それからというもの

山本はギターの練習に力を入れるようになった

渡辺の送り迎えは変わらず続けていたのだが

横山の店で食事をするということがなくなっていった


ザザーン・・・ザザーン・・・


山本は防波堤に来ていた

潮風が山本の頬をなでる

「よっ・・・」

山本は防波堤に腰かけ

ギターを抱え、弾き始めた

山本は現在新しい曲の練習をしていたのだ

山田のカフェでギターを褒められ、意欲的になっていたのだ

店をしている合間に練習をしているのだが

夜しかできず、昼間は家で弾くことができないのだ

そのため、車で配達をしている時に時間ができては

こっそりここで練習をしていたのだ

今日の天気は曇り空で

そこまで暑くないのでコンディションとしては最高だった

「んー・・・ここ微妙やねんなぁ」

山本は繰り返しフレーズを練習する

「彩ちゃん」

「へ?」

独特な声に山本はハッとして振り向く

「菜々さん・・・」

そこには山田が立っていた

「やっぱりー。どないしたんこんなところでギター練習?」

山田は山本の隣に座る

「あ、はい。昔っからここで練習してたんで・・・菜々さんこそなんでここに?」

「近くにばぁちゃんちがあって来てん」

そういってニコッと笑った

「そうなんですか?」

「うん、一人で住んでてなー。顔見に来てんねん」

そういって笑った

今日は水曜日で店は休みなのだ

「へー・・・でも、少しは休んでくださいよ」

「いけるよー。今日めっちゃ寝たし、店してても夜の営業するまでの間は3時間くらい休んでるし。私どこでもすぐ寝れる人やねん」

「・・・そうなんですか?」

得意気に言う山田を見て山本はくすっと笑う

「で、今なんの曲してんの?」

そういって山田は山本の練習している譜面を見る

「あーこれ好きー」

甲高い声で叫ぶ

「ほな、よかったです」

山本は笑う

「なぁ弾いてみてー」

「え、いや、まだ練習中で」

「ええから、ええから」

きらきらした瞳でみつめる

その屈託のない顔に山本は学生時代の渡辺を思い出して

くすっと笑った

「ほな、1回だけですよ」

「うん」

そういって山本はギターを弾きだした


―――

「ありがとうございましたー」

山本商店では渡辺が店の前でにこにこと客の後姿を見送っていた

「はぁ・・・」

店の中に入ると、途端に表情が暗くなる

「彩ちゃん・・・おそいなー・・・」

時計に目をやり、呟く

「美優紀ちゃーん。彩帰ってきた?」

奥の居間から山本の母親が顔をだす

「あ、まだですー」

ハッとしてニコッと笑顔をとりつくろった

「もーあの子また配達中にどっかの家でしゃべってるんちゃうん」

母親はぶつぶつ言いながら靴を履こうとして

「あ・・・」

レジカウンター下に落ちている紙に気づく

「あかん、忘れてた。今日横山さんとこ追加で配達あるんやった」

そういって慌てて品物を詰め出した

現在、山本も、そして父親も配達に出ている状態なので

母親は慌てて電話をするが・・・

「あーもう、2人ともでぇへんやん」

携帯電話を手に母親はむすっとする

「あ、あの、私行ってきますよ」

「え?でも・・・」

母親は困った顔をする

「彩ちゃんの自転車あるし、行ってきますよ」

「そう?ほな、私空気入れるわ」

そういうと母親は素早く店から出て行った


シャッシャッシャッシャッ・・・

店の横に置いてある自転車に

すさまじい勢いで空気を入れる山本の母親の後姿に渡辺は唖然としていた

「美優紀ちゃん、ほなよろしくー」

そういって振り返る

「は、はーい」

渡辺はハッとして自転車にまたがった


「んー自転車とか久しぶりやなぁ」

海沿いの道を走りながら

配達先を目指す

「あ・・・」

海沿いに見慣れたバンが止まっていた

その少し前には見慣れない軽自動車が止まっていた

「彩ちゃん?」

渡辺は道路をきょろきょろと見渡し、横断する

「あ・・・」

車の向こうの防波堤には

山本と

知らない女性が居た

「・・・誰?」

渡辺は自転車を止め立ち尽くす


2人はなにやら親しげに話しているようだった

しばらくすると

山本はギターをケースに入れ、立ち上がった

渡辺は見つからないように車の陰にとっさに隠れる

その時、強い浜風が吹き

渡辺は舞いあがる砂に目を閉じる

そして

「あ・・・」

再び2人を見た時

抱き合っているのが見えた

「・・・」

渡辺は、また再び自転車を漕ぎだした

渡辺の心は

今の空模様のようにもやもやしていた