渡辺は横山の自宅に居た

「みるきーこれ」

そういって横山は着替えとバスタオルを差し出す

「・・・ありがとう」

渡辺はのそのそと頭を拭く

「あと、はい、これ飲んであったまり。風邪引くで」

そういって、机の上にあったかいお茶を置いた

「・・・ごめんな」

「ええて、私も着替えるからちょっと待っててな」



「・・・」

着替え終わった渡辺は正座をし、出されたお茶をすする

冷えた体がじんわり暖かくなった

隣の部屋では帯の擦れる音が聞こえており

横山が着物を脱いでいるのがわかった

そして、トントンという音が聞こえ

染みにならないように水気を取っているのだと気づき

申し訳ない気持ちになり、俯いた


しばらくして

「ごめんなー」

普段着に着替えた横山が渡辺の前に現れる

渡辺は首を横に振った

「・・・」

横山は渡辺の斜め前に座る

「・・・店、休んでごめん。それにゆいはんも休ませちゃって・・・ごめんな」

そういって渡辺は頭を下げる

「気にせんでええよ。雨やしどうせお客さんけーへんから」

そういって横山は笑った

渡辺がびしょぬれで現れたので、横山は両親に店を休ませてもらうよう頼んだのだ

「今日は送ってくれる人が居ないから歩いてきたら雨に打たれた」という微妙な言い訳だったのだが

両親は横山の表情がいつもと違うことに気づいたのか、深くは突っ込まれなかった

「で・・・どないしたん?」

横山は優しい口調で尋ねる

「・・・」

「・・・彩と喧嘩した?」

「・・・うん」

渡辺の目には、もう既に涙が溜まっていた

「まぁ・・・あんだけ泣くから、そうやろうとおもたわ」

そういってため息を漏らす

「・・・今日ゆいはんとこに配達しに行く途中にな・・・防波堤んとこで彩ちゃんが女の人とおってん」

「え?誰やねんその人」

「彩ちゃん今、喫茶店でギター弾いてるやんか。その店の人ってゆうてた」

「若い人?」

「うん・・・」

「でな・・・その人のこと抱きしめててん」

「へ・・・?」

横山は、ぽかーんと口を開けていたが

ハッとする

「それ、なんかの間違いちゃうんか?彩、超奥手やん。そんなんできるはずないで」

「私もそう思おうとしたんやけど・・・苛々してしもて・・・車の中で喧嘩になってん」

渡辺は俯く

「で、勢いで外に出て、車の中に乗ってるギター引っ張り出して怒ってん・・・彩ちゃんも外に出てきて、車ん中入れってゆうてきてんけど・・・」

「うん・・・」

「その時・・・彩ちゃん・・・ギターの方つかんだねん」

そう言いながら声をくぐもらせる

「ほんまは・・・抱きしめてほしかった・・・誤解やって・・・私の事が好きやって・・・ゆうてほしかった・・・」

鼻をすすりながら、タオルで目を拭く

「みるきー・・・」

「せやから、私・・・もういいってギターごと彩ちゃん押しのけてしもて・・・ギターが水たまりの中に落ちてん」

「・・・」

「彩ちゃん・・・慌ててギター抱えて、中見たら水入ってて・・・めっちゃ怒って・・・」

「みるきー・・・わかった。もうしゃべらんでええから」

しゃくりあげる渡辺を見て

横山は素早く隣に寄り添い背中をなでる

「私・・・最低な女や・・・勝手にヤキモチ妬いて・・・怒って・・・彩ちゃんの大事なギター・・・台無しにしてしもたんや」

「そんなことないって・・・彩やって理由ゆうたら許してくれるって。な?」

「ううん・・・あかんとおもう・・・」

渡辺は首を横に振る

「あのギター・・・彩ちゃんが初めて買ってもらったギターやから・・・」

「あ・・・」

横山もハッとする

「私・・・最低や・・・」

「みるきー・・・」

泣き続ける渡辺にどう声をかけていいのかわからず

横山は黙って背中をなでるしかなかった