あのバス停の一件以降


私はネックレスをずっと付けていた


最初の頃は


制服のシャツの襟元からネックレスを触り


夢じゃないんだ・・・と


一人でにやけてしまっていた



放課後以外でも珠理奈が話しかけてくることも多くなった


中西はその様子をみてにやにやしていたが


他の女子たちの視線はそんな生易しいものではなかった



そんなある日


事件は起きた



――――――――


掃除も終わり


後はホームルームを待つだけだった


私は机の中の教科書を鞄に入れようと


手を入れた



「・・・っ!」


鋭い痛みが指先に走った


とっさに机の中から手を引っ込める



え・・・・



私は茫然と指先を見つめる



真っ赤な血がにじみ出ていた



後ろで



女子の笑い声が聞こえたが



私の耳にははるか遠くで聞こえているようだった


誰が笑っているのかさえもわからなかった





・・・・どうして?







状況が飲み込めず固まっていた



すると



私誰かに腕を掴まれた




え・・・・?




顔を上げると



珠理奈が私の指に滲んだ血を吸っていた



私はびっくりして


さっきまでの


痛みによる衝撃を一瞬で忘れてしまった



珠理奈の唇の感触が



指先から全身に伝わり



私はドキドキしすぎて息をするのを忘れるくらい



珠理奈に見入ってしまった



珠理奈も私の方をじっと見つめていた





「珠理奈」




廊下から誰かが呼ぶ


そして手招きをしてにこっと微笑んだ


珠理奈はその子に


にこっと微笑んで


走り去ってしまった・・・・・・・



私は指に残る唇の感覚と



自分の胸の奥から湧き上がってくる



ふつふつとした感情とが



混じりあって


今どんな顔をしているかわからなかった・・・




――――



ホームルームが終わり


放課後になった


私はハンカチで押さえていた指を見る


血は止まっていたが


指を動かすとまたうっすらと滲んできた



それと同時にさっきまで忘れていた痛みも


ぶり返してきた




・・・・絆創膏もらおうかな



そう思い


ふらふらと保健室に向かった




――――


「あっいらっしゃーい」


保健室に入ると


小嶋先生と篠田先生が座っていた


(・・・なんでこんなときに)


微笑ましくみえるこの光景も


今の私の神経を逆なでさせた




「どうしたの?」


そんなことを知る由もない小嶋先生は


小首をかしげて聞いてきた


「あの・・・・絆創膏ください」


「あら、怪我―?じゃあ消毒もしてあげる」


そういうと小嶋先生は慣れた手つきで指を持ち


消毒をした


「・・・っ」


その時、私の血を吸う珠理奈がフラッシュバックした



(・・・・珠理奈のバカ)




「ご、ごめん。そんなに痛かった?」


あわてる小嶋先生の声がした



気づくと私はぽろぽろと泣いていた



「大丈夫です。ごめんなさい。」



私は涙を制服の袖で拭いながら気丈にふるまったが


一度出てしまった涙はそう簡単に止まってはくれなかった



「ええ~!麻里ちゃんどうしよう!?」



本格的に泣き出してしまった私を見て


小嶋先生が篠田先生に助けを求める



「・・・・・・まったく。ホントに子供だなあいつは・・・」


はぁっとため息をつき


私にハンカチを差し出した



「あ・・・すいません」


あまりにも自然な流れだったので私も素直に受け取り


涙を拭いていた



「とりあえず、絆創膏」



そういって篠田先生は絆創膏を巻いてくれた



「気が済むまで泣きなさい」



そういうと篠田先生はぽんぽんと私の頭をなでた


私はまたさらにぽろぽろと涙を流した


2人は何も言わずそばにいてくれた



――――――――



しばらくして私は落ち着きを取り戻した



「すいません。これ洗濯して返します」



「いや、いいよ」



そういって篠田先生はハンカチに手をのばす


しかし、私の涙で濡れたハンカチを返すわけにはいかなかった



「やっぱり駄目です。洗います。」



私はとっさに篠田先生の手をよけた



「そう?じゃあ待ってるね」



そういって優しく笑った



「あー麻里ちゃん今デレっとしたー」



むっとした口調で小嶋先生が言う


「にゃろ。とりあえず空気読もうか・・・」



篠田先生は慣れた口調で小嶋先生をなだめていた



「先生たちはいつから付き合ってるんですか?」



「「え?」」



2人が同時に私の方を見た



「あ・・・すいません///」



私は自分の口から


そんな言葉が出てきたことに驚いて


真っ赤になった



「ははっ、じゃあ特別に教えてあげよう。出会ったのは高校時代だよ」



笑って篠田先生が答える



「でも付き合いだしたのは大学時代だよ。それまでにゃろは見向きもしてくれなかったから」



「だって麻里ちゃん何にも言わなかったじゃん。気づかないよー」



「まぁずっと好きだったけど、友達でもいいかと思ってたんだけどね・・・」



そういって私の方を見る



「私以外の人といるのが嫌だったんだよ。もう誰にも取られたくなかったんだ。だから思い切って告白した。」



その言葉は今の私に痛いほど突き刺さった



「まさか受け入れてくれるとは思わなかったけどね。」



そう言って小嶋先生の方を見る


「麻里ちゃんに言われて気づいたんだよねー。LIKEじゃなくてLOVEなんだって。高校の時から麻里ちゃんの隣が一番落ち着いたし。」



そういって篠田先生の腕に抱きつく



「看護師にならずに養護教諭になったのだって、一緒にいたかったからなんだもん♪」



「まぁ、にゃろは保健室くらいが丁度いいよ」


「なにそれー!」


篠田先生はムスッとする小嶋先生の頭をなでながらなだめていた。


私は2人の熱々ぶりに頬を赤くしながら



・・・うらやましいな



と、思っていた




「松井。片想いを終わらせなきゃ次にはすすめないよ。」



篠田先生の目はいつになく真剣だった・・・