そして土曜日

山本はギターを車に乗せ

山田のカフェへとむかった

「彩ちゃん、いらっしゃーい」

「あ、どうも・・・」

普段のジーパンにTシャツという格好ではなく

白いシャツに黒いパンツ、茶色の腰エプロンをした山田が現れ

山本は少し驚く



「すいませーん」

客が声を上げる

「あ、はーい。ごめんなー。彩ちゃん、準備してて」

山田は慌てて客の方へと向かう

オープンしたてだが、洒落たカフェなので店はにぎわいを見せており

一段高いステージでギターの準備をする山本を客は好奇な目で見つめていた

ステージ前には『ギター演奏 この中からお選びください』と

山本が以前山田に伝えていたレパートリーが書かれた看板が立てかけられていた

(うー・・・緊張するわ)

そんなことを思いながらチューニングをする

山本は厨房に目をやると

てきぱきと山田は料理をしていた

「へー・・・」

山田はおっちょこちょいなイメージだったのだが

仕事は手際がいいのだと感心していた

「すいません、弾いてもらってもいいですか?」

一人の客が山本に声をかける

「あ、はい」

「じゃあ・・・これで」

「わかりました」

山本は椅子に座りギターを構え

歌い出した

一応カフェの雰囲気に合わせて、アルペジオでしっとりと歌う

その歌声とギターの音色に客は聞き入っていた

曲が終わると、店内に拍手が響き渡る

「・・・」

山本は恥ずかしさの中に嬉しさを噛みしめながらぺこっと頭を下げた

――――

「いやーホンマよかったわー。ありがとう」

そういって、山田は

閉店となった店内でカウンターに座っている山本にコーヒーを差し出す

「あ、すいません」

山本はペコっと頭を下げる

「あと、これも」

スッとカレーを山本の前に置く

「あ、ありがとうございます」

「ええよ。この前お礼ちゃんとできてなかったし、それに演奏してくれたお礼や」

「・・・じゃあ、いただきます」

山本は手を合わせて、スプーンを手にとりカレーを一口食べた

「うまい・・・」

以前飲んだコーヒーもさることながら、料理も絶品で山本は驚いていた

「えへへーこう見えても料理得意やんねん」

カウンター越しに山田はニッと笑った

山本は夢中でカレーを食べ、コーヒーを飲んで一息つく

「・・・」

店内を見渡すと、テーブルの上には皿やコップがまだ残っていた

ぼーっと見つめていた視界に山田がスッと入り

テーブルの上の皿を片づけ始めた

「あの・・・もしかして一人でやってるんですか?」

演奏の緊張感から解放され満腹にもなった山本は

一人で山田が切り盛りをしていたことに気づく

「うん。そうやねん。経費削減」

山田は振り返って苦笑いをする

「あの、手伝いますよ」

「え?ええよー。座ってて。演奏までしてもうたのに」

「いや、それとこれとは話しは別ですから」

山本は立ち上がり、山田が片づけていたテーブルに近づく

「ええよ。ホンマに」

「いや、いいですよ」

そういって山本は皿を重ねはじめたので

山田は制止しようと手を伸ばす

「あ」

山本の指と山田の指が触れ

2人は顔を見合わせた

大きな山田の瞳が、さらに大きく見えた

「ご、ごめん。爪当たれへんかった?」

ハッとして山田は身を引く

「え?あぁ大丈夫ですよ」

「そう。よかったー」

そういって山田は何事もなかったように皿を片づける

「・・・菜々さん」

「へ?」

初めて名前で呼ばれ、山田は顔を上げる

「やっぱり手伝います。だって、ここで演奏してた私は従業員みたいなもんですから」

「え?」

「いいから、やってやいますよ。明日も朝から仕込みするんでしょ?」

そう言って山本は、ぼーっとしている山田の前にあるお盆を持ち、厨房の流しに運んで行った

山田のカフェは水曜日以外は営業することになっていて

一人で店をしているとなると、すぐに過労で倒れてしまうと思ったのだ

「彩ちゃん・・・」

「ほら、さっさと洗ってしまいましょ。菜々さん拭いてってくださいね。2人なら早く終わるでしょ」

山本はそういって食器を洗い始める

「・・・う、うん」

山田は山本の隣に並び

ふきんで食器を拭き始めた

「・・・ありがとう」

「ええですよ。気にせんといてください」

そういって山本はニッと笑った