そして1ヶ月後の7月末


花火大会の日がやってきた



紺の浴衣に白のスミレ模様をあしらい、黄色い帯



髪はアップにしてかんざしを刺し


なれない下駄でてくてくと歩きながら


柏木は待ち合わせ場所を目指す



同僚に話しをしたところ


テンションが上がってしまい


女子は浴衣で行くことと約束させられてしまったのだ


その勢いに負けて


今こうして浴衣姿で会場に向かっているのである


「うー浴衣とか久しぶりだから恥ずかしい・・・」


そう呟きながら少し照れ臭くなった


そして


待ち合わせ場所には瀬部がいた


「柏木さん」


「瀬部くん・・・?」


柏木は一瞬戸惑う


「あ、今日コンタクトにしたんです」


瀬部は照れ臭そうに笑った


「そうなんだ。瀬部君コンタクトの方がいいよ。なんか感じかわるね」


柏木はにこっと笑う


「そ、そうですか?ありがとうございます・・」


瀬部はぽりぽりと頭を掻く


「そういえば、みんなは?」


間に耐えられず柏木が尋ねる


「そ、それがみんな急用がはいったとかで・・・」


「え!?」


柏木はとっさに携帯を見る


同僚からメールで


『お邪魔はしないから2人で楽しんでね♪』


と書かれていたら


(は、はめられた・・・)


そうだ、あの同僚たちが興味を持たないわけがない・・・


柏木は一瞬にして事態を理解し、頭を抱えた


「すいません、僕だけで・・・」


瀬部は頭を下げる


「い、いいのよ。とにかく、楽しみましょ」


柏木は慌てて携帯をしまい屋台が出ている方を指差した


「そうですね。行きましょう」


瀬部もにこっと笑って歩き出した




――――――――――


その頃


「秋元さん。これ、差し入れです」


「佐江さん。たこやきどうぞ」


屋台から少し離れた場所の警察専用テントで


宮澤と秋元は女子たちに囲まれていた


「あ、ありがとう。みんなでいただくよ」


「ありがとねー」


2人は笑顔で対応する


「なぁ、過去にこんなに差し入れが来たことあったか?」


「ねぇよ。あの2人の人気何なんだ・・・?」


2人の後ろので長机に置かれた差し入れの山を見て


1期上の先輩2人がひそひそと話しをする


「ま、それだけ市民に愛されるのはいいことだ。ほら、巡視行ってこい」


先輩警察官の後ろから


生活安全課 課長がぬっと姿を現す


「「は、はい」」


2人はびくっとして


急いでテントから出て行った


「・・・にしても、うらやましいねぇ」


課長はふっと笑う


「宮澤、秋元」


「「はい」」


2人は課長の方に振り返る


「巡視行ってこい」


「「はっ!」」


2人は敬礼すると


女の子とたちの山をかきわけ


屋台の方へ向かって行った


そしてテントには


大量の差し入れと


課長だけが残った


「ほんと・・・・うらやましい」


そう呟きタコ焼きを口に放り込んだのだった



―――――――


「はぁ・・・今年はなんなんだー去年はこんなことなかったのに」


秋元はげっそりしながら歩く


「今年から講習会任せられるようになったからじゃない?それだけ私らの知名度が上がったって事だよー」


宮本はその横でにこにこしていた


「・・・まったくお前はいつも楽天的なんだから・・・」


秋元はそんな宮澤を見て、ふっと笑った




毎年秋葉西署は


この花火大会の警備を行っている


生活安全課は屋台エリアを担当していた


宮澤はきょろきょろと屋台を見ながらあるく


「おい、佐江。屋台じゃなくて人を見ろ、人を」


「だってさーおいしそーなんだもん。テンションあがるじゃん」


宮澤は目をキラキラと輝かせていた


「公務中だぞ。終わってからにしろ。それに差し入れだっていっぱいあるんだからな」


「はーい」


秋元に怒られて宮澤は口をとがらせた



屋台エリアは人でごった返していた


その中には家族連れやカップルが目立つ


(あーあ。りんちゃんと来たかったなぁ・・・)


宮澤はそんなことを思い、しゅんとする


「あーおしい!」


そんな中、聞きなれた声が宮澤の耳に入る


(りんちゃんだ!)


すばやく反応した宮澤は


少し先の金魚すくい屋にむかった


「ちょ、佐江!」


秋元が制止しようとしたが


宮澤の方が一足早かった


「りん・・・え・・・?」


声をかけようとして


宮澤は固まる


そこには瀬部と柏木が金魚すくいを楽しんでいたのだ


(なんで・・・?今日友達と行くって・・・隣の奴この前の・・・)


宮澤の頭の中でいろんなことがぐるぐると回る


「もー佐・・・」


秋元が声をかけようとしたところで


宮澤はくるっと秋元の方を向き


「しっ」と人差し指を口にあて


秋元の腕を引っ張り


すたすたと金魚すくい屋の前を通り過ぎた


「お、おい」


「いいから」


秋元はわけがわからず宮澤に引っ張られていた



「ん・・・?」


金魚すくいをしていた柏木はふと当たりをきょろきょろと見渡す


「どうかしましたか?」


瀬部が尋ねる


(今、佐江ちゃんの声が聞こえたような・・・警備してるって言ってたし・・・)


そんなことを思い


何故か罪悪感に襲われた


(な、なんで私気にしてるの?佐江ちゃんは友達だし・・・)


ふるふると自分の思考を振り払うと



「ううん。なんでもない」



そう言ってにこっと笑った