巡視を終えた宮澤と秋元は


テント内に戻ってきていた



「おい、佐江。いい加減食べるのやめろ」


「やだ。だって今休憩中だし」


宮澤は焼きそばを頬張りながらキッと秋元を睨む


「あのなー・・・いきなりどうしたんだ?なんか変だぞ」


秋元はため息をつく


「別に。なんでもない」


そういいながら宮澤は食べ続けていた




「あ、いたいたー」


「宮澤さーん」


浴衣姿の女性2人がテント前に現れる


「これ、差し入れです」


「ホントー?ありがとう」


宮澤はにこにこと受け取る


「あ、宮澤さん青のりついてるー」


「え?ホント?」


宮澤は口を慌ててぬぐう


「かわいー♪」



「やれやれ・・・何してんだよ」


秋元は半ばあきれながらその光景を見ていた


「ん・・・?」


秋元はふと、テントの横に目をやる


花火の見やすい土手に移動する人ごみの中


こちらを見ている女性がいた


(あ・・・あの人は)


秋元はハッとする


そしてその女性は男性に声をかけられ


慌てて土手を登って行った


(・・・やれやれ、そう言うことか)


秋元は宮澤の機嫌が悪い事情を理解し


くすっと笑った



―――――


「柏木さん。大丈夫ですか?」


「えっ?うん。何が?」


瀬部に話しかけられて


柏木は慌てる


「いや、さっきから上の空だから・・・もしかして、浴衣で土手登らせたから怒ってますか・・・?」


瀬部は顔を曇らせた


「え?そ、そんなこと思ってないよ。それに、あの方が近道だったし。」


柏木は慌てて否定する


「そうですか。良かった」


瀬部はにこっと笑った


『これより打ち上げ花火を開始いたします』


スピーカーから案内が聞こえた


「あ、始まりますよ」


瀬部はそう言うと空を見上げた


柏木は空を見ず


うつむいたままだった



花火が始まる少し前


人々は花火の見やすい土手の方に移動していた


柏木達もそれに便乗した


土手は屋台の後ろ側にあり


屋台が並んでいる一角に少しスペースがあったため


みんなそこを通って土手に移動していた


そこで柏木はふと


屋台後ろに白いテントを見つけた


そこには、楽しそうに話をしている


宮澤の姿があった



(・・・あ。)



柏木は何故か胸が締め付けられる思いに襲われ


その場に立ち尽くしていた


「・・・さん。柏木さん」


「えっ?」


土手の方に振り向くと


瀬部が手を差し伸べていた


「あ、ありがとう」


柏木はあわてて瀬部の手を取り土手を登ったのだった




(何よ・・・浴衣の女の子と話してデレデレしちゃって・・・仕事してないじゃない)


やがて柏木の感情は


何故か怒りに変わっていた





ドーーーーーーン





大きな音が響き


とっさに顔を上げる


「・・・きれい」


そこには大輪の花火が次々と打ちあがる



「ねぇ・・・すご・・・」


柏木はさっきまで怒っていたことも忘れ


嬉しそうに横を見る


そこには夢中で空を見上げている瀬部の姿


「あ・・・」


柏木は、またうつむいてしまった


(・・・私、今佐江ちゃんが隣にいると思って話しかけようとしてた・・・今いるのは瀬部くんなのに・・・)


(・・・どういうこと・・・私・・・)



ぐるぐるといろいろなことが頭の中を駆け巡り


処理できなくなっていた



「柏木さん」


瀬部は混乱している柏木の肩を揺らす


「はっ!ご、ごめん」


柏木は苦笑いをした


「・・・僕じゃ駄目なんでしょうか?」


瀬部はうつむく


「ご、ごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに・・・ほら花火見よう。すごい綺麗だね」


柏木はあわてて空を指差す


「柏木さん」


「は、はい」


瀬部は拳にぐっと力を入れ


真っ直ぐに柏木を見つめる


その視線に柏木も動けなくなってしまう


「僕、柏木さんのことが好きです」


その瞬間




ドーーーーン



ひときわ大きな花火が打ちあがった


柏木はその発言と音で


ごちゃごちゃしていた


頭の中の思考が


全部吹き飛ばされた



そして・・・・


シンプルになった頭の中に


宮澤の笑顔が浮かぶ



(あぁ・・・そうか・・・私・・・・)



柏木はようやく


自分の気持ちに気づく



「瀬部くん。ありがとう。でも、ごめんなさい。」


そういって頭を下げた


「・・・わかりました。なんかすっきりしました」


瀬部は精一杯の笑顔をつくって


頷いた