昼の部が終わり

会場の片づけをしていると

「山田さん。ちょっと」

川崎さんが私に声をかけてきた

「はい」

「ちょっと今からローズに行って来て」

「へ?」

「木野さんが話しがあるんですって。山本さんのことで」

「え?・・・わかりました」

私は困惑しながら

ローズへと足を進めた

休日はカフェを利用する人が多く

店員さんたちは慌ただしく動いていた

「すいません。木野さんいらっしゃいますか?」

「あ、ちょっとお待ちくださいね」

店員さんは厨房に向かい

しばらくして

「おう、山田さん・・・だな?」

厨房からぬっと木野さんが出てきた

「は、はい。そうです」

「・・・実はな。今日、山本がめまいを起こして倒れたんだ」

「えっ!」

私の心臓は早鐘のように鳴り

血の気が引いていく

「そんな顔すんな。病院に連れて行ったけど、大事にはいたってないから。なんか熱もあったみたいでよー。自分でも気付かなかったんだとよ。で、診断は過労からくる発熱だろうってさ。睡眠時間聞いたら、あいつ3、4時間しか寝てなくてよ。コンクール前だからって無理しすぎなんだよ・・・」

木野さんはため息をついた

「で、山田さんに頼みってのはこれだ」

そういって、木尾さんはすっと私の前に腕を伸ばし

手を開く

その手から何かが落ちてきたので

私はとっさに両手で受け止めた

「これ・・・」

私の掌の中には

鍵があった

そして・・・そこに付けられているのは見覚えのあるキーホルダー・・・

私は顔をあげて、木野さんを見る

「山本の部屋の鍵だ。病院から部屋までうちの臼井って奴が連れてってんだが・・・。山本んちの鍵をうっかり持って帰って来ちまってよ。しかも、臼井のやつ子供を保育園に迎えに行かなきゃいけなくてな・・・帰る時にこの鍵の事に気がついたらしいんだ。だから、俺に託してもう帰っちまってよ」

「はぁ・・・」

「あとは男どもしかいねーし。さすがに鍵渡すわけにもいかねぇからよ・・・知佳がこの前、山田さんが山本と仲いいって言ってたの思い出してな」

知佳というのは川崎さんの名前だ

「わかりました」

「山本に言っといてくれ。無理しすぎだって。・・・いい加減意地張るなって」

「意地・・・?」

「あぁ。去年のコンクールの時、山本が描いたデザインの中でいいのがあってな。俺はそれでいけって言ったんだが、このケーキを見せるのはコンクールじゃないとか言い出しやがってよ」

「え?」

「・・・一番に見せたい相手がいるんだとよ。その人のために作りたいからって頑なに譲らなくてな。でも、今こうしてデザインで悩んで寝る間も惜しんでるんなら使えってんだよな・・・」

木野さんはぶつぶつと口をとがらせる

きっと、彩の事を本当に心配してくれてるんやろうな・・・

不器用だけど、その優しさが伝わってきた

・・・40代の魅力っていうか、木野さんの魅力が少しだけわかった気がした

「すいません、チーフ・・・よろしいですか?」

厨房から、おずおずと男性スタッフが声をかける

「おう。じゃあ、よろしく頼むな」

木野さんはそう言って厨房に戻っていった

私は鍵を握りしめ

ローズを後にした

カッカッカッカッ・・・・!

ヒールの音がホールに響く

私は全速力でプランナー室を目指していた

私が必死に走っているのを

受付のスタッフや宿泊客が見ていた

でも

そんなのどうでもよかった

一刻も早く

彩の元に行きたかった