「気ぃつけてくださいよ。ここ落ちたら深いんですから」

「ごめんなぁー。あーびっくりした」

強い浜風に吹かれバランスを崩した山田を

山本はとっさに抱き止めていた

「あっ!ごめん!ギター・・・壊れてへん?」

山田は慌ててギターケースを拾い上げ、砂利を払う

とっさのことだったので

ギターから手を離していたのだ

「いけますよ。ケースに入ってますし」

ソフトケースなのでそこまでの衝撃吸収はできないのだが

山本は気を使わせないようにニコッと笑った


「菜々さんの車ってそれ?」

「うん。そうやでー」

道路沿いに止めてある山本の車の前に淡いピンクの軽自動車が止まっていた

「ほなまた土曜日なー」

「はい」

そういって山田は車に乗って走り去って行った

車の後姿を見つめながら

「・・・どっかで見たような?」

そう呟きながら首をかしげていた

―――――

ガラガラガラ・・・

「こんにちはー。配達に来ましたー」

渡辺は横山の店の戸を開けながら言う

「あ、みるきー。ごめんなー配達、追加で頼んでしもて」

昼の営業が終わり、カウンターを拭いていた横山が振り向く

「ううん、夜の分?」

「そうやねん。父さんが急にいるって言い出し・・・みるきー?どないしたん?」

渡辺の目が赤いことに気づき

横山は驚く

「え?あぁ、さっき風で目にゴミがはいってしもてん」

そういって渡辺は笑う

「そう・・・なんや」

「うん。ほなまた夜になーゆいはん」

「あ・・・うん」

横山は出て行く渡辺を追う

店の前に止まっていた自転車に渡辺はまたがる

「え?彩は?」

「・・・今日は一緒ちゃうねん。私やって配達できるんやでー」

にこっと渡辺は笑う

「みるきー」

「ん?なに?ゆいはん」

「何かあった?」

「え・・・なんもないよ。ほなねー」

そういって渡辺はペダルを漕ぎ走り出した

「・・・泣いてたんちゃうん?」

横山は渡辺の後姿を見ながら、ぽつりと呟いた


――――


「ただいまー」

山本は店に帰ってきて空になった段ボールやコンテナを降ろす

「もー彩!携帯出てや」

母親が店から出て来る

「な、なんやねん。配達中やから気づかへんかったんや」

山本は乗せてあるギターを見られないように慌ててドアを閉めた

「もー!音鳴るようにしときな!美優紀ちゃんに配達行ってもらわなあかんようになってんから」

「え?」

「由依ちゃんとこから追加の注文が来ててん。朝電話くれたのにすっかり忘れてた私も悪いねんけどな」

「そうなんか・・・」

山本は自分がギターの練習をこっそりしていて

渡辺に配達をさせてしまったことに罪悪感を覚えた

ドルルル・・・

その時、カブに乗った父親が帰ってきた

「あーもう!お父さん携帯でてよー」

「な、なんやねん。帰ってきて早々機嫌悪いなー」

山本は2人の痴話喧嘩を横目にそそくさと荷物を店内に運んだ

「ふー・・・」

荷物を運び終え、レジカウンターに座って扇風機に当たる

店の入り口では、母親が電話に出なかったことを皮切りに

普段の愚痴をここぞとばかりに言っていた

「そんなんで旅行いって大丈夫なんか?」

山本は店内にあるカレンダーに目をやる

来週の金、土、日と

赤で何重にも丸がしてあった

母親のテンションの表れである

「戻りましたー」

「あ、美優紀ちゃんごめんなー」

「いえ、いいんですー」

「いやいや、暑い中すまんかったなー」

店の前で渡辺と両親が話しをしている声が店内に響き

山本はガタっと立ち上がった

「美優紀、すまんかった」

「・・・ううん。ええよ」

そういってスッと山本の横を通り過ぎる

「・・・美優紀?」

いつもと違う感じに山本は振り返る

「ん?なに?」

渡辺は首をかしげる

「美優紀ちゃん。暑かったやろジュース飲みなー」

山本の後ろから母が声をかける

「ええですよ。近い距離ですし」

「もー美優紀ちゃんはええ子やなー。彩とはえらい違いやで」

「なんやねん、それ」

「だいたいあんたはなー・・・」

「いやいや、母さんやって・・・」

「あーもう、やめーや」

母の説教が始まり

山本と言い合いを始め

父がなだめる

そんな様子を渡辺は寂しそうに見つめていた