―――
「おう、なかなかのスピーチだったじゃねぇか」

珍しく、木野チーフが会場の裏に居た

「すいません。無理言って」

「いいんだよ。ま、コンクール辞退したいって言われた時は少し驚いたけどな」

「はは・・・」

私は苦笑いをする

あの日、私は木野チーフにコンクールを辞退したいと告げた―――


「そりゃまたいきなりだな。理由は?」

「ウエディングケーキを・・・ちゃんと作りたいからです」

「・・・」

木野チーフは黙って私を見つめる


「大事な人の結婚式なんです・・・。私はその日、コンクールの作品より、山田のウエディングケーキを精一杯作りたいんです!気持ちを込めて・・・最後の最後まで・・・。指導していただいたチーフや佐々木さんたちにも申し訳ないんですけど・・・すいません!」

私は勢いよく頭を下げる

「・・・そうか」

木野チーフは私を見つめ

手にしていた残りのシュークリームを口に放り込んだ

もぐもぐと口動かし、飲みこむと

少しして口を開いた

「うん。やっぱり、お前コンクールにはむかねぇな」

「え・・・?」

「誰かの事を思って作る。作り手にとって、それは一番大事なことだ。でも、大会とかコンクールとかってなると、いかにうまく表現するかとか技の競い合いになっちまうだろ?気づいたら、いつの間にか自分をいかによく見せようかってなっちまうからよ・・・」

「チーフ・・・」

「だから俺は前にも言ったんだ。お前はコンクールにはむかねぇって。お前はさ、誕生日ケーキとかをオーダーメイドでつくるのとかに向いてんだよ。その点に関しちゃ、ウエディングケーキはぴったりだけどな」

木野チーフは私を見つめる

「ったく・・・言ったからには最後までちゃんとやれよ。・・・最高のウエディングケーキ作ってやれ。」

「はい!」

「じゃあ、今日はもう帰って寝ろ。当日に倒れたら意味ねぇぞ」

「はい!」

「じゃあ、俺は帰る」

木野チーフは私に背を向け

出口に向かう

あと数歩で厨房から出るというところで

木野チーフは振り返り

「山本。シュークリームをうまかったぜ。おまえんちのケーキ屋、今度ちゃんと場所教えてくれよ」

そういってニッと笑った

「チーフ・・・ありがとうございます!」

私は深々と頭を下げた


こうして、私はコンクールを辞退し

山田のウエディングケーキを精一杯、気持ちを込めて作った・・・


―――


「「わぁぁぁっ!!」」

会場はまだケーキを囲んで盛り上がっていた

「でも、よかったのか?式でなくて」

木野チーフは幕の隙間から式の進行を見つめていた

「いいんです。私、あの場にパティシエとして・・・あのケーキを作った人としてでたかったんです。それに・・・」

「ん?」

「一番いいのができたから・・・。私、満足してるんです」

「・・・そうか」

「じゃあ、私、仕事戻りますね」

私はそう言って会場を後にした



―――――――


「いやーまさか山本がおるとは思わんかったなー。コンクールどないしたんやろなぁ?」

「うん・・・そうやね。どないしたんやろ?」

ケーキ入刀が済み

金屏風の前に座る私に

右隣りに居る創太が話しかけてきた

私は、動揺を誤魔化しながら笑っていた

その後も式は進み

カットされたウエディングケーキが私の前に運ばれてきた

そして・・・

その横には

彩のシュークリーム・・・

私は運んできたスタッフさんを見る

「新婦には特別に、いつものサイズを・・・だそうです」

そういってニコッと笑った

「えー。ええなー」

創太が口をとがらせる

「彩、サービスしてくれたんかなぁ」

私は泣きそうになるのをこらえて笑う

そして

一口食べて

「え?な、菜々・・・?どないしてん?」

隣で創太が動揺していた

「・・・うぅ~・・・」

私はシュークリームを食べながら涙を流していた

その味は


今まで食べた中で一番おいしかった


3年間食べ続けてきた私が思うんや

間違いない


私は、さっきの彩の顔を思い出す

スピーチの時

片方の眉が斜めに少し傾いてた

それは、彩が泣くのを我慢してる時のサインって知ってる・・・

だから

私も泣くん必死に我慢してたのに・・・

彩のあほ・・・

もう、涙止まれへんやん

私は泣きながら

シュークリームを頬張り続けた


ありがとう・・・

彩・・・

さっき、目ぇ合った時な

彩も私と同じ選択を選んだんやなって

そう思ったんや

やっぱり・・・

私ら似てるな・・・

そういう不器用なとこ・・・


――――


会場を出ると

さっきのにぎわいが嘘のように静まりかえっていた

ローズに戻る前に

私は職員通路を抜け

外に出る


ポケットから小銭を取り出し

いつもの自販機で缶コーヒーを買い

その横のベンチに腰掛けた


・・・山田はもう、シュークリームを食べたんやろか?

あのシュークリームは最高の出来やった

きっと・・・

父さんも納得してくれるやろ・・・

これも全部・・・

「山田のおかげやな・・・」

私は視線を横に向け

嬉しそうにシュークリームを頬張る山田の姿を思い出して

微笑んだ


・・・大好きやで、菜々

これからもずっと・・・

「友達として・・・な。」

そう呟いて

ぐっとコーヒーを飲む

見上げた空は

雲ひとつない青空が広がっていた



それは

なんとなく

今の私の気分と重なった


今夜は

誰かさんみたいに

晴れてくれてありがとうって、月に感謝してみようかな・・・



FIN