山本は配達を終え店に帰る

「おかえりー」

山本の帰宅に渡辺はかけよる

「おう、ただいま」

「彩ーちゃんと配達いけた?」

「おう。なんや変な約束取り付けられてしもたけど・・・」

「なに?」

渡辺は首をかしげる

「なんか店行ったら小さなステージみたいなんがあって、そこで演奏してくれってたのまれてん」

「へー。そんなしゃれた喫茶店なん?」

母も興味があるのか山本の方に近づいてきた

「なんか古い家改装してやってた。古民家カフェとかいうんかなぁ」

「へー」

「彩ちゃん、やったらええやん」

渡辺はにこにこしていた

「え?」

「だって、彩ちゃんうまいんやもん。それにカフェで演奏とかかっこええやん」

渡辺はきらきらと目を輝かせる

「そ、そうか?」

「うん!」

「演奏っていつやるの?」

母が尋ねる

「なんか土曜日の夜ってゆうてた」

「ふーん。週一回なら行ってきたら?日曜は市場も休みやし。」

「へ・・・」

母の意外な反応に山本は驚いて固まっていた

「もーお母さんやってたまにはそんなことも言うわよ。私らだけ旅行で楽しい思いするんもなんやしな。息抜きや息抜き。ずーっと部屋でギター弾いてんねんから人前で演奏してきぃ」

「あ・・・うん」

母の言葉に山本は素直に頷いた

「でも土曜日やったら私行かれへんなぁ」

渡辺は口をとがらせる

土曜日は次の日が日曜日ということもあり横山の店は忙しく、休むことができないのだ

「あ・・・そうか」

山本もハッとする

「でも、行ってきて。彩ちゃんのギター、皆に聞かせてあげて」

「美優紀・・・」

「だって、彩ちゃんギター上手なんやもん。もったいないよ」

「・・・まぁ。じゃあ試しにしてみよか」

ストリートで歌っていた頃の記憶が蘇り

もう一度、人前で演奏するのも悪くないかもしれないと

山本は密かに思っていた


―――

「へーそんなカフェができたんや」

「そうやねん。今週末にオープンやって」

夜、山本は横山の店のカウンターで揚げだし豆腐を食べながら言う

「ええなぁ。私も演奏会行ってみたいわ」

着物を着た横山がカウンター越しで残念そうな顔をした

「土曜はにぎわってるもんなぁ。っていゆうても今日も繁盛してるけどな」

山本の目線の先には、家族がわいわいと座敷で食事をしていた

平日でも横山の店には多くの人が集まる

「おかげさまでな。みるきーが来てから繁盛してんねん」

そういって笑った

「美優紀も貢献してんねんなぁ」

山本はウーロン茶を飲みながら、料理を運ぶ渡辺に目をやる

横山と横山の母は着物を着ているのだが

渡辺には着物が動きづらいので、普通の服で仕事をしている

「ま、なんせ人気絶頂でいきなりの卒業宣言。芸能界引退やからな」

「・・・」

山本の表情が曇る

「気にしてんの?」

「へ?ベ、別に」

「彩のせいやないやん。みるきーが選んだことなんやから。私は嬉しいで、こうして一緒に働けて」

「・・・おう」

山本は静かに笑顔で接客している渡辺を見つめていた