翌日―

カーテンの隙間から朝日が差し込む

「彩ー!市場行く時間やぞー!」

「ん・・・」

1階から父の声が響き

山本は目を覚ます

ベッドに突っ伏した後、気づけば眠ってしまっていた

「美優紀!」

山本はハッとして目を覚ます

時刻は早朝

夜に美優紀を迎えに行っていないことに気づいて飛び起き

携帯に目をやり、1件のメールを開く

『みるきはー私が送って行くから。あと、しばらく店休みたいってゆうてたで』

簡素な横山からのメールに

山本はバツが悪い顔をする

そしてずっと回しっぱなしにしていた扇風機を止め

ギターに触れる

ひんやりと冷たいネックはまだ水気が残っていた

「・・・知らんわ。美優紀が悪いんや」

山本はムッとする

「彩ー!」

今度は母の声が響く

「あーもう!今行く!」

山本は苛立ち任せに叫び、箪笥から服を適当に選び

どたどたと階段を下りて行った


―――

「今日から美優紀に休みあげたから」

市場に向かう車の助手席で山本は外を見つめたまま父に告げる

「え?なんや、いきなりやな」

父親は助手席の方を向き、苦笑いをする

「・・・父さんらやって旅行に行くし、夏休みあげたんや。ええやろ?」

「まぁええけど・・・そういうんは前もって言えよ」

「・・・うん」

山本は外を見つめたままむすっとしていた



「もーなんでそういうことは前もって言わへんの」

市場から戻り、父親から話しを聞いた母親は山本に詰め寄る

「別にええやん。美優紀やってずーっと店来てたし、まとまって休んでもええかとおもたんや」

山本は母親と目を合わさずに配達物のメモを確認をしながら言う

「まぁ・・・そりゃそうやけど。美優紀ちゃんに会うん楽しみに来てくれてるお客さんやっておるんやで」

「・・・そんなんしらんわ。美優紀にやって休みはいるやろ」

「・・・あんた、美優紀ちゃんとなんかあったん?」

「・・・」

山本はギクッとする

「どうせいらんことゆうて美優紀ちゃん怒らせたんやろ」

「・・・」

山本は何も言わず、荷物の積み降ろしで車と店を行ったり来たりするが

母はその後を追いかけ、しゃべり続ける

「だいたいあんたはすぐにカッとなるところがあるからあかんのや。それやのに美優紀ちゃんはよう付きおうてくれてると思うわ」

「うっさいな!私にやっていろいろあるんや!好き勝手言いやがって!」

母親が言った付き合っているという言葉は友達としてという意味なのだが

山本には恋人としてという意味に聞こえ

昨日の事が蘇り、苛立ちが爆発する

「なんやの!人が心配してゆうてんのに!」

「あーもう!うっさいなー!」

そういって山本は店を出て行く

「どこいくん!」

「・・・配達や!!」

そういって勢いよく車のドアを閉め、アクセルを踏んだ



真っ直ぐの道を走り

Y字路の真ん中に、渡辺の看板が見える

「悪いんは、おまえやからな」

山本はそう言って

右の道に入った



「彩ちゃんおはよー。今日、美優紀ちゃんは?」

「あー今日は休みなんですー。」

「あーそうなんや」


「いつもありがとう。今日は美優紀ちゃんと一緒ちゃうの?」

「あははー今日は違うんですー」


「あれー?車で来てるから美優紀ちゃんもおるんかとおもてんけど」

「あー美優紀は今日、休みなんですよー」



―――

「・・・なんやねん。みんな美優紀、美優紀って」

山本はむすっとしながら車を運転する

この町に住む老人の家には渡辺と行くことが多く

配達に行くところ、行くところ「美優紀ちゃんは?」ときかれ、その度にひきつった笑顔で対応していた

山本は隣町の山田の店に配達に向かう

「山本商店でーす」

「はーい」

山田は厨房からぱたぱたと走ってきた

「これ、今日の分です」

「いつもありがとう。今日はいいやつ入ってた?」

「あ、はい。今日は魚が良くって・・・」

山本は商品の説明をする

山田は頷きながら、メニューをどうするか考えていた

「あ、あと・・・」

山本は俯く

「なに?」

「すいません、ギター壊れてしもて今週演奏できへんのです」

山本は頭を下げた

「そうなん?あ、もしかして私のせい!?」

「いや、違うんです。ちょっといろいろあって・・・」

山本は顔をあげて手をわたわたと振る

「そうなんや・・・でも、そんなん気にせんといて!私が無理ゆうて頼んだのに、そんなに頭下げられたらこっちが申し訳ないわ」

そういって山田は苦笑いをする

「でも・・・」

「大丈夫。お客さんの中でギターとかバイオリン弾いてる知り合いがおるってゆうてここで演奏してくれるように話ししてくれてんねん。」

「そうですか」

山本はホッとすると同時に少し寂しさを覚えた

「うん。でもギターの調子がようなったらまたここで弾いてやー」

「あ、はい」

「私、彩ちゃんのギター好きやねん」

そういって笑った山田の顔が

なぜか渡辺の笑顔と重なった

「・・・」

「ん?どないしたん?」

「え?あぁ、なんでもないです」

ぼーっとしていた山本は苦笑いをした



ザザーン・・・ザザーーーン・・・・


「はぁ・・・」

山本は配達が終わっても

真っ直ぐ店に帰る気にもなれず、いつもの防波堤に来て時間を潰していた

「・・・」

山本はポケットから携帯を取り出す

メールや電話は来ていなかった

「なんやねん・・・」

山本はまたポケットに携帯をいれ、空を見上げた

昨日は曇っていたのに

今日は嫌なくらい青い空が広がっていた

夏の太陽が

山本の心までじりじりと焼きつけていた