気ままな詩人

48グループの創作小説を書いています。じゅりれな、さやみるきーメインになります。SKE、NMBの支店推しです。苦手な方は退室ください。

小説 さえゆき

初めての彼女 番外編3 ⑮ 終

「じゃあ、みんな揃ったし乾杯しましょうか」


そう言って秋元は冷蔵庫からビールを取り出す



「えーでは、乾杯の前にわたくしのほうから報告があります」


宮澤は立ち上がる


「わたくし宮澤佐江は、ここにいる柏木さんとお付き合いしています」


「えーまじかっ!」


「佐江やるじゃん!!」


高橋と大島は拍手をする



「あはは、ありがとうございます」


宮澤は照れながらぺこっと一礼する


柏木も立ち上がり照れ臭そうに頭を下げた


「なんだよ麻里子、びっくりして言葉もでないのか?」


先ほどから黙っている篠田を見て高橋がからかう


「いや、まさか大胆にもこのタイミングで言うとは思ってなかったから」


そういって篠田は笑う


「え?」


宮澤はきょとんとする


「さ、さえちゃん」


柏木は先ほどのことを言おうと袖を引っ張った


その時


「私も報告があります」


篠田が立ち上がる


そして小嶋を立たせ


「紹介します、彼女の陽菜です」


そう言って笑った


「へ?」


高橋の間抜けな声が響き


「「・・・・えーーーーー!!」」


宮澤と高橋、秋元が大声をあげた


「おめでとーございます。やーめでたいですな」


そういって大島は笑う


「ありがとう優ちゃん」


「優子・・・ありがとう」


篠田は大島が祝福してくれたことにホッとし


微笑んだ


「じゃあ、2組みのカップルを祝しましてーかんぱーい!」


あっけに取られている宮澤たちの代わりに


大島が掛け声をあげ、グラスを突き出した


「「かんぱーい」」


大島の掛け声でみんなグラスを手に取り


乾杯をしたのだった



―――――


宴会も中盤になり


皆、いい感じに酒もまわっていた


酔い覚ましにと篠田は外に出て夜風に当たっていた


「篠田さん飲みましょうよ―」


そういって大島はビール2缶もって現れる


「なんだ、優子追いかけてきたの?」


篠田は笑いながらビールを受け取る


「・・・安心しました。」


ぽつりと大島が漏らす


「え?」


「にゃんにゃんが幸せそうで」


「優子・・・」


「いいんです。私も想いは伝え済みですから」


「え・・・」


「でも、天然すぎて告白と気づかれなかったですけどね」


そう言って大島は笑う


「ははっ陽菜らしいな」


「いいですか、にゃんにゃん泣かせたら私が奪っちゃいますからね」


そういって篠田にウインクをした


「ははっそうならないように努力するよ」


篠田も笑い


2人は乾杯し


ぐっとビールを飲んだのだった



一方


部屋では


宮澤と柏木は付き合うことになった馴れ初めを小嶋に聞かれて話していた


「えーなんかロマンチックでいいなー」


小嶋はそう言ってはしゃいでいた


「陽菜さんだって白バイで現れて告白とかすごいじゃないですか」


「えーそう?」


2人はきゃっきゃとはしゃいでいた


「・・・職務中になにやってんだよ」


「ですね」


そういって秋元と高橋はビールを飲む


「いやー内緒でお願いします」


そういって宮澤はビールを注ぐ


「ま、めでたいことだから忘れといてやるよ」


そう言って高橋はウインクをした


「あ、そうだこの女子会恒例にしませんか?」


宮澤が言う


「おーいいねぇ」


高橋も頷く


「あ、じゃあさー恋人できたらみんなにお披露目する会にもしよう」


小嶋も賛成し提案する


「あ、それいいですね―」


柏木も賛同する


「なになにー?何の話ー?」


外から戻ってきた大島が話しに入る


「毎年恒例にしようかって話ししてたんだ」


秋元が言う


「いいじゃん!あ、でも・・・私は無理かな」


そういって頭を掻く


「何?何の話?」


篠田も遅れて会話に参加する


「私、来年からしばらく大阪に行くから」


「「えっ!?」」


みんなが一斉に大島を見た


「そうか、優子も行くのか・・・」


高橋は呟く


「すいません、黙ってて」


大島は頭を下げる


秋葉東は定期的に大阪に出張をしている


事件の関係では1年以上になることもあり


以前は高橋も大阪に行っていたのだ


「ひと回り大きくなってきますよ。それに、今回は竹内さんと一緒だから長くなりそうですし」


そういって大島は笑う


「ま、頑張ってこい!帰ってきたらみんなで飲むぞ」


そういって高橋は笑った


「はい!」


大島はそういって一礼する


「じゃあ優子の健闘を祈って一本締めだ!」


高橋はそう言って立ち上がる


「たかみな、おっさんくさいよ」


篠田は笑う


「いいんだよ、ほらみんな立って立って」


高橋の勢いに、皆立ち上がる


「いくぞっよーーーおっ!!」



ぱんっ!



切れのいい音が響き


「ありがとうございます!」


大島が深々と礼をした


拍手が起こり



こうして


忘年会は幕を閉じたのだった




―――――――――


4月――


それぞれの生活が始まった


高橋は事件で走り回り


篠田と小嶋は同棲を始めた


宮澤は柏木と同棲はしていないものの


ラブラブな日々を過ごし


秋元は日々宮澤ののろけ話に付き合っていた




そして―――


生活安全課は新たな新人を迎える


「山本彩です!」


よろしくお願いします


「山本の指導係は宮澤だ、基本は秋元と3人で行動してもらう。よろしく頼む」


課長がそう言って席を指す


「よろしくおねがいします」


山本は深々と礼をする


「よろしく」


「よろしくー」


そう言って宮澤と秋元は笑う


「じゃあ、山本の歓迎会も兼ねて女子会しますか」


「え?女子会ですか?」


「そ、秋葉西の恒例行事」


宮澤はにっと笑う


「いや、去年しだしたばっかりだろ」


秋元がつっこむ


「いいじゃん、恒例になる予定なんだから」


そういってにっと笑う


「あ、そうそう」


「はい、なんでしょう?」


「女子会にはお披露目のルールがあるからよろしくねー」


そういって宮澤はにこっと笑った


「おいおい・・・そういうことだからよろしく頼む。驚くとは思うが・・・」


秋元も笑う


「へ?」


山本はきょとんとしていたが



後日


篠田や宮澤の彼女と会い


驚き過ぎて開いた口がふさがらなかったのだった





そんな山本が


初めての彼女を紹介するのは


まだ少し先の話・・・





Fin


初めての彼女 番外編3 ⑭

そして忘年会当日


場所は秋元の部屋ですることとなった


参加者は


宮澤、秋元、篠田、小嶋、柏木であった


高橋と大島に声をかけたが


参加できるかは保留となっていた



「お疲れ―これビール買ってきたよ」


「おじゃましまーす」


篠田と小嶋が秋元の部屋に入る


「お疲れ様です。さ、どうぞ」


秋元は2人をコタツに座らせた


「まだみんな来てないの?」


「いえ、宮澤は買い出しに行ってます」


「あ、そうなんだ。今日は何作るの?」


「簡単に鍋でもしようかと」


秋元はそう言ってガスコンロを机の上においた


「何鍋―?麻里ちゃん楽しみだね―」


小嶋はニコニコしていた


「陽菜、ちゃんと手伝ってよ」


「うーん。味見担当で♪」


「仲いいですねーお2人」


秋元はそんなやり取りをみてぽつりと漏らす


「あ、うん。まぁね」


篠田はにこっと笑う


「おじゃましまーす」


「おじゃまします」


ドアが開き


宮澤と柏木が現れる


その手はしっかりと握られていた


「おつかれさま」


「ゆきりん、久しぶりー」


篠田と小嶋が2人の方を見て笑った


2人がいるのを見て


柏木はとっさに手を離したが


篠田はそれを見逃さなかった


「お久しぶりです。あ、えっとはじめまして柏木由紀と申します」


柏木は小嶋の横にいる篠田にぺこっと頭を下げる


「篠田麻里子です」


篠田も立ち上がり一礼する


「ゆきりんは私が指導した後輩なんだよ―」


小嶋はえへんと胸を張った


「・・・大変だったでしょ、天然ひどすぎて」


篠田は柏木に言う


「え、いやそんなこと・・・」


「もー麻里ちゃん!」


柏木がおろおろとしていると


横から小嶋がむっとして篠田の腕を引っ張る


「ははっ冗談だって。さ、鍋作ろうか」


そう言って篠田は小嶋の頭をぽんぽんとなで


キッチンに向かうのだった



――――――


「よし、これでOK」


篠田はぐつぐつと煮える鍋を見て頷く


「篠田さん手際いいですねー」


「うまそー」


秋元と宮澤は篠田の横から鍋を覗き込む


「具材入れただけだよ」


そういって篠田は笑う


「いえ、見栄えとか、入れるタイミングとか・・・すごかったです」


そういって秋元は眼を輝かせた


「いいすぎだよ、じゃあ運ぼうか」


「あ、じゃあ私持っていきます」


宮澤は鍋を持ち


リビングに向かう


料理が苦手な柏木と小嶋はお皿などの準備をして待っていた


「わーおいしそう」


「すごーい。おいしそう」


柏木と小嶋も鍋を覗き込む


「ははっなんか照れるなー。さ、食べよ」


そういって篠田は小嶋の隣に座ろうとした時


ブーブー


「ん?」


篠田の携帯のバイブが鳴る


「あ、たかみなだ」


そういって電話に出る


「あ、そうなの?うん、じゃあ迎えに行くわ―」


電話を切り


「今近くまで来てるって、ちょっと下まで迎えに行くわ」


「いや、私たちが行きます」


そう言うと秋元と宮澤は上着を羽織り


外に出て行った



部屋には柏木と小嶋、篠田が残った


ぐつぐつと鍋の音だけが響く




「で、2人はいつから付き合ってるの?」


篠田はにこっと笑って柏木の方を見た


「えっ!!」


唐突な質問に柏木は混乱する


「だって、手つないでたでしょ」


篠田はしたり顔で柏木を見る


「えーゆきりんも付き合ってたのー?」


「え、もしかして・・・陽菜さんも?」


「うん、そうだよー」


そういうと小嶋は篠田の腕に抱きついていた


「えーーーーーーーーー!!!!」


柏木は思わず大声を上げる


「ははっ大声出しすぎだよー」


篠田は笑う


「りんちゃんどうしたの!?」


宮澤が勢いよくドアを開け、中に入ってきた


「え?あ、あの・・・」


柏木は驚き過ぎでうまく言葉が出なかった


「なんだ、てっきり火傷でもしたのかと思ったよー」


宮澤はほっとしてその場に座り込んだ


「もー外まで叫び声が聞こえてたから何かあったのかと思ったじゃん」


「いや、佐江ちゃん。あのね・・・」


「ぷっ、はははっ!」


柏木が必死に自分を落ち着かせて話そうとしている姿をみて


篠田が吹き出した


「なんだなんだー盛り上がってんのかー?」


「おじゃましまーす。あーにゃんにゃんにゆきりんもいるじゃん!」


遅れてきた高橋と大島が現れる


「あ、優子・・・」


篠田は少し申し訳なさそうな顔をしたが


「お久しぶりです篠田さん」


大島はいつもの笑顔でにこっと笑った


初めての彼女 番外編3 ⑬

こうして宮澤と柏木は付き合うこととなったのだ



ちなみに警備の方は


秋元の苦し紛れの嘘で


酔っぱらった瀬戸の相手やら


迷子の対応などをしていたということになっており


なんとか誤魔化せたのだが


寿命が縮むかとおもったと


冷や汗を大量にかいていた秋元に


1週間昼食をおごることとなったのだった



―――――


そして


宮澤と柏木は順調にデートを重ね


ラブラブな日を過ごしていた



12月――


秋葉西署社員食堂にて



「忘年会?」


宮澤がきょとんとする


「そ、女性部のさー今年どこでするー?」


そういって秋元は味噌汁をすする


「いつするの?」


「うーん、予定聞かなきゃわかんないけど・・・年末のほうがいいだろうな」


「あ!」


何かをひらめいた宮澤は声を上げる


「な、なに?」


「独身女性だけでもやんない?」


「え?」


「楽しそうじゃん。歳だって近いし、篠田さんにも聞いてみよう」


「あのなーうちの独身女性は私らと篠田さんしかいないだろ」


秋元はややあきれ顔で宮澤を見る


「あ!たかみなさんとか優子誘うってのはどう?」


宮澤が言っているのは秋葉東署、刑事部所属 高橋みなみと大島優子のことである


「あのな、刑事部は年末なんか走り回ってるだろ。ましてや東署は管轄が広いからギリギリまで日程わかんないだろうし店の予約がとれないだろ」


「うーん・・・。あ、じゃあ官舎でするのはどう?それなら人数増えても変わらないしさ」


「まぁ・・・それならいいか」


宮澤の勢いに秋元は押されながらうなづく


「よしっ!きまりー♪じゃあ独身の方は私が担当するわ」


宮澤は機嫌良く


携帯を取り出した


「・・・あ、才加」


「なに?」


「りんちゃんも誘っていい?」


「はぁ?なに言ってんだよ」


「いやー紹介するのも一大イベントってことで悪くないかな―と」


宮澤はぽりぽりと頭を掻く


「・・・そんなこと言って柏木さんとのラブラブっぷりをみせつけたいだけだろ」


秋元はふっと笑う


「あ、ばれた?なんか篠田さんたちなら大丈夫だと思うんだよね」


「なんだそりゃ」


「野生の感ってやつ」


ニッと宮澤は笑う


「私は構わないぞ。毎日佐江ののろけ聞くのも疲れたし。聞いてくれる人ができると助かる」


「あーなんだよそれー」


宮澤は口をとがらす


その姿を見て秋元は笑っていた



――――――


「忘年会?」


「うん、急な話だけどどうかなぁ?」

柏木のマンションでコタツで暖をとりながら尋ねる


「でも、私が行っても変じゃない?」


「いや、りんちゃんのこと紹介しようと思って」


「ええっ!」


柏木は思わず叫ぶ


「いやかな?」


「だ、だって・・・言われた方もびっくりするんじゃ・・・」


「いや、声かけてる人たちは大丈夫だと思うんだ。それに・・・」


「それに?」


「私の彼女ですって、ちゃんと紹介したいから」


そういって笑った


「佐江ちゃん・・・」


柏木はその発言にキュンとする


「あ、でもりんちゃん初めての人たちの中に居るのは辛いかな?」


「うーん・・・あ!」


柏木の脳裏に一人の女性が浮かぶ


「陽菜さん誘おう!」


「陽菜さんって・・・あー篠田さんの担当看護師って言ってた」


「そうそう、陽菜さんは私の指導係だったし仲いいから」


柏木はそう言って笑った


「でも、大丈夫?」


「うん、陽菜さんなら理解してくれると思うから。それに、私と佐江ちゃんを出会わせてくれたし、ちゃんと紹介しなきゃね」


「よし!じゃあ初めての彼女紹介やっちゃいますか」


「えーホントに初めてなの?佐江ちゃんモテそうなのに?」


柏木はいたずらっぽく訪ねる


「ホントだよ!こう見えて意外と真面目なんだから!」


「ふふっわかりました」


そう言って柏木は宮澤の唇にキスをする


「ちゃんと紹介してね」


「・・・りんちゃん。大好きっ!!」


宮澤は感極まって柏木を抱きしめ


押し倒す


「ちょっ!もーくるしいからー」


そんなことを言う柏木も笑いながら


甘い時を過ごしたのだった


初めての彼女 番外編3 ⑫

薄明かりの街灯と


三日月に照らされながら


2人はしばらくの間抱きしめ合っていた



「・・・りんちゃん」


ぽつりと宮澤が声を漏らす


「・・・何?」


「・・・好きだ」


「・・・っ」


柏木はぎゅっと力を込める


宮澤もそれにこたえるように抱きしめる



それがYESという合図だと


不思議と理解できた




「・・・りんちゃん」


そっと体を離し


柏木の頬に触れる


「・・・」


宮澤に真剣に見つめられ


柏木は動けなくなっていた


ゆっくりと


2人の距離が縮まり




ピリリリ・・・



「おわっ!」


いきなり宮澤の携帯が鳴り


柏木と宮澤は距離を取る


宮澤はあわてて携帯に出る


「もしもし?」


『もしもし?佐江か』


電話は秋元からだった


「なんだよー才加。こんなタイミングで電話掛けてくるー?」


甘いムードから一気に現実に戻され


宮澤はムスッと口をとがらす


『はぁ・・・やっぱりな』


電話口の秋元の声は呆れていた


「な、何?」


『佐江、今お前勤務中なんだぞ。ごまかせるのもそろそろ限界だから戻ってきてくれ』


「あ、やべっ!」


宮澤はサーっと青ざめる


『その声だとうまくいったってことだろ?悪いが柏木さんとは勤務終わりにもう一回会ってくれ』


「わ、わかった。すぐそっちに向かう」


そういうと宮澤は携帯を切った


「仕事?・・・もしかしてまだ勤務中?ごめんなさい」


宮澤の様子を見て


柏木も申し訳なくなりおろおろとする


「いいんだ。私が追いかけたくて無理言ったから」


そう言って宮澤は笑い


柏木の真正面に立つ



「りんちゃん」



「何?」




「私の彼女になってくれますか?」



そう言って宮澤は両手を広げる


「・・・うんっ」


柏木は宮澤の胸に飛び込む


「やったー!!」


宮澤は柏木を抱き上げ


くるくると回る


「ちょ!ちょっと!佐江ちゃん」


柏木はその行動に驚きつつも


満面の笑みの宮澤を見て微笑んだ


宮澤は柏木を下すと


「素直になれなくてごめん。大好きだよ。出会った時から、惹かれてた・・・」


そういって照れ臭そうに笑う


「うん。私も・・・大好きだよ」


柏木もにこっと笑い


唇を重ねたのだった


初めての彼女 番外編3 ⑪

「・・・ぐすっ」


人々が家族や友人、恋人と歩いている中


柏木は一人


とぼとぼと歩いていた


その目には涙がにじむ


拭いても拭いても


止まることはなかった


「・・・またぶっちゃった・・・」


そうぽつりとつぶやく


カッとしてしまうのは悪い癖なのだが


それほどまでに


宮澤が言った台詞が気に入らなかったのだ


(何がお似合いよ・・・人の気も知らないで・・・)


そう思いながら


また涙がにじんできていた



とぼとぼと歩いていると


マンション近くの公園まで歩いていたことに気づく


「・・・」


柏木はふらふらと公園の中に入っていた


仕事で失敗をしたり、落ち込んだりした時は


いつも、この公園で時間を潰していたのだ



「ふぅ・・・」


柏木はブランコに腰掛け


夜空を見上げる


「あ・・・」


そこには三日月がひっそりと光っていた



「あの時も此処でいたら佐江ちゃんきてくれたんだっけ・・・」



そう思い


宮澤に抱きしめられたことを思い出す


あの後、家に帰ってもドキドキしていた


あの時はいろんなことがあったから興奮しているのだろうと思っていたけれど


あの時から・・・


いや、初めて会った時から


惹かれていたのかもしれない・・・


ただ、そんな経験がなかったから


自分の心さえも理解できないでいたのだ



2回もぶって


ちっとも可愛げがない・・・


もう少しおしとやかにしとればよかった・・・



「駄目だなぁ私・・・絶対嫌われてる」


そう呟き


顔を覆い


嗚咽が漏れる



好きと気づいたら


こんなにも切なくなるのかと


柏木は感じていた



「佐江ちゃん・・・」


嗚咽混じりの中


愛しい人の名前を呼んだ



「りんちゃん!」


「え・・・」


柏木は固まる


聞きなれた


あの人しか呼ばない


私の名前・・・



ゆっくりと顔を上げると


そこには


肩で息をする宮澤が立っていた


「佐江ちゃん・・・」


「はぁ・・・はぁ・・・やっぱり・・・ここに居た・・」


呼吸の乱れを必死に整えながら宮澤はにこっと笑う


そして


ゆっくりと歩き出し


柏木の方に向かう


「・・・ごめんなさい」


柏木は耐えられなくなり


その場から立ち去ろうろうとする


「待って!」


宮澤はそんな柏木の手をつかむ


「どうして逃げるの?」


「だって・・・私またぶっちゃって・・・それに・・・」


「それに?」


「こんな顔見せられないから・・・」


柏木は掴まれていない右手で顔を隠す


「・・・」


「きゃっ!」


宮澤は黙って柏木を抱き寄せた


「・・・顔が見られるのが嫌なら、こうしてるから・・・」


「さ、佐江ちゃん・・・」


「だから・・・逃げないで・・・」


宮澤の声がくぐもる


「・・・うん」


柏木も目を閉じ


ゆっくりと宮澤の背中に手をまわした


初めての彼女 番外編3 ⑩

秋元は宮澤から離れ


歩きながら人々を見渡していた


「はぁ・・・まったくどうしたらいいもんだか・・・」


そうぽつりとつぶやく


秋元には宮澤が無理しているのがわかっていた


わかっていたが


あんな宮澤を見るのは初めてで


どうしていいかわからなかった




「あ、警察の方ですか?」


歩いていると急に男性に声をかけられる


「はい。どうされました?」


「あそこで泥酔してる人がいるんですよ。おねがいします」


そういって土手の方を指差す


「はい」


秋元は指差されたほうに近づき


「あ!」


思わず声をあげた


そこにはあの日


一足先に犯人を捕まえた瀬部が


缶ビールを片手に土手に寝ころんでいたのだ


「ちょ、ちょっと。大丈夫ですか?」


「あ・・・ん?」


瀬部はゆっくりと起き上がりビールをまた飲んだ


「あ、この前の婦警さんですよねー」


呂律があまりまわっていないことから


そうとう飲んでいることが理解できた


「相当飲んでるね。とりあえず、ついてきて」


そういって秋元は手を差し伸べる


瀬部はうつむいたまま動かなかった


「ほら、立って」


そう言って腕をつかんだ時


「僕ね、振られたんですよ。ははっ情けないでしょ・・・」


そうぽつりとつぶやいた


「え・・・」


その発言に秋元の動きが止まる


「だから、無理してこんなに飲んじゃいました」


瀬部はそう言いながら笑う


「・・・」


「帰りも送るっていったんですけどねー。一緒に帰りたい人がいるからって断られちゃいました」


秋元はすっと手を離し


「ちょっと此処で待ってて!すぐ戻る」


そういうと勢いよく走りだした


「なんだぁ・・・?」


瀬部はうつろな瞳で秋元が走り去るのを見ていた



――――――――――


「・・・っー」


宮澤は頬を押さえ


行き交う人を見ていた


仲よさそうに帰っていくカップルたち


がこれほど恨めしく思ったことはない



(はぁ・・・またぶたれちゃったな・・・でもりんちゃんが幸せになるんなら・・・)


そんなことを思いながら


宮澤の頭の中には先ほど自分をぶった柏木の顔がぐるぐると回っていた


忘れようとすればするほど


柏木の姿が頭から離れなかった


(だめだ!今は勤務中だぞ!)


そう思い


気合を入れ直す



「佐江!!」


「さ、才加」


先ほど別れた秋元が

血相を変えて走ってきた


「ど、どうしたの?」


「佐江!今すぐ柏木さん追いかけろ!」


「え・・・?何?」


秋元に両肩を掴まれ


宮澤は事態が飲み込めず固まる


「さっき、柏木さんと一緒にいた人が泥酔してた」


「え?」


「振られたんだとよ」


「え!?」


「・・・いい加減ちゃんと言ってこい」


「・・・」


宮澤はうつむく


「柏木さん、お前に伝えようとしてたんじゃないか?」


「!?」


宮澤はハッとする


「ちゃんと自分から行ってこい!」


そう言うと秋元は宮澤の肩をバシッと叩いた


「・・・ありがとう才加!」


そういうと宮澤は向きを変えて走り出した


「まったく、世話の焼けるやつだな・・・ま、ごまかせるとこまで誤魔化しますか」


秋元はふっと笑い


無線のスイッチを入れたのだった



初めての彼女 番外編3 ⑨

花火が終わり


人々が一斉に動き出す


秋元と宮澤は屋台周辺の警備をしていた




花火も無事に終了し


秋元はほっとしていた


(さて、次はこいつをどうするかだな・・・)


秋元は横目で宮澤を見る


はたから見れば警備のため


人々を見ているように見えるが


秋元から見れば


覇気もなくただ眺めているだけだった


「佐江。この後どうするんだ?」


「え?」


秋元の不意な問いかけにぽかんとする


「柏木さんのところ行かなくていいの?」


「な、なんでりんちゃんの名前が出てくんだよ!」


宮澤はうろたえ口をとがらせた


「・・・今日様子がおかしいのって柏木さんがデートしてるの見たんだろ」


「う・・・てか、なんで知ってんの!」


図星をつかれて宮澤はムキになる


「・・・いいのか?」


「なにが?」


「このままあの人が彼氏になっちゃっても」


「な・・・何言ってんだよ。りんちゃんが幸せならそれでいいじゃん」


そう言った宮澤の顔はひきつっていた


「・・・佐江。本当にいいのか?」


秋元が真剣な目で見つめる


「・・・ははっ。なんだよそんな顔して・・・」


宮澤は気まずくなってそっぽを向く


「他の女の子には積極的なのに本命にはまったくなんだな」


「な、なんだよそれ」


「私は、自分の思いを伝えないまま諦めるってのが嫌いなだけだ。」


「・・・」


宮澤はうつむく


「ま、私がどうこう言おうと、決めるのは佐江だけど・・・」


秋元はそう言って


屋台を行きかう人々を見つめた


その時


「佐江ちゃん!」


多くの人ごみを掻きわけて


聞きなれた声が聞こえた


「あ」


秋元は思わず声をもらす


「り、りんちゃん!」


宮澤も顔をあげて思わず声をあげた


柏木は人の波に逆らって縦断し


宮澤の前に姿を現す


「佐江ちゃん。あのね・・・」


息を整えながら


柏木が言葉を発しようとした時


「あれー?この前の人と一緒だったんじゃないの?」


宮澤の発言で遮られる


「え・・・」


「見ちゃったんだ。りんちゃんが仲良く金魚すくいしてるの。」


宮澤は引きつりながらも笑顔を見せる


「あーもしかしてはぐれちゃって探してほしいとか?」


「あ、あの・・・佐江ちゃん」


「もーはぐれないように手でもつないどかなきゃだめだよ―」


「佐江ちゃん!」


宮澤は話す隙を与えないようにまくし立ててしゃべっていたが


柏木の大声でピタッと口をつぐむ


「あのね。私・・・」


「・・・悪いけど。仕事中なんだ」


宮澤は目をそらす


「・・・2人ならお似合いだと思うよ」


そうぽつりと漏らす


「・・・っ!」




ぱんっ!




柏木の右手が宮澤の頬を叩いた



「なんなのさっきから!さっきは女の子と嬉しそうに話してたくせに私とは話したくないって言うの!?」


「え・・・?」


柏木のものすごい剣幕に宮澤は目を丸くする


「佐江ちゃんのバカ!もう知らない!」


柏木の目には涙がたまっていた


そして


くるっと向きを変えると人ごみの中に消えて行った


「あ・・・」


宮澤は柏木を止めようと手を伸ばそうとしたが


ためらい


手を降ろした


「佐江」


隣で一部始終を見てたい秋元が声をかける


宮澤はだまって横を向く


「お前が悪い」


秋元の顔は明らかに怒っていた


「・・・いいんだよ。」


「良くないだろ!ちゃんと話も聞かないで!」


「いいんだよ!!」


宮澤はうつむきながら叫ぶ


拳を握りしめ


体は小刻みに震えていた


(・・・ホント、本命には全く駄目だな)


秋元はふっとため息をつくと


「・・・私は向こうの警備に行くから。此処任せたぞ」


そういって人ごみに逆らいながら歩き出した


うつむいたままの宮澤の頬には


一筋の涙が伝っていた


初めての彼女 番外編3 ⑧

巡視を終えた宮澤と秋元は


テント内に戻ってきていた



「おい、佐江。いい加減食べるのやめろ」


「やだ。だって今休憩中だし」


宮澤は焼きそばを頬張りながらキッと秋元を睨む


「あのなー・・・いきなりどうしたんだ?なんか変だぞ」


秋元はため息をつく


「別に。なんでもない」


そういいながら宮澤は食べ続けていた




「あ、いたいたー」


「宮澤さーん」


浴衣姿の女性2人がテント前に現れる


「これ、差し入れです」


「ホントー?ありがとう」


宮澤はにこにこと受け取る


「あ、宮澤さん青のりついてるー」


「え?ホント?」


宮澤は口を慌ててぬぐう


「かわいー♪」



「やれやれ・・・何してんだよ」


秋元は半ばあきれながらその光景を見ていた


「ん・・・?」


秋元はふと、テントの横に目をやる


花火の見やすい土手に移動する人ごみの中


こちらを見ている女性がいた


(あ・・・あの人は)


秋元はハッとする


そしてその女性は男性に声をかけられ


慌てて土手を登って行った


(・・・やれやれ、そう言うことか)


秋元は宮澤の機嫌が悪い事情を理解し


くすっと笑った



―――――


「柏木さん。大丈夫ですか?」


「えっ?うん。何が?」


瀬部に話しかけられて


柏木は慌てる


「いや、さっきから上の空だから・・・もしかして、浴衣で土手登らせたから怒ってますか・・・?」


瀬部は顔を曇らせた


「え?そ、そんなこと思ってないよ。それに、あの方が近道だったし。」


柏木は慌てて否定する


「そうですか。良かった」


瀬部はにこっと笑った


『これより打ち上げ花火を開始いたします』


スピーカーから案内が聞こえた


「あ、始まりますよ」


瀬部はそう言うと空を見上げた


柏木は空を見ず


うつむいたままだった



花火が始まる少し前


人々は花火の見やすい土手の方に移動していた


柏木達もそれに便乗した


土手は屋台の後ろ側にあり


屋台が並んでいる一角に少しスペースがあったため


みんなそこを通って土手に移動していた


そこで柏木はふと


屋台後ろに白いテントを見つけた


そこには、楽しそうに話をしている


宮澤の姿があった



(・・・あ。)



柏木は何故か胸が締め付けられる思いに襲われ


その場に立ち尽くしていた


「・・・さん。柏木さん」


「えっ?」


土手の方に振り向くと


瀬部が手を差し伸べていた


「あ、ありがとう」


柏木はあわてて瀬部の手を取り土手を登ったのだった




(何よ・・・浴衣の女の子と話してデレデレしちゃって・・・仕事してないじゃない)


やがて柏木の感情は


何故か怒りに変わっていた





ドーーーーーーン





大きな音が響き


とっさに顔を上げる


「・・・きれい」


そこには大輪の花火が次々と打ちあがる



「ねぇ・・・すご・・・」


柏木はさっきまで怒っていたことも忘れ


嬉しそうに横を見る


そこには夢中で空を見上げている瀬部の姿


「あ・・・」


柏木は、またうつむいてしまった


(・・・私、今佐江ちゃんが隣にいると思って話しかけようとしてた・・・今いるのは瀬部くんなのに・・・)


(・・・どういうこと・・・私・・・)



ぐるぐるといろいろなことが頭の中を駆け巡り


処理できなくなっていた



「柏木さん」


瀬部は混乱している柏木の肩を揺らす


「はっ!ご、ごめん」


柏木は苦笑いをした


「・・・僕じゃ駄目なんでしょうか?」


瀬部はうつむく


「ご、ごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに・・・ほら花火見よう。すごい綺麗だね」


柏木はあわてて空を指差す


「柏木さん」


「は、はい」


瀬部は拳にぐっと力を入れ


真っ直ぐに柏木を見つめる


その視線に柏木も動けなくなってしまう


「僕、柏木さんのことが好きです」


その瞬間




ドーーーーン



ひときわ大きな花火が打ちあがった


柏木はその発言と音で


ごちゃごちゃしていた


頭の中の思考が


全部吹き飛ばされた



そして・・・・


シンプルになった頭の中に


宮澤の笑顔が浮かぶ



(あぁ・・・そうか・・・私・・・・)



柏木はようやく


自分の気持ちに気づく



「瀬部くん。ありがとう。でも、ごめんなさい。」


そういって頭を下げた


「・・・わかりました。なんかすっきりしました」


瀬部は精一杯の笑顔をつくって


頷いた


初めての彼女 番外編3 ⑦

そして1ヶ月後の7月末


花火大会の日がやってきた



紺の浴衣に白のスミレ模様をあしらい、黄色い帯



髪はアップにしてかんざしを刺し


なれない下駄でてくてくと歩きながら


柏木は待ち合わせ場所を目指す



同僚に話しをしたところ


テンションが上がってしまい


女子は浴衣で行くことと約束させられてしまったのだ


その勢いに負けて


今こうして浴衣姿で会場に向かっているのである


「うー浴衣とか久しぶりだから恥ずかしい・・・」


そう呟きながら少し照れ臭くなった


そして


待ち合わせ場所には瀬部がいた


「柏木さん」


「瀬部くん・・・?」


柏木は一瞬戸惑う


「あ、今日コンタクトにしたんです」


瀬部は照れ臭そうに笑った


「そうなんだ。瀬部君コンタクトの方がいいよ。なんか感じかわるね」


柏木はにこっと笑う


「そ、そうですか?ありがとうございます・・」


瀬部はぽりぽりと頭を掻く


「そういえば、みんなは?」


間に耐えられず柏木が尋ねる


「そ、それがみんな急用がはいったとかで・・・」


「え!?」


柏木はとっさに携帯を見る


同僚からメールで


『お邪魔はしないから2人で楽しんでね♪』


と書かれていたら


(は、はめられた・・・)


そうだ、あの同僚たちが興味を持たないわけがない・・・


柏木は一瞬にして事態を理解し、頭を抱えた


「すいません、僕だけで・・・」


瀬部は頭を下げる


「い、いいのよ。とにかく、楽しみましょ」


柏木は慌てて携帯をしまい屋台が出ている方を指差した


「そうですね。行きましょう」


瀬部もにこっと笑って歩き出した




――――――――――


その頃


「秋元さん。これ、差し入れです」


「佐江さん。たこやきどうぞ」


屋台から少し離れた場所の警察専用テントで


宮澤と秋元は女子たちに囲まれていた


「あ、ありがとう。みんなでいただくよ」


「ありがとねー」


2人は笑顔で対応する


「なぁ、過去にこんなに差し入れが来たことあったか?」


「ねぇよ。あの2人の人気何なんだ・・・?」


2人の後ろので長机に置かれた差し入れの山を見て


1期上の先輩2人がひそひそと話しをする


「ま、それだけ市民に愛されるのはいいことだ。ほら、巡視行ってこい」


先輩警察官の後ろから


生活安全課 課長がぬっと姿を現す


「「は、はい」」


2人はびくっとして


急いでテントから出て行った


「・・・にしても、うらやましいねぇ」


課長はふっと笑う


「宮澤、秋元」


「「はい」」


2人は課長の方に振り返る


「巡視行ってこい」


「「はっ!」」


2人は敬礼すると


女の子とたちの山をかきわけ


屋台の方へ向かって行った


そしてテントには


大量の差し入れと


課長だけが残った


「ほんと・・・・うらやましい」


そう呟きタコ焼きを口に放り込んだのだった



―――――――


「はぁ・・・今年はなんなんだー去年はこんなことなかったのに」


秋元はげっそりしながら歩く


「今年から講習会任せられるようになったからじゃない?それだけ私らの知名度が上がったって事だよー」


宮本はその横でにこにこしていた


「・・・まったくお前はいつも楽天的なんだから・・・」


秋元はそんな宮澤を見て、ふっと笑った




毎年秋葉西署は


この花火大会の警備を行っている


生活安全課は屋台エリアを担当していた


宮澤はきょろきょろと屋台を見ながらあるく


「おい、佐江。屋台じゃなくて人を見ろ、人を」


「だってさーおいしそーなんだもん。テンションあがるじゃん」


宮澤は目をキラキラと輝かせていた


「公務中だぞ。終わってからにしろ。それに差し入れだっていっぱいあるんだからな」


「はーい」


秋元に怒られて宮澤は口をとがらせた



屋台エリアは人でごった返していた


その中には家族連れやカップルが目立つ


(あーあ。りんちゃんと来たかったなぁ・・・)


宮澤はそんなことを思い、しゅんとする


「あーおしい!」


そんな中、聞きなれた声が宮澤の耳に入る


(りんちゃんだ!)


すばやく反応した宮澤は


少し先の金魚すくい屋にむかった


「ちょ、佐江!」


秋元が制止しようとしたが


宮澤の方が一足早かった


「りん・・・え・・・?」


声をかけようとして


宮澤は固まる


そこには瀬部と柏木が金魚すくいを楽しんでいたのだ


(なんで・・・?今日友達と行くって・・・隣の奴この前の・・・)


宮澤の頭の中でいろんなことがぐるぐると回る


「もー佐・・・」


秋元が声をかけようとしたところで


宮澤はくるっと秋元の方を向き


「しっ」と人差し指を口にあて


秋元の腕を引っ張り


すたすたと金魚すくい屋の前を通り過ぎた


「お、おい」


「いいから」


秋元はわけがわからず宮澤に引っ張られていた



「ん・・・?」


金魚すくいをしていた柏木はふと当たりをきょろきょろと見渡す


「どうかしましたか?」


瀬部が尋ねる


(今、佐江ちゃんの声が聞こえたような・・・警備してるって言ってたし・・・)


そんなことを思い


何故か罪悪感に襲われた


(な、なんで私気にしてるの?佐江ちゃんは友達だし・・・)


ふるふると自分の思考を振り払うと



「ううん。なんでもない」



そう言ってにこっと笑った


初めての彼女 番外編3 ⑥

その一件以降


宮澤は勤務が合った時に


柏木を迎えに行くようになった


ストーカーがまた来るかもしれないからという理由だったが


宮澤としては柏木とつながりを持っていたかったのだ



一ヶ月後――




「ねーゆきりん。今日夜ごはんいかない?」


昼休みの休憩中に同僚が話しかけてきた


「え・・・」


柏木は戸惑う


「だめだって。ゆきりんは彼氏が迎えに来るんだから」


もう一人の同僚がにやっとする


「えー何?彼氏とかいつの間に!?私聞いてないんだけど」


同僚は柏木に詰め寄る


「ちょ、ちょっと待って!何の話!?」


柏木は事態が飲み込めず混乱する


「とぼけちゃって―いつも迎えに来てくれてるじゃん」


「へ・・・?」


「ほら、黄色いバイクの・・・」


そう言われ柏木ははっとした


「ちょっと、彼氏じゃないって。それに女の人。残念でした」


柏木は笑う


「えーほんと?身長もあるしわかんなかった」


「なーんだ。ついに柏木にも彼氏ができたのかと思ったのに・・・」


そう言って同僚たちは柏木をつついてからかった


「はいはい。どーせ仕事ばっかりの一人身ですよー」


柏木はむすっとしながらお茶をすすっていた



そんな様子を


瀬部は少し離れたところで聞いていた


―――――


その日の勤務終わり


柏木は駐輪場で宮澤を待っていた


「・・・まだかな?」


そう呟き携帯を見る


「柏木さん」


後ろから聞きなれた声が聞こえ


振り返る


そこには瀬部が立っていた


「お疲れ様」


「お疲れ様です」


2人はぺこっと頭を下げる


瀬部はロードバイクを駐輪場から出し


少し固まってから


意を決してぐっとハンドルを握る手に力を込めた


「あ、あの柏木さん!」


「なに?」


「この前…お礼にってお食事誘っていただいたのに断ってすいませんでした」


「え、そんな謝らなくても・・・研修のレポートで忙しいって言ってたし・・・」


深々と頭を下げる瀬部を見て


柏木は慌てる


「そのことなんですが。食事じゃなくて・・・来月の花火大会に一緒に行ってもらえませんか?」


「え?」


突然のことで柏木は目を丸くする


「あ、あの。2人じゃなくて何人かのグループでいいんです」


瀬部はわたわたと顔を赤らめながら言う


「僕、東京に来てからまだあの花火大会行ったことなくて・・・男ばっかりで行くのも寂しいですし・・・こんな時ってわけではないですけど・・・」


瀬部はもごもごと口ごもりながらうつむいた


瀬部は茨城出身で就職してから黙々と仕事をするタイプであった


特別体格がいいわけでもないが、すらっとしていて黒髪で眼鏡


最近では珍しい好青年といったところである


柏木も1個下の可愛い後輩として見ていて


前の事件の際、瀬部が護身術を使えることに驚いてしまったのだ


「・・・いいよ。じゃあみんなにも声かけとくね」


柏木はにこっと笑った


「あ、ありがとうございます。僕も行ける人聞いておきます」


瀬部はほっとした顔をし、にこっと笑って頭を下げた


「じゃあ失礼します!」


そういうと瀬部はロードバイクにまたがりその場を後にした


「助けてもらったし・・・瀬部くんのめったにないお願いだしな・・・」


柏木はぽつりとつぶやく


「りんちゃんごめん!遅くなって」


少しして宮澤がバイクに乗って現れた


宮澤はヘルメットをとって、にこっと笑った


その笑顔を見て


柏木は小走りに駆け寄りながら


(・・・お礼だし、いいよね・・・)


と、自分にまた言い聞かせたのだった


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