り付けた

「部屋はツイン。とりあえず、話しあってペア決めてくれ」

「は、はい」

まさかの部屋割りミーティングに大島も他の選手たちも一気に力が抜けた

「あと、大島は選手代表でこの後私らとホテルで記者会見な。他の選手はその後の懇親会に参加できるようにホテルに入っとくように」

「「はい」」

「じゃあ、そういうことで」

野本はニコッと笑うと

篠田と共に部屋を後にした



「ったく、珠理奈のせいで恥かいたやんか!」

扉が閉まるのを確認して、山本は隣に居る珠理奈を睨む

「いいやん。目立って」

「はぁ?全然ようないわ!それに、なんやその関西弁!2年神戸におるのにイントネーションがまんでやんか!」

山本は関西人以外が使う特有のイントネーションに身体がぞわぞわする感覚に襲われていた

「すまんなぁー」

「あーしばく!今すぐしばく!人がせっかくチケット用意してやったのに!」

山本はユニホームの袖をめくり、肩を出す

今回の試合でのバックネット裏の席は、東京リリーガルの応援席になっていたので

マウンドから一番見える席で玲奈に応援してほしいと思った珠理奈は

山本に頼んで玲奈の分のチケットも用意してもらっていたのだ

「まぁまぁ。久しぶりの再会にそんなに目くじら立てるなって」

大島が2人の間に割って入る

「でも、なつかしいなぁー」

「うんうん。高校ん時みたいだなー」

宮澤と秋元も2人の傍に来て笑う


「で、部屋どうする?珠理奈と彩はおんなじでいいかー?」

「いえ、私は一人がいいですっ!23名だから1人あまりますよね?」

珠理奈がシュッと手を挙げて言う

「はぁ?ずるいぞ珠理奈!私やって1人がええわ!」

珠理奈に負けじと山本も手を挙げる

「東京のチームの癖になにその贅沢。神戸で頑張ってる私をねぎらってくれてもいいんじゃない?」

「はぁ?それとこれとは話しは別やろ」

2人は手を挙げたまま睨みあう

「あははー。じゃあ喧嘩両成敗ってことでお前ら2人ペア決定なー」

大島はにこにこと名前を記入する

「ええっ!」

「ちょっと待ってくださいよ!」

2人は抗議しようとしたのだが

「だーめ。キャプテン命令」

大島はニカッと笑って、他の選手のところに行ってしまった

「まぁ、そういうわけだから諦めな」

「そうそう、チーム違うんだし。話したいこともいっぱいあるだろ」

宮澤と秋元はそれぞれ2人の肩を叩くと、他の選手のところへと挨拶をしにいってしまった

「話したい相手は別にいるんですけどー」

珠理奈は口をとがらせる

「あっ!珠理奈まさかお前・・・」

山本はハッとして

珠理奈の耳に顔を近づける

「1人部屋になって玲奈をホテルに誘うつもりやったんやろ」

「あ、ばれてた?ていうか、彩にしてはやけに勘がいいじゃん・・・あ、もしかして同じこと考えてた?」

「なっ・・・」

山本の顔が一気に赤くなる

「あーやらしー」

「そ、そっちの方がやらしいわっ!」

ますますムキになる山本を見て、珠理奈は笑っていた

「彩ー!!」

「わっ!」

そこに、黒に白字のチーム名が書かれたユニホームの人物が

勢いよく山本に抱きつく

「里歩!ったく、勢い良すぎやねん」

「里歩ちゃん。久しぶり」

「えへへー。珠理奈も久しぶりー」

そういって、彼女はニコッと笑った


彼女は小谷 里歩

山本とは小、中学校の同級生だ

高校は親の都合で京都になり

そこで女子野球をしていた

高校3年の夏、山本たちが全国大会に出場した時

初戦が小谷のいる京都の高校だったのだが

マウンドに上がっている小谷を見て

山本は驚きすぎて

ベンチでしばらく固まっていた

それを見た小谷は満足そうにピースをし

山本の隣で珠理奈もにこにこと笑っていたのだった

結果は秋葉女学院が勝ったのだが、小谷は満足そうにしていた

その後、プロ志望だったがドラフトには指名されず

プロテストを受け、博多ウォーブラに合格

地道に練習を重ね、2軍から1軍にあがり

今は中継ぎのピッチャーとして活躍している


「もーこうして一緒に野球出来ると思ったら嬉しいてなー」

小谷はにこにこと笑う

「せやなぁ。里歩と野球チーム一緒とか小学校以来やしな」

「よろしくね。里歩ちゃん」

珠理奈はすっと手を出す

「うん」

小谷もそれに応え、しっかりと握手をした

「私とは中学以来やなー」

そういって声をかけてきたのは小谷と同じユニホームを着た

岸野 里香 

博多ウォーブラのキャッチャーだ

山本とはソフトボール時代のチームメイトだ

プロ野球が発足した時に

ソフトボール界からも発掘をという動きがあり

何人かがプロテストを受験した

その中には岸野もいて

めでたくプロ入りしたのである

「ん?」

山本は首をかしげながら

岸野の肩に触り

「岸野やないか!」

「あのな、肩で私って判断するんやめてくれる?」

お決まりの挨拶をしていた

「よ、よろしくー」

珠理奈は関西のノリに押されながらも手を差し出す

「おう。よろしゅう。いやー私もあんたの球受けてみたかってん。楽しみやわー」

岸野も手を握り、ニッと笑う

「ゆうとくけどノーコンやで」

山本が間から言う

「あー何それ、高校んときよりよくなってんだからね」

「はいはい。それが今日散々ボール出しまくってた人の言う台詞ですかねー?」

「はぁ?そんなノーコンピッチャーに三振したんはどこのどなたですかねー?」

「あぁ?」

「なにさ?」

珠理奈と山本は睨みあう

「もーあかんでー2人とも喧嘩したらー」

「あははー。なんや珠理奈結構おもろいやん。彩のいじり方わかってるし」

おろおろとする小谷の隣で岸野はにこにこと笑っていた

「何やってんのよ珠理奈」

そこに白石と橋本が現れる

「あ、白石さん」

「ど、ども」

珠理奈と山本は睨みあいを辞め

ぺこっと頭を下げる

岸野と小谷もあわてて頭を下げた

「博多ウォーブラの小谷さんと岸野さんですよね。よろしく。」

そういって橋本が手を差し出す

「よ、よろしくおねがしいます」

小谷は目を輝かせながら握手をし

岸野もそれに続き

「あ、あのっ!橋本さんの球も今度受けさせてもらっていいですか?」

そう言った

「うん、いいよ。岸野さんの肩、いいよね。あの2塁までの送球スピードはなかなかでないよ」

「いやーそうですか?野球ってソフトのボールより小さいから投げやすいんですよー」

岸野は照れくさそうに笑う

「そうそう、岸野はソフト時代の外野ん時からめっちゃ肩良かったもんなぁ。さすが肩幅でっかまんやで」

そういって山本は笑う

「肩幅・・・」

「でっかまん・・・?」

橋本と白石は顔を見合わせ

岸野のがっちりした肩幅を見て

思わず噴き出しそうになるのを手で抑え、堪える

「なっ!彩!なに中学ん時のあだ名ここで暴露してんねん!!」

岸野は顔を赤らめながら山本に詰め寄る

「えーええやん。今はもう肩幅デッカマンZくらいにパワーアップしてるけどなー」

「あははーすごいなー里香ちゃんめっちゃ強そうやん」

小谷も岸野の肩を触りながら笑う

「あんたら、しばくでほんま」

岸野は眉間にしわを寄せていた

「ふふっ。じゃあ、パワーアップしたの見せてもらおうかな」

そういって橋本が笑い

「あ、あはは。任せてください!」

岸野は照れ笑いをした

「・・・あのっ」

山本は橋本にスッと手を伸ばす

「ん?」

それに気付いた橋本は、山本を見つめる

「投球練習の時、バッターボックス立っていいですか?」

「いいよ。打たれないように、こっちも気合入るから」

「よろしくおねがいします」

「こちらこそ」

そういって2人はしっかりと握手をした

「なんやねん、彩は相変わらずええとこもってくのー」

岸野は口をとがらせる

「あ、せや!あれー?さっきまでおったのに?もう出て行ってしもたんかなぁ?」

小谷はきょろきょろとあたりを見渡す

「あ?あ、ホンマや?どこいったんや?」

岸野も小谷とともに辺りを見渡していた

「どうしたの?」

珠理奈が尋ねる

「いや、彩に挨拶したいって子がおってんけど・・・。うーん。まぁええか。この後、懇親会あるし」

「せやな」

小谷と岸野は頷く

「ふーん・・・そうなんだ。って、もう出ていいのかな?」

珠理奈は観客席で待っている玲奈に会いたくて

早く切り上げたい気持ちが募っていた

「大島キャプテーン!もう部屋決まった人は出て行っても良いんですかー?」

珠理奈は手を挙げて叫ぶ

「おーいいぞーまたホテルでなー」

「はーい!じゃあ皆さん、また後で」

珠理奈はニッと笑って扉の方へ向かった

「あっ、ちょっと待て珠理奈!私も行く!ほな、失礼します!」

山本もペコっと頭をさげ、珠理奈の背中を追いかけて会議室を後にした・・・


が・・・

「松井選手!優勝おめでとうございます!世界大会の意気込みを!」

待ち構えていた記者たちが部屋から出てきた珠理奈を一斉に取り囲む

「げっ・・・」

おびただしいフラッシュに包まれ、珠理奈は苦笑いをする

「珠理奈ー」

「あっ山本選手!山本選手も一言!」

「え?」

あとを追った山本も記者たちに囲まれ

珠理奈の横へと押しやられる


東京リリーガル 前田、山本のバッテリー

神戸ストークス 松井、白石のバッテリー

としての2ショットは多いのだが

珠理奈と山本が肩を並べるのは高校時代以来無いので

記者たちはここぞとばかりに2ショットにしたかったのだ


「あーもう玲奈ちゃんのとこ行きたいのにー・・・」

珠理奈はむすっと口をとがらせる

「私やってはよ会いたいわ・・・とりあえず、さっさと終わらせてダッシュやな」

「うん・・・」

2人は小声で話しをし、記者たちに愛想笑いをしながらインタビューに答える


「あちゃー・・・こりゃ今日は無理かなぁ」

スタッフのIDを首からさげた指原はその様子を遠まきから見て

苦笑いをしていた