――――――

それから

日々はあっと言う間に過ぎ

3月・・・

「山本、ちょっとこっち来い」

「はい」

木野チーフが私を厨房奥にある部屋に呼んだ

「話しは他でもない。前行ってたコンクールの件だ。出るのか?」

「はい。忙しい時期なのはわかってます。でも・・・お願いします」

私はしっかりと頷いた

木野チーフが言ってるのは

6月末にある、日本パティシエコンクールのことだ

飴細工とかチョコレート部門とかいろいろあるけど

私はケーキ部門にエントリーする予定だ

去年の11月の大会の結果が悔しくて

もやもやしてたから・・・

今回は私から出たいと申し出た

「そうか・・・まぁ経験はこれからの糧になるか・・・やるからにはまたびしばし指導すっからな」

「はい!おねがいします!」

私は深々と頭を下げ、部屋を後にした



―――

それからというもの

私は仕事終わり

毎日ケーキ作りに励んでいた

正直、ケーキ作りをしてたら山田のこと考えんでもええっていうんもあって

没頭していた

山田は最近ローズにも顔を見せなくなっていた

メインの仕事を多く任せられるようになってきたみたいで

バタバタしてるようやし

それに・・・

佐藤との交際も順調に進んでいるようだった

いつも朝早くに山田の部屋からバタバタと聞こえていた音は

何日かに一度

聞こえなくなっていた

休みなんかなとか思ってたら

普通に出勤してて

あぁ、佐藤のとこに泊ってんねやって気付いた

山田への気まずさは徐々に無くなっていって

会えば普通に話しをしている

ただ、山田は気をつかってるのか

私の前では佐藤との話しをすることはなかった

まぁ佐藤から逐一デートどこ行ったとか

菜々のこのしぐさが可愛くてーとか

散々聞かされてるから

山田からも聞かされたらたまらんけどな

「・・・すいませーん。山本さんいますか?」

「!」

カフェの方から聞こえる聞きなれた声に

私は動きを止める

そんなこと思てたからか

久しぶりに山田が訪ねてきた

「おう。おるで。」

私は手を止め

カフェの方に顔を出した

「・・・なぁ、今日一緒に帰らへん?」

「あー・・・すまん。今日はもうちょっと残るつもりやねん」

「・・・そっか。なぁ彩・・・」

山田は少し俯く

「ん?」

「・・・あのな」

「なんや?」

山田はパッと顔をあげて

「なんか・・・久しぶりに彩のシュークリームが食べたくなってん」

そういって笑った

「え?あー・・・そうなんや。でも今日は作ってないねん。あ、ケーキならあんで。私、今度6月にあるコンクールに出んねん」

「え・・・6月?」

「せや、忙しい時期やけどチーフが許してくれてん。去年のリベンジや」

「そうなんや・・・」

「あ、もしかして佐藤もでるとかゆうてた?」

「ううん。出ぇへん。・・・と思う。そんな話ししてなかったから」

「そうなんや。出るんやってたら今度は負けへんって言うつもりやったんやけどなー」

「・・・うん。じゃあ今日は帰るわ。彩、頑張ってな。また明日」

「おう」

私は軽く手を振って山田を見送った

厨房に戻った私は

絞り袋を手に

深呼吸をする

デコレーション作業は

速さと集中力が求められる

私は絞り袋に微妙な力を入れながら

バラの花びらをデコレーションしていく

最後にバラを作ろうとした時

先ほどの山田の顔が浮かんだ

・・・いつもより、元気なかったな

「あ・・・」

そんなことを思っていたら

バラの花びらの形が崩れる

「はぁー・・・」

私は自分の集中力の無さにため息をついた

――――

片づけを終えて

私はホテル前の自販機で

缶コーヒーを買い、いつものベンチに腰掛ける

コーヒーをぐっと飲み

「はー・・・」

空を見上げる

空には満月が煌々が光っていた

『彩のシュークリーム食べたいなって思って』

山田がそう言ったのは初めてだった

前は定期的にシュークリームを作ってて

それを私が山田にあげてたから・・・

「・・・あ」

そういえば

山田が佐藤と付き合うようになってから

私はシュークリームを作ってない

それに・・・

佐藤が山田にいろんなスイーツ作ってるやろうと思ったから・・・

「・・・」

私は隣に目をやり

山田がうれしそうにシュークリームを食べているのを思い出した

最近、このベンチで山田と話しすることもなくなってたな・・・

「・・・つくろか。シュークリーム」

私はそう呟き

またコーヒーをぐっと飲んだ