プランナー室に戻った私は

事情を話して、残業することなく

一目散に職員寮を目指した

「はぁ・・・はぁ・・・」

彩の部屋の前で

私は息を整える

何話したらええんやろ・・・

久しぶりに会うし・・・

さっきまで、心配で心臓がバクバクしてたのに

今は彩に会うことに緊張していた

でも、迷ってても仕方ない!

私は鍵を差し込んだ


「・・・彩ー」

私はそっと部屋に入る

彩はベッドで寝息を立てていた

「寝てるんか・・・」

私は少しほっとして

床に座る

ベッド前にあるテーブルには

スケッチブック、メモ帳、色鉛筆・・・

床にはケーキの雑誌が散乱してて

ゴミ箱には丸められてた紙がいくつも捨てられていた

もう・・・どんだけ悩んでるん?

私はスケッチブックに目をやる

「・・・」

そして、それをそっと手に取った

なんか盗み見てるみたいやけど

私は当日行かれへんし・・・

もし、彩がイメージしてるんがどんなんかわかったら

何か手伝えることがあるんかもしれへんし・・・

私はそんな言い訳をしながら

表紙を開く

スケッチブックは何度も書き直しては修正を加えた後が見えた

そして、数枚めくった後

「え・・・」

私は手を止めた

そこには

ちいさなシュークリームが何個もちりばめられた3段のウエディングケーキの絵が描かれていた

いくつものシュークリームはいろいろなクリームで色づけされ

右端にはシュークリームがバラに見えるように

生クリームのデコレーション方法を拡大図のように大きく描いていた

そして

次のページをめくり

「あ・・・」

私はまた声を漏らす

そこには、前のコンクールで彩が作ったデザインのケーキが描かれていた

『前のコンクールの時、いいデザインのがあってな。俺はそれでいけって言ったんだけど・・・このケーキを見せるのはそういうところじゃないとか言い出してな』

私は、先ほどの木野さんの言葉を思い出す

じゃあ・・・彩が使わなかったデザインって・・・

もしかして・・・

ブーッ!ブーッ!

私の鞄から携帯が鳴る

「っ!」

私は慌てて鞄から携帯を取り出す

幸い、彩はまだ寝ていた

電話は創太からだった

「もしもし・・・?」

『あ、菜々?昼間は電話でれんでごめんなー』

「ううん。ええよ」

『あの、ウエディングケーキの件なんやけど』

手早く切りたかったのに

創太が先に口を開く

『俺、作らへんよ』

「え・・・そうなん?」

『あ、もしかして俺のがよかった?でも山本に頼まれたからなー・・・2次会のケーキは俺が作ろうかなぁー』

「え・・・」

私は混乱する

彩に頼まれた・・・?

「創太。彩に頼まれたってどういうこと?」

『あ、やべっ・・・』

饒舌な創太がしゃべらなくなった

口止めされてたのをうっかりゆうてしもたんやな

「言って」

『う・・・実はな。元々俺、厨房借りて作るつもりやったんやけど・・・山本に頼まれてん。ウエディングケーキ作らせてくれって・・・』

「え・・・でも、彩はその日コンクール・・・」

『コンクール前に何とか作るからって。だから頼むって・・・なんか勢いすごくてな。まぁ山本おらんかったら菜々と結婚できんかったし・・・俺も譲ってん』

「・・・」

私は振り向いて

ベッドに寝ている彩に目をやる

「創太ごめん。また後でかけ直す」

私は携帯を素早く耳から離し

電源を切った

そして、スケッチブックを手に取り

パラパラとめくっていく・・・

スケッチブックの後半は

人形の絵が描かれていた

パティシエの服を着ているのは創太・・・?

ウエディングドレスを着てるのは・・・私?

私はページをまためくる

そこには先ほど見たシュークリームのケーキのてっぺんに

人形を置いた絵が描かれいた

次のページは

同じケーキが描かれてて

よく見るとバラの配置とかを変えていた

「・・・」

ページをめくっても、めくっても

イラストは3段のシュークリームを乗せたケーキばっかりだった

「・・・」

私は彩を見つめる

『私、シュークリームのウエディングケーキ食べてみたいで』

いつものベンチで、何気なく言った言葉を思い出す

そして

『・・・一番に見せたい相手がいるんだとよ。その人のために作りたいからって頑なに譲らなくてな・・・』

木野さんの言葉も・・・



「なによ・・・」

そう呟いた私の視界は

一気に滲む

なによ・・・

なによそれ・・・

あんな何気ない私の言葉・・・

律儀に守って・・・

「・・・っ!」

私はスケッチブックを抱きしめ

スーツには、ぽたりと涙が落ちた


彩に創太を紹介された時

彩は私の事を友達としかみてないんやって

何も思われてないんやって

現実に引き戻されたんやで

それで、ここで創太との話し断ったら

頼まれた彩も困るんかなって思って・・・

とっさに返事してた


創太は面白くて、いろんなとこでデートもした

でも、告白された時

彩の顔が頭から離れなかった

それに、初メインの仕事に響いても困るから

12月まで待って言った

式が成功したら

彩のこと、きっぱり諦めようって・・・

私はコンクールの時に彩を抱きしめれたからもう十分やって・・・

だから・・・

創太と付き合おうって

そう決めてた


式は無事に終わったけど

その後

熱がでて倒れて・・・

彩が来てくれて・・・

気持ちが揺れて・・・

でも・・・

決めてたから・・・

私は・・・

「彩とは友達でおるって」

決心してたから・・・

だから・・・

創太の電話の後

彩に自分の口から付き合うって言って

決別してんで・・・


創太からプロポーズを受けた時も

嬉しかった・・・けど

・・・どうしても、彩のことが頭から離れへんかった

せやから、プロポーズを受けた翌日

私は彩んところに行ったんやで

彩はやっぱり残ってたんやけど

何ていっていいかわからんくて

シュークリーム食べたいって間抜けなことしか言えんくて・・・

それに、彩は6月にあるコンクールに向けてケーキ作ってて

頑張ってて・・・

私と会う時間が少なくても

何も思わんのやなって

そう思った・・・

だから、私も踏ん切りつけて

創太のプロポーズを受けた

式を6月にしたのはジューンブライドに憧れてるってこともあったけど

彩が大会を理由に参加することができんって言ってくれるかもしれんって思ったから・・・


なぁ・・・彩・・・

覚えてる?

ホテルの新人研修で

初めて彩と会った時な

人見知りして、様子を見てて・・・

そんな不器用なところが

何となく私と似てるなって思ってんで

でも、一番似てるって思ったのは・・・


『でも山本さんってどうしてホテルに就職したの?パティシエっていろんなお店もあるし、選び放題なのに』

『それに大阪出身なのに東京就職だしねー』

グループの他のメンバーからそう言われて

彩は照れくさそうに私の方を見る

『・・・私も、ケーキ入刀のシーンが一番好きで・・・。皆が写真とって祝福して・・・ファーストバイトして・・・だから、そんな人生の一番幸せな時間に自分が作ったケーキがあると思ったら嬉しいなって・・・』

そういって、照れくさそうに笑う彩の顔を

私は今でも覚えてんで・・・


私はベッドで寝ている彩の顔を見つめた



あぁ・・・そっか・・・

私は・・・

あの頃から、ずっと・・・


私は、そっとスケッチブックをテーブルに置いて

ベッドに近づく


なぁ彩・・・

もし、私が気持ち伝えてたら

受け入れてくれてた?

私が熱出した時、もっと彩に甘えてたら・・・何か変わってた?

それとも、年末に彩が熱出した時に

私が無理やりにでも部屋に入ってたら・・・



なぁ・・・?

どれが正解だったんかなぁ?


「・・・っ」

私はぽたぽたと落ちる涙をぬぐい

息を整える


でも・・・

彩とはずっと仲良くおりたいねん

もし付き合えたとしても

別れてしもたら・・・

その時はもう、友達には戻れんから・・・


でも・・・

でもな・・・

ごめん・・・

一回だけ・・・

一回だけ・・・許してや


ギシッ・・・


私はベッドに手を付き

彩の唇にそっとキスをした

「・・・」

ゆっくりと唇を離し

彩の顔を見る


・・・彩は、起きなかった


ホッとしたような

残念なような

複雑な気持ちだった

でもな

寝てるんなら

最後に、私の想い言わせてや

「・・・彩。大好きやで・・・」

そう・・・

ずっと・・・

これからも・・・私、彩のこと・・・

「・・・っ」

私はそっと彩の部屋から出て

鍵をポストに入れた

ガシャン・・・

耳障りな鍵の落下音の後は

周りがいやに静かに思えた

コツコツコツ・・・

力なく階段を上り

自分の部屋に入る

バタン・・・

「・・・っ。くっ・・・」

戸を閉めたとたんに涙が一気にあふれてきた

私はしばらく

玄関から動くことができなかった