数日後

私は体調も回復し

仕事に復帰していた

「山本、ちょっとこっちこい」

「はい」

木野チーフに呼ばれて

私は厨房の奥にある部屋に入った

「お前、コンクール当日にウエディングケーキ作るんだって?」

「え・・・」

私はぎくっとした

近々、木野チーフには言おうと思ってたんやけど

熱でダウンしてたから言うのがすっかり遅くなってた・・・

「・・・その顔は図星だな」

「・・・すいません。言うのが遅くなって。でも、なんで・・・」

「まぁ、プランナー情報だ。そんなのはスッと入ってくんだよ」

「はぁ・・・」

そういうもんなんか?私は首をかしげる

「で、どんなやつ出すんだ」

「えっと・・・それは・・・その・・・」

私はもごもごと口ごもる

「・・・あのシュークリーム乗せてるやつか?」

「あ・・・」

私はドキッとして、固まった

「・・・そうか。あの子か」

「え?」

木野チーフはそう呟いて

目を細めた

「なぁ、山本。シュークリーム作ってくれよ」

「へ?」

「うちの店のじゃねーぞ。おまえんちのやつな」

「え・・・でも・・・今はコンクールに向けてケーキを」

「いいから作れ。今日は残業なしで皆帰らすから。以上。」

「は、はい!わかりました」

木野チーフに睨みで

私はピシッと背筋を伸ばし、頭を下げて部屋を出た

―――

そして、仕事終わり

私は木野チーフに言われた通り

シュークリームを作っていた

「・・・ホンマに久しぶりやな」

生地をこねながら

山田・・・今日、残ってるかな・・・

そんなことを、ふと思った

「しゃっ・・・」

中のカスタードクリームを作り終え

私はオーブンの中のシュー生地の具合を確認する


その時

小さい頃の記憶が蘇ってきた

『お父さん。お母さん喜ぶかなぁ』

私は店の厨房で、父さんに抱えられながらオーブンの中を見ていた

『そりゃ彩が作ったからなー。お父さんのよりうまいでー』

『えーホンマー?』

私は嬉しくなって、父さんの顔を見る

『せや。だって、このシュークリームには彩の気持ちがこもってるからな』

『きもち・・・?』

『そうやなぁ・・・彩はこのシュークリーム、お母さんが食べた時おいしいって言ってほしいって、笑顔になってほしいって思って作ったやろ?』

『うん!だって今日はお母さんの誕生日なんやもん!』

『そうや。そうやって思って作ったんが気持ちを込めるってことなんや』

『んー・・・?うん。』

『ええか、彩。お菓子でもなんでも、作るってことは相手がおるってことなんや。だから、大事な人のことを思って作ったらめっちゃおいしくなんねんで。・・・気持ちを込めること、それが一番大事なんやで・・・って、今の彩にゆうても難しいか』

そういって、父さんは私の頭を撫でて笑った


「・・・っ」

こんなときに

やっと思い出すなんて・・・

私は俯き

ぐっと拳を握る

私・・・

シュークリーム作ってる時

山田にあげようって・・・

おいしいって言ってほしくて・・・


ただ・・・

あの笑顔が見たくて・・・


『私、結婚式で一番好きなんがケーキ入刀やねん。初めての共同作業ってなんかいいなーって・・・。だから、そんな幸せな瞬間をいっぱい見たいって思ったんがプランナーになった一番の理由。』

新人研修の時、そう言って照れくさそうに笑う山田の横顔を

私は隣で見つめていた


あぁ・・・そうか・・・

私はきっと・・・

あの時から

山田に惹かれてたんや

自分でも気づかへんほどの

淡い・・・想い・・・


ビーッ、ビーッ・・・


目の前のオーブンが

終了を告げた・・・




―――

「おう、できたか?」

少しして、木野チーフが厨房に姿をみせる

「はい」

私はシュークリームを差し出した

「・・・」

木野チーフは私の顔を少し見た後

何も言わずにシュークリームを食べる

「ふーん・・・」

一口食べた後

中のクリーム量とか生地の食感とかを

確かめるように、シュークリームを見つめる・・・

「あの・・・チーフ。急にこんなことを言って申し訳ないんですが・・・」

「・・・なんだ?」

木野チーフはもぐもぐと口を動かしながら

視線をシュークリームから

私に移した