「ほな、失礼しますー」

「美優紀ちゃん気ぃつけてなー」

「運転するんは私や」

「せやからゆうてん」

「どういう意味や」

「まぁまぁ・・・雨降りそうやから気ぃつけて」

「あーほんまやなぁ・・」

店の前で山本と母親が言い合いを始めたので

父親がなだめ、話題を変える

空は黒い雲が覆い始めていた

「ほな、いってきます」

「お世話になりましたー」

そう言って山本と渡辺は車に乗り込み、走り出した

今日はそのまま横山の店へと向かうため

海沿いの道を走る

「・・・」

山本は運転をしながら横目で渡辺を見る

普段ならいろいろ話してきたり、ちょっかいを出してきたりして

前を見る方が大変なのだが

今日は何もしゃべらないので

気になって仕方なかったのだ


ゴロゴロゴロ・・・

ポツ・・・ポツ・・・


ザーーーーー


雷の音が鳴り

空から大粒の雨が勢いよく振りだした

「うわー・・・すごいなこれ。今日はお客さん少ないやろうなぁ」

山本はワイパーの速度を速める

「・・・」

渡辺は黙ったまま海の方を見つめたままだった

うるさいワイパーの音だけが車内に響く

そして

昼に山本が居た防波堤が目に入る

頭の中に山本と知らない女性が抱き合っていた光景がフラッシュバックした

「止めて」

「え?」

「止めて!」

「あ・・・あぁ」

渡辺の強い口調に驚いて

山本は車を脇に止める

「ど、どないしてん?美優紀、今日なんか変やで」

「変なんは彩ちゃんや」

「はぁ?」

「今日おうてた女の人誰?」

「え・・・?」

「あそこで話してたやん」

そう言って渡辺は窓から見える防波堤を指差した

「・・・」

山本の心臓はドクンと跳ね

ワイパーのリズムとリンクする

「あー・・・あの人はカフェしてる山田さんや。ギター弾きに行ってるとこの」

「ふーん。せやから彩ちゃん、あんなに熱心にギター弾いてたんや」

「はぁ?」

「最近配達が遅いんもあそこでずーっと弾いてたんやろ?その人ともおうてたんやろ」

「なにゆうてんねん」

「ゆいはんとこに顔見せんようになったんも、そのカフェに通いつめてるんやろ!」

渡辺の口調が強くなる

「何わけわからんことゆうてんねん!ずっと店の仕事して、部屋でギターの練習してるわ!親に聞いてみぃや!」

渡辺の口調に山本も苛立ち怒鳴る

「じゃあなんで抱き合ってたんよ!」

「え・・・?」

山本は一瞬わけがわからなくなり

慌ただしく頭の中の記憶を探る

「ほら、やましいから黙ったやん」

「違うわ!あれは・・・」

「もういい!」

そういって渡辺は助手席から降り

後部座席のドアを開けギターを引っ張りだす

「ちょ、ちょっ!何すんねん」

山本は慌てて車から降り

渡辺の方に向かう

雨の勢いは止むことなく

二人の足元には既に水たまりができていた

「なんやねん配達の車にまでギター乗せて!彩ちゃんは私よりあの人の方が好きなんやろ!」

「はぁ?何わけのわからんことゆうてんねん。とりあえず乗れや。雨すごいんやで。」

山本はギターをつかむ

「・・・なんで?」

「え・・・?」

「・・・なんでなん?」

「み、美優紀・・・?」

渡辺の頬に雨ではない水が伝う

「彩ちゃんのアホっ!私よりギターの方が大事なんやろ!」

そういって渡辺はギターとともに山本を勢いよく押した

バシャッ!

「あっ!」

動揺していて、その動きに反応できなかった山本はギターを受け止めきれず

ギターは水たまりに浸かる

「何すんねん!」

山本は慌てて水たまりからギターを拾い上げるが

無情にもナイロン生地のギターケースは勢いよく水を吸い込んでいた

「あぁぁー!!」

山本はギターを後部座席に避難させ

ケースを開ける

ギターは見事に水浸しになっていた

「あ・・・」

渡辺も水にぬれたギターを見て

言葉を失う

「・・・美優紀のあほっ!!」

山本はキッと渡辺を睨む

「・・・なんやねん!彩ちゃんが悪いんや!」

「はぁ?さっきからこっちが悪いばっかり言いやがって・・・謝れや!」

「謝れへん!」

「謝れ!」

「・・・もうええ!」

渡辺は目に涙をためてキッと山本を睨み

くるっと向きを変えて歩き出した

「おい!」

「ほっといて!歩いて行くから!」

「・・・勝手にせぇ!」

山本は勢いよくドアを閉め

運転席にまわり

渡辺と反対方向に車を走らせたのだった